作:井の頭線通勤快速

5 / 31
投票には行きましたか……(もう遅い


第5話 生徒会長

 

 

「挙市一致政府、ですか」

 

「もはや生徒の自立のための自治の維持やら市民民主主義育成のための少数意見の吸い上げやらにこだわる段階ではない。学園艦がなくなるとなれば、それどころではないんだ。地面がなくなりかねんのだ、文字通りな

全てを巻き込んだ革新。それを起こさねば、これをしのげたとしても我々はこの少子高齢化を含めた荒波を生き残れん」

 

話に耳を傾けていた面々は複雑に頭を傾け、唸り始めた

 

「……題目は分かりましたが、どうするというのです?」

 

「議会に市民議員を入れる。その結果議員数拡大に繋がってもいい」

 

「ほう……公正会としては支持するのもやぶさかではないですね」

 

「しかし議長として厳しい面もありますね。市民議員を入れるとはいえ専門職とするわけにはいきません。そんな給料は捻り出せません。兼業を許可するとなると、議事の時間に制限がかかりますよ?」

 

「夕方以降にならざるを得ませんね」

 

「もう一つ。こちらフォーラムとしては議会規模の拡大による党の影響力低下を懸念します。フォーラムが与党として居続けるには、市民からの支持層確保の確実性が必要です」

 

「そこでだ。公正会、ウチと組まんか?正直これが成されたらウチと対立する理由はないだろう?こちらとしては市民支持のために、経験のあるそちらの支持を受けたい」

 

大丈夫なのかそれは……連立は無理だぞ?合併しかないが……それまで争っていたものたちの合併には問題がつきまとう

 

「……それには懸念が。まず、公正会内部の合意が得られるか、です。残念ながら、造反が出る可能性は否定できません

恥ずかしいことですが、我が党は都市民の政治参加を求める、その一本のみで集まっているようなところです。他の思想では党員の間でも溝がありますし、結構自主投票も指示してます。それゆえ、フォーラムと完全に統合となると……厳しいかと」

 

「だろうな……多少はやむを得ないが、できるだけ説得してまとめるしかないか。いや、そうせねばならん」

 

「もう一つがこの改革案が議会を通過するかどうか。少なくともフォーラムとしてこれを出すならクラブの合意はどう考えても得られませんし、他も影響力低下を恐れるでしょうから、そうこちらには靡きますまい」

 

「町内会の支持を得て無所属を取り込む。町内会支持層もフォーラムと公正会の連合に取り込んで行くしかないだろう。それでな、角谷」

 

「は、はい」

 

「これ、お前がまとめろ」

 

突然振られた話だが、思ったよりか混乱はしていない

 

「は」

 

「次の生徒会長は都市を纏め、全てを纏めることになる。お前は基本今まで裏方だったから、ここではっきりした箔を付けとけ」

 

箔、か。新たな選挙民とする市民相手だと、そういうのも必要か。それ抜きでもメディアなどに顔を出す機会は欲しい

 

「小山と河嶋、二人を使え。都市関係の調整と他学科の巻き込みには二人がちょうどいいし、友人たちで指導層を固めとけば気兼ねいらんだろう」

 

「……わかりました。なんとかしましょう」

 

「そう言ってくれると助かる。しないと思うが、癒着と疑われそうな行為に注意しろよ」

 

受け入れた。むしろ拒否する理由はない。やっておくべきか

 

「しかし……学園もここまできてしまったか」

 

「逆にここまでされねば動けなかった、ともいえますけどね」

 

「単に党利党略で動くモノにはその足場を把握する余裕なんてない、ってことじゃないの?」

 

「違いない」

 

「あとは議会を拡大するなら、夕方開催に関する議論ですね。必修選択科目が夕方までやる可能性がある以上、それ以降という形になりますが」

 

「そうだな。そっちの方が市民側も都合つけやすいだろ」

 

「それと……市民向けの公約ですね。それも実現可能と思わせられる」

 

「そこらへんは都市開発とかが軸で組んでくれ。インフラや商業支援が核だろうが」

 

「市民の投票に関してはどうしましょう。生徒はもはや投票はオリエンテーションに組み込まれて義務のようなものですが、市民相手にはそうはいきません」

 

「学園の変革を見せるには、やはり投票率が高くないといけないわけか……」

 

「そちらが高まらないと今後の議席数の参考にもされかねませんからね。議会の大勢を変えるにもやはり必要になりますね」

 

「時間もないですね……」

 

「まあ、やるしかないよ」

 

 

 

 

その後の奔走は本当に地獄のようであった。町内会を通じてその影響下にある無所属議員を法案支持に取り込み、そしてかーしまを通じて艦底から船舶科を切り崩しにかかった

 

