ウルトロンとの戦いから数ヵ月が経った頃、民間からの俺達への不満は大きくなってきていた。元々少なからずあったが、一気に増えたのはソコヴィアの事件からだ。
スタークが世界平和の為に開発したウルトロンが世界を滅ぼそうとしたのだ。奴を倒して人類を救ったとはいえ、その発端を生み出した俺達が非難されるのは当然だろう。
さらには暴走したハルクとハルクバスターとの激突でヨハネスブルグ、クレードルを奪う為にウルトロンと戦ったソウルにも大きな被害を出してしまっている。
俺達アベンジャーズは世界を救う為に今まで戦ってきた。その選択に間違いはないだろう。
だがウルトロンとの戦いは──────間違っていたと言うしかない。
数名のメンバーでの任務から戻ると、基地に残ってもらっていたサムからある報告を受けた。
「侵入者!?」
「ちょっ、ばかっ!声がでかいって!」
どうやら俺達が留守にしていた間に何者かがこの基地に侵入したらしく、サムが撃退に向かったが反対にやられたらしい。ついでにそれをスティーブには黙っていてほしいとも言う。
付き合いも長くなり、ローディとは別にファーストネームで呼び合う仲にはなったが流石にそれを黙っておくのはなぁ。
「頼む、キャプテンには秘密にしておいてくれよ」
「……まぁ、いつかバレると思うけどな。それどその侵入者ってのは?」
「ああ。今、監視カメラの映像を出す」
それがあったらスティーブにすぐバレないか?と思うが黙っておこう。
一方、サムが操るパソコンにカメラの映像が映り、そこに誰かと戦うサムの姿が現れた。
だが──────
「なぁ、相手はどこにいるんだ?」
「ちょっと待ってろ。たぶんもうすぐ……きたっ!」
サムがウィングパック、通称ファルコンの翼による攻撃を繰り出すと突然スーツを着た人物が現れた。しかもまるで豆粒サイズから巨大化するように……っ!
「もしかして、さっきまでは小さくなっていたのか?」
「ああ、そうだよ」
「サムがおかしくなったのかと思ってた」
映像の中でサムは侵入者に対して善戦をしているが、相手が小さくなった途端に押され気味になっていく。そして相手が消えた基地の中にサムも入っていくが……しばらくすると、勢いよく壁を突き破ってサムが出てきた。
『おいっ!何を、し……うわあああっ!?』
ファルコンから火花が散り、サムは地面へと墜落した。立ち上がって辺りを見渡しているが、あの壊れたファルコンではもう飛べもしないし戦えないだろう。
「……侵入者を目視で確認できたのはここまでだ」
「それで侵入者は何を?」
「いや、それが何かを盗まれたとかの形跡はなくてな……」
……あそこまで小さくなれると、ドアの隙間や小さな穴も通り放題だよな。となると、誰にも気付かれないで何かを盗む事も可能なはずだ。
まさか縮小能力なんて使う奴がいるとは……ん?
「なぁ、サム。侵入者が大きくなった所で映像を停止してくれるか?」
「ああ、分かった」
サムが映像を巻き戻し、侵入者が大きくなった所で停止した。
侵入者が装着しているスーツ……銀色のフルフェイスヘルメット、口元のチューブ、黒と赤のツートンカラー、両手のボタン、ベルトに付いたダイヤル式の装置……そうだ、このスーツは──────
「こいつは、アントマンだ」
「……アントマン?」
「昔、S.H.I.E.L.D.に所属していたエージェントのコードネームらしい。ほとんど情報は残ってなかったが……俺が見たスーツと同じだから間違いないはずだ」
でも……そのエージェントは1989年にS.H.I.E.L.D.を退職したと記録されていた。となればそいつはもう高齢のはずだ。そんな奴がスーツを着て、しかもこんなに戦えるか?
「……もしかして」
そのS.H.I.E.L.D.のエージェント……今どこで何をやってるのか、片っ端から調べてみるか。
「あんたみたいなスーパーヒーローに会えた事は本当に嬉しいよ。でも前科持ちの元電気技師の俺に何の用事が?」
「肩書きはそれだけじゃないだろ、スコット・ラング?」
俺が人気のない喫茶店へ電話で呼び出したのはアントマンについて調べていた際に、ようやく判明した正体であるハンク・ピム──────が、何かと秘密裏に接触していたこの男である。
「ハンク・ピムという名前に聞き覚えは?」
「いや、ないな」
「……本当か?」
「ああ、そんな
……割と簡単に墓穴を掘ったな、こいつ。
「俺は一言も男なんて言ってないが?」
「あ……いや、ほら、だってハンク・ピムなんて名前、男だって思うだろ」
「……そういえば、そいつには息子がいるって話なんだが」
「いや、そいつは嘘だろ。ホープは息子じゃなくてむす……っ!」
これで認めざるを得ないだろう。自身がハンク・ピムと関係を持ってるという事を。
「どうする?もっと大事な墓穴でも掘るか?」
「……いや、やめとく。大事なことばっか話してたらハンクにまた怒られる」
「なら正直に話せ。アントマンってのは知ってるな?」
「ああ……っていうか、やっぱバレてる?」
「お前が二代目って事くらいはな」
監視カメラには映ってなかったがラングはサムに対してヘルメットを開け、顔を見せたらしい。そのおかげで俺が顔写真をサムに見せると、すぐに侵入者の居場所が判明したのだ。
しかし正体を隠しているにも関わらず、素顔を見せるとか……一番やっちゃいけない事だと思うんだが。
「えっと……それで俺ってどうなるのかな……?」
「理由が何にせよ、あんたが基地を襲ったのは当然許される事じゃないが……一つ、条件を呑んでくれれば帳消しにしてやる」
「本当か!?そ、その条件ってのは?」
食いついてきたな。これでこの後の話もスムーズに出来るだろう。
「あんたの力が必要になった時……俺達にその力を貸してくれ」
今回はスコット・ラング/アントマンのシビルウォー参加に繋がる話でした!
今回の章はタイトル通り、シビルウォーに登場する新ヒーローの話です。話はもう一つ残っていますが、どちらを描くかは既に決まっています。