ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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 今回は色々考えて(主に作者のモチベーションアップのため)原作軸(新世界編)の話を少しだけ冒頭に入れこみました。
 若干ズレる可能性もありますが、おおむねこういう風に進んでいくんだな、くらいに受け取ってもらえればと思います。

 それはそれとして、女同士で始まる空前絶後の怪獣大決戦(キャットファイト)、始まります。
 どうなっても知りませぬぞ。


第八十九話:〝ハチノス〟襲撃事件

 空は快晴、流れる風は心地よく、穏やかな空気は傷ついた体を癒すに持って来いな陽気だった。

 不満があるとすれば、自分のサイズにあった部屋がないことだが……世話になっている身でそこまで文句を言うつもりもない。雨風が凌げれば十分だし、今は天気もいいので外にいるのも悪くはない。

 傷が疼く。

 昔やられた傷も、つい先の戦場でつけられた傷も……傷は男の勲章と言うが、多くの兄弟姉妹たちを守れなかった自分には後悔を忘れないためのものでもある。

 

「おーい、調子はどうだ?」

「……ああ、悪くない」

 

 あずき色の短い髪がふわりと揺れる。

 至る所に包帯を巻いた男──シャーロット・カタクリは近付いてくる船医、チョッパーの質問に簡素に答えた。

 頭上には麦わら帽子をかぶった髑髏のマークが掲げられており、船長である麦わら帽子をかぶった男は船の船首の上で暇そうにだらけていた。

 

「包帯を換えよう。傷は……うん。経過は良好だ。順調に回復してるよ」

「……おれは一応、ビッグマム海賊団の将星だ。一時的に共闘関係こそ結んだが、本来は敵だぞ」

「いいんだ。おれも助けてもらったし、四皇の幹部でもルフィが良いって言ったからな!」

「……そうか」

 

 この船に乗ってから、何度か繰り返された問答だった。

 チョッパーは気にすることなく笑って包帯を取り換え、カタクリはされるがままに治療を受けている。

 そこへ、ルフィが腕組みして近付いて来た。

 

「なんだおめー、そんなこと気にしてんのか。おれ達もう友達だろ? 気にすんなよ!」

「友達……?」

「こまけーことは気にすんなって」

 

 「ししし」と陽気に笑うその男の顔を見て、カタクリは悩んでいるのが馬鹿らしくなったのか、口元を緩めて笑みを見せた。

 包帯を換え終わり、チョッパーが医務室に戻ると入れ替わりでゾロとウソップが甲板に出てきた。

 

「だいぶ顔色も良くなったな……まだ礼も言ってなかっただろ。おれ達全員が無事に逃げられたのはアンタとアンタの兄弟のおかげだ。ありがとう」

「ああ、アンタたちが居なけりゃおれ達はとっくに全滅だった!」

 

 ゾロとウソップがカタクリの近くに座り込んで礼を言う。

 先の戦いでは、カタクリとその兄弟たちの助力が無ければ逃げる事すらままならなかった。

 

「ああ──自慢の弟たちだ。生きていれば、いいのだが……」

 

 一緒に逃げることは出来なかった。

 自分たちを逃がすことで精いっぱいで、あの場に残ってカタクリたちを逃がすことだけに専念したからこそ──〝黄昏の海賊団〟から逃げ出すことが出来た。

 あのままでは、間違いなく全滅だったのだから。

 

「この船は〝ワノ国〟へ向かっているんだろう? 黄昏の次の目標は百獣海賊団だ。行けば必ずかち合うが……どうするんだ?」

「進路は変えねェ」

 

 カタクリの疑問に対し、ルフィははっきりと断言する。

 

「おれ達が先に着くだろうから、カイドウを先に倒しちまえばいいだろ?」

「お前な……簡単に言うが、相手は四皇だぞ?」

 

 ルフィの楽観的な言葉にゾロが呆れてため息を零す。

 先の〝黄昏の海賊団〟との戦闘でも全滅しかかったというのに、同格の〝百獣海賊団〟を相手取ることに何故楽観的でいられるのか。

 そこがルフィの良いところだが、悪いところでもある。カタクリは立ち上がり、覇気こそ発していないが強い威圧を持って問いただした。

 

