作:いのかしら

45 / 61
第45話 目的

 

 

 

あの部屋だ。艦橋の奥にあるあの会議室。前に白石ちゃんと話していたところ

 

入って奥のソファーには、辻氏

 

机に肘を付け、手を正面で組む。そこにいるのが当たり前かのようだ

 

「角谷くん、久しぶりだね」

 

挨拶は抜きだ。そんなことをしてやる相手じゃない

 

その机に片手をつきながら飛び乗り、首元のネクタイの結び目に掴みかかった

 

大の男相手じゃ大したことはないだろうが、腕力なら多少の自信がある

 

睨み付ける。眼鏡の向こうにあるその男の目を

 

「……どういうつもりです?」

 

「私は国家公務員です。上が決めたとなればそれを実行するほかありません」

 

「なぜ……なぜこんなことに!大洗は優勝した!あの絶望的な状況から貴方の指示通り優勝したんだ!それなのに……」

 

「……申し訳ありません。私としてはもちろんあなた方を助けたかった。ですが……力不足でした」

 

「御託は結構!学園艦教育局長の貴方なら、学園艦対応に関してはアプローチ可能なはずです!」

 

「それは……私を買いかぶりすぎです。私の上、事務次官が内閣の廃校繰上げ方針に賛成したのです。そうなってはもう……まさか私も内閣と与党がそこまで強行するとは想定外でして……」

 

「……畜生!」

 

手を振り解き、立ち去ろうとする。こんな奴の……私たちを潰す側の官僚の話を聞いていた私がバカだった

こうなったら『一時的な』退艦は受け入れても、なんとしても奪回してみせる。

 

「……待ってください……現状ではどうしようもありません。しかし……この先ならまだ可能性があります」

 

「まだ言うんですか!今まさに約束を違えた人の話を誰が聞くと思うんです!」

 

「大洗の廃校が国に更なるデメリットをもたらす。しかも例えば国際的な信任に絡む話ができれば、それに関する話は伏せる代わりに大洗復活の手段を認めろ、とまだ上を動かせる可能性があります……すみません。私にはこれが限界です」

 

上を動かせる可能性……

 

「その際に決められる条件はかなり厳しいものとなるでしょう。ですが今回の決定がかなり強引に行われたものであるのも事実。隙はあるはずです

そして何より……君たちに存続の可能性を残したい」

 

「……二つほど質問してもいいですか?」

 

賭けたくはないが、他に手段もない。退艦と同時に戦車を没収されては、最早抵抗の術すらなくなる。風紀委員だけで奪回なんて死んでも考えてない。そんなことになったら風紀委員の発言力がえらいことになる

この人を信じるかどうかはこれらの返答次第か……

扉の前から引き返し、近くの椅子に腰掛ける

 

「いいでしょう」

 

「まず今回のことは閣議決定に依ると聞きましたが、なぜそんな早急なことを?

廃校するとしても卒業生のために年度末まで待つのが通例ですし、何より廃校準備校指定自体が今年度末の予定のはずです。わざわざ繰り上げる理由が見えません」

 

「……」

 

「ここの近くには人を近づけないよう命じてあります。何なら一回確認して来ましょう」

 

「いえ、その必要はありません。お話ししましょう

それは現在の政権の安定性に理由があります。現在の与党は今年末までしか保たないというのが、今の永田町での主流です。野党の反発と支持率に耐えられず、年末前には解散総選挙に打って出ざるを得ないと

学園艦、学園都市の数の縮小と権限縮小による集権強化は現与党の至上命題です。解散総選挙に出たとして、議席を減らして野党に転落しても新与党に対し影響力を持つ、その為には支持基盤だけでも固めねばならない」

 

無党派層は無視してでも基盤固めか……野党転落してでも、ねぇ……

 

「そして現与党への不満として主だったところは、先の衆院選で掲げたマニフェストの不徹底です。現実を知らない彼らがまともにできるわけがないのですが、だが何れにせよ掲げたことが達成できてないのですから支持は離れますし、実際離れています

だからこそこの大洗の廃校を強行することは彼らにとって政策実行力の象徴。それで支持を取り戻そうとしているんですよ。自分たちの政権が潰れる前に

仮にこの都市の1万程の有権者の票を捨てることと引き換えだとしても」

 

よーするに『こんなことできるんだぞー!凄いだろー!』を選挙で使うためってことか。ふざけんな馬鹿野郎

 

「ですが廃校準備校自体は他にもあります。なぜウチだけなんです?」

 

「先ほども申しました通り象徴ですから、ネームバリューが欲しいんですよ。そして彼らからしたら戦車道で優勝したあなた方は自分たちの政策実行を邪魔するものですし、都合が良かった

実際学園都市運営の上で失態として突けるところはあります。例えば風紀委員の武装訓練とかね?」

 

「ぐっ……」

 

知ってやがったか……

 

「武装といえどたいしたものではないことはこちらも承知しています。しかし……その行為自体が問題になり得ます。経緯が経緯とはいえ、独立心そのものですからね

さらに船舶科の一部の組織承認もですかね」

 

