作:いのかしら

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やりますよー




第32話 決意

 

 

 

「ごめんね……」

 

伝えた。私たちは地獄の釜を開いた。これで西住ちゃんは廃校の未来を勝利への固執付きで背負うことになる

それは他のみんなも変わらない

 

「政府が今年の冬、年頭に『廃校準備校』というのを決めたんだ。学園艦は数も多いし、この先少子化は確実視されてる。それで学園艦、学園都市の数を減らすことにしたってわけみたい

生憎、ウチらは既にその名簿に名前が載ってる。そこに名前が載り続ければ学園艦は来年3月で廃止だ」

 

「来年の……3月」

 

「は、早くないか?」

 

「だけど、それが事実。まだ私たちはマシなほうさ。通達された時私は学園艦教育局長と向かい合っていたんだから」

 

「学園艦教育局長……?」

 

「ウチらの上の人。その人と霞ヶ関で向かい合ってる時に言われたんだ。その場で反論可能だった。それが救いだったね

なんとかするしかなかった。来年だよ?普通は無理だ。ウチの学校には部活は多いけど、そんなすぐに文科省を説得できる成績出せるところはないし」

 

「バレー部があります!」

 

「そもそも人がいないじゃないか……6人制できないだろ」

 

「ぐっ……」

 

「とにかく実績がいる。廃校の未来をひっくり返せるほどの、ね。だけど教育関係じゃ一朝一夕にできるものでもないし、部活動の実績はさっき言った通り

……となると、かつて大洗女子学園の名を挙げた戦車道を使うのは結構アリだと思ったわけさ」

 

そこそこ正直に話した。一応3人での約束絡みは抜いたから私が全てやったって風にしたけど、ま、話の筋として矛盾はないはず

 

「これが……戦車道を復活させた理由……」

 

「戦車道やれば助成金も出るって話だったし、それを学園運営費にも回せるしね」

 

今はほぼない。もう増やした分を含む車輌整備と維持で助成金はおろか寄附金すらカツカツだ

 

「じゃあ世界大会っていうのも嘘だったんですか!」

 

「それは本当だ」

 

だから援助は来てる。国も国内でやるからには人材の候補を広げておきたいらしい。じゃなきゃウチで戦車道はやってない

 

「でもいきなり優勝なんて無理ですよぉ」

 

それが可能性がまだ高いと思えるほどに、他が絶望的なのだ。今のプラウダ、次の黒森峰か聖グロ。それらから勝ちをもぎ取るというそれが

 

「いや〜昔盛んだったから戦車あると思ってたんだけど、予算がなくていいのは全部売っちゃったみたいなんだよね」

 

「では、ここにあるのは……」

 

「うん。みんな売れ残ったやつ」

 

予め知ってたけどね。でもあの料亭で言われるまでは私も詳しく知らなかったし

 

「それで優勝というのは到底不可能では」

 

「……他に考えつかなかったんだ。こんな古くて、なんの特徴もない学校が生き残るには……」

 

そう、私でさえも。時間をかけて学園都市の存在感を高めるならまだやりようはあった。だが一年。たった一年だ

 

「無謀だったかもしれないけどな、あと一年泣いて学校生活過ごすより、希望を持ちたかったんだよ」

 

そして、まだ言いたくないけど私の責務だ

 

「みんな、黙っていてごめんなさい」

 

 

 

「バレー部復活どころか、学校がなくなるなんて……」

 

「無条件降伏……」

 

「そんな事情があったなんて……」

 

他はまず事実への驚きが先に来ている。さっきも徹底抗戦に賛成していたから、尚更それを強化できる一手になる。この中に野党支持者がいてもそれは変わるまい

 

「もし廃校になったら、私たちバラバラになるんでしょうか?」

 

「そんなの嫌だよ!」

 

「単位取得は、夢のまた夢か」

 

本命はこっちだ。さっき降伏へのムードを支えていたあんこうチーム。ここを切り崩すためにこんなことを言っているのだ。彼女らが抗戦に靡く。西住ちゃんが本心では反対だとしても、彼女らには変えられまい

 

「まだ試合は終わってません」

 

しばらく閉じられていた口が開いた

 

