作:いのかしら

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第49話 旧上岡

 

バスの出発前に今度は生徒会の残り半分の前で話すことがある

 

「半分だけしかいない中で悪いが、この数日間みんな寝る間も惜しんでよくやってくれたね。私の立てた予定が無茶だったのに、それに対して最善の形で応えてくれた

これから皆は先に行ったメンバーと合流して各待機地点で次の行動に備えることになる。どうなるかわからない。生徒皆がどこの学校に行くのか、どのように配置されるのか、どのような考慮がなされるのか。全て不明だ」

 

こちらには涙はない

 

「私たちはバラバラになる。お互いが今生の別れとなっても不思議はないほどにね。だが君たちがこの学園の生徒会の一員として手に入れた力と経験は、どこに行こうと行く先々で有効以上のものだと思うし、重宝されるだろう

だけどやっぱり、またみんなで仕事できた方がいいよね」

 

「会長……」

 

単なる希望だ。叶うことなどないと知っている。あとで何か言われてもそう誤魔化せば良い

もっとも諦めてなんかいないわけだが

 

「では、解散。諸君の幸運を祈るよ」

 

「はいっ!」

 

こうして大洗女子学園の生徒会は終わった。私は生徒会長の地位を放棄したわけじゃないが、ここからは各待機地点において各々に必要な権限を付与してある

 

私にはフリーハンドが欲しい。廃艦がなされる短い間に仮に廃校回避を為し得る手法があるなら、それを思いつき、行動する為の時間が欲しい。残念ながらその時の各地点に対する決定権は逆に鎖となる

 

「会長」

 

解散された後、私の背中に呼びかけるものが一人

 

「田川ちゃんか、どうした?」

 

「……私は貴女に何も言い残すことはありません。意味もないことですから」

 

「……そうかい。私からも特にないさ」

 

「わかりました……良かったです」

 

 

 

 

 

生徒会が乗り込むのは最後。もう戦車道メンバーは席について待っていた。それが終わると最終便はマリンタワーの足元から散っていく。北に向かう方面はある程度固まって出発するものの、ひたちなかや那珂市に向かう便、日立、高萩方面に向かう便、常陸大宮に向かう便など分かれていく

 

「だんだんバスが分かれていくね」

 

「生徒の人数が多いから、みんな学科ごとに分かれて宿泊するそうです。戦車道取ってる人は固めてるみたいですけど」

 

そりゃ固めたからね

 

「とりあえずお菓子食べよう!」

 

「みんなで頂きましょう」

 

どこからともなく出てきた菓子は車内を巡る。とはいえ盛り上がるわけでもない。盛り下がらないだけだ

 

私は干し芋を喰らって糖分補給するくらいだね

 

 

「んじゃ、小山かーしま、やっといてー」

 

「わかりました、会長」

 

一足先にバスから飛び出して、校長室を押さえる。居場所はそこだ。荷物を持って校舎に吸い込まれる生徒を見つつ、思索を続けるほかない

 

さて、戦車が手に入るとしよう。条件は戦車道絡みだ。他にない。さらに相手の過失は戦車道大会優勝校を廃校にしたことだ。つまり戦車道で試合して勝ったら廃校回避。それが持ちかける条件として考えられる

だが問題はそこまでに何をするか、だ。官僚の辻氏とその上の幹部が『そのことに口を出さないなら試合をやらせてもいい』となるようなこと……

 

他の学園都市との連携でするとしても、各都市が乗ってくるかもともかく、他が都市として意思決定するのにどれだけ要するか不明瞭。まとめて宣言出した時にはもう解体されてる可能性もあるし、それで止まる事はないだろうね

というか与党に影響力のある組織に私がどうにかできるわけないじゃん。労組とかがメインだけど、生徒会も基本学生なんだから繋がりあるわけない

 

つーか労組でもどの組織動かすんだよ……戦車道に関わる人間が多いのは自衛隊だし、自衛隊に労組なんかないし……あれ公務員だからさ

そしたら辛うじて近いのは日本教職員組合とかになるんだけど、廃校後教師は他校に振り分けられて増加分のクラス対応や副担任制導入とかに繋げる予定らしいから、特段反対する理由がない。つまり廃校になろうがならなかろうが関係ないのである

……学園艦にあった労組?それで動くならいいんだけど、まぁ弱小学園艦じゃ無理だわな

 

今の与党は無党派層の支持を受けて成り立っているので、そこをひっくり返さないと無理です←結論

 

そして宣伝能力だと国には勝てん。党の政治資金とかを見ればわかる。張り合うのもアホらしい

 

 

 

ここの屋根は木製だ。背もたれにもたれかかると何枚かの絵画と緑のペンキに塗られたそれが姿を見せる

また干し芋を一枚。考え事をするときは尚更糖分。こんなことを考えるにはいくらあっても足りない

そして右側の上の方には歴代校長の写真。何人か並んでるがもちろん名前なんて聞いたこともないし、この中で既に生きてない人も多いだろう

だがそのうちの一人、小太りでえらく頭の上が光っている人。間違いなく別人なのだが、この人に似た人に見覚えがある

 

「会長」

 

生徒会、とはいえ私たち3人のみだが、の部屋は隣の元職員室だ。一応他にも部活の幹部などから希望者を募って仕事を手伝わせる予定だけど、どこまで戦力になるのかね?

