作:いのかしら

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第42話 楽観論

 

さて都市の内政改革は暫くは無理そうだ。というのもなかなか廃校指定校解除が進んでないからだ。廃校回避の確実性を客観的に示せない以上、被服科の業者、学園都市上のバス業者などそういった話が企業とできない

とはいえ文科省もお盆明けだし、急かしてどうなる問題でもないので放っておかざるを得ない

 

というわけでできることはいつも通りのことと戦車道の実績を使った形式的なものしかできない。だがその形式は都市を支える上で必要だったりする

 

「我が県に対し、貴殿は戦車道における素晴らしい実績により多大な貢献をなされました。よってここにその功績を称え表彰いたします」

 

こんな県庁での表彰状もね

 

「茨城県知事、岩内昌彦」

 

少ないながらもメディアが来ているし、宣伝としても十分だ

 

「おめでとう!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

そして表彰されているのを隊長の西住ちゃんにすることで、廃校回避より戦車道での活躍をクローズアップする。向こうもそうしたかったみたいだしね

 

「今後も健闘を期待しているよ」

 

「は、はい……」

 

ということだ。あまり慣れてなさそうだけどこういうのも隊長の仕事。やってもらわないとね

 

 

 

そもそも茨城県はウチらの廃校回避に好意的とまではいかなかった。自分たちの県立なんだけどね

理由は廃校になっても他の県立校に配分されるから生徒数減には繋がらないからというのと、その際に都市改善、校舎改築などで他の学園艦の経済を刺激すると思われていたからだ

つまりウチらが廃校になっても目立った損が県には無いからだね

 

だから大洗町は廃校指定校決定にすぐさま避難決議を出したけど、茨城県は対応に苦慮していた。結果的に

 

『あのー、すみません。いや別に大洗女子学園を廃校にするのは構わないんですが、学校の廃止について我が県の教育委員会を無視する形は取って欲しくはなかったかなー、なんて』

 

っていった感じの意見書を国に出すだけだった。というわけで大洗としても特段関係を深める理由はなかった

だが実績を残し、県立の名を冠しながら戦車道で結果を残したことで県も対応を変えた。こうして私たちを表彰しようと言い出したのも向こうだ。掌返しそのものだが、まぁこの結果は誰も予想できなかっただろうからそこまで重くは考えない

県が学園存続において味方になったと外部に示せるというのでこっちにも利点があるしね。そしてこのまま辻さん通じて廃校指定校解除に向けて圧力を高めていくつもりだよ

 

 

その後は懇談会が設定されて、県内の有力者との会合の場が設けられた。被服科の産業に都市内交通の整備、産業開発と人のつてがあってナンボなものは多い

西住ちゃんも西住流にいたんだからある程度慣れてるもんかと思っていたけど、会場の隅の方に固まっているのに人がたむろって、私が少しずつ引き剥がす感じになってしまった

その間に、またそれによって私はいろんな人と話せたけど……ねぇ。いや水戸ホーリーホックのオーナーさんとかEXCELみなみの経営者さんとかさ

連れてきたのはあんまり良くなかったかな?

 

よくよく考えてみたら西住ちゃん、最初私たち相手にビビってたもんね。最近ずっと人と話せてたから忘れてたわ

 

 

 

 

「……というわけなんだよ。ただ優勝したからその隊長として来て欲しかっただけじゃないんだよ……懇親会にもその顔がいてもらわなくちゃいけないし」

 

その事情を伝えているのは帰りのタクシーの中だ。行き帰りの際に県が手配してくれていた

 

「そういうことだったんですね……」

 

この説明で納得してもらった。今後もあることだし必要に応じて私が前に出ることにしよう。都市と学園のリーダーは私だしね

 

「というか西住ちゃん、西住流ほどの組織だし、こういう機会ってなかったの?」

 

「いえ、そういうものはだいたい母と姉が顔出していたので……私はあまり……」

 

「そうなんだ。そういうのにも一門衆扱いで呼ばれてるのかも思ってたわ」

 

そこしっかり差をつけるのね

それもそうか。西住ちゃんにこれだけ才能があるなら、お姉さんと競わせたりしたら最悪流派が割れかねない。だったら最初から跡継ぎとそれ以外で扱いを分けるか

もっともこれには弊害もあるけどね。跡継ぎに何かあった時にそれ以外で対処しきれなくなったりね。現代ではそれはないと見越した上での行動かな

 

「これを機に県からも補助金出たら戦車道やりやすくなるよ」

 

「やはり今後のためにも車輌は増やしていきたいですよね……」

 

「……そうだね。人は来年度以降勝手に集まってくるだろうし、場合によっては選抜もいるんじゃない?」

 

「あまりやりたくはないんですが……予備人員とかにできたりしますかね?」

 

「そうしたら練習を交互にするわけでしょ……新たに車輌買うよりマシとはいえ、弾薬と燃料の消耗は頭に入れとかないとね」

 

「まだ学園艦に戦車があったりしないんですか?」

 

「資料的にはあってあと2〜3輌かな。でも前にも話したかもしれないけど、学園艦に残ってるのは以前戦車道を辞めた時に売り払えなかった車輌だよ。引っ張り出せたとしても火力面で補強になるものはそうそう出てこないと思うねぇ。ポルシェティーガーはありゃ例外だよ」

 

「そうですか……」

 

つまり火力が欲しけりゃ金を集めるしかない

単純だがこの世の摂理だ

 

