ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第九十六話:顔合わせ

 聖地マリージョア。

 天竜人が住まう、およそ世界で最も神聖な場所である。

 当然ながら世界政府を守る諜報員たちが守りを固め、間近にある海軍本部からも常に多くの海兵たちが張り込んでいる。

 とは言え、マリージョアが攻め込まれたことなど歴史上一度もない。警備と言っても形骸化しているのが常だ。

 その場所で今──史上かつてないほど、緊張した雰囲気に包まれている場所があった。

 

「〝仏〟のセンゴクに〝英雄〟ガープ……それ以外にも名うての中将がこれだけ揃うとはな」

「世界政府のお偉いさんはおれ達のことが余程怖いと見える。なァ、そう思わねェか、ワニ野郎」

「……さァな。どうでもいいこった」

 

 〝王下七武海〟と()()()()()()()()()海賊たち。

 世界政府が選んだ七人の海賊の内、六人が既に円卓に座していた。

 懸賞金の高さは元より、その類稀な実力を見込まれて選ばれた者たちだ。天竜人もいるマリージョアに集めるともなれば、海軍も当然防備を固める必要がある。

 ガープ、センゴク、おつる……仮にマリージョアで暴れても即座に鎮圧出来るだけの戦力を集めていた。

 しかし、だ。

 

(……政府が選んだ海賊をマリージョアに集めるから海兵を置くのは理解できるが、少しばかり過剰じゃねェか?)

 

 政府の想定する七武海の戦力は、あくまで増えすぎた海賊への抑止力。それに〝新世界〟に居を構える大海賊に対して海軍と共に対抗するための戦力だ。

 それなり以上の実力を持つ七人の海賊が集まるからとて、海賊被害が増えている現状で人手が足りていない海軍が実力者を勢ぞろいさせるだけの理由にはならない。ガープとセンゴクだけでもこの場の六人を圧倒して余りあるだろう。

 上層部が心配しただけか……あるいは、世界政府の罠に嵌められたか。

 悟られないように警戒心を強め、七武海の一人に選ばれた海賊──クロコダイルは視線を僅かに泳がせる。

 もしこれが名を揚げつつある海賊をおびき寄せるための罠だとすれば、その時は相応の対応を取るために。

 

「おいセンゴク、まだ揃わんのか?」

「もう少し待て。到着したとは聞いている」

 

 しびれを切らし始めたガープが欠伸をしながら問いかけるが、センゴクは特に焦る様子もなく茶を飲んでいた。

 海軍本部に到着し、そこからマリージョアに移動するまで多少時間がかかる。程なく到着するだろう、とセンゴクは言い……実際に、程なくして到着したと先触れが来た。

 コツ、コツと鳴り響く足音を隠しもせず、威風堂々と姿を現す。

 

「──な」

「なんで、こいつが……!?」

「遅いぞ、遅刻だ」

「ああ、悪いな。ギリギリまで契約を反故にするか悩んでいた。素直に政府の狗になるのも癪だったのでな」

 

 〝竜殺しの魔女〟と呼ばれる女だ。

 黒曜の如く美しい髪。背はやや低いが、見る者を魅了する顔立ち。陶器のような白い肌は黒を基調としたドレスに包まれており、ガープやセンゴクなど一部の面々を除いた多くの者たちが赤い瞳に魅入られていた。

 およそ世界で知らぬ者のいない、世界で五指に入る大海賊の一角である。

 

「……正直なところ、お前が七武海に入るとは思っていなかった」

「ああ、受けるつもりもなかった。とは言え、一応は商人として働く身でもある。交わした契約を自分勝手に反故にするのもどうかと思ったまでだ」

「律義な奴だ」

 

 センゴクと軽口を交わし、カナタは空席だった場所に座る。

 七武海として呼ばれた海賊の誰もが絶句していたが、クロコダイルだけはいち早く平常心を取り戻した。

 

(……なるほど、こいつが来るならこの過剰な配備も頷ける)

 

 彼女に対する噂は絶えない。〝海賊王〟と友誼を結び、〝金獅子〟のいなくなった金獅子海賊団を滅ぼしたとされる〝黄昏〟の首魁だ。

 〝ビッグマム〟〝白ひげ〟……この海に海賊は星の数ほどいるが、その中でも大海賊と呼ばれるのはごく一部のみ。

 その一角に名を連ねる〝魔女〟ならば、なるほどガープやセンゴクがいるのも当然だろう。

 その他の海兵で彼女と渡り合えるはずもない。

 

「では、揃ったところで始めよう」

 

 センゴクの一声で会議が始まった。

 会議と言っても特別な話し合いをするわけでは無い。七武海に入るにあたって条件の再確認を行い、納得した者だけが残る。

 七武海の特権を目当てに来る者もいれば、海軍に追いかけられずに済むことで放浪せずに安定した住処を得ようと考える者もいる。

 その辺りの理由は様々だが、彼らがやることは一つだけ──有象無象の海賊を狩ることだ。

 懸賞金こそ上から下まで幅が大きいものの、政府が念入りに選んだだけあって実力は十分。

 海軍もこれで多少は余裕が出るだろうと、賛成派の海兵たちは胸をなでおろしていた。

 

