ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第九話:襲撃

 

 天気明朗なれど波高し。風は強く、大きく煽られたように船が揺れる。

 予定通り花ノ国へと出発し、道中特に問題なく航行している。

 邪魔が入るかと思えばそうでもなく、問題といえば──。

 

「カナタはどこだ?」

あっち(・・・)っス」

「……厚手の布を縫い合わせて、有り合わせで防寒具を作っただけで随分と懐かれたものだな」

「まァしょうがないんじゃ無いっスかね。聞けば今までずっと、誰かにやさしくして貰えなかったって話だったっスから」

 

 涙なしには語れない話っスよね。という部下の言葉にジュンシーはため息をつく。

 巨人の少女、フェイユンのために町中の布を買い漁って不格好なコートをカナタが作った。それが随分と気に入ったのか、あるいは作ってくれたこと(・・・・・・・・)自体が嬉しかったのか、フェイユンはカナタの傍にずっといるようだった。本当に有り合わせで一日ちょっとくらいで作ったものなのだが、それすら気にならないらしい。

 別にカナタたちが普段使っている船でもフェイユンは十分乗れるのだが、積荷の関係で積載量を増やしたくないという理由もあり、カナタがフェイユンたちの方の船に乗っていた。

 護衛としてはどちらの船に乗っていても問題ないが、とジュンシーが考える横でジョルジュが口を開く。

 

「しかし、俺たちまでついてきてよかったのか? 事務所空っぽだぜ?」

「仕方あるまい。あのまま残したところで厄介事が増えるだけだと彼女が判断したのだ」

「狙われると厄介だからなァ……護衛っつってもクロの野郎は当てにならねェし」

「覇気を扱えればよかったのだが、あやつは才能がないからな」

 

 カナタが拾ってきてから同じように訓練したが、ついぞ覇気を宿すことが出来なかった。その手の才能が皆無なのだろう。

 能力者というだけでそこらの雑兵よりも強いので、護衛という意味では確かに正しいのだが。

 基本的にジョルジュに付き添って護衛の役割をこなしている。下手に船に乗せるといろんなものに好奇心を刺激されて行方不明になるので、乗るのを禁じられたのだ。

 

「うちの総戦力でどこまでやれるか、だなァ」

「おおよそカナタだけで十分だ。クロの能力も使えれば万全と言えよう」

「ほぼほぼカナタ一人でいいって話だろ。本当に自然(ロギア)系の能力者ってのは……」

 

 超人(パラミシア)系や動物(ゾオン)系と違い、肉体そのものが大きく変質する自然(ロギア)系の能力者は、その性質上対個人戦よりも対大群戦向きの場合が多い。

 もちろん超人(パラミシア)系にも災害を起こすような力を持つ実もあるが、数としては少ないのだ。

 ジュンシーも個人としては強者の部類に入るが、大群相手ではやはり能力者には劣る。

 

首領(ドン)・チンジャオはなんて言ってた?」

「国に被害を出さなければ構わないと……焦っていた理由、わかったのか?」

「あァ、大事(おおごと)だったぜ──天竜人が来る(・・・・・・)

 

 天竜人。

 世界貴族と呼ばれる、世界で最も貴き血族の末裔たち。

 赤い土の大陸(レッドライン)の頂にある〝聖地マリージョア〟に住むが、時折視察として各国を回ることがある。今回は花ノ国がその対象だった、ということだろう。

 とてつもない権力を持ち、もし天竜人に手を上げるようなことがあれば海軍大将が出撃するという。

 

「天竜人とは……なるほど。チンジャオが焦るわけだ」

「下手なことをやりゃあ一族郎党さらし首にされてもおかしくねェ。あっちも気が気じゃねェだろうさ」

 

 天竜人の権力の前では一国の王とて木端のように吹き飛ばされてしまう。『奴隷にされた王族』というのも決してゼロではない。

 扱いは細心の注意が必要なのだ。

 

「なんだって遥々この海まで天竜人が来るのかはわからなかったけどな」

「そこまでの情報は不要だろう。天竜人が来る、ということだけわかれば十分だ」

 

 護衛としてやってくるであろう海軍、および政府の〝サイファーポール〟にも気を配っておかねばならない。

 下手なことをして目を付けられれば、今後生きにくくなってしまう。

 ジュンシーとジョルジュの二人は、とにかく花ノ国で余計な騒ぎだけは起きてくれるなよと願っていた。

 

