作:いのかしら

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第55話 偽の熱狂

「非常呼集、非常呼集!会長が帰還されました。戦車道履修者は今すぐ講堂に集合!繰り返します……」

 

腰にぶら下げたかーしまを小山に預け、私は一足先に行動に陣取る。夕方の赤い陽光がまだこの部屋を照らしている

垢を落としたいのも山々だが、まずはこの紙のことを皆に言わねばなるまい。こうしてまた皆を試合に送り込むのだから。その理由が廃校回避、彼女らの居場所を取り戻すためであるとはいえ

 

「非常呼集非常呼集!……桃ちゃん静かに」

 

そしてこの件は完全に私の独断で始めたし、このサインも私の独断だ。つまり負けた時の全ての責任は、私だ

3万の民の未来が、私のこの味気ない文字の並びで決まる。議会が開会不可、生徒会も分散状態であるからある程度許容はされるだろうが、国で言えば国内の批准を得ていない条約みたいなものだ

結果が出なければ本当に私の人生の汚点にすらなりかねないけど、その程度。私は公約を守るまでだし、その道を真に諦めることこそ私の恥だ。学園が残る道ができるなら私の人生くらい引き換えてやる、そう思って今までやってきた。それを続けるだけさ

 

「会長。言われた通り戦車道履修者を集めましたが、どこに行っていらっしゃったのですか?何をなさるおつもりです?」

 

「まぁまぁ小山。東京土産あげるから後にしといてくれ」

 

 

 

 

「全員集まったなぁ〜!」

 

皆思い思いに過ごしていたらしく、その姿のまま講堂に密集している。野生の香りすらしてきたウサギさんチームとかやけに筋肉ムキムキマッチョマンと化したアリクイさんチームとか何やっていたんだか……

 

「カモさんチームが来てませーん」

 

「ぬぁにぃ〜」

 

だがそういうことに一番うるさいであろう風紀委員がまだ姿を見せていない

 

「……風紀委員どうしたの?出る前からなんか呆けてはいたけどさ」

 

「それが最近だと近所の人との諍いを起こしたりと問題続きなんですよ。生徒を取り締まるどころか彼女らこそ取り締まられるべき、となるほどです……」

 

「なにしてんのよ」

 

シャレにならんじゃないか。ここで問題起こしたらそれこそ文科省にとって美味しいものはない。なにせウチの治安組織、そこが緩んでいるとなれば統治力不足に説明がついてしまう

 

「幸い大事にならずに済んだのですが……」

 

「……画像とかある?彼女たちの」

 

「一応確保はしておきました。後藤さんも金春さんも次世代の幹部ですし、使い勝手はいいと思いますよ」

 

「それならいいや。五十鈴ちゃんに下手な問題残したくないからね。それにここにいるのももう長くはないし」

 

「会長、それって……」

 

んで、いつの間にかかーしま以上にめっちゃ泣き叫んでる風紀委員3人が入り口に揃っていた。流石にハンカチで鼻を噛むのはやめてやれや……

 

さて、未来を見せないといけないね

 

 

 

 

 

「みんな、試合が決まった」

 

「試合?」

 

「大学強化チームとだ」

 

西住ちゃんは流石に知ってるか。そして皆にとっての試合を考えれば、これがなにを意味するかは明白。そして私が西住ちゃんになにを求めているか、も

 

「大学強化チームとの試合に勝てば、今度こそ廃校は撤回される!」

 

その試合に勝て。黒森峰よりも遥かに強いそのチーム相手に勝て

そして西住氏が島田流のところに行って承諾を得ているところを見ても、大学強化チームは私たちを研究してくる。対プラウダで考えていた黒森峰とは違う。私たちを全力で潰しに来る

そして……大学強化チームの隊長は島田流直系の後継者。西住の血を引くものを叩くまたとない機会。手を緩めることはないだろうさ

 

「今回は念書も取ってきた。戦車道連盟、大学戦車道連盟、高校戦車道連盟の承認ももらった」

 

だがまずは皆を少しでも安心させる必要がある。ここら辺は児玉氏経由ですべてゲットした。戦車道連盟とはとりあえず協力体制を組めている。試合をすることまではね

私たちを勝利させる気があるのかまではなんとも言えん。西住流はある程度あるだろうけど、連盟は児玉氏の様子も見るに文科省と必要以上に関係を悪化させたくないはずだ

 

「さすが会長!」

 

「ちゃんと仕事を進めてくれてたんですね!」

 

この二人にも話さなかったのは、こうして希望があるムードを高めるため。この二人も喜べば僅かとは言え現実から目を背けられる

 

「会長、もう隠していることはないですよね?」

 

聞いてきたのは……カバさんの鈴木ちゃんか

隠していること……ある。私と辻氏の関係はまさに秘匿せねばならないこと

だがこれを言う理由はない。条件も達成されてないしね。わからないことはあるが、それはどうしようもない。つまりこの状況で出すべき答えは

 

「ないっ!」

 

「勝ったら本当に、廃校撤回なんですね!」

 

「そうだっ!」

 

 

 

