作:いのかしら

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第35話 正義

 

 

 

 

最後はかなりギリギリの勝負だったが、双方のフラッグ車のうち辛うじて白旗が上がらなかったのは、ウチらの89式のほうだった

プラウダのフラッグ車は市街地を走り回る最中でIII突が見事に撃ち抜いた

 

「よっしゃ!」

 

「よかった〜」

 

その確定情報が流れて、私の両隣も喜びを露わにした。あの絶望的な状況から、私たちは勝ちをもぎ取ったのだ

 

 

「よくやったぞ」

 

それを成し遂げてくれたのは、間違いなく西住ちゃんの力。あの場をまとめ、士気を高めた彼女のだ

だが出てきたのはありがとう、じゃない。それは小山に投げた。まさに上官としての言葉だった。シビリアンコントロール的な意味での、ね

ここでの勝ちがまずは絶対必須。その称賛に留めておこう

 

その後カチューシャがまた背負われてやってきたが、敗者の戯言はともかく西住ちゃんと地面に立って握手したからまぁいいか

 

 

 

「次はいよいよ決勝戦だ。相手は黒森峰女学園」

 

「全校の期待が掛かってるから、頑張ってよ〜」

 

「本日は全員、戦車の整備に当たれ!」

 

あのクッソ寒い大地から南下して暫く、私たちは練習に臨み、最後の試合に向けて着々と準備を進めていた。寄附金で新しい資材の購入を確定させたりね

 

そして何よりあの場で戦車道始めた理由を語ってしまった以上、もう隠し立ては効かないし戦車道と生徒会の距離も近くなってしまうのもやむなし、か。フォーラムとクラブとの契約の都合上あまりやりたくなかったけど

戦車道の必要以上の延命。これがなされてしまう道が広がってしまう。予算的に余裕がないウチであまりやり続けたいものではないのだが……

 

私たちが帰るのに先んじて財務の飯尾ちゃんが生徒会を代表して声明を発表した。とはいえ本当に簡単なこと

『今年度の戦車道大会に優勝できなければ廃校』

それだけだ

 

本格的な発表はそれを決定した私の口からなされるべきだし、戦車道開始に合意したフォーラムの白石ちゃんと合同でやることにした

メディアも甲板の上で活動しているのは全部呼んだから、これで私の強権色が薄れればいいんだけど

クラブの鴨崎ちゃんも誘ったんだけど、全員賛成でないことを理由に拒否られたのは響くかね

 

 

「現在選択必修科目戦車道が参加しております本年度の全国高校生戦車道全国大会。その優勝のみが我が校の廃校準備校指定解除、すなわち廃校を回避し得る現状認められる唯一の手段である。この2点は紛れもない事実でございます」

 

「その点を理解し、大洗フォーラムとしても廃校回避の指針を支持する以上、戦車道再興に協力した次第です」

 

それでもその会見の始まりは単純なことから始めた。というかこれがほぼ全てだしね

 

「その廃校回避の取り決めはどことのものでしょうか?」

 

「文部科学省学園艦教育局です」

 

「取り決めた相手は?」

 

「諸事情により答えを差し控えます」

 

取り決めの関係上名前は伏せる

 

「戦車道立ち上げは廃校回避のみをその存立の理由としていたということでしょうか」

 

「我が校に求められていたのは廃校決定を覆し、存続に値するだけの実績です。それを廃校が実施される今年度末までにもたらさなければならなかった

生徒会として単一の部活への注力による部活動間の不公平は避けるべきである以上、選択必修科目として授業に組み込め得る戦車道を選択した次第でございます

また戦車道はかつて我が校で実施されており、その強さは黒森峰女学園などと名を連ねるほどでございました。そのためそれの再興は学園の伝統と威信を回復する上でその象徴となり得る、そう判断したことも偽りではございません」

 

「しかし戦車道が我が校で廃止となったのは20年ほど前です。その再興は我が学園に相当の負担となったのでは?」

 

「昨今更新しております補正予算などもご確認いただきたいのですが、現状運用している戦車は全て学園艦内にそもそも保存されていたものであり、新規購入は一切ございません。必要であれば戦車の保存場所に関する記録も公開可能です

燃料、弾薬、その他備品も市民議会を通過した予算内で進めております」

 

