ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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明けましておめでとうございます。
今年も本作をよろしくお願いします。


大海賊時代/insane dream
第九十三話:時代の変革


 ──受け継がれる意志、時代のうねり、人の夢……これらは止めることの出来ないものだ。

 人々が〝自由〟の答えを求める限り、それらは決して留まることはない。

 〝海賊王〟ゴールド・ロジャーが残したもの。

 あるかどうかもわからない〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟に夢を見て、誰もが〝偉大なる航路(グランドライン)〟を目指す。

 

 ──世はまさに、大海賊時代。

 

 

        ☆

 

 〝海賊王〟ゴールド・ロジャーの処刑。

 これによって世界中の多くの海賊たちの心を折るつもりだった海軍だが、目論見は外れ……今や世界中の海で発生した多くの海賊たちの対処に手を割かれていた。

 世界のどこかに置いてきたという〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟を探すために海賊になりたがる者は多く、世界は大きく変わった。

 海軍はもちろん、以前から海賊をやっていた者たちも同様に。

 同時にロジャーの処刑の際、海軍本部へと単身で乗り込んだ〝金獅子〟のシキが残した影響もまた大きい。

 ガープ、センゴク両名と戦闘し、最終的に〝海底監獄〟インペルダウンへと幽閉されたが、残された海賊艦隊とナワバリは当然ながらそのままだ。

 言うまでもなく、シキのいない〝金獅子海賊団〟など同格以上の海賊たちから見れば数だけの存在でしかない。

 〝ビッグマム海賊団〟と〝黄昏の海賊団〟が競うように〝金獅子海賊団〟のナワバリを奪い、邪魔をする海賊たちは全て海の藻屑へと変えられた。

 〝白ひげ海賊団〟は海が荒れた状態を嫌い、いくつかの島をナワバリとして君臨し。

 〝百獣海賊団〟はその武力でナワバリを食い荒らす。

 ぶつかればただでは済まないと互いに思っているニューゲートはともかく、それ以外の海賊たちとカナタは積極的に闘争するくらい仲が悪い。武力衝突以外の解決策などなかった。

 

「ん~~~~、成果は中々。悪くねェな」

「〝白ひげ〟とだけ衝突を避けてりゃいいからな。カナタの奴はナワバリの拡大には消極的だが……」

 

 ──〝暴風〟スコッチ。懸賞金1億3500万ベリー。

 ──〝夕凪〟ジョルジュ。懸賞金1億2000万ベリー。

 二人はシキのナワバリだった島を襲い、守っていた海賊たちを沈めていた。島ごと傘下に治めてしまえば他の海賊たちも迂闊には手が出せないので、島の者たちからすれば今までと生活はそう変わりはしない。

 海軍の力がそれほど影響しない〝新世界〟ならではの状況と言える。

 デイビットやサミュエルは生き残りの海賊がいないか探して回っているところだが、カナタはナワバリを増やすことに乗り気ではないとジョルジュは言う。

 

「ナワバリが増えりゃ、おれ達の力の影響は増えるだろ? なんで嫌がるんだよ」

「バカ、ナワバリだけ増やしたって維持コストがかかるってんだよ。特におれ達は商売がメインだからな」

 

 海賊にとってナワバリの広さは力の強さを示すものだが、実利的に考えると広すぎるナワバリは維持コストが高い。

 この場合の維持コストというのは財政ではなく人手だ。

 金は最低限徴集すれば賄えるが、ちょっかいを出す海賊を退けるにはそれなりの強さの人員が要る。

 略奪ではなく商売をすることで財政を維持しているカナタからすれば、人手が取られるのは痛い。

 

「人手か……中々増えねェもんだからな」

 

 傘下の海賊を増やしたところで、元が海賊なので取引が出来る者は多くない。この辺りは悩みどころだった。

 金獅子傘下の海賊たちを寝返らせたところで、使い物になるかといえば否だろう。そもそも勢力圏で言えばカナタは十分な広さを持っている。現状は金獅子海賊団の掃除をしているに等しい。

 メリットは海賊たちから物資の略奪が出来るくらいで、実入りはほとんどないと言っていい。

 それでも地道に潰しているのは万が一のことを考えてだ。

 

「出てこねェとは思うが、万が一シキがインペルダウンから出てきたときのためにも……しっかり芽は摘んでおかねェとな」

 

 シキほどの強さを持つこと──それに、その能力を考えればインペルダウンから抜け出す可能性は決してゼロではない。

 今後再び台頭してこないように、念入りに芽を摘んでおくのが最良だ。

 

 

        ☆

 

 