艦底か……

 

「それらに参加していた中には実際銃刀法違反や薬物取締法違反で捕まったことがある者もいます。そして今一番大きな組織の……お銀一派でしたかな?その前身からも逮捕者がいます

ここ数年を鑑みるにマシになっているのは事実ですが、犯罪歴のある組織の公認。それも今回の決定を後押ししてます」

 

「しかし彼らを鎮圧するとなると風紀委員の武装は必須ですし、多くの犠牲者が出るのも間違い無いでしょう。それでも鎮圧せよと言われるので?」

 

「それすら管理できない者に学園都市を、3万の民を預けるのが間違い。内閣はそう理屈を立てています

何れにせよ、今月末日付で大洗女子学園は廃校、及び住民は強制退艦。そして学園艦は早期解体が決められました」

 

早期解体、だと?

 

「解体に関して次期政権に絡ませないようにする。つまり自分たちの実績にしてしまう気ですね。解体されれば、廃校が回避できたところで戻る場所も無くなってしまいます。そうなったら君たちはどうにもできません」

 

「……信じるかはともかく、理屈としては理解しました。では二つ目です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方はなぜ、そもそも大洗を助けようとするのです?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は生徒会長としてこの学園艦を、学園都市を守るため。竹谷氏は大洗町の市場保護と港湾周辺の再開発、そして町の若年層人口を守るため。これらは容易に理解できるものと思います」

 

そう、そこは非常に単純なのだ。政治家ゆえに選ばれた母体、組織は守らねばならない

 

「しかし貴方が読めない。深海研究保護とか申されていましたが、それはどう見ても貴方の直接的な利益じゃない。なんなら他の学園都市で研究設備のあるところに人材を移す。いや下手したら新たに施設を作ってそこに送ってもいいはずです

そしてそれを貴方が手配する必要すらない」

 

だがこの人は政治家ではない。民選されているわけじゃない。別に特段深海産業に責任を負う理由もない。農林水産省じゃないんだから

 

「廃校が回避されるなら貴方の理由なんて大したことではない、そう思っていましたが、事ここに至ってはそういう訳にもいきません

既に一度裏切った貴方を再び信頼するためにも、どうか教えていただきたい」

 

「……わかりました。どこまで通じるかはわかりませんが、お話ししましょう」

 

辻氏はちょっと椅子に座り直してから、先ほどよりさらに小さな声で話し始めた

 

「私は官僚です

国家公務員試験を経て実力を確認され、そしてさらにそれに受かった者たちとの競争の中で経験を積み、大変な法案策定の際ですと寝食を忘れて働くこともしばしば

国のために働くと志を立てて何十年、私は官僚としてその責務をこなしてきたと自負しています」

 

「それが何か……」

 

「単純に私の目的を申し上げるなら……政治主導とやらに実績を付けさせたくない、でしょうか」

 

マニフェストの結果としてのこの廃校を阻止したい、と言っているのか?

 

「……政治家がお嫌いなのですか?」

 

「今回動いている理由は好き嫌いの問題ではありませんが、どちらかといえば嫌いです。彼らは国民の支持を受けているので、仕事の関係で協力する必要はありますがね」

 

私との関係も、いわばそれか

 

「私の目的は……官僚主導に戻すとまではいきませんが、少しでも官僚の立ち位置を良くする。そのために政治家だけではまともに国の仕組みが回らないことを示したいんですよ」

 

政治主導。掛け声は良いが官僚がまともに動かねば何もできない。私がやってきた戦車道も生徒会のメンバーの協力がなければできなかっただろうし、他の案件も然りだ。もっともフォーラムのメンバーにも助けてもらってるけどね

政治家が頭なら、官僚は手足だ。頭だけの人間同様政府は優秀な官僚抜きでは何もできない

 

「それで政治家、すなわち与党議員だけで進めている今回の廃校計画は止める。すなわち大洗を廃校にしたくないと」

 

「そういうことです。ですから私は君たちが廃校された後どうなろうが知ったことではありません。ただ大洗が廃校にされなかった、その結果だけ欲しいのです」

 

「その点はこちらも構いません。廃校を回避した先は私たちが自分たちで対処せねばならないものですから」

 

多少は納得できるし、官僚、自分たちの利益のため、となればある程度は真面目にやっていただろうとは思う。だが……

 

「しかしここからは一市民としての意見ですが、仮に廃校回避がなされて解散総選挙でまた政権交代したとしても、一時期の官僚の汚職、官僚支配の弊害に対する悪印象は国民の中に残っています。再び官僚が主体となる政府には、少なくとも貴方が文科省に残っている間は易々とは戻らないでしょう

そして貴方が我が校を廃校にすることは、学園艦教育局長である貴方の立場そのものを脅かすことになるでしょう。廃校は貴方の実績でもあるんですから

それでも……本当に協力なさるのですか?」

 

