作:いのかしら

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第31話 告白

 

 

着いた場所では、すでに積雪が見られた。7月末にである。寒くなるからと皆マフラー、手袋はもちろん、ヒートテックや厚手のコートを久々に引っ張り出して持参している

私も倉庫から久々に引っ張り出した雪靴を履いてきた

 

「寒ッ!マジ寒いんだけど!」

 

降り立った人からこんな声が聞こえるのもなんら不思議はない

 

「III突履帯にはウィンターゲーテを。ラジエーターには不凍液を」

 

「はい」

 

一応対策はしてきてる。西住ちゃんだって戦ったことがあるし、黒森峰ならどこよりも対策を練ってきた相手だろう

 

「いきなり試合で大変だと思いますけど、落ち着いて頑張ってくださいね」

 

だがこちらはなんとか1輌増やしただけの計6輌。相手はこの準決勝から15輌。比率的にはむしろ一層不利なんだよな

雪合戦したり雪像作ったりしている今が今日で一番幸せだ

 

 

その準備が進められる中、一台の車が雪煙を立てて近くに止まった

 

「誰?」

 

「あれは……プラウダ高校の隊長と副隊長」

 

「地吹雪のカチューシャとブリザードのノンナですね」

 

胸を張って護衛も付けずに車から降り立ってこちらに向かってくる

少し離れたところで立ち止まるや否や、小さい方、カチューシャが唐突に笑い始めた

 

「このカチューシャを笑わせるためにこんな戦車用意したのね、ね!」

 

悪かったなこんちくしょう

その言葉は喉よりさらに奥に封じておく

 

「やぁやぁカチューシャ。よろしく、生徒会長の角谷だ」

 

ゆーてお前だって一介の戦車道隊長でしかないだろうが。陸上警備隊を自前で保有しているプラウダにとっちゃそもそもはそんな大した地位じゃないだろう

 

手を差し出したが、握ってこようとしない。プラウダ生は握手も忘れたか、と思いたくなったときには、もうその相手は隣の者の肩の上にいた

 

「貴女たちはすべてがカチューシャより下なの。戦車も技術も身長もね!」

 

いや最後は違うやろ

 

「肩車しただけじゃ……」

 

「聞こえたわよ!よくもカチューシャを侮辱したわね!粛清してやる!行くわよ、ノンナ!」

 

そんな物騒な言葉はちゃんと口が回るようになってから言いな。言い返せるならそれが一番的確だ

 

「あら、西住流」

 

去り際にやっとこさ西住ちゃんを見つけたらしい

 

「去年はありがとう。貴女のおかげで優勝できたわ。今年もよろしく。じゃーねー、ピロシキ〜」

 

「ダスヴィダーニャ」

 

下がプラウダ式の正しい返事をして帰っていった。ピロシキってなんだよ

 

ほうほう。ウチのかーしまと西住ちゃんを侮辱してくとはいい度胸だねぇ。もしこれが手の込んだ向こうの作戦なら、今まさに術中にハマったさ

 

あのお転婆な小学生には天下一の恥辱を与えようかね。こんな見るからに全力で劣っているチーム相手に負ける、というね

 

 

かといって西住ちゃんの策に逆らうつもりはなかった。フラッグを叩けば勝ちなのだ。勝つしかないからこそ、頼るしかなかったのだ

 

だが皆は違った。西住ちゃんが相手の出方を見つつ長期戦を目論んでいたのに対し、カバさん、今回フラッグを変えてもらったアヒルさんを中心に速攻論が幅をきかせたのだ

 

西住ちゃんの戦法もわかる。さっきの言動から見てもなんならウチらを挑発しているという可能性もあるし、こちらの策は看破されていると見てその上で動く。なんなら向こうの作戦を利用して勝つ。それが今までのウチのやり方だった

 

しかし速攻論も分からないわけじゃない。まず状況は尽くプラウダ有利。気候もプラウダがよく航海しているところだし、雪上も向こうにとっちゃなれたもの。時間が経てば寒さに弱いこちらに不利だし、戦力を漸減させられると数的不利も膨らむ

あのカチューシャの言動からして少なくとも心のどこかで私たちを舐めてるのは事実。仮に最初は思ってなくて演技だったとしても、口に出してしまえば多少は心理状況に影響するものだ

だったら敵フラッグに全車輌で斬り込む。それも一つの策ではあった

 

寒いのは誰だって嫌である。試合を早く終わらせられるに越したことはない。そして残りは勢いには乗ってくるウサギさんとよく分かってないカモさん

あんこうとカメさん以外が速攻論支持に傾くまであまり時間はかからなかった

 

 

私はどうするか。まず避けたいのはチームの分断だ。ただでさえ数が少ないのに内部に不和があって勝てるはずもない

ここで言えれば纏めやすいのだが、それは辞めた。だったらカメさんチームはどちらに乗るか、その答えは政治家としての選択っぽくなった

 

「よし、これで決まりだな」

 

「勢いも大切ですもんね」

 

かーしまと小山も私の判断と同様だった。皆の士気は速攻論ならかなりの高さを維持できる。逆にここで西住ちゃんの策を通せば、気合が削がれる

そして気合が削がれたときに何が起こるか。魔物が目を覚ます。『ベスト4でいいや』という魔物が

 

「……わかりました。一気に攻めます」

 

西住ちゃんも乗った。そして納得した

 

「孫子も言ってるしな。『兵は拙速を聞くも、未だ功久しきを賭ざるなり』。だらだら戦うのは国家国民のために良くはない。戦いはちゃちゃっと集中してやるもんだよ」

 

「ね、西住ちゃん」

 