「今、あそこにはママもいるはずだ……それでもやるのか?」

「ああ。おれは絶対に海賊王になる!! 四皇だからって逃げるわけにはいかねェ!!」

「──ふっ……随分な自信だな」

 

 ルフィが自信満々に言うものだから、カタクリも思わず笑みをこぼす。

 これほどまでに真っ直ぐ「海賊王になる」と言う馬鹿を見たのは初めてだ。今まで近くに居なかったタイプだけに、カタクリとしても興味深い。

 威圧を収め、再び船の縁に体を預けた。

 

「だけどよ、〝百獣海賊団〟にもやっぱり〝ハチノス〟にいたオーズよりデカい巨人とか、あの蛇女とか影女とかと同じくらい強い奴らがいるんだろ? 対策練らないとヤバくねェか?」

「〝巨影〟に〝魔眼〟か……影女と呼ぶ奴はわからん。少なくとも〝六人姉妹〟のメンバーではないはずだ」

「小紫もその〝六人姉妹〟の一人なのか?」

「そのはずだ……〝百獣海賊団〟に居るか居ないかで言えば、居る。〝災害〟と称される三人の実力者がな」

 

 その下に〝飛び六胞〟という六人の集団もいるが、カタクリは実力では〝災害〟──正式名称を〝大看板〟──と呼ぶ三人の方が近いだろうと考えていた。

 実際に対峙してみたからこそわかるが、自分にも引けを取らない実力者ばかりだった。〝黄昏の海賊団〟がこの海の覇権を握る日も遠くはないと感じるくらいに。

 ウソップは身震いしながら「あれと同じくらい強いのがいるのか……」と情けない顔をしていた。

 

「ジンベエも入ったし、強い奴はルフィやジンベエに任せよう!」

「おうとも、存分に任せてくれ! わしもルフィのためなら力の限りに戦おう!!」

「頼もしいぜ、ジンベエ親分!! 援護は任せろ!!」

 

 舵輪を操作するジンベエは笑いながら力こぶを作り、ウソップは囃し立てるように指笛を鳴らす。

 

「〝巨影〟と〝魔眼〟は昔からいる。何度もうちとぶつかったからな……残りの四人はあまり表に出てこないから情報は少ない」

 

 そもそもからして、〝六人姉妹〟という枠組みそのものが近年作られたものだ。カナタ直属の部下、〝戦乙女(ワルキューレ)〟の中でも取り分け実力の高い六人を選んだだけの集団だが、その強さは目を見張る。

 ビッグマム海賊団の将星、百獣海賊団の大看板と同格の強さを持つ女が少なくとも六人。

 加えて同格の〝騎士〟と称される男たちが数名。

 それにカナタの副官が二人……層の厚さで言えば他の四皇を遥かにしのぐ。

 

「白ひげ海賊団の〝火拳〟と引き分けたという噂もある。あの中の誰が()()なのかはわからないが、全員がほぼ同格と考えておいた方がいい」

「エースと? そりゃスゲェな……」

 

 ルフィが目を丸くして驚く。

 白ひげ海賊団で隊長を務めるエースと同格の強さがある、というのは一般的にかなりの強さを持つ。ルフィの知るエースは負けなしの男だったし、それと引き分けられる女がいるというのは口をあんぐりと開けて驚くに値する衝撃だった。

 

「今回逃げられたのは〝黄昏〟の幹部のほとんどが居なかったからだ。〝魔女〟の副官二人がどちらもいなかったから逃げることが出来た……おれが負けた相手がいなかったのは大きい」

 

 意識せず、カタクリは左目に付けられた三本の傷を撫でる。

 ゾロはそれに気付き、「その傷をつけた相手か」と問う。

 

「これはまた別だ。昔……〝黒ひげ〟に付けられた傷でな」

 

 随分昔……二十年以上前、大海賊時代が始まる前の最大の抗争時に付けられた傷だ。カタクリが負けた相手はまた別にいる。

 油断は無かったし、誰が相手でも負けるつもりは無かった。

 だが、ティーチの強さはカタクリの想像を遥かに超えていた──子供だとしても、脅威を抱くほどに。

 

