~ワンダ・マキシモフ~
ウルトロンの事件から数ヵ月が経ち、アベンジャーズの新メンバー達のトレーニングも大分進んできた。まだまだチームとして纏まっているとは言いがたいが、それも時間の問題だろう。
ところで力が似ているという点から、俺は新メンバーの中で唯一、ワンダの教育係を任されている。主に力のコントロールなどが目的だが、それ以外にも自身の境遇から学べなかった事など色々だ。
「ほら、ワンダ。撃ってみろよ」
「え、ええ……」
ワンダは恐る恐る両手に赤いエネルギーを纏う。そしてそのエネルギーをいくつも俺に向かって投げつけてきた。
それらを吸収しようと構えるが、直前で曲がって俺を素通りし、壁へと直撃して粉砕してしまった。トレーニングルームの壁じゃなかったら崩れてたな。
「まだ難しいか」
「ちょっとまだ……慣れなくて」
アベンジャーズの一員として活動する以上、人間を相手に戦う事だってある。ワンダも俺達と敵対していた頃は普通に戦えていたが、どうもヒーローに目覚めてからは自分の力で相手を傷つける事を極端に恐れるようになってしまったらしい。
「まぁ、そんな落ち込むなって。戦う事が出来なくても、やれる事はたくさんある」
「やれる事って……?」
「サイコキネシスで味方を遠くに飛ばしたり、精神操作で相手に情報を吐かせるとかな。拳で殴り合うだけが戦いじゃない」
特にワンダの能力は色々と応用が利く。サイコキネシスはエネルギーを塊にして撃つ以外にも自身を浮かせたり、生物・物体共に自由に操る事が出来る。
戦ってくれるなら強力な戦力になるが、味方の支援だけでもワンダは十分役立つはずだ。
「でも、いざって時に戦えないとみんなに迷惑をかけるわ」
「だからって無理に克服するのもストレスだろ。気長にやっていこうぜ」
そもそもワンダはまだまだ戦えるようになった新米ヒーローだ。それにメンバーの中じゃ誕生したばかりのヴィジョン(推定0歳)を除いて一番若い。戦えないからって誰も責めやしないだろう。
「……やっぱり違うわね」
「何がだ?」
「この力を手にし始めた頃は、早く実戦投入できるようヒドラの教官から厳しくされたわ。私も……ピエトロもね」
「……そうだったのか」
「でもスウァーノ、貴方は違うわ。こんなにも私に優しくしてくれてる。ピエトロも、貴方に教わっていたら……っ!」
ワンダの目尻から涙がこぼれ落ち、頬を流れていく。ワンダのピエトロを失った悲しみは未だ癒えていない。あの時まで互いに一生懸命に生きてきた兄なのだ、当然だろう。
「ワンダ、今日のトレーニングはこれで終わりだ。お前は部屋に戻って休んどけ」
「えっ、でも……」
「いいから」
ワンダの能力、特にサイコキネシスの威力は彼女の精神状態に左右される。このままトレーニングを続けてもコントロールが難しくなり、余計に彼女に負担をかける事になるだけだ。
「ワンダとのトレーニングは終わりか、スウァーノ」
「……スティーブ」
ワンダが去った後のトレーニングルームにスティーブが入ってくる。私服姿でいる事からトレーニングをしに来たわけじゃないみたいだが。
「どうだ、彼女は?」
「まだどうも言えないな。今できるのはあまり負担をかけ過ぎない事くらいか」
「なるほどな」
スティーブはアベンジャーズのリーダーとして新メンバー、特にまだ若いワンダの事を気にかけてくれている。だがそれも目の届く範囲でしか出来ない為、教育係として俺を傍につけたのだ。
「でもいつかきっと、大きな戦力になってくれるはずだ」
~サム・ウィルソン&ジェームズ・"ローディ"・ローズ~
「エイナム、戻ったぞ」
「おかえり、そしてお疲れさん。ウィルソン、ローズ」
基地に着陸したクインジェットから降りてくるメンバー達を出迎え、最後に出てきた二人にも労いの言葉をかける。
ソコヴィアでの戦いを除けばチームで戦う事をしてこなかったミア、ワンダ、それとヴィジョンはまだトレーニング中だ。しかしこれまでの集団戦を経験してきたこの二人はすぐに新たなメンバーとして度々出動するようになったのだ。
「今回はどうだった?」
「二対五で俺の負けだ。まぁ、今回の俺は偵察がほとんどだったからな」
「おいおい、それは負け惜しみだろサム。偵察って言ったも結構戦ってただろ」
スティーブ、スタークそれぞれの相棒的位置に立つこの二人は何故かお互いにライバル心を持っている。今回みたいにどちらが多くの敵を倒せたか競うのも珍しい話じゃない。
「ならこれでローズの九戦中、六勝三敗だな」
