作:いのかしら

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第36話 最悪のプラン

 

……といった不安は杞憂といった感じで私は今日発行された学生新聞に目を通している。一応学園課の時代からこれには目を通しているが、今回はちょっくら記念に保存してもいい気がする

 

『「廃校回避は正義」 角谷会長熱弁を振るう』

 

まぁハズレではないだろうし、こっちの意図はちゃんと伝わるはずだ

あとはNHK水戸放送局もある程度取り上げてくれた。ネットでもかなり情報が出回り始めている。世論も動かせれば幸いだが、さすがにウチの存在感じゃキツいかね

ま、これで戦車道優勝すれば知名度はますます上がるか。いや、決勝出るだけでもイケるかね

……これで追加予算せびれるかな

 

だけどいい話ばかりでもないね。戦車道で無理なら廃校回避についてはスパッと諦めるべき、そういう論調も一定数ある。退艦になるなら準備があるからできるだけ早期に決めてくれってわけだ

これは無所属である程度いて、あとフォーラム内でも一定の力を持ってるみたい。特に市民議員で選ばれたフォーラム議員に多い。元町内会系だね、やっぱり

 

これが強まると仮に敗れた際に取るつもりの最終手段に大きな懸念が生じてしまうんだよね……ま、これについて考えなくて済む方法はただ一つ。決勝に勝つことだ

 

「会長、西住が来ました」

 

そのための準備を進めよう

 

「お、そうかい。んじゃ、話を始めようか」

 

 

「決勝戦は20輌までいいそうですから、おそらく相手戦車はティーガー、パンター、ヤークトパンター……

これではあまりにも戦力の差が……」

 

紙の上には7個と20個の五角形。その20個の方を西住ちゃんがいくつかに区分していく

 

そう、決勝戦は20輌出せる。しかも黒森峰はその20輌をアハトアハト、なんならそれ以上を持った最精鋭で埋められる戦力を有する

こりゃキツいわな

 

 

黒森峰女学園。サンダース大学と肩を並べる九州の学園都市の女帝だ

西住ちゃんがいたところでもあり、西住流と完全に提携することでかつて9連覇するほどの質を保っている。そもそも戦車道の祖先のなんだっけ……馬上薙刀道みたいな競技を発展させるために作った学校だ。ルーツからして新参は叶わない

ちなみにこれほどの学園の規模を有しながら経済政策などは特段見るものがない。富裕なOGを組織化し、企業家相手には都市内での営業独占権を提供して株や支援金を得て、収入の足しにしている。メインは高めの学費だけど

 

あと特徴といえば、母が黒森峰卒業生や学園都市民なら娘は学費を優遇するなど血縁、縁故主義で入学希望者、都市在住者を結構確保していることくらいかな

歴史があり、伝統があり、そして生徒の実績も伴う。指導方針も一貫して行えるし、学費も高めだから生徒の質もある程度絞り込める。黒森峰じゃないとできない手法だ

 

だからか政治的にもかなり安定している。学園長の権限が強い政府だが、反政府的な動きは聞いたことがない。閉鎖的というのもあるが、そもそも学生、卒業生が都市民のかなりを占めているのだから、当然っちゃ当然だ

逆にデメリットも聞くけどね。コンビニとか警備員とかいわゆる『時給で働く人』の確保が難しいらいしね。黒森峰に通えるほどだからみんな親からの仕送りで生活できるし、なんなら親と都市に住んでるからバイトする必要がないわけだ。もうそういう人は外部から住宅付きで住まわせてるらしい

ちなみに船舶科は学園都市一大変だって有名だね。学費分が高いから埋め合わせのために労働時間下手したらうちより長い上、規律主義だから上下関係厳しいんだってさ

 

 

というわけでそんなガチガチの強豪、しかも世代最強とされる西住ちゃんのお姉さん率いる黒森峰相手には今の車輌じゃ荷が重い

 

「どこかで戦車叩き売りしてませんかね……」

 

「いろんなクラブが資金出してくれたけど、戦車は無理かねぇ」

 