そして希望は見せた。私たちに希望に辿り着く力があるかはわからない。だからまた私は空虚を語る

 

「……無理な戦いなのはわかっている」

 

なんの保証もない、だが僅かでも士気を一層高められると、

 

「だが、必ず勝って……大洗に、学園艦に帰ろう!」

 

そして何より、自分たちは勝てると信じて

 

「おおっー!」

 

 

 

 

「西住殿……」

 

「うん……」

 

熱狂から離れる二人。彼女らはこれが泡の如く消える偽と理解している

 

 

 

 

 

 

「会長、何をなさってたんです?」

 

東京行きの途中で用意していた干し芋は切れていた。だからこうして数日も空けて干し芋を食べるのはここ10年くらいなかったと思う

 

「何って、この書類作って来たのさ。それ以外にあると思うかい?」

 

「隠していることはないと先ほどおっしゃってましたけど、本当なんですか?」

 

「事実だよ。西住流と戦車道連盟の支援を受けて文科省相手にそれをサインさせた。そのためにずっとやって来たさ」

 

かーしまは泣き疲れたのかとっとと寝てしまった。起きているのはこの広い校舎でも私と小山くらいだろう

 

「蝶野さんの伝手使って連盟会長と西住流家元に会わせてもらってね。いやー、家元は圧凄かったね」

 

「あれ、熊本行かれたんですか?」

 

「ああ行ったよ。一週間ちょっと前かな」

 

「その頃でしたら……西住さんと鉢合わせたりしませんでした?」

 

「西住ちゃん?いや会ってないけど、そもそも西住ちゃん西住の家に入れないだろ?完全に勘当されてるわけじゃないけどさ」

 

「それが万一の際の転学手続きのために親御さんの印鑑付きの書類集めてたんですけど、西住さん熊本で親御さんの署名と印鑑貰ってるんですよ……こちらです」

 

小山が一枚の書類を取り出した。確かに西住しほの文字と印がある

 

「本当に西住流が将来的に西住さんを勘当しようとしてるのだとしたら……これが可能でしょうか?」

 

転学先についても指定はない。ああは言っていたとはいえいざという時は黒森峰に引き戻しにかかると思ってはいたが、そうでもない

 

「……書類は使用人の人にでも代筆してもらったんじゃない?それでも転校先の希望が空欄なのも意外だけど」

 

「だいたいの人は空欄ですよここ。ほとんどの人が同じく県立の学園都市に転校すると思っているでしょうし」

 

「確かにね。でも西住ちゃんほどの人材だよ?その獲得をフリーハンドにするのはリスク高くないかい?どこだってとりに来るだろう。黒森峰にいたから私立相手でも学力面問題ないし」

 

「あ、確かに……決定するの私たちじゃありませんから、そこに他校の意思が介入するってこともあり得ますね」

 

「どういうことだ……」

 

西住流はこうして我が校に介入した割に、西住ちゃんについてはどうでもいいと考えてるのか?最悪プラウダに流れるってこともなくはないというのに

 

いや、まさか……

 

「……それはないよな」

 

「何がです?」

 

「……西住流が、私たちを確実に勝たせるなんらかの方法を知っている……のか?」

 

大洗は残る、その確率がとても高い。そう考えている?

 

「いや……私も軽く大学強化チームは調べてみましたが……主将は島田流の娘で、しかも大学を飛び級するほどの逸材。その実力と権威で統率も取れているでしょう。とても容易に勝てるとは思えませんよ」

 

「そうなんだよねぇ……飛び級させてるところを見るに島田流がとんでもない投資しているだろうし。だとしたら……何を考えてる」

 

あの時サインはもらったとはいえ、わからないことだらけ。確実なのは試合ができることと、この齧っている干し芋のうまさくらいなものだ

 

「しかし……会長、凄いですね。国を相手にして本当に条件を勝ち取れるなんて……」

 

そんなことはない。これは……辻氏との密約の成果だ。私にはそんな実力はない。西住氏との面会で理屈ではなく情理で動かしたものだし、辻氏と西住氏の会話からも見えたように私でも理解しきれないものがまだまだあるはずだ

 

「そんなことないさ」

 

謙遜の言葉が出てきたのも、正直の結果。自分でもかなり珍しいと思う

 

「そんなことないですよ」

 

「……これは、大洗は生き残るっていう運命だし、私たち以外の誰かが望んでいるものなんだろうさ。だからこんなにうまくいってる」

 

「だ、誰がです?」

 

「他の学園都市、かね。彼らとしたら今の政権の功績が潰されるのは理想的だろう。積極的にじゃないけど、裏から貢献してくれてるのかもね」

 

「な!なるほど……」

 

これも実際あるだろうが、結局私の力じゃない

 

「ま、状況がまだ上手くいっているってことさ。あと私たちにできるのはそのチャンスを掴むこと。その為には私は再び茨を踏むことを、踏ませることを決めたんだから」

 

「そう……ですね」

 

小山もわかっている。また西住ちゃんを駒として使う道ということを。だがこれしかないのだ

これしか私は話を持って帰って来れなかったのだ

 

 

 

 

 

 

 

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