 ぐしゃり、と巨大なガレオン船が踏み潰される。

 帆に描かれた金獅子海賊団の髑髏は無惨にも海の藻屑となって沈んでいく。

 抵抗は空しく、突き立てた武器は容易く弾かれ空を舞う。

 

「次は誰ですか? まとめて潰してあげます」

 

 ──〝巨影〟のフェイユン、懸賞金7億8000万ベリー。

 普通の巨人族のおよそ十倍まで巨大化出来る彼女からすれば、有象無象の敵など歯牙にもかけない。多少懸賞金が掛けられている程度では傷一つ付けることすら叶わない。

 カナタの部下の中で、恐らくは()()()()()()()()()()()()()()が彼女だった。

 

「フェイユン、そこニョ奴らで終わりじゃ! 片付け終わったら昼食じゃぞ!」

 

 ──〝天蓋〟のグロリオーサ。懸賞金1億8800万ベリー。

 グロリオーサの後ろにはいくつもの石像があり、今にも動き出しそうなほど精巧だった。それを作り出した張本人は特に怪我もなく、沈んでいく船を一瞥する。

 

「存外、強くもありませんでしたね」

 

 ──〝魔眼〟カイエ。懸賞金6600万ベリー。

 長く伸びた紫色の髪を後ろで縛り、邪魔にならないように纏めていた。

 グロリオーサもいくらか髪に白いものが交じっているので、そろそろ引退を考え始めているところだった。まだしばらく若い者には負けんと気合を入れているが。

 三人で十隻近い海賊船を沈め、金獅子のナワバリの島を制圧していた。

 金獅子海賊団の幹部である三人の〝大都督〟もいないとわかっていればこんなものだろう。

 三人は港から引き上げ、制圧した島へと戻る。

 

「お腹が減りました……」

「あれだけ暴れれば空腹にもなろうて。心配せずとも食料は潤沢じゃ」

 

 十隻近い船のほとんどはフェイユンが一人で制圧している。

 流石に金獅子海賊団ともなれば、下っ端の戦闘員もそれなりに強いが……フェイユンを相手に多少強いという程度では手も足も出ない。

 瞬く間に殲滅されていく金獅子海賊団の取りこぼしをグロリオーサとカイエで始末するだけの簡単な仕事だった。

 

「しかし、金獅子海賊団の幹部たちが行方知れずとはどういうことでしょうか」

「この辺りニョ島はそれほど重要な拠点ではない……というだけでは無かろうな」

 

 明確な目的をもって動いている。

 シキがいずれインペルダウンから出てくることを見越して、最低限の人員を逃がしているのか……あるいはシキを取り戻すためにインペルダウンへ強襲するための戦力を集めているのか。

 何にしても、グロリオーサたちがやることは変わらない。

 

「ここが終わったらまた別の島ですか?」

「そうじゃのう……もう少しニョ間は忙しかろうな」

 

 フェイユンはふんすと力を入れ、「がんばります!」と気合を入れなおしていた。

 金獅子海賊団の完全壊滅までにはまだ時間がかかるだろう。それだけ巨大な組織だったし、リンリンやカイドウも動いているので状況はより複雑化している。

 ロジャーの処刑に合わせて海賊そのものが激増したこともあり、しばらくはこのままだろうとグロリオーサは考えていた。

 

 

        ☆

 

 

 覇気を纏った拳が空気を切り裂き、強烈な痛打を与える。

 僅か一撃で敵は沈み、その後も次々と敵を拳の一撃で倒していく。

 その拳に二の打ち要らず──この程度の実力で〝ハチノス〟に攻め込んでくるなど、笑い話としてもタチが悪い。

 ロジャーの処刑以降、この手の輩も随分と増えた。身の程知らずの実力不足……宝を探すためだけに海賊になった、新参者たち。

 

「つまらんな。この程度で挑むか」

 

 ──〝六合大槍〟ジュンシー、懸賞金8億8000万ベリー。

 

「我々に挑むというなら、もう少し鍛えてからにしていただきたいものですね! ヒヒン!」

 

 ──〝赤鹿毛〟ゼン、懸賞金8億ベリー。

 〝ハチノス〟防衛のために残った二人はと言えば、ロジャー処刑以降に激増した海賊たちの相手をしていた。

 海賊になったばかりの新参者であり、実力も相応程度にしかない。

 〝新世界〟は広い海の中で最も強者の集まる海。生半可な実力で挑んだところで、大半が海の藻屑になるだけだ。

 無論、その中でも見込みのある海賊もいるのだが。

 

「先日のクロコダイルとかいう小僧はまだ骨があったが、こやつらは駄目だな」

 

