「会長、大会に向かわれていた間の書類の認可をお願いします!」
「こっちもです!」
「こちらには茨城県の政財界からの面会希望が相次いでます!」
「町内会からの差し入れの処理を!」
大会はかなりしんどいものであったが、私に休憩は許されていない。夏休み中だからまだマシとはいえ、数日いない間に仕事が溜まってしまっていた
優勝への祝福なんて私と小山、かーしまがパレードから帰ってきてから万歳三唱しただけだしね。この学園を残せるものってほどなのに、えらくあっさりしたもんだ
「はいはい。私の裁可がいるやつは机の上置いといて。あと飯尾ちゃんいる?」
「あ、はい」
「戦車道予算って確定されてるの8月分までだからさ、9月の頭に追加予算確定できるようにしといて。白石ちゃんに話し通せばいけるはずだから」
「了解です。あ、そうでした。白石さんからも面会希望が……恐らく今年度末の会長選挙に絡むものと思われます」
「あ〜、それは早めにやっといた方が良さそうだね」
こっちとしてもそれについては話しておきたいことがある
「向こうが明日夕方を希望していますが」
「そこなら私も空けてあるって伝えといて」
「了解です。あと協定通り都市債発行に向けた手続きの認可もお願いします」
「OKOK。じゃ次は……JAから茨城県産の農産物の宣伝に戦車道メンバーを使わせて欲しいってやつか……JA主催なら受けていいかもね」
ウチに農業科があり、その生産物は基本JAを通す以上、あまり関係を拗れさせたくないところだ。CMとかで喋らせるとなると多少は苦労しそうだが、ポスター画像撮影くらいなら問題ないかな
アリクイさんとかガチで難儀するだろうね
広告収入のうち幾らかはこっちでピンハネしようか。戦車道の予算か機密費に繰り込みで。なぁに彼らが稼いだ分が彼らのために使われるんだ。文句は出るまい
「次は大洗の漁協が宣伝に使いたいと。10月中までには作っておきたいそうです」
「どう見てもあんこうの宣伝だねぇ。あんこうチームって名前付けてるし、行ってもらおうか。はい次」
「町内会から色々と差し入れが来てるのですが……」
「期限が近いものは戦車道メンバーと生徒会で優先的に分配。他はそれが終わり次第同様に分配かな。そっちは一般学生に授業始まったら配ってね」
「了解です」
こうして私は印鑑を押しまくりながら、判断を依頼される案件を処理し続けた。私が自分でやったことで、さらに望んでいたことなのになんだが、こうして生徒会の権限を拡張した分私が最終判断しなければならないことも増えた気がする
その日と次の日はそのような対応関係に当てざるを得なかった。優勝から1日ちょっとじゃそれに絡む要請等は完全には集まらないけどね。まだまだ今後も来るだろう
「私は帰ってきてからそんな感じだねぇ……戦車道も今週いっぱいは休みかな」
「でしょうね。他のメンバーも疲弊しているでしょうし。そりゃあんな試合をなさったらねぇ……」
「試合観てたんだ」
「そりゃ観ますよ。廃校回避できるかがそれ次第なんですから。なんだったら体育館をパプリックビューイングの会場にしていたじゃないですか」
「ははは、とーぜんか」
「それにしても何なんですか会長の車輌のアレは。どー見ても黒森峰の戦車に潰されかけてたじゃないですか。御身大事にしてくださいよ」
「流石に車内はコーティングで守られてるよ。このご時世怪我人なんて出たら一大事だからね」
「そりゃそうかもしれませんが……」
相手は大洗学園フォーラム代表の白石ちゃん。この場には彼女と二人だけだ。あまり人には聞かれたくないので、艦橋内のあまり人の来ない小さな会議室を当日確保してこうして籠もっている
「あ、飲み物ありますけど何になさいます?」
「お茶ある?」
「ありますよ」
彼女が持ってきてた電気ケトルでお湯を沸かし、粉茶ながら紙コップに注がれ手元に置かれた
「このいい雰囲気の中失礼かもしれませんが本当に廃校回避はなされるのですか?戦車道で優勝なさったのは本当に喜ばしいことではあるのですが……」
