さて、書面までもらってはいるが、果たしてどうなるものか。私は未だ胸の内の混沌をかき消せずにいた
面会するのは私ではない。流石に私主導でできるのは前回だけが精一杯。陳情だったしね
面会希望は西住氏と児玉連盟委員長。この二人が来るとなれば学園艦教育局、文科省も少しは腰を動かさざるを得ない
西住氏を連れてくるとの蝶野氏の説得によってだが、連盟委員長も連れてこれたのは幸運だ。少なくとも『戦車道界隈』からの意見と持ち込めるだけでも十分。あの逃げ腰及び腰がこうして座ってくれているだけでも大きな進展だ
「どうぞ」
明らかに文科省職員、官僚の対応が違う。先頭を西住氏にしただけでこれまでとは。戦車道大会が絡む以上向こうも無碍にはできない
だが連れてきたはいいが……本当に彼女は切り出すのだろうか。契約内容はプロリーグ運営委員会委員長の辞退についてで、一言一句書いてもらったから訴訟までできるのだが、実際はそんなものに時間を費やす余裕はない
理由をつけられてのらりくらりと交わされでもしたらそこまで
どうしようもないことながら、考える頭は止まらない。一人で歩くよりもこの廊下を歩く時間は長いように思えた
「大丈夫よ!」
後ろから蝶野氏にそう声をかけられても、凪と同じだ
「若手の育成なくして、プロ選手の育成はなし得ません。これだけ考えの隔たりがあっては、プロリーグ運営委員会の委員長を私が務めるのは難しいかと」
感情を表すようなこともなく、蕩々と湧き出る水の流れに乗って言葉が紡がれる
幸い向こうは正直な人間であったらしい。少なくとも目の前の人間よりは
「いやそれは……今年度中にプロリーグを設立しないと、戦車道大会の誘致ができなくなってしまうのは先生もご存知でしょう」
それは知らなんだ。なるほど、西住氏もそこについてある程度勝算を見込んだ上で、か
思っていたよりかは家元を説得するのは容易だったらしい
「戦車道優勝校を廃校するのは、文科省の掲げるスポーツ振興の理念に反するのでは?」
「しかしまぐれで優勝した学校ですから……」
まぐれで……
そう、まぐれだ。今からもう一度再現しようとして困難なのは疑いようもない。相手の判断、相手の車輌選択、そして大洗女子学園の準備。どれか一つ取り違えていたらなかった未来だったかもしれん
まず間違いなくサンダースが全車輌で襲ってきてたり、プラウダが建物破壊してたら負けてたしね
「戦車道にまぐれなし。あるのは実力のみ」
だが、隣はそうではないらしい
語気も強まった。辻氏も萎縮せざるを得ないか。私は石になりそうだったけどこれくらいで済んでるだけ流石だね
「どうしたら認めていただけますか?」
そして本題はここ、条件だ。ここで話せるのは与党からも合意を得られるものでしかない。今の与党がウチらを潰す気満々な中でね
そしてここの条件では揉めたくない。結果的にチャンスを得られるのが一番重要であり、それすら交渉なんやらで無になったら何の意味もない
「まぁ……大学強化選手に勝ちでもしたら」
「わかりました!」
だから私は間髪入れずにこの言葉を挟む
「勝ったら廃校を撤回してくれますね?」
「えっ」
「今ここで、覚書を交わしてください。口約束は約束ではないようですからねぇ〜」
流石にこのくらい言ってやらないと気が済まないね
「……わかりました。この辻廉太、言ったからには噓は申しません……なんとかこの条件で実施可能と致しましょう。ただし西住しほさん」
「なんでしょうか」
「こちらもこの条件を呑むからには、いかなる結果であろうと西住流はプロリーグに参加していただきますよ?」
今度こそは確実にしなければならない。それがどれほど厳しい道であろうとも
それにしても、辻さん演技上手いねぇ
「私はこれより、館林に向かいます」
「島田流の家元、ですな」
地上に降りた後はそれぞれ分かれる。書類は一応私が預かって、コピーを各個人に渡した
「国からの連絡はすぐに向かうと思いますが、滞りのないようにあらかじめ説得しておこうかと」
「なるほど。わざわざお手数お掛けします」
西住氏は私が思っているよりも積極的に動いてくれている。ありがたいことだ
私じゃ島田流相手だと門前払いだろうしね
「それにしても……あれで良かったのかしら。貴女が想像しているよりも相当厳しいでしょうに」
「それでも、です。もともと廃校、学園都市権限縮小を狙っているのが国だとすれば、彼が提示できるのはあの程度なのではないかと……それでも大洗が対峙すべきは彼です。戦車道でならともかく、学園艦、学園都市の差配は彼の職務なんですから」
「だからこれが最大限の成果ということね」
たまたまだが上手く蝶野氏がフォローを入れてくれた。ここで彼との関係を疑われるわけにはいかない
「そうでしょう。なので……あとは実力で勝負し、道を拓くのみです」
また頼るのは西住ちゃんなのだが、致し方ないのか……
「わざわざご協力ありがとうございました」
蝶野氏にわざわざこの期間ついてきてもらった礼を述べて、次の日の夕刻山道の途中にいた。彼女もまた気さくに応じてくれたし、言葉はともかくもよく知らぬ土地で味方がいるというだけでどれだけ救われたことか
だがともかくも手土産なしに帰らぬと決めていたこの地を私は一応の約束を鞄の中にしまって踏むことができる
タクシーを駅で捕まえて、少し離れたところで降ろしてもらった。近くだと支援をもらいにきた生徒と鉢合わせる可能性がある。私はサッと参上し結果を見せる。それでいい
そもそも出かけていたことすら生徒会関係者以外には封じてあるのだ
坂道を登って木々が姿を見せた。間もなくだ
この知らせは皆にとって幸福だろうか。少なくとも廃校がこのまま確定的なものとなるよりマシだろう。だが仮にこの大学選抜との試合に負けたら?今度こそ決定的になる
そして皆は、試合の始まりからそれを知って戦い始める。途中からだった前回とは訳が違う。流れで試合に乗っていた者たちもいるだろう
ここからの戦いで果たしてどこまで同調する?しかも軽く調べた限りでも大学選抜代表の島田流の家元の娘は化物だ。親の力を使って飛び級しているのかもしれないが、実力はそれに見合っている
何より……車輌と人の質。大学選抜は全国からの精鋭だ。昔黒森峰だった者、サンダースだった者、プラウダだった者の上澄。さらにそこから経験を積んでいるから強さは折り紙付きだ
それにプロリーグ、世界大会を見据えてか投入されている戦車の質も高い。調べた限りよくわかんないけどパーシングとかいう大戦末期戦車を大量に運用してくるんだと
だが……勝つしかないんだよね
それを……彼女らの小さな身体は……って私が言えた道理じゃないね
廃校舎の前に差し掛かろうとした時、敷地の方から結構大きな音が響いた。入り口の前に立ってみると、目の前にあったのはパイプ椅子の山
見つめてみると少し積み重なった椅子が動き、それが連鎖する中で中から人が出てきた
かーしまだった
やはり阿呆だね。自分が埋まるほどの量一人で運んでたみたいだけど。誰かに手伝わせればいいのに
だが、今はそれよりも
「ただいま」