「小山、行くぞ」
「はいっ!」
車輌は軋みながらも自分たちを動き出した
レンガの門の向こうには暗黒と雪景色。先は見えない
「突撃」
だからこそ進むしかない
飛び出してまもなく、向こうの砲撃開始。入り口右に雪の柱が立っていくが、それを避けるように私たちは左へ向かう
そう、最初は敵が最も薄いところへ。相手からの圧力は少ない。後で囲める位置に陣取っているから、向こうとしてもわざわざ狙いにくい時に撃ちまくる必要はないさ
だがそこから1時半の方向。狙うは敵の一番厚いとこ。そこに攻め込まれることは流石の敵も考えてない
つまり突破すればやりたい放題なわけだが、ここをまずは突破しなければならない
ここで一輌落ちるか、それとも生還か
分けるな
「かーしま、変われ」
「はっ」
悪いが、目の前のを外すかーしまよりは流石に砲術の腕は磨いてきたつもりだ。こうして列の先頭を申し出たのも、腕の自信というのもそうだ
だが何より、自分の道は自分で開かないとね
「37ミリじゃまともにやってもなかなか抜けないよね〜」
額を当てた照準器の向こうには、絶え間なく横一線から光が届く
相手は76ミリとか。弾の威力はおろか装甲の厚さも段違い。戦争中に技術が進むってやつだね。あと工業力
ならウチらがそれをひっくり返す策は一つ
「小山!ちょっと危ないけどギリまで近づいちゃって!」
「はい!」
近づけば、狙われやすくなる。実際に光だけでなく弾が横切る音も大きくなる
「おーこえー。よーし……」
進みながら揺れながら、されど高さくらいは調節しとかないとね。時間は僅かだろうし
そして見据える先は敵の砲身
実際にできるかはなんとも言えん。履帯が取れることはおろか、最悪横転も視野に入れないといけない。が、このボロを動かし続けた小山の腕を信じよう
姿は見えてる。砲身も他を狙ってたのがじわりとこちらに先を向ける
まだ……まだだ……気付かれたら終わりだ
止まった
「来るぞっ!」
車体は大きく左にターンした
「はいっ!」
返事するより手が早いよ。だがそのおかげで砲弾は右上を掠めていっただけだった
胴体ガラ空き。時間もガラ空き。そして狙うは……
砲塔と車体の間!
白旗を尻目にただ前のみ見て進む
「前方敵4輌!」
「こちら最後尾。後方からも4台来ています。それ以上かも」
「挟まれる前に、隊形を乱さないよう10時の方向に旋回してください」
そう。ここからの目的はフラッグ車の捜索とその撃破。かつその間フラッグ車のアヒルさんを守り抜くことだ
だがその間余裕を作るために、ある程度纏まった数の車輌を引き離す必要がある。向こうはあと14輌あるんだ。数で潰されたら意味がないし、その負け方が最もあり得るからそのリスクは減らせるに越したことはない
敵のフラッグ車を撃ち抜け、こっちのペラッペラのフラッグ車を守れる車輌を残した上で、だ
引きつける技量と盾になり得ない装甲
ウチらだ
「正面の4輌引き受けたよ〜」
ウチらはその撃破を引き換えにしてでも時間と敵の首を得なければならない
「上手くいったらあとで合流するね」
果たしてどこまで戦えるかね
「T-34、76に85にスターリンか……堅そうでまいっちゃうな」
はてさて、ドイツ軍にショックを与えたT34に当たるは、そのショックを与えられたドイツ軍の一世代前
それで4vs1。本来なら数的劣勢かつ質的劣勢。相手が勝ち戦の準備を整えた中に突っ込むようなものである
「小山、ねちっこくへばり付いて!かーしま、装填早めにね!」
だが諦めるわけにはいかない。その差を埋めるにはさっきと同様、いやそれ以上のことをやらざるを得ない
「38tでもゼロ距離ならなんとか……」
今度は一輌あたりの狙う数は多い上、さっきみたいな半ば奇襲の形をとってるわけでもない
「西住ちゃん、いいから展開して!」
ウチらは撃破される。それを知らない西住ちゃんじゃない。だからこうしてギリギリまでついてこようとしてる
それは相手に側面、背後を晒しかねない
「わかりました!気をつけて」
「そっちもね」
後ろの車輌は左に去って行った。あと残されたのはウチらのみ
なんとか照準器全体に白の車体が広がるまでに至った。そして狙うは足元!
まず目の前のやつの履帯!足止めとしてならこれ以上有効なやつはないって練習試合で学んでるからね
一時離脱後別車輌の背後から一発。しかしこれは上のカバーに弾かれる。やはり38tのちっこい弾じゃ背後を穿つのも楽じゃない
「失敗、もう一回!」
だったら機動力と装填時間の短さを活かして何度も、何度でも穿つのみ。それで時間食って援軍遅れるならそれも重畳
向こうは近くに味方がいるが、こっちからしたら目に入るもの全て敵。わかりやすいね
履帯の後を長めつつ迂回して、次のは燃料タンク!
「もういっちょ!」
近くに砲弾!影響なし!
側面ガラ空き!
白旗の音を確認して再度離脱。今度はしっかり距離を取る
着弾回避。そしたらまた距離を詰める。相手が装填する前に
「せーのっ!」
履帯、履帯、履帯
撃てる限り撃ち込む
そして最後に止まった車輌の裏を取ってドン
撃破2、履帯損傷2
少なくともフラッグを巡る勝負がつくまでに戦線復帰は無理だろう
「よぅし、こんぐらいでいいだろう。撤収〜」
生き残れたのはデカイ。そしたらウチらは合流して壁になるかな
「お見事です!」
いや〜こうして実際にそのうちの一人としてやってみると、小山もかーしまも上手いんだねぇ。私の狙いを見事に拾ってくれたよ
と思ったら車輌は一瞬にして宙に浮き、1回転半して止まった
書いたらこれだけなのだが、内部はとんでもないことになった。ひっくり返る途中で上からかーしまと小山が落っこちてくるわ、積んでた砲弾が崩れかけるわ、ね
こりゃガチ撃破されたらヤバイわけだわ
あと燃料漏れてるかもね……なんか暑いし
「いや〜ごめん。2輌しかやっつけられなかった上にやられちゃった……」
合流はしときたかったよねぇ……こっち数少ないんだし
「わかりました。ありがとうございます」
「頼んだぞ、西住!」
「お願いね!」
それだけじゃなくてさ
私たちが始めたんだから、最後まで戦いたいよね
その可能性は捨てられないよ
そして撃破された車輌は案内が来て引き上げだ。連盟の人が重機で起き上がらせてからエンジンの動作を確認して運搬車に乗せた。その後ろに自分たちも乗る
寒空の向こうではオレンジの光が拡散し続けていた。きっと合流したプラウダによる追撃だろうか
「やってくれるでしょうか、西住は……」
動き出した車の風は、先ほどよりマシになっている。だがそれでもその質問には答えたくなかった