「……一応ね、文科省の学園艦教育局の人と話はつけたんだよ。優勝を条件に廃校をやめるってね。実際こうして全国区に名を残せる実績を残した以上、廃校にするわけにはいかないでしょ。この人材、この環境を投げ捨てろってことだしね。西住ちゃん来年もウチにいるし」
「しかし……まだ廃校指定校の解除には至っていません。確定と告知するのは時期尚早の感が否めないのですが」
「そんな一朝一夕に変わるもんじゃないよ。再審査を受けないと流石に書き換えられないだろうしね。来年度が始まるまでにちゃんと存続が確定していればいいのさ」
「そういうものですか……」
そんなに考えすぎるものでもないって。こっちが手を組んだのは学園艦教育局のトップだよ?言ってないけど
「そこに関しては2学期の前期試験が終わった辺りになっても政府に動きがなかったら訴訟でも起こすかな」
「マジですか……」
「マジマジ、大マジよ。なんだったら廃校指定校にされてすぐ起こしても良かったと思ってるし」
生き残るには戦わなきゃいけないと身をもって知ったからね
「その話はそこまでにしとこうか。本題に入ろう」
こういうのも面白いけど、ちょっと忙しいからあまり長話はしすぎたくないのさ
「……はい。来年度の生徒会長候補についてです。角谷会長が推される方ならこちらも推薦しますし、当選確実でしょう。どなたか目処は立てていらっしゃるのですか?」
「立ててるよ。確認はまだだけど」
「学園課の田川さんですか?」
「違うね。田川ちゃんは悪くはないんだけど、会長タイプとはまた違うかな」
「でしたら信頼感で考えると財政課の飯尾さんですか?」
「飯尾ちゃんねぇ……あの子は根っからの財務畑だよ。全体仕切るのに使うのは勿体無いさ。しかも彼女来年ガチ受験だから仕事にどれくらい出れるかもわからないしね」
「でしたら……他に誰が?」
「五十鈴ちゃん」
確認は取ってないけど、私は彼女を指名したい
「五十鈴?生徒会の高二にそんな人いましたっけ?」
「いやいや、白石ちゃんも試合観てたなら知ってるはずだよ」
少し手に顎を乗せて考え込んでいたが、それが外れた時こちらを見る目は大きく開かれていた
「戦車道やってる……五十鈴さんですか?」
「ご名答」
「えぇ……」
また、今度は腕組みしながら考え込んでしまった。生徒会内から後継を出すって思ってたみたいだね
「……懸念は大きく三つあります。一つは彼女に生徒会長が務まるのか、です。これまで生徒会に所属すらしていない人間をトップに据えて組織が回るのか。手を組む以上そこの不安は解消してもらわねばなりません」
「彼女実務はできるよ。車輌捜索の時の事務書類の整理、調査とかは手伝ってもらってたけどかなりできてたし
あとは生徒会長に必要な『決断力』は十分。自信持って決定できなきゃコンマ何秒を争うあんこうチームの砲手は務まらないさ。私も砲手だけど、話を聞くだけでも五十鈴ちゃんの意志の強さには勝てないよ
というかね、できれば次の生徒会長、生徒会出身者を付けたくないんだ」
「とおっしゃいますと?」
「変な話、次の生徒会長の比較対象が私になっちゃうからね」
「はぁ……」
「自画自賛するようでなんだけど、私は一年で廃校回避を成し遂げちゃったわけだ。その次の代が生徒会出身なら、何かしら実績を挙げても私よりか見劣りしちゃう。そうすれば生徒会長への支持、阻止で最悪フォーラムの支持基盤も揺らぎかねないよね
だけど生徒会出身者じゃなかったら実績が少なくてもある程度許容される。しかもそれが他で実績残してきた人なら尚更ね」
「なるほど……その点はわかりました。では二点目です。彼女は戦車道メンバーであるわけですが、彼女を生徒会長につけて戦車道の活動が疎かになることはないのですか?」
「いや、むしろ戦車道関係者は生徒会絡みの役につけときたいんだよ。今年は小山とかーしまが運営関係やっちゃってたから、来年運営できる人材がいないんだ。西住ちゃんには人を引き寄せる才能はあっても、組織を運営する才能は乏しいからね」