 

「おお、小山。進みはどうだ?」

 

「ここ旧上岡小に所属予定の生徒、全員収容完了しました」

 

もうそんな時間か。予定より少し早いとはいえ、もう空は赤く染まり始めている

 

「オッケーオッケー。そろそろ晩飯の時間になるけど、手配は?」

 

「済んでいます。地元の商工会がこちらに流してくれるそうです」

 

「カネは?」

 

「国が回しているようです」

 

面倒くせぇ……これで私たちに払わせていたらそれをアピールポイントにできたのに

無党派層のアピールとか、YouTube使ってもウチの知名度じゃ再生回数はたかがしれているし、国のメディアを動員した宣伝にゃ勝てない

 

ま、とりあえず適宜一本作ってみるか。確か大洗は仮にだけどチャンネルあったはずだし

 

 

 

 

 

さて、とりあえず台本作ったからこれを読み上げていけばいいわけか。選挙演説みたいに身振り手振りをつけるか、それとも公式発表として真面目にやるか

そもそもカメラを探すところから始めなきゃいけない。ケータイカメラじゃ使いにくいしね

 

「読み上げたときに聞き取りにくそうなところは……」

 

文章を小声で読み上げようとしたその時、外から音が聞こえてきた。小さいが、かなり遠そうだ

 

そしてその音には聞き覚えがあった

 

「……メールで送っただけで来たよ」

 

サンダースはなんとか約束を守ってくれたらしい。一応こっちからも燃料面で恩を売ってたしね

 

それじゃ、回収に向けて戦車道のメンバーを招集……

 

「会長!戦車道のメンバーみんな外に行ってしまいましたよ。なんか近くを通った飛行機を追いかけていってしまいましたけど、会長は宜しいんですか?」

 

するまでもなかったか

 

「ああ、多分飛行機が補給物資落としてくれるから、それを回収するように言っておいてくれる?」

 

「ここにですか?ですが……どこに降ろすのです?校庭からの生徒の避難も間に合うかわかりませんよ?」

 

「そりゃ知らないよ。向こう次第だからね」

 

とにかく作業の続きだ。意味があるかは知らないが、少しでも世論に訴えかける状況を作らねば……

 

「取材とか来てる?」

 

「いえ、そのような話は特には……」

 

来いよメディア、政権批判するならこれ以上の材料はないだろうに、というものでもないか。学園都市の自治、独断専行が批判の材料にされているのも事実。メディアといえど企業、視聴者のウケが悪いものはそうそう作るまい

 

「……カネかぁ」

 

何を辿ろうとそこに行き着く

 

「あ、先ほどの飛行機の件ですが、近くの路上に荷物を投下して立ち去ったとのこと」

 

何してんねん。壊れてないだろうな戦車

 

「……多分戦車でしょ?」

 

「は、はい。8輌揃っていたとのこと」

 

「全部校庭に置かせて。戦車道のメンバー集まってるんでしょ?」

 

「了解しました」

 

……本当に壊れてたらヤバいんだけど、ここからじゃどうにもできないか。せめてもうちょい丁重に扱ってくれとメールで文句言うのが関の山

 

 

 

 

 

「……以上の観点から今回の閣議決定は学生の将来を考慮しない人の道にもとるものである、その点は疑いの余地がないことをご理解いただけたかと思います

しかし形はどうであれ大洗女子学園は茨城県立、そして文部科学省学園艦教育局の指導下にあります。その指示ならば従うのみです

私は学園都市のトップとして最後一人の生徒の将来が確定するまで職務を遂行する所存です。しかしこの閣議決定が覆される僅かな可能性があった際は、それを成すためにも国民の皆様の支持が欠かせません

我が校の戦車道履修者は廃校回避に向けた実績を作りました。戦車道大会の優勝という紛れもない、将来的にも有益な実績です。願わくば彼らの結果が重要な意味を持つものへと回帰することを望みます」

 

カメラのスイッチを切る。生徒の持ち物のカメラを借りた。編集の仕方なんて知らないから一発撮り限定。お陰で噛んだりした場合など数回撮り直すことになってしまった

はぁ……こりゃ下手したらみんなの前でやるよりめんどくさいね。相手の反応見れないし

 

どうなるかはわからないけど、やらないよりはいいということで、隣の部屋のパソコンにSDカードを差し込んで、学園公式チャンネルからそのまま動画を投稿。5分ちょっとあるから、ロードが終わるまで暫くかかるね

 

 

 

「あ、会長。パソコンで何を?」

 

小山が戻ってきた。どうやら戦車を書類と照合していたらしい。一応遺失物扱いにした時の書類があったからね

 

「いや、ネットでウチの話とか出てないかなーって思ってさ」

 

「見る時間ありませんでしたからね。で、どうです?」

 

「うーん……ネットニュースのコメントでこっち寄りのコメントが付いているくらいかな……メディアはここに来てないだけあって大きく取り上げているところは少ないみたいだ

あと大きく出たのはこれ」

 

「茨城新聞……」

 

「流石にここはね。ただ全国紙だと朝目が地方面で取り扱ったくらいだねぇ」

 

「なぜここまで……」

 

反応が薄いのか。それは恐らく

 

「学園都市の自治への反発が国民の中にあるから、だろうね」

 

「バブル期とはいえ湾岸ジュリアナとかの悪いイメージも拭えてないですしね……」

 

「ウチらを助けたサンダースとかもさ。年に一度長期間アメリカに行くから、国内での市場をタダで譲渡しているって批判もあるし」

 

「はぁ……」

 

となるとここから廃校回避を持ち出しても世論がしっかりこっちに付くかは見通せない。国の横暴に重点を当てないとね……

 

「それで小山、戦車は無事だったのか?」

 

「全車輌無事稼働可能です。屋根付きの倉庫がないのが不安ですが、短期の保管なら何とかなるでしょう。一応現在私たち以外の履修者に清掃、整備をさせています」

 

「夜遅くなりすぎないようにしなよ」

 

 

 

さて、戦車は揃った。戦車から国を動かせるとしたらまず一つ頼るべきところはあるけど、このメールだけで上手くいくかな……

 

 

 


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