 

        ☆

 

 〝新世界〟──海賊島〝ハチノス〟

 黄昏の海賊団が拠点とするこの島を、今ビッグマム海賊団の艦隊が取り囲んでいた。

 傘下の海賊、そしてリンリンの子供たちが乗り込んだ何十隻もの海賊船。姿だけ見れば非常に威圧感がある。

 世界でも有数の大海賊を相手にするとあって緊張する部下たちを尻目に、カナタたちは気負う様子もなく普段通りに軽口を飛ばす。

 

「エルバフの村にも連絡を入れておけ。リンリンを討つ機会を伝えなかったと知られると、連中がヘソを曲げるかもしれないからな」

「ワハハハハ! そいつは確かに困るな!」

「数は多いが、迎撃の準備は万端だ。いつでもいけるぜ」

 

 ハチノスの外縁部には城塞が建てられている。

 大砲もかなりの数を用意し、港も軍港として改装していた。完全に戦うための拠点である。

 滅多に攻めてくる敵もいない上、いても大したことがない敵ばかりだったので今回が初の防衛戦だ。存分に力を振るえるとあって、やる気が出ているものも多い。

 十分に近付いて来たのを確認してから動くことになるので今のところは暇だが、ビッグマム海賊団の包囲網は着実に狭まっている。

 

「……そろそろいいんじゃねェか? まだか?」

「慌てんなよスコッチ。もう少し近づけてから──」

「発射だァー!!」

 

 スコッチとジョルジュが慎重に距離を測りながら待っていると、先走ったサミュエルが大砲を発射した。

 

「うおおおおお!!? 何してんだアホォ!!」

 

 案の定というべきか、適当に撃ったので敵船の手前に着弾している。

 今の一発で正確な距離は測れたが、それにしたっていくら何でも先走りし過ぎである。

 サミュエルに対してチョークスリーパーを決めながら、スコッチは「このバカ野郎!」と罵倒していた。

 一方でビッグマム海賊団も、今の砲撃に触発されたのかどんどん撃ち返してきている。

 

「ええいもう関係ねェ! こっちもどんどん撃ち返せ!!」

 

 サミュエルを放り投げ、敵艦を指さしてスコッチが砲撃の号令をかける。

 一斉に放たれた砲撃は放物線を描いて空を飛び、敵艦の船員に弾かれていた。

 

「やっぱ普通の大砲じゃ効かねェなァ」

「デイビットはどこに行った?」

「あいつは別方面だ。仕方ねェ……俺が一肌脱いでやるよ」

 

 腕まくりをしたスコッチが砲弾をぺたぺたと触り、それをどんどん大砲にこめさせて砲撃の合図を待つ。

 あらかた準備を終え、だいぶ近付いて来ている敵艦に向けて再び砲撃の号令をかけた。

 

「モアモア百倍砲弾を食らえ、クソッタレのビッグマム海賊団!!」

 

 飛んでいく途中で砲弾が膨張し、凄まじい大きさになって敵艦へと降り注ぐ。流石にこれには対応出来ないのか、大砲の弾が着弾するごとに敵艦が爆発して炎上していた。

 スコッチはガッツポーズをして、炎上して沈んでいく敵艦を前に大笑いする。

 

「ワッハッハッハッハ!! 気分が良いぜ!」

「あとは近付く奴から順に沈めれば……あん?」

 

 ジョルジュが双眼鏡で確認していると、〝ハチノス〟を中心に海が凍っていく。カナタの仕業だろう。先程まで近くにいたはずだが、一人で動いていたらしい。

 敵艦は凍った海の中で動くことも出来ずに砲撃の的となり、次々に沈められている。

 一見すればこちらが優勢だが、ジョルジュは妙な胸騒ぎがしていた。

 いくら防衛戦でこちらが有利と言っても限度がある。ましてや相手はこの広い海の中でも上位に位置する海賊団。無策で突っ込んでくるだけの猪ではない。

 