「……まぁ、会長や小山副会長、河嶋さんができていた以上、五十鈴さんができないと断言はできないですね……」
「だろう?」
「ですがそれも絡むのが最後の三つ目です。フォーラムとクラブ、生徒会は取り決めで戦車道の必要以上の延命をしないとしたはずです。生徒会長に戦車道関係者を付けるのはその関係の強化、ひいては延命の土台となってしまうのでは?」
「むしろここ2〜3年は必要じゃん。一代一年限りだし。そしてこの先結果が出せなくなったら切り離せばいいし
大会出てみてわかったけど、この先はかなり厳しいよ。何せこうして結果を出しちゃった以上、向こうだって試合する時警戒して当たってくるわけだ。将来的にどうにもならなくなるよ」
「……話としてはわかりましたが、一旦持ち帰らせてください。あと何より五十鈴さん本人の確認も取ってきてください」
「わかったわかった」
わかってくれただけでも何よりだよ
「わかりました。次期生徒会長の任、引き受けましょう」
呼び出した五十鈴ちゃんはすごくあっさりと首を縦に振った
「……いいのかい?言い出した私がいうのもなんだけど」
「お話にもありました通り、以前小山先輩や河嶋先輩がなさっていたことを誰かが継承しなければならないのは間違いありません
みほさんに引き続き隊長として戦車道を一任する以上、私はその背後を守り、そしてその為に学園を引き続き守ってみせます」
力強い。だがまだだね
「ついででできるほど生徒会長は楽じゃないよ〜。背中に乗るのは都市民3万人のみらいだからね〜」
「だとしても、です。こうして戦車道の勝利によって廃校回避を成し遂げた以上、戦車道の強さがなければまた同じ道を辿るのみです。ならばその強さを保つ、みほさんがいなくなっても勝てる戦車道を作るしかないのです」
あ、そうか……
五十鈴ちゃん、あの合意知らないんだわ
「……五十鈴ちゃんには言いにくいんだけど……それは上手くいかないと思う」
「ど、どうしてでしょう?」
「あ、でも五十鈴ちゃんの代ならまだ保つかも……」
「……戦車道では上手くいかない。その理由をお尋ねしても?」
「単純にさ、黒森峰やプラウダがウチ対策に全力振り切った状態で決勝戦してたら勝てたと思う?」
「……今回以上に厳しくなるのは間違い無いかと」
「でしょ。これからそうなるわけだ。そして勝ち続けないと学園都市を引っ張る存在にはなれない」
「で、ですが今回の勝利で戦車道の経験者などが今後大洗に来る可能性も……」
「車輌」
そう、大洗に足りないのは火力だ。新規車輌購入には莫大な予算がいる。結果を残せば他の部活を説得して資金が手に入るが、逆に負ければ少し前に逆戻りだ。そして一度優勝してしまった以上、次善戦しても評価は下がる
「少なくともその数をすぐに20にするカネはないよ。やっすいやつで揃えてもね」
これが現実だ。人の頭数が違う
「収入は増えるさ、学費や寄附金でね。だけど戦車道をやりたいなら都市基盤、都市経済の拡大や教育内容に投資してからじゃないと無理だろうね。そして投資に資金を回したら戦車道は拡大はおろか維持できるかすら怪しい
これは私の意見じゃなくて、生徒会、フォーラム、クラブの次世代メンバーの合意だ……申し訳ないけどひっくり返すのは容易じゃないよ」
流石にダメージ与えすぎちゃってるかな……
「でもこの代はこうして五十鈴ちゃんを推薦している通り、戦車道に注力しても文句は出ないだろうさ。西住ちゃんが残ってるし継続して勝ってくれた方が名前は売れるしね。だから五十鈴ちゃんの代ではその指針は問題ないと思うよ
ただ、都市インフラや事業誘致とかをしてもらったり教育の高度化に力を入れる基礎はあったらいいかな、欲を言えばね」
「……少し考えさせてください」
「ゆっくりでいいよ。後継だと告知するのも生徒会長選挙の公示が出る前後が一番影響あるだろうしね」