作:いのかしら

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第44話 再来

 

 

「本日はお疲れ。まずは勝利した聖グロリアーナ、及びプラウダ高校を称えたい。そして参加を快諾してくれた知波単学園にも感謝の念を禁じ得ない。さらには審判団を派遣してくれた日本戦車道連盟北関東支部茨城第二管区。そして私ごとながら悲願の」

 

「かーしま、長い」

 

試合は負けた

 

そりゃ知波単が勝手に突っ込んで撃破されまくったらねぇ。残りは数、そして戦術で押されて、最後はカチューシャとダージリン対西住ちゃんで撃破された。そりゃ勝てんよ。致しかたなし

とはいえ知波単の愚行は皆の目の前で示された。そのお陰でウチの戦車道が弱いとされないのはありがたいかな

 

「では以上!みんなゆっくりしていってくれ!」

 

「はーい!」

 

そして要請通り北部の沿岸主要地帯は会場になって破壊されたし、特に苦情の類も舞い込んでいない。名前が上がったおかげか観光客数増加という話も来ており、開催自体は大成功と言っても過言じゃないだろう

 

 

ここは市街地から少し南の潮騒の湯。試合会場からは大きく外れているから、こうして健全な施設で露天風呂を楽しむことができる。ただ海辺なのに柵が立ってて見えないのは玉に瑕かな

 

そして各校歓談の場となっている。聖グロはティーポットを盆に乗せて浮かべているし、カチューシャはこの温泉が熱いだのなんだので揉めてる。変わらんねここらは

そして西ちゃんと西住ちゃんはなんだが互いに遜って面倒になってる

 

「いやー、極楽極楽」

 

とりあえず私はこの湯の中でとろけている。人がどう思っていようと、今はゆったり自分に集中できる

 

「負けたとはいえ、ですか?」

 

「だーいじょうぶだよ、もう。それにこれ扱いは練習試合だしね〜」

 

「ですね」

 

かーしま砲手に戻して撃破もできた。私は勝たねばならないという重石が抜けた以上、また前には出ずっぱらないようにしたい。次を五十鈴ちゃんにするとはいえ、関係は薄めておくに越したことはない

特に西住ちゃん卒業後を考えるとね

 

 

 

『大洗女子学園生徒会長の角谷杏様。大至急学園にお戻りください。繰り返します。角谷杏様、至急学園にお戻りください』

 

 

そのゆだりそうな頭を切り替えさせたのは、そんな館内放送だった

 

「どうしたんだ、急に」

 

「とにかく、先に戻ってるわ」

 

 

 

 

浴場から出たあとすぐ着替え、ケータイを確認すると何件か着信があった。田川ちゃん、飯尾ちゃんなどの名前が並ぶ。生徒会関係者からだ

しかも結構前から……風呂入った直後くらいからかな?私手続きあって入ったの最後の方だったけど

 

「角谷様で間違いないですか?」

 

土産の売ってる待合室を通り過ぎようとした時、浴衣の女性に止められた

 

「は、はい」

 

「外にタクシーを手配しました。学園艦の生徒会の方からすぐに、とのことでしたので……」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

なんだ、この逼迫した様子は

 

何が起こっている?

 

 

 

 

「大洗港まで」

 

「はい」

 

タクシーの運ちゃんはすぐに車を出した。とりあえず折り返すしかない。田川ちゃんの着信記録からすぐにかけ直す

 

「田川ちゃん?どうしたのさ?」

 

「か、会長!今どちらに……」

 

「潮騒出たところよ、今」

 

「す、すぐに戻ってください!学園が……学園が……」

 

「待て待て落ち着け一回深呼吸。一体何事だい?」

 

田川ちゃんの焦りようが尋常じゃない。そんな子じゃなかったと思ってたけど……廃校の話を振った時もそこまで驚いてなかったし

 

「が、学園艦に……文科省関係者と大量の県警が入ってきていて……文科省のお偉いさんが生徒会室に来て……」

 

文科省と県警?なんでそんなところがウチに入って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大洗女子学園は、廃校だって……」

 

「は?」

 

「しかも、今月末付で……それで早急に全員退艦するようにと……」

 

何を言っている?廃校は回避されたはずだ。何を今更、しかも新学期一週間前に今月末付だと?

 

「……そのお偉いさんを呼べ!すぐに代われ!」

 

「え?」

 

「早く!」

 

「は、はいぃ!」

 

ここに来るお偉いさんが、あの辻氏なら……まだ話が通じるかもしれない

 

「あの……生徒会長が変わってほしいと……」

 

「わかりました」

 

電話の向こうでは遠くでそんな会話が繰り広げられている。その声は非常に聞き覚えのあるものだった

 

「代わりました。久しぶりですね。君の予想通りから知りませんが、文部科学省学園艦教育局長の辻です」

 

「やはり……貴方でしたか」

 

「時間もないですし手短に。角谷くん、そこの田川くん、だったかな?彼女が先ほど申し上げたのは事実です。大洗女子学園は8月末日付で廃校。また学園艦は早期に解体するため、住民のみなさんには早期の退艦をお願いしており、そのために関東一帯の引越し業者を多く呼び寄せております」

 

「……ふざけるのも大概にしてください。年度末でもないのに廃校?即時退艦?住民は引越し?そんなことが許されるとでも?