 

        ☆

 

 

 花ノ国。

 八宝水軍が拠点とする国で、巨大な氷河の下には莫大な財宝が眠るという。財宝目当てに来た盗賊たちはもれなく八宝水軍に捕らえられるというが、真偽のほどはわからない。

 いくつか港はあるが、荒事になる可能性を考えて普段使われていない港に案内された。壊れた場合の修理費用を請求されるとのことなので、出来ることなら被害なしで沈めたい。怪しい船はこっちに誘導するらしいので難しいかもしれないが。

 この島に着く直前に二、三隻ほど軍艦を沈めてきたカナタは、いい運動をしたとばかりに清々しい顔で桟橋に立っていた。滅多に海に出ないジョルジュは襲われたことで顔が青くなっている。

 隣にはゼンが警戒するように立っており、この中で一番気合を入れているといっても過言ではなかった。

 

「さっきのは思ったより雑魚の集団だったが、あれがお前たちを使っていた組織か?」

「いえ、ヒヒン。あそこまで統率の取れていない賊ではありませんでした」

「なら情報を聞きつけてきた連中か」

 

 ラーシュファミリーのボス、ドレヴァンからも鬼のように電伝虫に連絡を入れられたが、鬱陶しかったので無視した。敵に回すと恐ろしいが、今回のゴタゴタで大変なのはあちらも同じだ。下手に手出しはすまいと考えているし、何よりあちらとは協定を結んでいない。

 そもそもの話、巨人のフェイユンを切り札的な存在として認識しているのであれば、カナタたちの手に落ちた場合取り戻すことが出来ないと判断する可能性もあるわけで。

 

「……少しミスしたか?」

 

 それならそれでジョルジュ一家の戦力強化をアピール出来るというものだが。

 どちらに転んでも害はない。少し大きい組織に狙われるようになるだけだ。

 

「どうあれ、先に荷物を下ろしてチンジャオに連絡を──」

 

 刹那、火薬の爆発する轟音が響き渡る。

 とっさに海の方からと判断して氷の壁を作り出し、直後に爆発で砕かれた氷の破片が辺り一帯に飛び散った。

 

「大砲か? 一体どこから?」

「周囲を警戒しろ! 大砲が届くくらいなら近くにいるはずだ!」

 

 双眼鏡を手に辺りを警戒するも、誰一人として辺りに船を見つけることができない。

 意味が分からない。船影さえ見えないほどの遠くから大砲で狙撃など出来るはずがないのだ。ガープのような砲弾の威力というわけでもなかった。

 それこそ、透明にでもならなければ──。

 

「──透明、そうか」

 

 カナタは即座に港から海へと飛び降りた。

 ジョルジュが思わず声を荒らげる。

 

「おい! どうする気だ!」

「辺り全域を凍らせる! 見えなくても、周りを氷で覆えば浮かび上がる(・・・・・・)!」

 

 ──一切の躊躇なく、視界に映る海の全てを凍らせる。

 冬の海は寒いが、辺り一面を凍らせたことでより一層気温が下がる。吐息が白く染まり、敵船の姿も浮かび上がった。

 

「こんな近くにいて、なんで……!」

「透明になる悪魔の実でも食った奴がいるんだろう。私はあれを沈めてくる。あとは──」

「私も行きましょう。我々がまいた種ですから、バヒヒン」

「よし、二人いれば十分だ。ジュンシーは他に伏兵がいないか気を付けろ」

 

 「私の背に」というゼンの言葉に頷き、カナタはゼンの背に乗って透明化が解けた船へと疾走する。

 足場自体はしっかりしているものの、凍る直前の波が高いために走りにくい氷の上でもお構いなしに。

 これは速い、とカナタは笑みをこぼす。

 

「お嬢さん、相手をどうみますか?」

 

 相手は少なくとも透明化が出来る能力──おそらくスケスケの実の透明人間がいる。

 暗殺に使われないだけよかったと思うべきだが、実質的なトップであるカナタが自然(ロギア)系の能力者。無駄だと判断したのかもしれない。

 見聞色でも防げるかもしれないが、無意識のうちに使えるほど卓越しているわけでもない。

 だが、意識的に探すのならば話は別だ。

 

