「ここだな」
マリアから指定された場所付近になった辺りで目立たないよう、徒歩で移動を始めた俺は数十分後に目的地に到達した。ワシントンD.C.の近くにある山中であり、古いダムがすぐそこにある場所である。
「……スティーブ達もマリアもいないか」
場所は間違ってない。となると、あっちが遅れてるのか?
「ん?」
しばらく待つかと思っていると車の音が聞こえ始め、灰色の車が視界に入った。窓にプライバシーフィルムを貼っているらしく中は見えないが、誰が入っているのかはすぐに分かった。
「スティーブ、マリア、ナターシャ……って、何でウィルソンも?」
「おい、何だその反応」
いや、だって前に一緒にランニングをしただけの仲だろ?まぁ、その後にスティーブはウィルソンがやってる退役軍人の為のカウンセラーを見せてもらったりしていたようだが。
「っておい。ナターシャのその怪我はどうした?」
「……敵に、襲われたんだ。それで……怪我を」
ナターシャの怪我についてスティーブがどこか歯切れ悪そうに説明してくる。何故かは分からないが、道中で何かがあったのだろう。
「大丈夫か?」
「……応急処置はしてもらってるわ。傷も深くない」
「なわけないだろ」
だったら何でそんな強く押さえてるんだよ。確かに見た目からはそんなに酷くないが、相当痛いんだろう。
「マリア、どこかでナターシャの手当てをしないと」
「分かってるわ。みんな、こっちに来て」
そう言うマリアの後を追い、俺達が辿り着いたのはダムの近くにある鉄格子の扉。その先に何があるのかと思っていたが、マリアが開けた事でそれが分かった。
「何だ、やっと来たのか」
死んだはずのフューリーが怪我を負いつつも、ベットに寝て生きていたのである。
フューリーが生きている事に混乱していた俺達であったが、互いに情報交換をした事でそれは解決した。ちなみにその間、ナターシャはフューリーに付き添っていた医師に止血をしてもらっていた。
つまり状況を説明すると、
まずフューリーがウィンター・ソルジャーに殺されかけたのは本当だが、バナー用の鎮静剤を用いる事で脊椎の損傷や脈を毎分一回に遅らせるなどの症状を一時的に引き起こし、死んだように見せかけたらしい。ヒドラだけでなく、俺達も騙す為に。
次にS.H.I.E.L.D.は創設された時点で既にヒドラの息がかかっていたようだ。そして構成員が十分となった今、インサイト計画を利用して自分達の邪魔となる相手を消して完全復活を果たすつもりなんだろう。
S.H.I.E.L.D.の理事を務める高官のアレクサンダー・ピアースやS.T.R.I.K.E.、その他にも大勢がヒドラに所属しているに違いない。
そしてウィンター・ソルジャー。奴もヒドラの一員らしくが、それどころかスティーブの親友であるバッキー・バーンズだという事がさっき分かったようだ。しかも洗脳をされており、スティーブの事は覚えていなかったらしい。
なるほどな、だからスティーブは落ち込んでいたのか。
さらに最悪な事に、インサイト計画までもう時間がない。
「で、どうするんだ?」
「もちろん止める。だから君にも来てもらったんだ」
まぁ、呼ばれなくても来るはずだったんだけどな。ウィルソンは結構前から一緒に行動しているらしく、共に戦ってくれるとのこと。なんでも米軍でのコードネームであった『ファルコン』の由来となった、フライトスーツを装着するとか。
「スーツはどうしたんだ?」
「捨てた。発信器が付いてる可能性があったからな」
「でも必要だろ。スミソニアン博物館にあるレプリカなんかどうだ?」
「……それしかないか」
流石にその一般服でいくわけにはいかないだろ。まぁ、レプリカだから防御面は期待できないが。
「俺は地上からの敵の増援に対処し、スティーブとウィルソンはヘリキャリアへ。ナターシャとフューリーはピアースを捕まえ、ヒドラの存在を全世界に公開か」