「まぁ、私の、そして後輩たちの為になるのなら、悪くはないでしょう。それに……耳を近くしてくれます?」

 

元々小声気味だったが、私が耳を近づけると一層それは小さくなる

 

「秘密裏にですが野党にはこの案件は流してあり、了承も取り付けてあるのです。廃校回避が成り立ち、野党中心の新政権が誕生すれば廃校絡みの話も鳴りを潜めるでしょうし、なんなら廃校準備校の撤回もあり得ます

与党がここまで強引なことをするのはそれが理由です。野党は学園都市の自治承認を復活させるつもりですし

そうすれば私の地位云々はそうそう変わりません。一時的な降格人事はあるかもしれませんがね」

 

「なるほど……」

 

裏道もちゃんと確保か……そして私たちが廃校に成功すれば、それは自分の実績とする。廃校に失敗したら、支持基盤を守ったという実績で野党に食い込む

どちらに転んでも自分の損はそこまで大きくならない、ってわけだね

 

「ほぼないとは思いますが、万が一の事態があったら、君の学園都市で雇ってくれませんか?」

 

「面白いこと言いますね。これからの貴方は都市民の敵ですよ?」

 

「ですが私は一時期建設省に派遣されてたこともあります。そこの経験があるからこそ今の地位に就いている、とも言えます。今後都市、教育で改革を行うつもりなら、助言くらいはできますよ?」

 

「思いっきり天下りの要求だねぇ」

 

「世に天下りの尽きぬはそれが必要とされているからなんですよ」

 

確かに元文科省の幹部。それだけでも人としてはともかく実力は信じるに値する。そしてその知恵と知識。今後の都市行政改革を進める上でこれ以上の人材はなかなか見つからないだろう

ただの国交省絡みを引っ張ってくるのとは訳が違う。学園都市には学園都市ならではのやり方がある。その為にこれ以上に都合の良い人材はいない

 

「……私に廃校の情報リークしてくれたのは事実ですし、それ以降も何度か助けていただきました。そのお礼ですが万が一の際はウチに来てください。流石に局長級の待遇にはできませんが、生徒会参与の地位でも新設してお待ちしてます」

 

「ありがとうございます。では角谷くん、君にはなんとか私に上を納得させられる条件を持ち込んでください。それに返せる条件も厳しくならざるを得ないですが……やれる限りはやってみましょう」

 

「厳しい……となると、どのくらいのでしょう?」

 

「最低でも今回の全国大会優勝よりハードルが高くなるのは確実でしょう。その上で条件がどうなるかは上の反応とあなたが持ってくるデメリット次第です

こちらは上に『不可能だ』と思わせる条件を持っていくしかないのです。どう見ても失敗する条件で納得するなら撤回しても別にいいだろう、とね

だとするとあなた方の成した全国大会優勝以上に困難な条件になるのはやむを得ません」

 

おいおいおいおい。冗談じゃないぞ

そんな簡単に優勝できるものでもないのにそれ以上だと?戦車道だったらほぼ無理と言っているようなものじゃないか

 

かといって今更他でなんとかしようとしたってそんな都合のいいものはないしなぁ……

 

「……なんとかするしかないわけですね」

 

「すみませんがそういうことです」

 

そしてまたこうして私は一人で精神すり潰すことになるわけだな。また一からやり直しってわけだよ。戦車道での優勝を否定されたら残るものなんて大したものはない

 

「仕方ありません。その線で話を持ち込みましょう」

 

あてもないけど

 

「あとこの時間は君に今後の動きについて教える時間の予定だったので、手短にそれを」

 

「いやすぐ教えてくださいよそれ。一時待機する場所だってばらけるんでしょうし、そうなったら生徒会の人員分散させなきゃいけないんですよ?」

 

「そういうことです」

 

「……生徒の分散については?」

 

「そちらに任せます。待機場所としては大子町の旧上岡小、日立市の小貝集会所など計17箇所を県内に用意してますので」

 

とりあえず戦車道メンバーを一つのところにまとめることはできるんだな。もっとも戦車が残せなきゃ意味がないんだが……

 

「早期と言いましたが、本当に早めにお願いします。下手に遅らせると遅滞戦術かと私とあなたの関係が疑われかねません」

 

「お任せを。大洗女子学園が後ろめたいことのない健全な学園だと、そこの生徒会が滞りのない行政をしていたと証明する為にも、明日中に退去手続きを済ませてみせましょう」

 

この時点から勝負だ。少なくとも世論に訴えかける状況だけは整えておかねばならない。その為にはこっちに問題があったとしてはいけない。完全に国の横暴だとの体裁を取らねばならないのだ

とはいえそのハードルはかなり重い。向こうだって政治家だ。民心掌握云々は向こうが上手だろう。そもそも学園の知名度も戦車道によって上がったとはいえ、県外はおろか全国だと限界がある

まだやるべきことは山積みだな

 

 

「辻さん。最後に一つお願い良いですか?」

 

「どうしました?」

 

「なに、一緒に来てもらうだけで良いんですよ」

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。