ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第九十八話:未来へ贈る花束を 後編

 降り注ぐ砲弾の雨により、既に島は炎上していた。

 炎に包まれつつある島の一角──海岸沿いの砂浜で、二人は対峙する。

 島を燃やす炎に照らされるその男の姿を見て、カナタは思わず舌打ちをしたくなった。

 

「ベルクか……また厄介な奴が出てきたな」

「貴殿と相対するのは初めてだが、当方の名を知っていたとは驚きだ」

 

 趣味の悪い金色の髑髏の仮面を被ったカナタは、傍から見れば〝残響〟のオクタヴィアに見える。

 例に漏れず、ベルクも仮面を見てオクタヴィアだと認識していた。

 カナタは背にオルビア、前にロビンを抱えており、現状ベルクと戦うにはかなり不利と言わざるを得ない状況にある。かと言って逃げられるほど容易い相手でもないので、思わずため息の一つもこぼしたくなっていた。

 一方のベルクも、元海兵に暴れられて〝バスターコール〟を食い止められてはかなわないとサウロを止めに来てカナタと接触したため、次の動きをどうすべきか悩んでいた。

 練度も能力も、ガープから聞いた通りなら一人で相手をするには荷が重い。懸賞金35億オーバーは伊達では無いのだ。

 

「その二人をどうするつもりだ?」

「考古学者だ。お前たちは殺すつもりだろうが、私はこの二人を生かす」

「では当方の敵だな」

 

 ベルクとて女子供を殺すために海軍に入ったわけでは無い。

 それでも、〝古代兵器〟の復活を阻止するためには己の矜持を飲み込んで行動せねばならないと考えていた。

 〝古代兵器〟が復活すれば悲劇が起きるのは想像に難くない。過ぎた力は万人を暴走させるものだ。手に渡るのが海賊であれ世界政府であれ、誰かの手に渡った時点でろくなことにならない結末は見えている。

 それならば、最初から復活の目を潰してしまえばいい。

 

「生きていることが悪とは言わない。しかし、古代兵器の復活により多くの犠牲が出る可能性を考えれば……その首を落とすまでだ」

「世界政府の言う事を鵜吞みにして、誰であろうとも首を落とすか。それで正義を語るとは笑わせる」

「少なくとも、貴殿に渡していいものではないとわかっているつもりだ」

 

 カナタはベルクの話に応じつつ、じりじりと位置取りを調整し、ベルクもまたそれに合わせて剣を構える。

 オルビアとロビンへ「しっかり掴まっていろ」と告げ、一息に距離を詰めた。

 覇気を纏った脚が暴風を伴って振るわれ、ベルクの剣と衝突する。

 およそ人体がぶつかったとは思えない音が辺りに響き渡り、衝撃波で木々が大きく揺れた。

 

「その二人を守りながら当方と戦うつもりか」

「お前一人くらいなら何とでもなる」

「舐められたものだ」

 

 ベルクは剣に覇気を上乗せし、オルビアとロビンごとカナタの体を切り裂くべく剣を構えた。

 ベルクを甘く見る言葉とは裏腹に、カナタは見聞色を最大限使用して一挙手一投足の全てを捉える。ベルクからすれば三人とも斬るべき相手だが、カナタからすれば二人を守りつつ戦わねばならない。

 背に乗っているオルビアと抱えられているロビンは高速で激突する二人の動きも何もわからないが、自分が足手纏いになっている自覚だけはあった。

 何か言葉を発しようにも、これだけ激しく動いていてはまともに話すこともままならない。

 数度の激突を経て、無差別に打ち込まれる砲弾を避けて互いに距離を取る。

 

「チッ、面倒な」

「両手も使えず、能力も使わないまま当方を倒せるとは思わないことだ」

 

 更に言うなら、大きく避けるか受け止めるかの二つしか選択肢が無いので反撃も出来ていない。

 〝自然系(ロギア)〟なら実体を切り裂かれなければダメージにならないので無茶な動きも出来るが、今回はそうもいかないので苦戦気味だった。

 だが、それを加味しても妙だとベルクは感じていた。

 

「当方が伝え聞いていた情報とは随分と食い違う。〝古代兵器〟が狙いだとしても、二人も助ける必要は無いだろう」

「……何が言いたい」

()殿()()()()()()()()()()

