作:井の頭線通勤快速

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第6話 町長

 

 

 

さて将来は決まったが、今はまだ課長である。そして何より、先ほどの案件はまだ実行できるわけではなく、二つの条件を乗り越える必要がある。一つは非常に容易いが、もう一つはなんとも言えない。

それは、前者が全町内会の許可、後者が大洗町、町議会の承認であったからである

 

当然と言えば当然だ。自治権を認められているとはいえここは大洗町の飛び地。飛び地単独でこのような議案に完全な結論を出せるはずもない。結果的には上が判断を下す立場となる

 

私はその案件を認めてもらうべく、新会長としての挨拶も兼ねて大洗へと上った。風の冷たさが頰から沁みてくる11月のある祝日のことだった。私も学校があるから、向こうが配慮してくれるらしい、と山崎さんから聞いた

 

大洗の町役場は松並木の並ぶ海辺から一歩入ったところにある。こうして向かいやすいのは今後も考えると非常にありがたいのだろう。だが海岸では未だ先の震災の傷跡が各地に残る。

荒れたままの海岸近くの並木の下に土の見えたままの花壇。奥に進めば未だ崩れたままのブロック塀などかある。復旧が進むのは港が中心だ。それだけでもかつての車がとっちらかり、船が乗っかった埠頭とかがあるよりはマシになった

 

だが震災前から続く人口減少は止まらず、高齢化率も30%を超えるところまで迫ってきた

私が生まれたこの街には何かが必要だった。街の誇りとなり、その名を轟かせられる何かが。母港の衰退は学園都市への物流の縮小、そして学園都市の魅力の低下に繋がる。新会長として何かしら手を打つ必要があった

 

 

雨よけを抜けて門をくぐり、たちまち私は会議室へと誘導された。私たちの持つ会議室とそこまで差はないようである

 

 

話すべき人は私が座って正面を見つめる中、少し遅れて入ってきた

 

「すまないね。君が角谷くんかね?」

 

白髪で頭が覆われた老人であった。そこそこの歳だろう。立ち上がり挨拶に応じる

 

「はい。私が来年度生徒会長として県立大洗女子学園学園都市を管轄致します、角谷です」

 

「ふむ、噂はかねがね聴いておるが、君が『大洗の女傑』か」

 

「いえいえ、そんなご大層な者ではございません」

 

「ふむ、そうかね。おっと挨拶が遅れたな。大洗町長の竹谷という。まずは次の一年間、大洗女子学園をよろしく頼む」

 

「お任せください」

 

差し出された手を握り返す。シワがあって乾燥していたが、私からしたら指先すら覆えない

 

「とは言いたいところだが、お互い状況は楽ではない、か」

 

「……ですね。昨今の学園艦縮小を目指す動きとも絡んでいるでしょうが」

 

「こちらも何もできん。水戸へ、そして東京へと若者は学園艦を経由して吸い取られるしかない」

 

「学園都市か大洗町の残留に対する支援は考えておりますが、なにぶん学園都市の産業基盤が弱いもので……」

 

「そこは今更言っても始まらん。やるとしても10年20年はかかる話だ。その点君がやってくれたという議会改革はそこそこ即効性があるし有効だろう、と思っている」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「学生以外の市民に都市民としての意識を持たせる、という点では良い手だろうし、今後の学園艦はそうせざるを得ないだろうな」

 

「誠にその通りです。そして、その改革案は……」

 

「問題ないだろう」

 

大きな息の塊が口から噴き出した

 

「町議会議員の動向に即座に関わるものでもないしな。それに学園都市改革は内部から求められてはいたが、自治を認めている以上こちらからおおっぴらに指示できないからな。そっちからやってくれるんだ。実現不可能であったり内容に問題があったりするのでないならば、ノーと言う奴はいない」

 

「な、なるほど……」

 

「その点に関しては安心してくれ。あちらに確認も取ったしな」

 

「学園艦教育局、ですか」

 

「その通りだ。だから施行に関しては大丈夫だ。とはいえ根本的ではないしさらに何かすぐにできるわけでもないがな」

 

「……おっしゃる通りで」

 

「ところで、新会長に就任するにあたって公約は出していただろうが、実際にやる気があるものはあるのかね?」

 

「真っ先にOG組織の体系化、ですね。もうアヒル大統領よりも崩壊しそうなくらいてんでバラバラなので、ここを組織し直して学園の尊厳の継承を掲げます」

 

「で、実は金か」

 

流石はこの町で私が幼稚園児の頃から町長を務めた方。洞察は流石のものだ

 

「寄付金の上納体制を簡略化する、というのはあります。いざという時にOG組織があると便利ですしね」

 

「賛成だ。そこに所属する人に町に帰ってくることへの支援金などは考慮してもいいかも知れん。市場の規模拡大を狙っても共有できる点があれば団結できるしな」

 

「その周知にもあって損はないかと」

 

 

その後も私の政策案に関する話が来た。否定も来たが、口振りとしては私が政治の真髄を理解していない、というかのようなものだった

当然だ。もともとどちらかといえば私は官僚側の人間だ。政治力など限界がある。だが同時にこの先道を変える以上は先達の話を聞くに損はない。かの方曰く、政治とは世論と喧伝、そして慣れだそうだ

 

全く耳に入れたくないし受け入れたくもない話だが、正解だなぁ。そうするのが最善だ。最後だけはどうしようもないだろうが

 

「まぁ、ここら辺にしよう。そもそもの話が通じる人間で助かるよ」

 

お茶が運ばれてきて少ししてから、向こうがダメ出しを辞めた。これしきで終わるほど精神的に脆いわけじゃないが、ない方が気分がいい

 

「正式な任命は正月前になるし、私からはここまでなんだが、この後は空いてるか?」

 

「は、はぁ……時間自体はありますが、一体……」

 

天地がひっくり返ってもこんなチビで貧相でちんちくりんの身体を求めてくるわけじゃあるまいし

 

「君にも引き合わせたい客人がいる。この店だ。行けば会える」

 

町長は鉛筆でのメモ書きを一枚私に手渡した。見かけたことがある街の中の店である。ここからそこまで遠くはない

 

「宜しいかな?」

 

「……はい」

 

晩飯を奢ってくれるなら乗ってもいい。というかこちらは高校生だ。流石に自腹は切らせないだろう

 

 


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