「戦力の振り分けはどうするんだ。全員で〝新世界〟に乗り込むのか?」

 

 七武海に選ばれた海賊の一人が発言する。

 この場にいる海賊は誰もが最低限の強さを得ているが、それは単独で〝白ひげ〟や〝ビッグマム〟と並び立つことを意味するわけでは無い。

 元より増えすぎた海賊への抑止力が目的である以上、一か所に戦力を集中させる意味もないだろう。

 

「おれは自由にやらせてもらう。拠点も決めてねェからな」

 

 クロコダイルがそう言い、他の海賊たちは各々が拠点にしている島を報告していく。

 最終的に〝新世界〟に二人、〝楽園〟に五人と……やや前半の海に戦力が傾いている結果になったが、誰も文句を言うことはなかった。

 大海賊たちが拠点を構える〝新世界〟に拠点を置くことそれ自体が大きなリスクでもあるし、そもそもクロコダイルのように拠点を構えていない者もいる。その辺りまでは海軍も口出ししてくることはなかった。

 

「我々からすれば、どこに拠点を置こうとも海賊を狩ってくれればそれでいい。〝白ひげ〟を始めとした大物たちを相手に勢力の均衡を保てればな」

 

 海軍の仕事が減ることはないだろうが、多少手が浮くことも確か。

 どれだけ真面目に仕事をするか、という話になるが……どこまで行っても海賊は海賊だ。信用は出来ない。

 そういう意味では、センゴクの目には今の政府はやや危ういように見える。

 

「随分簡単な仕事だ。私を味方につけるならリンリンの首くらい獲れるだろうに、やるつもりは無いと見える」

「……まだ時期ではない」

「そうか」

 

 やる気の有無だけでも知りたかったのだろう。カナタはセンゴクの反応に小さく笑みを浮かべ、それ以上聞くことはないとばかりに口を閉じた。

 この場にいる面々もどれだけ()()()()()()()()わからないが、政府も海軍もカナタ以外の海賊は数合わせに過ぎないと思っている。

 数合わせだけならいくらでも可能だろう。

 話し合いと顔合わせはスムーズに終わり、カナタ以外の六人は部屋を後にした。

 

「お前から出された条件だが、いくつかの条件を付けた上で許可が出た」

「それは聞いている。詳しい内容をすり合わせたいのだろう」

「ああ」

 

 具体的に政府が出した条件は全部で三つ。

 一つ、マリージョアを通過する際には最低でも一ヶ月前に連絡を入れておくこと。

 二つ、通過の際には海軍から監視を出すこと。

 三つ、通過するのはマリージョアの外縁部であること。

 大まかなところはそれくらいだった。

 ただ、一々連絡を入れて通過するのは面倒くさいので「月に一度でいいから通過する日を設けろ」とだけ言って変更させた。

 とは言え、海は広いし、巡る島も多い。移動に時間がかかることを考えれば月に一度でも多いと言える。

 

「……それだけか?」

「一応はな。何か不満でもあるのか?」

「いや……」

 

 簡素と言えばそうだが、カナタとしてはもう少し厳しい条件を付けられると思っていた。

 危険物がある可能性を考えて荷物を検めるでもなく、マリージョアに侵入者が出ないよう荷運びを海軍にさせるわけでもない。

 ここまで手緩いと逆に疑いも強くなるというものだ。

 それだけ切羽詰まっているという事かもしれないが、それにしてもおざなりに見える。

 カナタにとっては有利な条件なので特に口出しすることもないが。

 

「監視はどれくらいいるんだ」

「将官を数名だな。お前たちの頑張り次第でもう少し増やす可能性はある」

「では精々見逃しておこう。お前たちの手が足りているとこちらも仕事がやりにくくなる」

 

 もちろん互いに「そんなわけがない」とわかっている。

 人手が足りない状態なら政府が〝黄昏〟に通過許可を出すはずもなく、海賊を狩っている様子が無ければカナタは七武海から除名される。

 ……二人の会話を聞いて世界政府の役人は睨みつけるように視線を送っていたが。

 

「実際のところ、リンリンやニューゲートを倒す予定はあるのか?」

「……今のところ計画は上がっていない。ただ、お前たち七武海がしっかり働いて海軍の戦力に余剰が出来れば考えてもいい」

「勢力間のバランスを保つのが最優先か。お前も大変だな」

 

 崩れかけている海賊と海軍のバランスを取るのも海軍と政府の仕事、という訳だ。

 ニューゲートにはナワバリを広げる意識が薄く、リンリンはカナタと度々衝突しているため勢力が大きくなりにくく、最近台頭してきたカイドウは勢力と実力はカナタやリンリンに比べて一枚も二枚も落ちる。

 今のところは大きな影響は無いが、今後どうなるかはわからない。

 七武海の存在がどれほど役に立つかは今後の働き次第だろう。

 