 

 鋭い眼光がカナタを刺す。

 オクタヴィアの情報はガープやセンゴクからいくらか伝え聞いている。ガープは過去のことを語りたがらないが、強敵を相手に情報を持っていることの有無は時に戦況を左右することは理解していた。

 その情報と、目の前の女の情報が()()()()()()

 

「懸賞金35億超えの賞金首。〝自然(ロギア)系〟ゴロゴロの実の雷人間──元ロックス海賊団である貴殿の悪事は数えきれないほどあるが、伝え聞いた情報を統合しても他者をそうまでして守る類の人間とは思えない」

 

 曰く、彼女が暴れた国は廃墟となり雷鳴だけが残り響いた。

 曰く、彼女が王族を篭絡して国庫の大半を誰も気付かないまま横領した。

 曰く、彼女が──。

 ベルクが伝え聞いた情報はまだあるが、彼女の人を人と思わぬ所業は数多い。〝古代兵器〟復活に必要なのは〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を読める考古学者一人である以上、それ以上の余分な荷物を背負うタイプには思えなかった。

 本当にオクタヴィアなら、必要なのは背に負った考古学者一人でいいし、片手が使えるだけでベルク相手にも有利に立ち回れるはずだ。

 何よりも、能力を使わないことが一番の疑問である。

 

「両手が使えずとも能力は使えるだろう。雷の性質からその二人に感電する可能性もあるが、貴殿ほどの実力者がそんな下手を打つとも思えない──貴殿、何者だ?」

「…………」

 

 相変わらず勘が良い。

 本来ならオルビアとロビンを下ろしてベルクに集中したいところだが──砲弾が降り注ぐ現状では、下手に離れると砲撃に巻き込まれかねない。

 オクタヴィアの犯行に思わせたい以上は能力も使えず、状況は悪化していくばかりだ。

 ──そう考えていた時、西の海岸から島を離れていた避難船が爆発、炎上した。

 

「そんな、避難船が!?」

「……海軍の軍艦から砲撃されたか」

 

 ベルクが目を丸くし、砲撃した船……海軍中将サカズキの乗る船を見る。

 

「サカズキ……奴め、また勝手なことを」

 

 苦虫を嚙み潰したような顔をして、ベルクは口を噤む。

 考古学者ではない一般人全員を殺害する暴挙に思うところが無いわけでは無いが、それは後ほど問い詰めればいい。

 今は、目の前の相手に集中する。

 一方で、同じくベルクを視界から外さないようにしているカナタに、ロビンがサウロの危機を教えていた。

 

「サウロの方に赤い……溶岩みたいなものが!」

「溶岩……サカズキか。あの男、好き放題やってくれる」

 

 同じ中将でもベルクやサカズキの強さは一線を画す。サウロも弱いわけでは無いが、中将の中でも取り分け上位に位置するこの二人には勝てないだろう。

 役割を代わるべきだな、と判断した。

 即座にベルクに背を向け、サウロの方へと疾走する。その判断に気付いたベルクが斬撃を何度も飛ばしてくるが、ある程度の距離を取れていれば見聞色で回避は可能だ。

 飛来する巨大な溶岩の拳を前にして、どうにか回避しようとするサウロへオルビアとロビンをパスする。

 

「サウロ、二人を任せた!」

「うおっ!? も、戻ってきたのか!?」

「彼女でも手こずる海兵がいたの! 彼もこっちに向かってきてて……」

 

 オルビアがサウロに説明している間に、カナタは飛来する溶岩の拳を空中で蹴って弾いた。

 普通に触れば大火傷をする溶岩も、覇気を鎧のように纏えば触ることなく弾ける。

 そしてそのままサウロが沈めた船の上に着地し、倒れた海兵の一人から剣を一本拝借する。剣はいつも使う得物では無いが、使えないわけでは無い。

 

「──ベルク! お前も来たのか!」

「サウロ中将。貴殿はそちら側に付くのだな」

「当たり前だで! お前はさっきのあれを見ても、まだ胸を張れるのかァ!!」

「耳の痛い話だ」

 

 避難船を吹き飛ばしたサカズキの行為に憤りを示すサウロに、ベルクは反論出来なかった。

 あそこまで極端なことをやるつもりは無いにせよ、同僚がやった以上はどんな言葉も軽くなる。

 