「フォーラムとしても当学園の予算は限られる以上、その利用に関しては精査はもちろん必要だと考えております

しかしOGによる寄附金制度の利用も戦車道の大会開始以降前月比20%増を継続的に達成しております

その要因が戦車道の全国大会での戦勝にあると見て、さらに廃校回避になるのであらば重点的に寄付金を投入するべきです」

 

白石ちゃんもナイスフォロー。質問も対応を考えていたものばかりだった。だがここで重要な質問が飛んできたのだ

 

「現在準決勝を通過しているわけですが、先ほどお話しされたことが条件の場合、決勝戦で敗れた際は廃校は免れない、ということでしょうか」

 

そう。ここの返答は私のこの先を大きく左右し得る

実際のところは廃校を認めざるを得ない。それ以上抵抗するための手段があるならもうすでにやってる。だがそれをおおっぴらに認めるのは公約の放棄。やるわけにはいかない

が……かといって代案も特にない以上なぁ……

 

「決勝戦出場により全国区に放送されるのは状況を知らしめることは能うでしょう。それだけでも廃校回避の一助にはなるでしょう。決勝戦で敗れた場合は……根本的な部分で戦車道での廃校回避は諦めざるを得ないかと」

 

流石に記者陣にも動揺が見える。明確な不安を作り出せた

 

「しかし」

 

あとはそこに私が求める楔を打ち込む

 

「仮に敗れたとしても、私はこの学園を残すことを公約に生徒会長となりました。戦車道での道は潰えたとしても、それは生き残るためのたった一つの手法でしかありません。この学園が残り得る最後の一分一秒まで奮闘する所存です

そして何より、その道は本当にあと一歩のところにあるのです。大会の抽選に向かった際は我々以外誰一人予想しなかったであろうことが、あの前回覇者のプラウダへの勝利が、既になされているのですから」

 

誰もが知る奥州の学園都市の王者プラウダ。それへの勝利は大きい。仮に黒森峰に負けたとしても無名かつ車輌、環境いずれも劣る環境でそこまで勝ち上がった、その歴史は別の手法でも学園を残すための礎となる

 

「その一歩、決勝戦で黒森峰に勝つ。あのかつて9連覇を成し遂げた絶対覇者を相手にです。西住まほさんが率いる最強軍団にです。多くの人がそれを不可能というでしょう

ですが敢えて言いましょう。私たちは勝つと」

 

ここからは私をも鼓舞しなければならない。そんなの断言できるはずもないのだから

 

「私たちがここまで来たのは、あのサンダースとプラウダに勝ってまで来れたのはなぜでしょうか

私も履修生の一人として他の履修生の頑張りは目の当たりにしております。それが一因であるのは間違いないでしょう

もちろん資金面での融通をつけてくれた議会や実行に支障を無くしてくれた生徒会の幹部、また彼らを選び支えてくださる都市住民の恩恵も忘れることはできません

しかし敢えて言いましょう。その一番の理由は何よりも、私たちが勝って手に入れる廃校回避、その大義が正義であるからに他なりません」

 

正義。なんとも曖昧で、裏のある言葉だ。されど人にある子供心を少し揺さぶるものでもある

 

「私も今大会をはじめとした試合に参加してきました。その中であれほどの戦力差がありながらも勝ててこれたのは、もはや運、何か大いなるものに導かれたのではないか。そう思わされる機会もありました

この度国が定めた廃校準備校指定、しかもこちらに話もせずに。これを指し示す日本語として横暴以上に適切な言葉を、私は紡ぐことができません」

 

それも来年度頭には執行すると言うのだからなおさらね

 

「私たちの目の前に不可能はありません。不可能を可能に変えてきたのですから、そこに間違いはないのです

次の試合で、私たちは正義をなそうと思います。私たちよりも何倍の人口、その倍率の遥か上をゆく生産力、そしてすでに私たちの首根っこを掴んでいるという事実

その全てを持つ国に抗う道が、彼らの傲慢さをひっくり返せる機会が、今ここに広がっているのですから」

 

一番正面にいる学生新聞の記者が口角を上げて私を見守り、必死にペンを走らせている。興奮を抑え切れてない

これでいい。負けてもこの場のメディアが私の話を広げてくれれば、この学園は真に一つに纏ることができる

 

記者会見はそれくらいで終わった。あとは彼らが変な切り取りをしないことを微かに期待するのみか

だとしても事実と照らし合わせればそこまで頓珍漢なことは書けないだろうけど

 

 

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