「キャプテンの援護は任せてくれ」
「ああ。頼んだぞ、サム」
それぞれが別々に行動し、ヒドラの計画を止める。だがそれは結果的にS.H.I.E.L.D.を壊滅させるという事だ。
「……いいのか、フューリー」
「ああ。世界を救う為に、やらないといけない事だ」
「ナターシャは?」
「覚悟ならもう出来てるわ」
S.H.I.E.L.D.はフューリーやナターシャにとって、唯一の居場所だ。そこを消すという事は、二人からなくてはならない場所を奪うとも言える。
「スウァーノ。僕達がやらなきゃ、世界はヒドラに支配されるぞ」
「……ああ、そうだな。ごちゃごちゃ言ってる場合じゃない。やるしかないんだ」
「ワラワラと……こんなにいたのか」
発進してしまったヘリキャリアにスティーブとウィルソンは乗り込んでいった。コントロール・チップを別のチップに交換し、三機で自滅し合ってもらう事が最終的な目的だ。
それを知らずともキャプテン・アメリカが現れたとなればヒドラの奴らも全力で邪魔をしてくるのは当然だろう。スティーブの演説でヒドラのメンバーでない職員も戦ってくれているが、人数も武器も敵の方が上だ。
「だから俺が頑張らないとな!」
向かってくる奴らに光弾を撃って吹き飛ばす。遠距離からの銃撃に対してはバリアで身を守り、光線で周りの敵をも巻き込んで倒していく。
「ふぅっ……はっ!」
拳をアウトエナジーで纏い、敵が纏まっている所に向かって跳躍すると拳を地面に叩きつけた。その瞬間、衝撃波となって広がったアウトエナジーが敵を一気に吹き飛ばしていった。
「上には誰も行かせないぞ?」
真上を飛ぶヘリキャリアを指差し、構えた双剣で敵の集団へと突っ込み、斬り刻んでいく。最後には融合させて槍へと変え、敵に投げつける。突き刺さった奴を中心に大きな爆発を引き起こして残ってる奴らの半分が消えた。
「よし、このまま……っ!?」
背後から迫って来る気配に気付き、振り向くと同時にバリアを張って鉄の拳を防いだ。やはりというべきか、ウィンター・ソルジャーことバーンズである。
「久し振りだな。4年半ぶりか」
「お前など、知らない」
「酷いな。ちょっとは覚えてくれてもいいだろ」
バリアを不意に解いた事でバーンズはバランスを崩し、攻撃するチャンスが生まれた。しかしすぐに体勢を立て直され、鋼鉄の腕を使って何度も俺の首を潰しにかかってくる。
「バーンズ!お前、スティーブのこと何も覚えてないのか?」
「覚えてなどないし、覚える気もない!」
腕を掻い潜り、顎を下から殴ろうとするが受け止められる。咄嗟に光弾を撃つが、蹴られた事で見当違いの方へ飛んでいってしまった。
「……だったらお前をずっとここに留めてやる。記憶がないお前を親友となんて戦わせてやるか」
昔の記憶を失ってる事を利用してこんな事をさせ、さらには親友であるスティーブを殺させるだと?そんな事、記憶が戻ったら絶対に後悔するだろ。
ふざけるなよ、ヒドラの奴ら。痛い目は確かに見せられたが、奴はもしかしたら俺がなっていたかもしれない未来の一つだ。だからこれ以上、バーンズを苦しめるような事は絶対に────
「俺に親友なんていない!」
「覚えてないだけだろ?お前にはスティーブっていう親友がいるんだよ」
記憶が混乱しているのか否定の言葉が強くなり、動きも単調になってきている。このままうまくいけば、バーンズをどうにか捕まえる事が出来るかもしれない。
と、思っていたんだが…………。
「なっ!?」
突然飛来してきたミサイルの爆発に巻き込まれ、俺は吹き飛んで瓦礫と共に壁に叩きつけられた。バーンズはそんな俺を見ていたが、すぐに戦闘機がある場所へと向かってしまった。おそらくヘリキャリアに向かう為だろう。
「ぐっ……一体、何が?」