「量産されてたT34系統ならまだ手に入るかな……でもアレは前調べたけどそのせいで需要高いからなぁ。ソ連製の国内流通はプラウダが握ってるし。それならサンダースに尻尾振ってシャーマン安く買い込むかな」

 

「砲弾は厳しいですが、機銃弾ならM3Leeとたぶん共用できますね」

 

「そうなんだよねぇ。ウチドイツ系が多いから、そっち系統でまとめられるとやりやすいんだけどねぇ。ドイツ製で75ミリ長砲身使える車輌が理想。そしたらIV号、III突、ヘッツァーと一緒にできるし」

 

「そうなると仕入れるなら黒森峰の傘下からですかね……ドイツ製は世界各国である程度人気がある上に、アメリカ、ソ連製に比べて数が少ないので値が張りますけど……」

 

「うっわめんどくさ。まだサンダースで1ガロンのコーラ飲む方がマシだわ」

 

数が限られる戦車道では車輌の質が高いドイツ製の方が使い勝手がいいわけか。しかしあまり黒森峰、西住流とはお近づきになりたくないんだよねぇ……

だとしたらまたおケイさんに会ってくるかな。つーか300輌もあるなら1輌くらい減っても変わらんでしょ

 

「そういえば西住ちゃん、このまま帰る?」

 

「そのつもりでしたが……会長さんは?」

 

「私は町長さんに呼ばれてるから町役場寄ってくんだ。先払いしとくから私途中で降りるね。ということで運転手さんよろしく〜」

 

「承知しました」

 

「西住ちゃんも町長さん会っとく?悪い人じゃないよ」

 

「いえ、遠慮しておきます……」

 

「だよねぇ〜。ま、こっちも大した用じゃないだろうしね」

 

 

 

「いやぁ角谷くん久しぶりだねぇ!この度は本当におめでとう!こちらとしても本当に助かるよ!」

 

町役場の奥に通されるやいなや、大きな声が私を出迎えた

 

「いえいえ、私一人ではとても成し遂げられませんでした。ご協力感謝します」

 

「これで大洗女子学園も存続!我が町としてこれ以上嬉しいことはない!」

 

手をガッチリと交わす。やはりこの手は大きい

 

「まぁ町としてはこれからだがね。試合開催での観光客、また通常の観光客の伸びはまだまだだ。これから増えるとは思うが、そこからは私の腕次第か」

 

「こちらとしても漁協や商店街組合との宣伝などでの連携は強化してまいります」

 

「それは何よりだ。是非ともやってくれ」

 

時間はもうすでに夕方。このあとまた飯なら今日は学園艦に帰れるか厳しいな

 

「して、今日はいかなる御用で?」

 

「いや、また大洗で戦車道の試合ができないかと思ってね。8月後半に」

 

「8月後半……って結構すぐじゃないですか」

 

もう少し練習についてはゆっくりできるかと思っていたが、こりゃそうもいかないね。すぐに実戦経験取り戻させないと

 

「できるか?町としても熱の冷めないうちにイベントは開いておきたいのだが」

 

「そりゃできるにはできますが……どちらからの案件で?」

 

「これは連盟の方から要請が来てな。大洗、知波単、聖グロ、プラウダでエキシビションマッチを開けないか、だそうだ」

 

「エキシビションマッチ……だとしたら相当大掛かりですね」

 

「20輌対20輌だ。君たちの足りないところは知波単が連合組んで埋め合わせる予定とのことだ」

 

本当に急だな……連合チームともなれば指揮系統も新たに決めなくてはならないし、車輌や乗員の特性も把握しきれない

 

「今度は北部メインでの試合にして欲しい。中心部だけでなくあちらの再開発も進めておきたいのでね。できれば水族館以外にも目玉が欲しい」

 

「はぁ……」

 

それで新築にしておきたいってところか。水族館とか巻き込んで大丈夫なのかな。人間じゃなくて動物の生命維持含めて

 

「地域の許可はなんとか取ってきた。もちろん水族館も込みでね。会場も連盟からの承認も受けてる。やってくるな?」

 

そんなことを考えてる間もなく、背後は埋められた。全てが済んでいる。私に拒否の余地はない

 

「よく連盟の許可取れましたね。その規模となれば補償金も前回の比ではないでしょう」

 

「向こうとしても大洗のネームバリューは早いうちに活かしたいのだろう。実際出してくれると言っているしあの全国大会の後だ。広告収入が手に入った後なのだろうさ」

 

そして私にも拒否する理由はない

奥州の雄、プラウダ

関東の女帝、聖グロリアーナ

東の覇者、知波単

この3校と轡を並べて戦える意味は大きい

 

「わかりました。早急に手配を進めます」

 

「やってくれるか!」

 

「我が校としても再び名を挙げる機会ですしね」

 

「はっはっはっ。夏休み中にできれば観光収入も増やしやすいしな。戦車道の機運高まった今、前回の何倍もの観光客が集まれば観光収入大幅アップよ!」

 

「8月後半ですと学園艦にも人の出入りがある時期ですから、こちらもうまく合わせられればいいのですが……」

 

「無理はせん方がいい。君たちは試合に集中してくれ。舞台はこっちで整えよう」

 

 

 

浮かれていた

 

大洗の優勝。その知名度さえ、実績さえあれば願いは叶う。幾ら何でもその状況の学校を廃校にしたりはしまい

 

不可能と思われていたことの実現には人を悪魔的に楽観的にさせるだけの力があった。そして私もその魔力に呑まれていた

 

その夢が崩れるまで後少しということすら気づかずに

 

 

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