 何が目的だったのかは不明だが、先日攻め込んできたクロコダイルという男はそれなりに強かった。

 ジュンシーやゼンに敵うほどではないが、自然系(ロギア)の能力者ならまだ伸びしろはある。もう少し歯応えが出てくると良いが、とジュンシーは期待しているところだ。

 相手もこちらを測るような様子だったこともあり、恐らくは威力偵察のつもりだったのだろうと判断している。

 仕留めきれなかったのは事実なので報告だけは上げておくが。

 

「流石に〝新世界〟まで辿り着いた海賊ですから、有象無象と言うほどではありませんが……この程度なら掃いて捨てる程いますからね」

「全くだ。儂らが出るまでも無かったのではないか?」

「今は皆さん、あちこちに出かけていて人手が足りていませんからね。仕方ないと言う他に無いでしょう」

 

 残党は部下たちが片付けており、懸賞金のかかった者だけはあとでブローカーを通じて換金する予定だ。

 海賊が激増して賞金稼ぎもある程度は増えたため、余程の金額でもなければ海軍に怪しまれることはない。定期的にブローカーを変えて顔を覚えられることも避けている。

 これだけやってもバレるときはバレるが、賞金額が大したことはないのでカナタ達からすれば小遣い稼ぎのようなものだった。

 

「これなら儂も金獅子海賊団を追う方に回れば良かったかもしれんな」

「同感ですが、流石に防衛に手を抜くわけにもいきませんからね」

 

 ジュンシーはアプスに、ゼンはレランパーゴにそれぞれ借りがある。以前戦った時は決着をつけられなかったので、今回の掃討戦で勝負をつけたいところだったが……リュシアンも含める大都督の三人は現在行方知れずだった。

 幹部以外を相手にしても仕方がないと残った二人だったが、鍛錬に時間を当てられると思いきや頻繁に海賊が来るのでその時間もあまり取れていない。

 これで襲ってくる海賊が骨のある輩ならまだ良かったのだが……。

 

「商船の護衛を増やした方がいいかもしれんな。状況が落ち着くまでしばらく時間がかかるだろう」

「また人手不足が加速しますね……カナタさんも頭が痛いと言っていましたし」

 

 戦闘員を鍛えるのはゼンとジュンシーの仕事なので、こちらもやることが増える。

 時代は変わったが、良いことばかりではない。

 

 

        ☆

 

 

 各地でビッグマム海賊団や百獣海賊団と小競り合いを起こしつつ、カナタは大都督の三人の足取りを掴んで追い詰めていた。

 金獅子海賊団の勢力は最早風前の灯火。完全壊滅まで時間の問題だろう。

 とは言え、大都督の三人はジュンシー達では手に余る可能性を考え、カナタは自分で動くことにしていた。

 〝黒縛〟アプス。

 〝白獣〟レランパーゴ。

 〝赤砲〟リュシアン。

 全員が高額の賞金首だ。実力も他の海賊団の幹部たちに見劣りしない。

 

「以前に会ったのはモベジュムール海域での一戦か。元気そうで何より」

「……戯言を。僕らを追い詰めておきながらそんな言葉を吐くとはね」

「何もお前たちを殺そうという訳ではないからな」

 

 凍り付いた海の上で、カナタは笑って戦闘態勢を解いている。

 カナタの船はやや遠い距離にあり、金獅子海賊団の髑髏を掲げた船はおよそ五隻。全盛期にはかなりの数だった艦隊が、今やこれだけと思うと感慨深いものがある。

 追い詰めた側のカナタが言う事では無いが。

 

「私の部下になる気は無いか?」

「……なんだって?」

 

 アプスが思わず眉を顰めて聞き返した。

 今まで敵だったアプス達を部下にしたいと勧誘する。正気かと思ったが、カナタの問いかけには嘘が感じられない。

 この女、本気で勧誘している──。

 

「シキはインペルダウンに入った。築き上げた組織も今や潰れかけ……お前たち程の実力者であればシキの下から足抜けして別の組織に移ることも出来よう」

 

 もっとも、仁義が命の海賊稼業だ。白い目で見られることもあるだろうが……所属を変えることはないわけでは無い。

 盃を返すべき相手が今はいないので自己満足の範囲ではあるが。

 

「それで僕らを部下にしたいって?」

「生憎、おれはお断りだな」

 

 リュシアンは「お断りだ」と断言した。

 永遠に勝ち続けることはないとわかっていた。人生とはそういうものだ。

 だが、その後で生き残り、這いずってでも生き延びて再び立ち上がる。その後はまた、勝利を目指して邁進するのみ。

 彼はそうやって生きてきた。かつて祖国──とある戦争の終わらない国で、政争相手に負けて落ち延びた時のように。

 もっとも、祖国も祖国と戦争をしていた国も、既に纏めて滅んでしまったようだが。

 