「だが、当方も海兵である以上は立場がある。貴殿を逃がすわけにはいかない」

「くっ……逃げるど、ロビン、オルビア! あいつの強さは異常だで!!」

「逃がさんと言ったばかりだろう──()()()()

 

 ベルクは両手で剣を握り、上段に構えて狙いを澄ます。

 尋常ではない覇気が集中し、サウロの背筋にぞわりと怖気が走った。戦いの経験などほとんどないオルビアにすら、生存本能が危険だと訴えかけるほどの脅威がそこにはあった。

 

「貴殿の矜持は理解した。その上で、当方の最高を以て貴殿を斬る」

「あれはまずい……! オルビア、ロビンを連れて逃げるんだで!!」

「駄目よ! あんなのを受けたら、いくらあなたでも──」

「──〝竜切り(レギンレイヴ)〟」

 

 振り下ろされた剣から覇気が放出され、島を二つに切り裂きながら真っ直ぐサウロへと向かう。

 ここまでかとサウロは覚悟を決めて受け止めようとして──その直前でカナタが斬撃の直線上に割り込んだ。

 カナタはベルクの斬撃を剣一本で受け止め、海へと弾き捨てる。

 

「……当方の斬撃をこうも容易く弾くか。やはり生半可な実力では無いな、貴殿」

「体勢も崩さず、隙も突かず、力任せに放っただけの斬撃に倒されるほどやわになった覚えはない」

 

 カナタが手に持つ得物はただの数打ち物でしかないが、覇気を纏わせればその強度を大きく引き上げられる。それこそ恐竜が踏んでも一ミリも曲がらないほどに。

 流石に万全の状態になった彼女を相手に一人は厳しいかと考えていると、ベルクの隣に一人の海兵が降り立った。

 ベルクよりも随分背が高い、海軍帽とフードをかぶった男──海軍中将サカズキだ。

 

「ベルクさん、アンタほどの人が手こずるとは……相手は誰だ?」

「〝残響〟のオクタヴィアと思われる相手だ。ガープ中将でも手こずる相手である。油断はするな」

「ほォ……」

 

 ボコボコと体から噴出するマグマが海水に触れて水蒸気を発生させている。

 その中でサカズキはカナタを睨みつけ、その後ろにいるサウロにも視線を向けた。

 

「〝悪〟は根絶やしにせにゃァならん。サウロ中将、おんしもわかっとるじゃろうなァ……」

「そんな正義、わかりたくもないでよ……! お前らのやっていることは、ただの虐殺だで!!」

「今回の一件、やるからには徹底的にやらにゃァ、これまでの犠牲の全てが無駄になる! それを許すこともまた〝悪〟だ!!」

 

 サカズキの怒りに反応するように、体から湧き出るマグマの量が更に増えていく。

 カナタは触れるだけで大火傷をしかねないマグマを見てしかめっ面になり、目の前の二人から視線を外すことなくサウロへ声をかけた。

 

「サウロ。オルビアとロビンを連れて東の方へ泳いで逃げろ」

「だが、後ろから攻撃されたら避けきれんでよ!」

「私が殿(しんがり)を務める。あの二人と……他に来ている中将三人も私が食い止めておく」

 

 〝バスターコール〟は中将五人と軍艦十隻による殲滅行動だ。

 軍艦は既に六隻沈められており、中将二人がここにいる。変装をしている都合上能力は使えないが、時間稼ぎに徹するだけなら中将五人が相手であっても不可能では無い。

 サウロは本当に大丈夫なのかと心配になるが、今しがたベルクの一撃を容易く受け止めたことからも実力は信頼できると判断。

 オルビアとロビンを抱えて頭の上に乗せ、海へと入った。

 

「わしが逃がすと思うか!」

「余所見をするだけの余裕があるとは、私も甘く見られたものだな」

 

 海へと逃走を始めたサウロを追い、マグマの拳を飛ばそうとしたサカズキの横腹へカナタの蹴りが直撃する。

 メキメキと嫌な音を立ててサカズキが吹き飛び、海岸線の崖へとぶつかって島の内陸側へと押しやられた。

 

「油断するなと言ったばかりだというのに……」

「目的を達成しようとする執念は買うが、実力が追い付いていないな」

 