それに何より我が校は戦車道大会優勝という形で実績を残しました。それから間もない時期に廃校にされるおつもりで?」

 

「許されるのかとか実績云々申されましても、この決定は内閣府で閣議決定されています故実行されない方が問題となってしまいますので……」

 

「閣議決定……?」

 

「まだマスコミには流れていませんので、ご存じなくても仕方ないかと思いますが。あ、それとこの退艦を妨げる場合は、いかなる場合を問わず住民の皆さんの補償を取り消しますので悪しからず」

 

「なっ……」

 

それをされれば住民は従わざるを得ない。ただでさえ引っ越しなのに、人によってはその場で即座に仕事を失う人もいる。今後を人質にされて逆らえる人間はこの学園艦にそうはいない

そして私にこう伝えてくる段階ということは、もう引っ越し手続きを実施している最中なのだろう

 

「あと大洗女子学園が廃止となる以上、そこでの戦車道も意味をなさないものと判断されました。戦車道の車輌に関しても文科省預かりを経て処分という形になります。前と同じマネをされたくないのでね」

 

ピースが埋まっていく。審判団の手配も曖昧な状況で文科省が戦車道連盟に試合の指示を出したか。連盟からしたら大洗のネームバリューを活かすチャンスだったのだろう。だが実態はこれだ

私と風紀委員のトップがいない隙にやってしまう。港との接続さえ絶ってしまえば、私たちは如何ともしがたい

 

「角谷くん、君とは住民の退艦手続き、及び学生の転校先決定までの一時待機について協議を求めます。至急の帰還をお願いします」

 

「転校先すら決まってないのですか!あと新学期まで一週間なんですよ!」

 

ふざけるな。なにが将来を補償しないだ。学生に限れば既に保証されてないようなもんだろうが!

 

「先に言っときますが、こんなことしてただで済むわけがない!退艦を許したとしても、私は必ずこの地に帰ってくる!」

 

「……再三申し上げますが、これはれっきとした決定ですので。ではお待ちしてます」

 

 

 

「か、会長……私たちはどうすれば……」

 

そりゃあこんなことを急に言われたら、混乱するわな。私だって冷静じゃいられない。あの辻氏が目に見える形で裏切ったのだ。あの懐石店での約束を破っているのだ

いや、彼は官僚だ。約束そのものがそれに逆らう形だったのだから、元に戻っただけなのかもしれないが

 

「……住民の将来を人質に取られている以上、現状では抵抗しようが……ない」

 

「そんな……きゃっ」

 

「それで宜しいんですか、会長!我々は勝ったのですよ!戦車道で勝利した!そして貴女はそれの陣頭に立った!

それを……それをそんなにすぐ、何もせずに捨ててよろしいのですか!この学園を守り抜くんじゃなかったんですか!」

 

ケータイをひったくってかけて来たのはあの飯尾ちゃんだ。ここまで感情的になる事は今まで見たことがないが……

 

「私は生徒会長、この学園都市の主だ!住民の安全だけはなんとしても守り続ける義務がある!そして何より……今の我々に抵抗の術はない」

 

 

実働可能な風紀委員は頭が今も風呂に浸かっている上、練度は年度末完成を目標にしていたから戦力としては未熟だ。県警と張り合ってまともに追い出せるとは思えん

そして風紀委員の抵抗と連動させる計画だった戦車はエキシビションマッチでボロボロ。しかも殲滅戦だったから修復しないとどれも使い物にならん

 

つまり追い出そうにも追い出す手段がない。そして抵抗に失敗すれば今以上の条件を突きつけられる。私の一存で行うには重すぎる

 

「今は……すまない。そこのお偉いさんの指示に従ってくれ……すまない……」

 

たった数分のことだった

窓の向こうに大量のコンテナが並び始めるまでのちょっとした時間で、大洗女子学園学園都市の未来は音を立てて崩れ落ちた

 

船舶科の業務改善が

被服科の事業誘致が

通学インフラの改善が

地方債発行による学園設備の改善が

そして戦車道の未来が

 

全て何も意味しないただの言葉と化した

 

 

 

「くそっ!」

 

「お、お客さん!車の椅子は蹴らないでくださいよ!」

 

私は無力だ

今目の鼻の先の学園艦が踏みにじられているのに、何もできやしない

 

大義は、廃校回避は正義であるべきだった。だが、その正義はこんなにも容易く踏みにじれるものだったのか

 

 

 

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