「位置はつかめるだろう。時間をかけたくもない、覇王色で選別する」

「ほう、覇王色の覇気を使えるのですか……いいでしょう。それでも倒れない兵がいた場合、私も手助けをします」

「頼んだ」

 

 凍り付いた海で船は動かない。透明化も既に解けていて、姿が見える。

 船の上で騒いでいるのが聞こえてくる。見聞色で感じ取る限り──二、三人ほど、強いものが混じっているようだ。

 

「大砲が来るぞ!」

「ヒヒン、問題ありません!」

 

 手に持った槍で撃ち込まれる大砲を次々に弾くゼン。

 その間も一切速度を緩めず、船のすぐ近くまで来たところで大きく飛び上がって乗り込んだ。

 船の上にいた者たちも驚きと同時に銃や剣を構える。

 だが、カナタはその行動を許さない。

 

「雑魚に用はない」

 

 一瞬の間をおいて、覇王色の覇気にあてられて次々に倒れていく男たち。

 その中で数人、覇気にあてられてもなお睨みつける姿があった。周りの部下たちが倒れていくことには驚きを隠せないようだが、戦意は衰えていない。

 

「なんだ、クソっ! どうなってやがる!?」

「いきなり気絶した……?」

「それはいい! あの女と……馬? を殺せ!」

 

 ゼンの方を見て一瞬首をかしげたが、カナタの姿を見て刀と銃を構える。

 スケスケの実を食べた透明人間がいるはずだが、さてどいつだとカナタは目を凝らす。

 正面に三人。見聞色で感じ取る限りあと二人いた。

 

「お嬢さん、私があの三人を相手しても?」

「構わない。姿が見えないが、あと二人ほど隠れているらしい」

 

 首を傾けて正面から撃たれた弾丸を避ける。事前に来ることが分かっていれば避けることは造作もない。

 ゼンがその間に接近して槍をふるうも、一人が抜き放った刀に阻まれてもう一人がその間に切りかかる。

 

「死ねェ!」

「ヒヒン、未熟!」

 

 紙一重で振るわれる刃を避け、その懐へと入り込んだゼン。槍を持たぬ手を相手の胸元へと近づけ──そのまま、手を触れることなく相手を弾き飛ばした。

 敵と同様、カナタもまたその技に驚き目を見開く。

 思わぬ拾い物だったか、と口元に笑みをこぼしながら。

 

「死ねェ、女!」

 

 正面から何度も銃で狙われるも、カナタは気にすることなく避ける。覇気も込められていないが、当たっても平気だからとて好きで当たりたいわけではないのだ。

 それに、この乱射はおそらく当てるためのものではなく、足音を隠すためのもの。

 ──気取られることなく忍び寄り背後から振るわれたナイフを、カナタは覇気を纏った腕で防いだ。

 

「覇気使いか。それにスケスケの実とは、まったく厄介な」

 

 だが、この距離でカナタに接近戦を挑むのならば無謀の一言。

 何か言葉を発する暇すら与えず、ナイフを持った者の後ろにいる能力者まで一瞬で全身を凍り付かせた。

 能力者なら味方につけたほうが得ではあるのだが、敵対したのなら不可能だと割り切っている。

 

「クソっ、クソっ! どうなってんだ!」

「まだまだ青い。この程度で私を倒そうなどとは笑止千万!」

 

 覇気を扱えるという点を考えるに、おそらくは以前ぶつかってトップが消えた元五大ファミリーの一角に所属していたのだろう。カナタの目から見てもそれなりの強さではあるが、ゼンの強さが圧倒的だ。

 金獅子海賊団の傘下と幾度も戦い、フェイユンもこの海まで逃がしたのだ。これくらい出来なければ話にならないということだろう。

 

「は、ははは! 俺たちを倒したところで無駄だぜ。もうあっちは動いてんだ──そら、うちのボスが動き出したぞ」

 

 指差す先は港──その奥。

 花ノ国の外縁部、山が形を変えて人となり、巨人族を超える巨体を生み出した。

 氷の海が震えている。一歩踏み出すたびに地震が起きる。

 山がそのまま動き出したような巨大さを持つ人影を見て、カナタもゼンも絶句した。

 

「なんだ、あれは……」

「ボスを舐めんなよ。イシイシの実の岩石同化人間。あの能力は無敵だ!」

 

 




元が一発ネタなので大体行き当たりばったりです。
感想もらえると気力が出るのでください(直球)
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