 振り下ろされたベルクの剣を受け止め、カナタは慣れない剣でベルクの攻撃を捌く。

 だがそれも数合打ち合う頃には動きが修正されていき、ベルクから見ても剣の腕はかなりのものになっていた。

 

「不慣れな武器を短時間でここまで使いこなすとは……!」

「実戦に勝る経験はない。槍があればもう少しうまくやれるが──」

 

 ベルクの斬撃を紙一重で避け、一瞬の隙をついて軍艦へと斬撃を飛ばす。

 その斬撃は軍艦の側面を削るように切り裂き、サウロへと向いていた砲台を軒並み使用不可能へと追い込んでいた。

 あと三隻と考えていると、地面がボコボコと高熱を発して融解し始め、カナタとベルクは咄嗟に距離を取って地面から噴出したマグマを回避した。

 マグマの熱であらゆるものがドロドロに融解しており、常人ならその熱だけで倒れかねない。

 

「おんどれェ……邪魔をするな、〝残響〟!!」

「喧しい奴だ。黙らせたければ実力でやってみせろ」

「貴殿こそ、能力も使わず当方たちを相手取るなど甘く見過ぎだ」

 

 赤熱するマグマが波のように押し寄せ、カナタは空中でベルクと衝突する。

 砲弾の雨は降り止まず、災害規模の攻撃が何度も繰り返されて島が崩壊していき──。

 

 

        ☆

 

 

「ハァ……ハァ……随分遠くまで泳いだが、方向はあってるか?」

「ええ……オハラから東へ真っ直ぐ。あの子が言った通りに」

 

 サウロは頭の上に乗せたオルビアとロビンを気遣いつつ、かなりの距離を泳いで移動していた。

 船を沈めるときに何度も砲撃を受けたこともあり、体力も気力も尽きつつあるが……この状況では休息することも出来ない。

 何とか近くの島まで移動しなければと、気力だけで踏ん張っている状態だった。

 

「ロビンは眠ったわ。この子にはショックなことが多かったから、少し休ませてあげないと」

「ワシもそろそろ脚と腕が攣りそうだで……」

「ごめんなさい、サウロ。何とか頑張って」

 

 海軍の追手は今のところ見えない。

 オハラから脱出するときはかなり危険な状態だったが、海軍中将五人をカナタ一人で抑え、更には砲撃まで迎撃していたのでサウロたちは安全に抜けられた。

 砲撃が来なくとも船が追ってくると思っていたが、今はそれもない。

 サウロの気力が尽きる前に何とか島影が見え始め、その近くに巨大なガレオン船があることも確認出来た。

 

「ありゃあ……!」

 

 掲げられた髑髏のマークには見覚えがある。

 オルビアと親しげに話していたし、あの時は追及するべきではないと思っていたから言わなかったが……やはり、あの趣味の悪い仮面を被っていたのは〝魔女〟だったのだろうとサウロは思う。

 オルビアとどういう関係だったのかは知らないが、少なくとも敵では無いのだろう。

 敵でないのなら大丈夫だ。ひとまずは助かった──と、安心したところで、サウロが足を攣った。

 

「いっで! いでででで!! や、やばいでよ……脚が攣っちまった!!」

「ここで!? サウロ、何とか踏ん張っ──きゃあ!?」

 

 安心したことで蓄積した疲労が一気に来たのだろう。片足が攣って溺れかけていると、遠目に見える船から誰かが飛び出してきた。

 船よりはるかに大きいその姿に目がおかしくなったのかと思っていると、近くに着水したその()()がサウロを救い上げた。

 紫色の髪に白いリボンをした巨人族の女──〝巨影〟のフェイユンである。

 巨人族であるサウロをより巨大な掌に乗せ、かろうじて海の上に出ている首が動いてサウロに焦点を合わせた。

 

「きょ、〝巨影〟……!!」

「……あなた、ドラム島で見たことあります。敵ですか?」

 

 能力者は例外なく海に浸かれば弱体化するが、一度巨大化したフェイユンの大きさが変わるわけでは無い。水深は深いが、ギリギリ足も届くので溺れかけたサウロを助けに来たのだ。

 正確には、その頭の上にいたオルビアをだが。

 

「待て待て、ちょっと話してくるからよ」

 