「そうか……それは残念だ」

「──ガァァァッ!!」

 

 残念そうな顔のまま槍を構えると、カナタが動く前にレランパーゴが動いた。

 動物(ゾオン)系……それも恐らくは幻獣種に当たる能力者だ。身体能力の向上は著しく、元より覇気の練度も高い。

 カナタ相手でも僅かながら時間稼ぎが可能なほどに。

 

「僕とレラで抑える。あとは予定通りに、だね」

「ああ……すまんな」

「謝る必要は無い。僕らは僕らにやれることをやるだけさ」

 

 船から降りて動きを止めていた氷を砕く。船の周りさえ破壊してしまえば、あとはリュシアンの能力で氷を壊して移動できる。

 相手はカナタ一人だが、アプスとレランパーゴ二人がかりでも時間稼ぎが精一杯だろうという自覚はあった。

 シキの参謀であるDr.インディゴをここで捕らえられるわけにはいかない。

 アプスはレランパーゴに続いてカナタへ接近し、両腕から鎖を出して捕えにかかった。

 

「どうしても逃がしたい相手がいると見える──構わないとも、逃げたければ逃げれば良い。〝金獅子〟自慢の艦隊は既に壊滅状態。一人二人逃がしたところで大きな影響はない」

 

 カナタは槍を氷の大地に突き刺し、無手で迎え撃つ。

 至近距離で二本の戦斧を振り回すレランパーゴは、どれだけ相手の動きを読んで攻撃しても一撃も当たらず、一瞬で懐に入りこまれて覇気を纏った拳を数発撃ち込まれる。

 体内に浸透する衝撃波は内臓に直接ダメージを与え、殺傷性は無くとも呼吸が止まって動くこともままならない状態に陥った。

 〝錐〟のチンジャオが扱う〝八衝拳〟の極意を利用したものだ。

 武装色の覇気の扱いも卓越しているが、それを自在に使いこなす武術もまたカナタの強みの一つ。

 

「まず一人」

「くっ──!」

 

 動きの止まったレランパーゴから離れ、アプスへと視線を向ける。

 アプスは即座に距離を取り、覚醒した能力を用いてあらゆる場所から生成した鎖をカナタへと向かわせた。

 

「能力の〝覚醒〟か」

 

 そこまで辿り着ける能力者も決して多くはない。希少な存在だ。

 カナタは無数に迫りくる鎖をすり抜けるように避け、傷一つなくアプスの前まで移動する。

 

「こ、の──化け物め……!!」

「心外だな。()()()()()()()だろう」

 

 カナタにとって、槍とは即ち手足の延長である。

 リーチが多少短くなったところで、基礎的な力が変わるわけでは無い。

 武器を持たずとも覇気を纏えば強度は十分。アプスが咄嗟に防御に回した鎖の上から拳で叩き、衝撃は鎖を貫通してアプスを吹き飛ばした。

 血反吐を吐いて氷の大地を滑り、なんとか体勢を立て直してカナタを睨みつける。

 口の中の血を吐き出し、即座に正面から襲い掛かった。

 同時に、動けるようになったレランパーゴが背後から二本の戦斧を振り下ろし──二人は同時に、カナタの手によって凍結された。

 

「未熟」

 

  ──〝竜殺しの魔女〟カナタ、懸賞金28億9000万ベリー。

 

「シキの幹部と言えども、この程度か」

 

 カナタは凍結した二人の間に立ったまま、遠くへと逃げる一隻の船を見る。

 周りの船は既に制圧にかかっている。そう時間はかからないだろう。

 リュシアンとDr.インディゴをどうすべきか思案し……今回は見逃すことにした。

 事ここに至っては何が出来るでもない。少しだけ仕込みをして、万が一の可能性を考えた策を仕掛けるだけに留めておく。

 

「……あとはリンリンとカイドウ、それにニューゲートか」

 

 最近はリンリンと小競り合いを起こすことが多い。一息に潰してしまいたいが、カナタとリンリンが衝突すれば様々なところで影響が出る。

 ニューゲートは素知らぬふりをするだろうが海軍は勢力が減じたところに来る可能性もある。

 今のところはロジャー処刑以降に山ほど増えた海賊を掃除しつつ、カナタの勢力圏内だけでも経済を安定化させることを優先すべきと考えていた。

 一、二年は混乱が続くだろう。

 博打を打つには、時期が悪い。

 

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