あの後生徒会への独自の寄付金も増加した。各部活にしても学園が潰されちゃ話にならない。これまで予算にがめつかったのが嘘のようにこっちに回してきている

が、戦車は高い。当たり前だが億単位するのが当然ある。学費何人分だよこんなの

安いのもあるっちゃあるんだけど、そうなるとアンツィオの持ってるCV33とかドイツのII号戦車とかになる。機銃じゃいくらなんでも黒森峰相手には的以上になり得ないわ

新規戦車はその維持費の関係で買うことを議会からの許可を得づらいのも事実だが、単に金がないというのもまた然りなわけ

 

「その分は今ある戦車の補強、または改造にまわしますか」

 

「そうですね……」

 

改造くらいなら予算つくしいいかな

 

「そういえば、この間見つかった88ミリはまだか?」

 

「自動車部の方々が組み立ててくださってるはずですけど……」

 

「あれさえあれば、この戦況を打破できるはずだ!」

 

そう、ポルシェティーガーとかいったっけ?ウチで一番強い火力が手に入るのもそうだけど、自動車部が選手として正式参入というのもプラスかな。試合中に簡単な修理がパパッとできたら強いしね

それと……あそこ部員確保に苦労してるから、このまま部員入らずに潰れたら戦車道も立ち行かなくなりそうだし……

常にいたものが使えなくなる。そうなった時果たして埋め合わせできる予算を戦車道メンバーで手に入れられるかな?

 

そんな先のことは置いておくにしても、現在だけでも大いにプラスだ……レストア終えたはずの彼らの乗る戦車が走っていてエンジンから火を噴くやつでなけりゃね

自動車部曰くハイブリッド戦車なんだけど技術足りなくて脆いんだって。あと足回りも普通に脆いらしい。こんな奴数寄者の集いの自動車部以外が乗れるわけないんだよなぁ……

 

 

数も増やすためキャンペーンを張りつつ、改造費用を寄附金で賄うことにした。強化するべきは火力と防御力。だがこれにも選択と集中が必要だ。この大会がフラッグ戦である以上、フラッグ車への投資が必要

ではフラッグ車をどれにするか。今までこなしてきた89式と38tは問題がある。それは上記の二つがどちらもないことだ。おまけに38tは足回りが弱いために自滅しかねないという弱点がある

同様な理由で最大火力、最大装甲のポルシェティーガーもなし。エンジン爆発して自滅されたらたまったもんじゃない。あとは技量的にB1bisも除外

あとIII突は側面から狙われると対処できないので除外。となるとM3LeeとIV号で考えたらまぁIV号、あんこうチームになるわけ。実際西住ちゃんに抜けられたら勝ち目ないし

今まで西住ちゃんに注目させすぎないようにフラッグ車から外してきたけど、この試合ばかりはそうもいかないだろうからね

 

 

黒森峰は断じて西住流を外されたものに負けるわけにはいかない

かの者に黒森峰への敗者の汚名を着せよ

 

あのお姉ちゃんがどうかはともかく、学園側はこう思うだろうな。何せ去年彼らが負けたプラウダのカチューシャ相手にウチらは勝っているのだ。しかも向こうが辞めさせた西住ちゃんを軸にして

 

すっげぇ下衆に言うなら

 

「去年負けた相手にその年戦力外した選手使って勝たれてどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」

 

状態な訳。ウチらがそう思ってなくても向こうにはそう見えるだろう

黒森峰も西住ちゃんの手綱を離したいわけじゃないし、こうして廃校絡みも発表しちゃった以上負けたら戦車道指導の優位性とかを主張して引き戻すなんてこともやりかねない……いや……もしかしたら……

 

とにかく試合になったら黒森峰は西住ちゃんを狙ってくるだろうし、それを守りきれないとウチは負ける。ということでIV号の補強は決定だね

 

「とりあえず即金でヘッツァー改造キット買ったから、これを38tに取り付けよう!」

 

あと改造できるのは予算的に1輌。もうちょいできたけど戦車見つけた時の対策費に消えちゃった。また艦内だったりしたら、今度こそ業者が要る

となると問題が火力のなさなら、真っ先に挙げられるのは38tと89式だ。どちらも火力、装甲で大きく劣る

んで磯辺ちゃんに相談したら、その枠を私たちに譲ってくれた。確認したけど自分たちはこのままのはちきゅんが好きだから良いとのこと。確かに改造するならマーケットで改造キット売ってたチハとかになるだろうけど、そうなったら外見変わるしね