「はい!相手は強敵ですが、頑張りましょう!」

 

「はい!」

 

 

 

 

と思っていた時期が私にもありました。うーん、孫子を生半可に学んだのはやっぱり悪かったかな……

 

ハイ、ウチの現状。出口が一つの建物の中に全車輌います。外ではプラウダがその入口向けて砲口を突きつけてるし、おまけにIII突は履帯と転輪やられてる

 

うーん、実にテキスト通り引っかかったよね、ウチら。フラッグ車をやれば勝てる。それ故にフラッグ車を追跡してたら、周り全部囲まれてここに逃げ込む羽目になった

 

状況は最悪だ。打って出る力はないし、このまま時間が過ぎればもちろん向こう優位が増す一方。寒さに強いのは向こうだしね

 

敵さんには火力高いのもいそうだし、こんなコンクリの建物、砲弾撃ち込まれたらいつ屋根が落っこちてきても驚かないよ

そしてそれで戦車が、こちらのフラッグ車が走行不能になったら相手の勝ちだ去年プラウダを優勝に導いたカチューシャだ。それくらいの事はしてきてもおかしくない

だが奇跡的に建物が砲撃で潰れることはなかった

 

 

「カチューシャ隊長の伝令を持ってまいりました」

 

砲撃が止んで訳もわからず頭を出し始めた大洗の面々に、プラウダの2人の使者は告げた

 

「『降伏しなさい。全員土下座すれば許してやる』、だそうです」

 

「なんだと……Nuts」

 

かーしま、お前もないだろ

 

「隊長ば心が広いので3時間は待ってやる、と仰っています。では」

 

頭を下げて帰っていった。白旗持ってたからそのままとち狂って降伏してくんないかなと思ったけど、無理だわな

 

3時間。はて、なんのための時間かな?こちらが低体温症を発症するか?それとも燃料切れか?はたまた他の何かか?

 

 

「誰が土下座なんかするか!」

 

「全員自分より身長を低くしたいんだな」

 

「徹底抗戦だ」

 

「戦い抜きましょう」

 

私の甘い考えは、この時点まではなんとか保てていた

カチューシャに提示された屈辱的条件。それを跳ね返すのは皆にとって、どうしても勝たねばならない疑問云々以前に直近の課題として避けねばならないものだった。それすら潰えるほど時間と体力と継戦能力の不利を悟ってない

 

「でも、こんなに囲まれていては……」

 

しかしそうでないものが一人。それが隊長、戦術家の西住ちゃんだった

その判断ももっともだ。脱出しようとした瞬間撃ち抜こうとしてくるのは素人目にも見えてる

 

「それに、戦ったら怪我人が出るかも」

 

怪我人、か。本来ウチらも気にかけるべきだが、西住ちゃんにとってはそれ以上に大きなポイントとせざるを得ないのだろう。さっき建物内で砲撃受けたときの建物の軋みとかも助長してそうだ

これが彼女だけならまだ良かった。西住ちゃんが言ってるとはいえ、さっきと同じく皆が言い続ければまた折れる。だがここで向こうに大きすぎるフォローが入った

 

「みほさんの指示に従います」

 

「私も!土下座ぐらいしたっていいよ」

 

「私もです!」

 

「準決勝まで来ただけでも上出来だ。無理をするな」

 

あんこうチームの残りのメンバーがこの動きに同調したのだ。彼女らからしたら西住ちゃんを支持しない理由はないだろう。冷泉ちゃんが言うことも学園廃校を知らないのだから妥当なのだ

 

 

「だめだッ!」

 

それに抗う声。それを許したらもう未来すら潰えかねん人のだ

 

「絶対に負けるわけにはいかん!徹底抗戦だ!」

 

実際私も役目からしたらそう主張しなければならないのだ。が、私は状況を見つめるフリをして何も言えずにいた

勝つしかない。戦うしかない。だが最終的に発言するのを、私は今ここに至ってすら拒否していた

 

「でも……」

 

「勝つんだ!絶対に勝つんだ!勝たないとダメなんだ!」

 

「どうしてそんなに……初めて出場して、ここまで来ただけでも凄いと思います。戦車道は戦争じゃありません勝ち負けより大事なものがあるはずです」

 

「勝つ以外の何が大事なんだ!」

 

勝たないとダメ、それはその通りだ。しかしそれは今のウチらにとっての論理だ。今の西住ちゃんにとって、その言葉はまずい

勝つ以外の何が。それを求めた西住ちゃんには掛けてはならない

 

「私……この学校に来て、みんなと出会って、初めて戦車道の楽しさを知りました。この学校も戦車道も大好きになりました。だからこの気持ちを大事にしたまま、この大会を終わりたいんです」

 

こう言われたらこちらからはどうしたらいい。この学校も大事と言われて、私たちは他のあらゆる手段のどれを使って言い返したらいい

この言葉を絶対的義務で否定することは、西住ちゃんに同じ茨を踏めと告げるのと同義だ。だが……

 

かーしまが西住ちゃんの話の最中、顔を少しこちらに向けた。懇願、許可の要請だった

もはや告げるしかない。その目に対し微かに頷いて応じた

 

「何を言っている……」

 

これを私から告げないのだから、私は悪い人間だ

 

「負けたら我が校はなくなるんだぞ!」

 

 

 

「学校が……なくなる?」

 

呆然とした目が揃う。一部は僅かな希望をこちらに託そうとする

 

「河嶋の言う通りだ」

 

が、拒むことしかできない

それが事実。私が決めたたった一つの道なのだから

 

「この全国大会で優勝しなければ……我が校は廃校になる」

 

 

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