そもそも風紀委員による度重なる排除作戦も地の利を生かした頑強な抵抗で失敗していた中で、かーしまから作ったお銀系へのツテを利用し、そこに支援をする事で一強状態にして間接的に艦底影響力を持つのが、生徒会の基本政策だったのだ。私はその綱を登っていったに過ぎない

 

お銀系は艦底のバー『どん底』を基点に勢力を持っていた、そのバーの仕入れ先となる物流拠点の一つを握っていた中堅勢力だった

 

かーしまを受け入れ連絡相手として支援を行った結果、その勢力は艦底のトップ勢力となった。かーしまに連絡を集中させたのは、向こうがこちらの意向に従わなくなり万が一手を切らざるを得ないときは、そこを区切りさえすれはよくなったからである

 

親友の交友関係相手にそんなことはしたくないし、現状しなくても大丈夫だろうけど。向こうは生徒会による援助漬けにしておけばいいし、報告によるとそうなってきている。あげた金は武装とノンアルに消えているらしいが、そんな非生産的なものに消えていても安定するならこちらの勝ちだ

実際それで上手くいっていたし、下からの切り崩しはこれで進んだ

 

それと艦長らトップ層への仕事の話、要するに彼らの職場がなくなる危険性を説いて団結する必要とかを言い続けたのだ。支持層から海の民を揺るがしにかかり、そしてそれは功を奏した

 

 

「今後の町内会のためにも必要では?」

 

「ではそれでそちらになんのメリットがあるというのだね?」

 

「町内会は我が学園艦を支える一員。その力あって学園都市は初めて一つにまとまります。少子化、震災、状況がめまぐるしく変わる今日、もはや情勢は急を要するのです」

 

などといった有力者との対談に夏休みを完全に塗りつぶされ、夏休みが終わってからもナポレオンのような実務生活を送って、小山と一緒に人という人に会いまくってなんとか成し遂げたのが、9月末の『生徒議会基本条例改正案』の可決であった

 

9月の頭から始まった議会では、その開催方針や市民に割り当てる議席数、そしてもともとこの法案への反対が渦巻いていた。私からしたら裏で手を回しつつ、表向きは話を聞いて受け流したりさばいたりする他なかった

 

大洗フォーラムを中心に公正会、海の民の一部に無所属議員、その他にも都市民に近い新大洗クラブの一部も造反させ、結果は賛成381。棄権もいるのを考えても、なんとか形作った過半数であった

 

前段階がそれだからもちろん採決は荒れた。職人連合組合、学生自治権党、新大洗クラブが強硬に反対し、公正会からも反対に流れる者がいた

無論海の民や町内会系の無所属議員からも離反者はいた。各党、そして議員一人当たりの影響力の低下を懸念したのである。特に支持基盤が強固な職人連合とかは造反になびこうとする気配すらなかった

 

だがともかくもこの学園内での合意は果たされた。そしてその話は学園新聞を通じて皆の目と耳に触れることとなった。

新聞記者は度々私を取材し、『大改革をとんでもない速さで成し遂げた女傑』と書きたてた。どっかの運動部が関東大会に出場したのとかを搔き消す勢いだった。それも初戦負けだったしね

私は話しかけてくる奴は存分に利用してやった。そして向こうはこちらの2割くらいホラの混じった話でさえ嬉々として書き留めて、ばら撒いていった

 

こうして私には議会と箔が付いてきたわけだ。そしてまもなく始まった大洗女子学園生徒会長選挙。大洗フォーラムと公正会の推薦を受けた私も小山と遊説に回ったが、もう勝ちは目に見えていた。始まってすぐの世論調査でも圧勝だ

 

スローガンは『あれに見ゆる都市へ』

 

そう、大洗がかつて戦車道の名門と称された時代の繁栄を、ここに取り戻さんと言わんばかりのものだった。

古今東西を問わず、『〜を再び』や『〜を取り戻す』というのはそれだけでメッセージになる。かつて栄光ある時代あった事実すら曖昧でいい。実際大洗に住んでた私の記憶にすらあるわけじゃないしね

私もそれに乗っかった。そしてそのメッセージは学園艦を巻き込む動き……とまではならなかった。残念。ま、全部上手くはいかないね

甲板の上のあちこちで私はマイクを握った

 

「大洗は改革の時を迎えているのです!ありとあらゆる問題が山積しているのです!その問題に生徒会の一員として向き合ってきて、なおかつそれを変えられる力がある!大洗フォーラム公認の角谷杏、角谷杏をどうぞよろしくお願い致します!」

 

 

 

いずれにしてもその2週間後、私は次期生徒会長になることが、クラブや人民の候補者に対する圧倒的勝利によって決定された。開票速報が始まってすぐ、開票率0%の段階で当選確実となっていた

一応万歳三唱こそして支持への感謝やら今後奮闘する所存やらを述べたが、すでにこれからのことを考え続けていたのだ。感傷に浸る暇はない

 

私の双肩に、学園の未来がのしかかってきているのだ


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。