「……嫌な予感がするな」

 

 カナタも同じように考えたから動いたのか。

 上機嫌で船を沈め続けるスコッチに「ここは任せる」とだけ告げ、自分は城塞から離れる。

 内部には非戦闘員を集めたシェルターがある。城塞を突破されない限りは被害を受けない場所だが……ジョルジュは自分の勘に従ってそちらへと向かった。

 

 

        ☆

 

 

 シェルター内部。

 〝ハチノス〟にある建物の中でも特に堅固に作られている建物だが、外からの衝撃に強い分内部に侵入されると弱いという弱点もあった。

 無論、外にはカナタを始めとした多くの実力者がいる。ここまで忍び込むのは容易ではない。

 だが、世の中には常識を覆す存在──悪魔の実も存在する。

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「──こいつら、どこから入って来やがったァ!!」

 

 手長族のコックが剛腕を振るって敵を殴り倒す。

 それなりに長いことコックを務める男だが、いざという時のために多少は体を鍛えている。易々とやられる男ではない。

 非戦闘員も軽く運動できるくらいには鍛えられているので、何も出来ずに殺されることはない……が、この男に限って言えばそれだけで説明がつかないくらい普通に強かった。

 リンリンが能力によって生み出した、動くチェスの駒──チェス戎兵と呼ばれる戦闘員を一人で軒並み倒している。

 

「鏡だ! こいつら、鏡の中から出てきてやがる!!」

 

 誰かが大声で鏡から敵が出てきていると叫び、それが事実だと指し示すようにぞろぞろと鏡の中からチェス戎兵が現れていた。

 数が多い。いくら何でも一人で倒せる数ではない。

 

「鏡を割れ! 奴らの出入り口を塞ぐんだ!!」

「む、無理だ! あいつらどんどん湧き出てきて……」

「やらなきゃこっちがやられるだろうがよ!」

 

 迫るチェス戎兵を再び殴り倒し、男は長い腕をボクシングスタイルに構えて次に備える。

 せめて助けを呼んでくるまでの間は自分が、と──そう考えていた最中、ジョルジュが現れた。

 

「……! 嫌な予感がしていたが、こうなってたか……!」

「ジョルジュさん! 良かった、このまま敵であふれかえったらどうしようかと!」

「鏡の中から敵が出てきてる! あれをどうにかしねェとジリ貧だ!」

「鏡の中から敵だァ!? どういうことだ! そういう能力者か!?」

 

 剣を片手に乗り込んだジョルジュは、次々に現れるチェス戎兵を斬り捨てて設置された鏡へと近付く。

 よくよく見てみれば、鏡に自分の姿が映らず何か別の風景が見えている。鏡の中に別の空間が出来ている、というべきか。

 そういう特殊な能力者なのだろう。

 

「厄介な……!」

 

 何を置いてもまず最初に鏡を叩き割る。

 他にも何ヶ所か出入り口として使っているようで、こちらに意識が向いていなかったのが良かった。

 ジョルジュは即座に鏡を叩き割って出入り口を潰し、幹部たち全員が持っている子電伝虫を使って連絡を入れる。

 

「全員、鏡に気を付けろ! 敵の能力者は鏡を伝って〝ハチノス〟内部に侵入してきてる!」

 

 島中を一斉に点検する必要がある。

 非戦闘員もそれなりに多い海賊団だ。城塞で囲んで守りに入れば落とされることはないと踏んでいたが、こうして侵入されるのは想定外だった。

 カナタはリンリンの相手で手一杯だろう。それ以外の部分では自分たちで何とかしなくてはならない。

 

「敵の幹部も侵入して来てるかもしれねェ!! 情報は逐一報告しろ!!」

 

 

        ☆

 

 

「ウィッウィッウィッウィッ! 混乱してるねェ! ホーミーズに兄さん姉さん、うちの主戦力が敵のど真ん中に現れるとあっちゃあ当然か」

 