 ジョルジュがひょっこりとフェイユンの頭の上から顔を出し、視線をオルビアの方へと向ける。

 ポンポンと空中を蹴って移動し、オルビアの目の前まで来ると辺りを見回す。

 オルビアとジョルジュは互いに顔を知っているため、詳しい事情を聞きに来たらしい。

 

「久しぶりだな、オルビア。カナタはどこだ?」

「カナタは……私たちを逃がすために〝バスターコール〟を食い止めてて……」

「そうか。おれ達の方に連絡が来ねェってことは大丈夫だろ。そっちの子供と、こっちの巨人は?」

「この子は私の娘よ。こっちの巨人はサウロ。軍に捕まった私を助けてくれたの」

 

 なるほど、と一つ頷くジョルジュ。

 ひとまず船に移動しようとフェイユンに指示を出し、フェイユンは掌にサウロたちを乗せたまま船の方へと歩き出した。

 

「……誰かの掌に抱えられるのは初めての経験だで」

 

 巨人族であるサウロを抱えられる者など普通はいない。巨大化出来る能力者のフェイユンくらいのものだ。

 疲れ切った様子で大の字に倒れるサウロを尻目に、ジョルジュはどう動くべきかと頭を悩ませる。

 このままカナタが戻るのを待ってもいいが、方向がバレているなら海軍も遠からず動くだろう。電伝虫で連絡を入れるにしても盗聴をされては面倒だ。

 ひとまず船まで戻り、サウロとオルビアの怪我の治療を行うことにした。ロビンは医務室のベッドに寝かせてある。

 

「何が起きたか、簡単に説明してくれるか」

 

 ジョルジュはオルビアに説明を頼み、スコッチやクロなど幹部のいる中で状況を整理し始めた。

 オルビアが軍に捕まったことから始まり、オハラの考古学者たちを集めて島ごと〝バスターコール〟で滅ぼそうとしていたことやカナタに連れられてオルビアとロビンだけが助けられたこと、カナタが残って脱出のための殿を務めてくれたことなどを簡単に話す。

 

「……他の中将ならともかく、ベルクにサカズキか」

「ガープやおつるがいないだけマシだったと言うべきかもしれねェが、運が悪ィな」

 

 中将の中でも指折りの実力者が二人。能力が使えないままこの二人を相手取るのはかなり厳しい。

 海軍の追跡は無いようだが、方角がバレている以上は既に動いているとみていいはずだ。

 

「移動するか。海軍に目ェ付けられたら面倒だしな」

「カナタは……まァどっかで拾えればいいだろ。あいつが〝バスターコール〟くらいで死ぬとは思えねェし」

 

 カナタの扱いが雑だったが、スコッチとジョルジュは基本的にカナタからの扱いも雑なのでお互いこんなものだった。

 特にカナタは船が無くても海を渡れるので放っておいても移動手段には困らない。

 船員たちに指示を出して船を動かし始めていると、にわかに甲板が騒がしくなった。

 何事だと思っていると、服がボロボロになったカナタが少しばかり疲れた様子で姿を現した。

 

「戻ったぞ、オルビアたちは無事に辿り着いたか?」

「おう、早かったな。海軍と一戦やったって話を聞いたところだったが」

「ああ。途中まではバレないように空中を移動してきた。軍艦も舵を壊してきたから時間稼ぎは出来ただろう」

 

 中将五人を相手にかなりの大立ち回りをやったらしく、カナタにしては珍しい疲労具合だった。

 とは言え、多少の切り傷や擦り傷はあっても大きな傷は無い。その辺りは流石と言うべきか。

 

「船を出せ。出来るだけ人の目を避けて〝凪の帯(カームベルト)〟を渡る」

「良し来た、任せとけ!」

 

 趣味の悪い金色の髑髏の仮面を投げ捨て、ひとまずオルビアとロビンが無事だったことに安堵する。

 クローバー博士たちのことは残念だったが……彼らが選んだ道だ。後日、言ったとおりに文献の類を回収しに向かう必要があるだろう。

 オルビアと話したいことは山のように積もっているが、今は束の間の休息を取りたかった。

 死んでいった学者たちのためにも。

 

 

        ☆

 

 

 余談だが、オクタヴィアの懸賞金は後日上乗せされ、38億を超えていた。

 

 




オクタヴィア「また身に覚えのないことで懸賞金が上がってるのだが」

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