「まだ負けたわけじゃないですから」

 

「西住ちゃん……」

 

さて、どう言う

 

「頑張るしかないです。だって、来年もこの学校で戦車道やりたいから、みんなと」

 

……この話を聞けば、西住ちゃんは否が応でも自分が何かを理解する。優勝のために呼んだ人材でしかないと分かってしまう

だがそれをした大洗女子学園を相手に、そこまで言ってくれるとは……

 

「私も、西住殿と同じ気持ちです!」

 

「そうだよ!とことんやろうよ!諦めたら終わりじゃん!戦車も恋も!」

 

「まだ戦えます!」

 

あんこうチームは転向した。これでついにこの場の全員が一つの方向を見定めた

 

「降伏はしません。最後まで戦い抜きます」

 

廃校回避。その裏には個々人思うところがあるだろう。学園への愛という軽い言葉だけで片付けていいものではない

だがその意志があるだけで十分すぎる

 

「ただし、みんなが怪我しないよう、冷静に判断しながら」

 

「うん」

 

そして勝利に拘れと命じられながらも、西住ちゃんは変わっていない。いや、私が見抜けてないだけかもしれないが

何にせよ、西住ちゃんにはこの戦いと次の戦いには勝つための策を全力でたててもらうしかない

 

「修理を続けてください。III突は足回り、M3は副砲。寒さでエンジンの掛かりが悪い車輌はエンジンルームを温めてください。時間はありませんが、落ち着いて」

 

「はい!」

 

話も手短に、役割を指定されて皆は散っていった。この談義に時間をとられ、3時間あった余裕も刻一刻と削られている

おまけにこの寒さだ。どうしても動き出しはゆっくりにならざるを得ない

 

「我々は作戦会議だ!」

 

 

「かーしま。助かった」

 

西住ちゃんを呼ぶ前に、先に小山とかーしまを集めて奥の机を引っ張り出しにいく

 

「……はい」

 

「これでいいんだよ。これでね」

 

その場しのぎだった。でも、それが正解だったのは間違いない

 

「小山、かーしま。学園に連絡繋げて」

 

「生徒会ですか?」

 

「そっ。あの廃校の話、学園都市に流れるようにしといて」

 

「え?この中だけじゃないんですか?」

 

「もう扉は開かれた。また閉めても漏れたものは取り返せないさ」

 

「なるほど。そしたら公式に先んじで広めた方が良さそうですね」

 

噂より公式の真実ってわけ

 

「つーかなんならこれモニターの前で見てる人にはもう既に知られているしね」

 

「それもそうですね」

 

だが正式な公開はこの試合終わった後になるかな。この超不利な状況に人々の興味を集めるのはよろしくない

……いや、それかここから大逆転する様を見せられると考えたら、とっとと言わせた方がいいか……

これまでは単に生徒会が持ち上げてたものに過ぎない。しかしこれから視線が集まるとなれば、その視線の前での勝利は、いや最悪でも奮戦はプラスだな

 

「すぐに発表させましょう」

 

「かといって誰にやらせるよ?会長も副会長も広報も揃ってここにいるんだし」

 

「……確かに、ここで生徒会を代表して発表させたら、2年生ならそれ即ち会長の後継者だと示すようなものですからね。校外交流担当課を引っ張り出しても同様になってしまうでしょう」

 

後継指名は今はしたくない。やるなら二つのパターンを用意してるけど、どちらもこの大会の後だ

 

「3年の他の幹部層に言わせたらどうですか?」

 

「そうだね、それが無難かな。だとしたら財政課の飯尾ちゃんかねぇ」

 

「学園課の田川さんとか使わないんですか?後継指名するなら彼女か、と思ってたのですが」

 

「いやいや、次の生徒会長は生徒会からは出さないつもりさ、今のところはね」

 

「え、ではフォーラム幹部からですか?」

 

「う〜ん……悪くないけどそしたら生徒会分立の意義は薄れるよね〜」

 

「と申されましても……」

 

「ま、飯尾ちゃんに発表させといてね」

 

「はぁ……分かりました」

 

これはまだ確認すら取ってないんだ。先延ばしにした方が吉だろう

 

 

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