「お前には言うだけ無駄だと思うが……政府や海軍に真っ向から反抗するようなことがあれば、七武海の地位は剥奪される。肝に銘じておけ」

「安心しろ。一度契約した以上、私にもメリットがある間は余計なことはしないさ」

 

 暗に七武海の地位を捨ててでもやるべきことがあれば即座に捨てることを匂わせながら、話し合いは何事もなく終わった。

 

 

        ☆

 

 

 七武海同士の顔合わせが終わった数日後。

 世界政府は新聞各社と通じて全世界に〝王下七武海〟制度の発足とそのメンバーを大々的に発表し、世間の度肝を抜いた。

 懸賞金は下は7000万から上は28億まで多岐に渡り、政府の指示によって海賊を狩る海賊となった。

 もちろん他の海賊から「政府の狗になった」と非難の声が上がったが……そんなものに一々反応するような連中ではない。

 ただひたすらに強く、有象無象の海賊が挑んでは返り討ちにされるような存在として徐々に認知されていった。

 カナタにも当然その手の輩が来ることがあったが、今のところ誰一人としてカナタの顔すら拝めていない。

 

「つまらん」

 

 もう少し歯応えのある敵が出てくるかと思ったが、湧いて出るのは有象無象ばかり。

 これでは普段の鍛錬の方がまだしも有意義だった。

 

「バレットの奴もバスターコールで捕まったしなァ……新しい鍛錬相手が見つからねェとおれ達の身が危ねェ」

「違いねェな……」

 

 ボロボロでカナタにひっくり返された状態のまま、ジョルジュとスコッチが相談していた。

 普段は二人も商船に乗って海に出ていることが多いが、現在は幹部全員が〝ハチノス〟に集合していた。

 七武海の地位に就くことで襲ってくる海賊を撃退するため──などでは無く。マリージョア通行許可が下りたことによる今後の計画修正のためだ。

 

「憂さ晴らしにおれ達をしごくのは止めてほしいモンだが……」

「憂さ晴らしではない。八つ当たりだ」

「なお悪いわ!!」

「お前本当に……そういうところだぞ」

 

 切れるスコッチに呆れるジョルジュ。いつもの光景であった。

 この二人とも長い付き合いだ、カナタが色々考えることが多くてストレスが溜まっていることも理解している。

 

「……それで、今後の計画はどうするんだ」

 

 しばらくは現状のままだろう。だが、折角聖地マリージョアの通行許可をもぎ取ったのだ。教育に時間をかけても販路を広げたいところではある。

 うーむと頭を悩ませ、名案も特にないので商売についてはその辺りで終わらせておく。

 

「どちらにしても船は必要だ。ウォーターセブンが現在危機的状況らしいのでな、支援するついでに造船会社を引き抜いてくる」

「トムの奴、ロジャーの船を作ったから死刑になったって聞いたが」

「猶予付きだ。詳しいところまでは知らないが」

 

 〝新世界〟にも造船島のような場所はあるが、カナタ子飼いの職人という訳ではない。優先的に自分たちの船を造る子飼いの職人が欲しいのだ。

 ウォーターセブンを滅ぼしたい訳では無いので数は限定されるが、情報を集めた限りでは提案に乗る者は多いだろうと踏んでいる。

 その辺りを踏まえ、優先度を決める。

 

「一つ目、ウォーターセブンで造船会社の引き抜き。

 二つ目、人材育成。商人と職人はお前たちに任せる。戦闘員は私が鍛えよう。

 三つ目、海賊狩り。この三つでいい」

 

 海賊狩りの優先度は最低だ。マリージョアの通行許可をもぎ取ったものの、今ではまだ使い道がない。金をとって人を運ぶのに便利なくらいだ。

 海軍や政府からせっつかれるかもしれないが、その時は襲撃に来た海賊の首でも届けてやれば満足するだろう。

 その辺りが決まったところで、日も暮れ始めた。後ほど幹部に通達しておかねばならない。

 これも、仕事だ。

 

 

        ☆

 

 

 一年後。

 ウォーターセブンでトムやアイスバーグと再会し、旧交を温め……彼らが海の上を走る列車を作っていることを聞くと大笑いした後で必要な物を支援することにした。

 潰れかけた造船会社も多かったが、カナタの下で新たに造船所を始めた。

 カテリーナを主導に新しいタイプの船を造ったり、パドルシップの研究を進めたりとやることは多く、カナタも忙しい日々が続いていた。

 そんな中、新聞が一つの事件を大きく報道する。

 〝西の海(ウエストブルー)〟より出発した船が、世界政府が禁じている〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟の解読をして回っていたという事実。

 更には船がオハラより出立したものであると判明した事実。

 そして──一度は捕まり、脱走したことで懸賞金をかけられたオルビアの指名手配書が挟み込まれていたこと。

 全てを知り、カナタは執務室で即座に判断を下した。

 

「──船を出せ。オハラへ向かう」

 




脳内設定で下から
7000万
8100万
9200万
1億3000万
2億2800万
2億4000万
28億9000万
くらいかなーとか思ってたんですが、カナタ一人入るだけで平均値が恐ろしく跳ね上がっててどうなんだ、って感じに。
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