 鏡の中の世界──鏡世界(ミラーワールド)と呼ばれる世界で、リンリンの娘の一人であるブリュレは笑っていた。

 悪魔の実の能力は時に常軌を逸するが、ブリュレの食べたミラミラの実は一際異質だ。

 鏡の中にある異世界を通り、移動することが出来る能力。どれほど堅牢な城であろうとも人が通れるサイズの鏡さえあれば侵入は容易く、次々に増援を送り込むことが出来、またいざという時には撤退することも出来る。

 総勢一万を超える軍隊を鏡世界(ミラーワールド)に抱え、いくつかの出入り口からチェス戎兵やリンリンに(ソウル)を与えられた怪物──ホーミーズたちを次々に送り出していた。

 

「雑兵はホーミーズでいいが、敵の幹部は手強い。ぺロス兄、どうする?」

「そうだな……連中の強さはわかってる。なるべく複数で囲んで叩け。特に〝六合大槍〟〝赤鹿毛〟〝巨影〟には気を付けろ」

 

 ペロスペローは前回戦った時、ジュンシーに痛い目にあわされている。あの頃より強くなっているが、敵も強くなっていると考えるとあまり相手はしたくない。

 なるべく複数人で倒すのがいいだろう。

 海賊同士の戦いだ。卑怯も何もない。

 

「非戦闘員を人質にとれるならそれも良し。なるべく正面から戦わないようにしろ。ペロリン」

「……そうだな」

 

 カタクリも前回の戦いでカナタに敗北を喫している。

 リベンジマッチに挑みたいところだが、カナタの相手はリンリンがする。あの二人の戦いに割り込むほど命知らずでは無かった。

 それに、重要な橋頭保の役割を果たすブリュレの護衛をする意味合いもある。

 リンリンの子供たちは総じて強いが、カタクリはその中でも頭一つ抜けている。敵の幹部にぶつけるのが良いのかもしれないが、ペロスペローは安全策をこそ選んだ。

 そして、カタクリもペロスペローを信頼しているがゆえにその判断には異を唱えない。

 

「む」

 

 ガシャン、と。

 チェス戎兵たちが乗り込んでいた鏡の一つが割られた。敵が感づいたのだろう。

 ペロスペローとカタクリは互いに顔を見合わせ、一つ頷いた。

 

「ホーミーズと一緒におれ達も出るぞ。ついてこい、ペロリン♪」

 

 オーブン、ダイフク、コンポート、アマンド、クラッカー──それ以外にも多くの兄弟姉妹。錚々たる面々が顔を引き締め、ペロスペローの後に続く。

 この先は死地だ。いかにビッグマム海賊団が強大とて、一つ間違えば全滅しかねないほどの魔境。

 傘下の海賊たちが外から攻め、リンリンの子供たちが鏡の世界を通って内側を崩す。悪魔の実の能力を使った、これ以上ない奇襲作戦だった。

 鏡を抜けた先に在ったのは、どこか少女趣味を思わせる部屋だった。姿見鏡から出てきたが、人が使うにはいささか大きすぎる──恐らくは巨人族のものだろうと判断し。

 部屋の外へと出て行ったホーミーズの後ろに続いてみれば……そこには、大量に倒れ伏したホーミーズの姿があった。

 

「ほう、ようやく幹部のお出ましか。雑魚ばかり寄越すものだから出てこないのかと思ったぞ」

「流石に無策で来ることはないでしょう。彼らも馬鹿ではないですしね。ヒヒン」

 

 呵々と笑う赤髪の男。そして、馬のようなケンタウロスのような不思議な姿の男がそこにいた。

 

「〝六合大槍〟に〝赤鹿毛〟か……一番会いたくない二人といの一番に会うとはな」

「くはははは。随分嫌われたものだな、儂は少しくらい強くなったお主等と戦うのを楽しみにしていたのだが」

 

 嫌な顔をするペロスペローに対し、ジュンシーは長槍を持ったまま笑う。

 どちらにしてもどこかでかち合う可能性は常にあった。ここで出会ったのを幸運と考えるべきだ。

 

「こいつらの相手は数人がかりで行く。コンポート、ダイフク、手伝え」

「任せな」

「おう、何時でもやれるぜ、ぺロス兄」

「別動隊はオーブンに任せる。熱くなりすぎるなよ」

「わかってらァ」

 