「また差が開いたな。次で勝負がつくんじゃないか?」
「いや、次こそは俺が勝つ。絶対にな」
勝ち越したいという相手がいれば、それが成長に繋がる事だってある。
ただウィルソン……お前、前の勝負の後にも似たようなこと言ってたぞ。
~ヴィジョン~
「エイナム、今いいでしょうか?」
「ぶっ!?」
基地に設けられた自室で過ごしていると、突然ヴィジョンが目の前の壁をすり抜けて現れ、俺は飲んでいたコーヒーを吹いてしまった。
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫だけど……それ、ナターシャやワンダとか女性にやるなよ?特にミアは絶対にだ」
「それは何故でしょうか?」
ヴィジョンは人間の年齢に換算すると、0歳だ。体格は大人で世界の情勢などもネットワークで調べられるが、常識などはまだまだ何も知らない赤子同然である。
「着替え中とかに入ったら怒られるからだよ」
「どうして怒るのですか?私は着替え中に見られても怒りませんよ」
まぁ、お前は人間の生活を知る為にスーツを着てるけど、別に着なくても問題ないし……って、それはいいんだよ。
「女ってのは裸を他人に見られるのが嫌なんだよ。特に男にはな」
「なるほど……ありがとうございます、勉強になりました」
「それで俺に用事があったんじゃないのか?」
ヴィジョンの登場の仕方で話がすっかり脱線してしまったが、そもそもの目的をまだ聞いていない。
「はい、実はもう一度料理に挑戦してみたいと思いまして」
「もう一度?……ああ、そういえば前はワンダと作ったって言ってたな」
知識はあっても実践は初めてだったヴィジョンは見事に失敗し、ワンダがほとんど作り直したみたいだが。
「今度はワンダと一緒に完成させたいと思ってるんですが、その前に一度練習をしたいと思ったのです」
「なるほどな、それで俺に協力してほしいと」
「はい」
つまり俺との料理は本番であるワンダと作る時に失敗しないようにする為と。まぁ、男なら女にいい所を見せたいだろうしな。
……そもそもヴィジョンに性別があるのか不明だが。
「いいぞ。それにどうせならみんなに振る舞おうぜ」
「ですが失敗したら……」
「そうならない為に俺も作るんだろ?」
それとも何だ、工程は間違いないのに結果は失敗とか漫画みたいな事になるのか?
「とにかく調理場に行こうぜ。何があるか確認しないと」
「ええ、分かりました」
その後、見た目・味共に問題なく完成したもののヴィジョン一人で作るのはまだまだ先の話になるだろうという結果になった。
いや、だって試しに一人で任せたら炭が出来てたし。
~ミア・トレスファー~
新しく設立されたアベンジャーズ基地には自室が人数分用意されている。されているのだが……。
「おい、ミア……」
「えへへっ、別にいいだろ?」
深夜、誰かが布団の中に入ってきた事で目覚めた俺はすぐにその相手がミアである事に気付いた。
毎日というわけではないが、よくミアはみんなが寝静まった辺りで俺の部屋に来ては布団の中へと潜り込んでくる。そして朝までここで寝るのだ。
「……っ」
ミアは基本、就寝時はネグリジェを着て眠る。しかし今回は一段と生地が薄い上に面積が少ないものだった。さらにはシングルベットである為にどうしようと体が密着する事となる。
「お前なぁ……俺に襲われるとか考えないのか?」
「別にスウァーノだったらいつでも歓迎するぞ」
「……へぇ」
俺だって男だ。夜中に布団に潜られ、生地の薄い服を着て如何にも『襲ってください』というようなこの状況で、さらにそう言われては黙ってるわけにはいかない。
俺は布団をどけると素早くミアに馬乗りをした。
「……へっ?」
「いつでも歓迎なんだろ?だったら問題ないよな」
「い、いや、ちょっ、ま、まだ覚悟が────っ!?」
ミアの言葉を遮り、彼女の口を自分の唇で塞ぐ。突然だったからか少なからず抵抗しようとするミアだったが、しばらくすると動きが鈍くなっていた。
「ぷはっ……はぁ、はぁ……あの、なぁ……!」
「歓迎するって言ったもんな?」
「っ……えっと、それは……その、本気じゃ……」
「今更言葉の撤回はなしだぞ、ミア」
俺はそう言ってミアに笑みを向ける。それを見て唾を飲み込み、顔を紅潮させるミアの体へと俺は手を伸ばした──────
今回の章はあと二話投稿して終わりです。
シビルウォーにはその後にもう一つ章を投稿したら突入します。