『はははっ!勢いよく吹き飛んだな!』
邪魔な瓦礫を踏み潰し、煙の中から地響きと共に現れたのは赤色の巨大なロボット。いや、正確にはロボットではないな。
S.H.I.E.L.D.がスタークとは別に対ハルク用に開発したパワードスーツ、
技術力がスタークには及ばず、大きな見た目をしている為に動きが遅かったり、細かな動きは出来なかったりなどあるがそれ位だろう。戦闘力はスタークのアーマーと比べても大差ないだろう。
『スウァーノ、まずいわ。
「……けほっ。ああ、知ってる。目の前にいるからな」
近付いてくるC・ダイナモが拳を振るってくる。巨体である故にその力は凄まじく、後ろの厚い壁を粉砕してしまった。
『逃げるな!』
「じゃあ、お前が離れろ」
両手から光線を全力で同時に放つ。それを受けたC・ダイナモは大きく吹き飛び、コンテナや戦闘機などを破壊しながら転がっていった。それに巻き込まれたヒドラのメンバーもおり、突き飛ばされたり潰されたりしていく。
「バーンズは……っ!?」
こちらに機関銃を向け、発砲しながら飛んでくる戦闘機が見えた。バリアで銃弾を防ぎ、耐えていると戦闘機は諦めたのか機関銃を収納し、ヘリキャリアへと向かっていった。
……一瞬だったが操縦室に誰が乗っているのかが見えた。あれはバーンズだ。
「スティーブ、ウィルソン!バーンズがそっちにっ!?」
轟音と共に振り降ろされてきた拳をバリアで防ぐ。しかしその重さは凄まじく、俺ごとバリアが地面にめり込んでしまった。
『よくもやってくれたな……このまま押し潰してやる!』
C・ダイナモはさっきの攻撃によりボロボロになっていた。だがそのせいで怒りが頂点に達したらしく、拳の両脇に展開した小型のジェット噴射機が拳の重さを倍増していく。
「それが……どうしたっ!?」
バリアを消すのではなく、弾けさせる。それによりC・ダイナモはよろけ、とどめとばかりにさっきと同じ様に光線を撃った。
壊れかけていたおかげで装甲が弱くなっていたらしく、光線は奴を貫通。ちょうど中にいたヒドラのメンバーに直撃したらしく、押し出されたそいつの体は無惨な姿へと成り果てていた。
「まだ俺とやりたい奴はいるか?なら覚悟はしとけよ」
壊れたC・ダイナモと死亡した仲間の姿を見て怖じ気づいた奴もいるが、まだ武器を構えている奴も多くいる。
大した忠誠心からなのか、それとも裏切って殺されるのが怖いからか。どっちにしても、ヒドラに入った時点でいずれこうなる事は分かっていただろうに。
「まったく、哀れな奴らだな」
その後、ウィルソンはバーンズによりフライトスーツを壊され、空中に落とされたもののパラシュートで生き延び、ナターシャ達を狙うS.T.R.I.K.E. のリーダー、ラムロウと対峙する事に。
三機目でバーンズと激突したスティーブは死闘の末にチップの交換に成功し、ヘリキャリアはそれぞれが他の二機のみを敵として捕捉。だがバーンズに邪魔され、まだ脱出できていない。
『撃て!今すぐ!!』
『でも……!』
「マリア、俺がスティーブを救助する!だからやれ!」
スティーブの言う通り、今ヘリキャリアを潰さなければヒドラが何らかの対策をしてしまうかもしれない。自分達が乗るヘリキャリアだけが狙われ、混乱している今しかチャンスはないのだ。
『……頼んだわよ、スウァーノ。必ず生きて戻ってくるように』
マリアがそう言った後、ヘリキャリア三機の武装が火を吹いて同士討ちを始めた。あちこちで爆発が起こり、破壊されていくヘリキャリアへと俺は飛んでいく。
「マリア、スティーブはどのヘリキャリアに!?」
『一番よ!』
「よし、分かっ……!?」
マリアから言われたそのヘリキャリアが飛行機能を失い、トリスケリオンへと墜落していくのが見えた。あそこにはナターシャやフューリー、ラムロウと戦っているウィルソンが……!