 

「結構無理やりよね……」

 

ヘッツァー改造キット。これによる一番の弊害は回転砲塔を捨てるため側面攻撃に弱くなることだ形は違えどIII突に近い役となる

だがそれでも75ミリ砲と38tとは段違いの装甲は黒森峰と対峙する上で魅力だ。プラウダ戦の時みたいに無理やり近づいて、それでも穿てるかわからないのに比べればね

 

「あとはIV号にシュルツェンを取り付けますか」

 

「いいねぇ〜」

 

 

良いことは続けて来るもので、なんと新規車輌が新たな仲間を捕まえてやってきた

西住ちゃんによると、クラスメイトの一人が駐車場で戦車を見つけて、さらに仲間まで集めてきて入れて欲しいと言ってきたとのこと

NOをいう理由も余裕もないね

 

見つけてきたのは日本の三式中戦車。今から練習したんじゃ黒森峰戦じゃそこまで練度は期待できないけど、75ミリ砲という対黒森峰でそこそこ張り合える火力も増えた。費用面も購入じゃないから扱いやすい

頭数としてなら期待できるかな?

 

 

こうして勝つための策は練ってるし、結果もある程度伴ってきていた。だが勝つのはかなり厳しいと言わざるを得ないのが現状。そしてなにより、それより確率のある廃校回避の手段がないというのが痛い

 

最後の手段は、使わないにせよ準備する他ないわけだ

 

「……園ちゃん。進んでる?」

 

「進めてはいるわよ。言われた通りね。基盤があるから始めること自体はそこまで苦労しないわ」

 

「……そうかい」

 

彼女を呼び出したのは夜遅め。もう既に私以外かなりの数の生徒会の者たちが帰っていた

 

「でも、その予定通りじゃ無いと無理よ。今の様子、そして夏と冬は人員が減ることも考えれば、期待できるのは早くて来年頭ね」

 

「3月に使えればいいさ。いくらなんでも卒業式はさせてくれるだろうしね」

 

「しかしよくこんなこと考えたわね……風紀委員で学園艦防衛なんて」

 

「戦車道以外にはそれくらいしか抵抗手段が無いってだけさ」

 

少なくともあと半年じゃあね。他校とも繋がりはできているが、それで廃校を止められるわけじゃない

 

「それにしてもムチャクチャよ。卒業生も来年度気にせず学園艦にとり残すんだもの」

 

「そう、ムチャクチャさ。だから可能性は低いって考えてるのさ。既に戦車道に失敗したら廃校に動くべきって奴らもいるし」

 

「そいつらとも最悪張り合えと?」

 

「風紀委員が出張れば大丈夫でしょ。『皆様に愛される、皆様の風紀委員』なんだから」

 

「茶化している場合じゃないのよ」

 

「……正直反発があったらそれを抑え込んでもらう可能性はある。けど……それを命じるのは間違いなく私だ。そど子たちじゃない」

 

私で背負う。それしかない。やると決めるのは私だ

 

「卒業式の時でしょ?貴女はどうしてるのよ?その時生徒会長じゃ無いんじゃないの?」

 

「廃校になるなら……来年度の選挙する意味ないからね。議会で特例として任期伸ばしておいてもらうさ。そして……」

 

「その特例が切れる前に蜂起して、選挙で後任決めてしまおうってわけね」

 

「そんな感じ。そっちもよくやってくれるなんて言ってくれたよ」

 

「学園があっての風紀委員ってだけよ。なにより現状で廃校後の移転先も決まってないとか冗談じゃないわ」

 

「だね」

 

そど子は夜間に訓練をやらせるためにその場を去っていった。とはいえ正式な武装はさせられないから本当に棒一本だけとかの使い方だが

 

その日が来るなら、戦車道も協力して廃校処理に来る役人どもを追い払って出航。洋上で追撃を回避する

そんなプランだけど、果たしてどこまで役立つかな

 

 

 

 


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