 ホーミーズを連れてオーブンたちが別の方向に移動し始め、ペロスペローはジュンシーとゼンを相手に油断なく構える。

 数の上で勝っていても、黄昏にいる幹部は誰もが強力だ。油断できる相手では無い。

 

「今回は遊びは無しです。油断なさらぬよう」

「わかっている。だが、血が滾るのは抑えられん」

 

 ──ジュンシー、ゼン対ペロスペロー、コンポート、ダイフク。

 幹部同士の直接対決が勃発した。

 

 

        ☆

 

 

 氷の大地を悠然と歩く。

 時折飛んでくる砲弾も槍の穂先で撫でるように弾き、カナタの体には一切傷がない。

 

「──外縁部にいる敵はフェイユンに任せる。しばらく港が使えなくなるが、広範囲を凍らせた。常駐していた巨人族たちも出してやれ」

『りょーかい、んじゃまァ好きに暴れてもらうとするか。ヒヒヒ』

 

 子電伝虫でつないだ先では、クロがあちらこちらに連絡を入れていた。

 巨人族の船員は何人かおり、フェイユンと同様に島の内部で戦うには些か狭すぎると判断して待機させていたのだ。

 氷の大地の上でならそれも関係ない。

 

「……来たか」

 

 普通の巨人族のおよそ十倍近い巨体が視界に入る。

 覇気を使いこなし、その巨体で持って軍艦すら容易く投げ飛ばす幹部──〝巨影〟フェイユン。

 足元には巨人族が何人かおり、カナタの部下になる代わりに手に入れた悪魔の実の能力を既に使用している者もいた。

 カナタが海を凍らせて船が止まり、氷の大地の上をかけてくるビッグマム海賊団傘下の海賊たち。彼らの掃除は巨人族に任せるとして……カナタの目的は最初から一つ。

 

「出て来い、リンリン。わざわざ出向いてやったのだ、顔くらい見せたらどうだ?」

 

 クイーン・ママ・シャンテ号。

 リンリンが乗る母船だ。どうやってか知らないが、敵の島の内部への侵入を許したようだが……それでもなお、船にはそれなりの数の敵がいる。

 もっとも、リンリン以外はカナタと釣り合う実力者もいない。余程の命知らずでもなければ出てこないだろう。

 

「ママハハハ……! 随分生意気な口を利くようになったもんだねェ。小娘が……!」

「そうやってシキも私を小娘扱いしたが、ついぞこのか細い首一つ取れずじまいだった。()()()()()()()

 

 ミシミシと互いが放出する覇気で船が軋む。

 船を傷つけるのは本意ではないのか、リンリンは自身の魂を与えたホーミーズ──ゼウスに乗って船を降りる。

 氷の大地に降り立ったリンリンは、カナタと比べてかなりの巨体だった。

 身長は九メートル近くまで達し、従えるゼウスとプロメテウスの威容もあって更に巨大に見える。

 対するカナタは僅か160ばかりの身長で、同じ人族の中でも小柄な部類に入る。吹けば飛ぶような華奢さと発する覇気の強烈さがアンバランスな印象を与えていた。

 

「その首、引き千切って晒してやるよ!!」

「やってみろ──出来るものならな」

 

 リンリンの手には〝二角帽ナポレオン〟があり、変形して武器になっている。

 ゼウスとプロメテウスも臨戦態勢で準備しており、リンリンの怒りのボルテージが上がるごとに天候も荒れていく。

 

「どうやったか知らねェが、巨人族とまで仲良くなりやがって……!! そのムカつく面、今度こそぶっ潰してやるよ!!!

 

 ナポレオンに覇気を纏わせ、リンリンは怒りのままに刃を振るう。

 

「つまらん八つ当たりだな。私もいい加減お前たちとの関係を終わらせたい──ビッグマム海賊団は、今日で終わりだ!!!

 

 銘無き無骨な槍に覇気を纏わせ、カナタは力の限りに刃を振るう。

 ──そして、世界に激震が走った。

 


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