「フューリー!ナターシャ!ウィルソン!ヘリキャリアがそっちに!」
『分かってる。俺とロマノフは脱出した。今からウィルソンを回収しに行く』
通信機からヘリの音と共にフューリーの声が聞こえてきた。どうやらあっちは大丈夫なようだ。だったらあとはスティーブさえ助ける事が出来れば!
「スティーブ!返事しろ、今そっちに……あっ!?」
装甲に『IN-01』と書かれたヘリキャリアへと向かっている最中、瓦礫と共に落下していくスティーブが見えた。もしかしたらぶつかった衝撃で落ちたのかもしれない。
一直線にスティーブへと飛び、邪魔な瓦礫などは光弾や光線で破壊していく。そしてついに辿り着いたスティーブの腕をしっかりと掴んだ。
「スティーブ、おい!大丈夫か!?」
呼び掛けるが、反応がない。だが息はしている事から気絶しているだけだろう。怪我も酷いし、親友と戦うのは辛かったに違いない。最後まで全力を出せなかったのだろう。
『スウァーノ、ロジャースは!?』
「今、回収した。気絶はしてるけどな。これからそっちにもど──────」
そこまで言った瞬間、スティーブを助けられて気が抜けていた事が原因だろう。上から迫ってくる巨大な瓦礫に俺は気付けず。
「っ!!?」
スティーブ共々押し潰され、下に見える湖へと沈められてしまった。
「かはっ……げほっ……!?」
誰かに岸へと放り投げられ、その衝撃で俺は目覚めた。隣にはスティーブが気絶した状態で倒れており、起き上がろうとした俺の横を鋼鉄の腕を持つ男が歩いていくのが見えた。
「バーンズ……何で俺達を助けた?」
「……お前が
小さく呟くように言ったバーンズだったが、今確かにスティーブを見て親友と言った。それはつまり記憶が戻って……?
「お前、もしかして」
「そいつが起きたら、伝えてくれ」
こちらに振り返るバーンズは、どこか戸惑いつつも口をゆっくりと開いた。
「俺にはもう関わるな。俺の事は忘れろ、と」
ナターシャが世界へ公開したS.H.I.E.L.D.の機密情報、そしてヒドラの存在。それがS.H.I.E.L.D.に潜み、インサイト計画を主導していた上に自分達の邪魔となる者達を消そうとしていた。
平和を維持するどころか、大量虐殺が行われようとしていた事に世界中がS.H.I.E.L.D.を非難し、本部も崩壊した事から組織としては完全に壊滅。
フューリーは死を偽装したままヒドラの残党を追い、ナターシャは
スティーブとウィルソンは行方をくらましたバーンズを探す旅を始め、ヒドラの影響を受けていなかったS.H.I.E.L.D.の職員はFBIやCIAへと異動していった。
「……本当に行くんだな」
「ああ、しばらくは戻らないだろうな」
今日、スティーブとウィルソンはバーンズを追ってニューヨークを出発する。ナターシャから渡されたバーンズ関連の書類を読み、そこから得られた情報を元に探していくようだ。
「スティーブを頼むぞ、ウィルソン?」
「キャプテンの足は引っ張らないさ」
結局、スティーブにはバーンズからの伝言を伝えずに『記憶が戻っていたかもしれない』事を伝えた。というか仮に言ってもスティーブはバーンズを探しただろう。自身にとって唯一の親友なのだ、諦めるわけがない。
「じゃあな、スティーブ」
「ああ、スウァーノ。また会おう」
スティーブとハイタッチを決め、俺達はその場を去った。だがおそらくいつか、再び俺達は出会うだろう。
────世界が危機に陥った時、アベンジャーズのメンバーとして。
これにてウィンター・ソルジャー編、終了!
次回からはオリ主のオリジン・ストーリーです。
ちなみにこの話をどこまで続けようか悩み中です。
とりあえず現在の目標はエイジ・オブ・ウルトロンです。(最終到達点とは言ってない)