カイドウの巨体が吹き飛ばされる。
百獣海賊団、及びに侍と忍者の部隊は誰もがその事実に放心し──黄昏の海賊団はその瞬間に大地を踏み鳴らした。
「行くぞ、戦争だ!! ぶち殺せ!!!」
「ウオオオォォォォォォォォォ──!!!」
大地を踏み鳴らす軍靴の音が響く。
雄叫びを上げて全面衝突し、まず最初に巨人の振るう一撃で百獣海賊団の最前線にいた者たちが薙ぎ払われた。
彼らの目標は百獣海賊団のやや後方にいる存在──自分たちの倍ほどの体格の巨人族たちだ。
「巨人族の相手なんざまともにやってられっかよ! ナンバーズ!!」
「ジュキキ!!」
「ハチャチャ!!」
金髪の大男──クイーンが呼びかけると同時に、ナンバーズと呼ばれた巨人族たちが動き始めた。
彼らこそが〝古代巨人族〟と称される存在。理性なく、本能のままに暴れ、壊し、絶望を与える者。
膂力も並の巨人族以上。まともに相手をするのは巨人族と言えども分が悪い。
だが。
「私がやります!」
大きさだけなら、それよりも遥かに勝る存在が〝黄昏〟には居た。
「えェ~~~~!!? なんだあのデカさ!!?」
全長およそ200メートル弱。古代巨人族であるナンバーズの倍以上の大きさを誇る巨人──〝巨影〟のフェイユンである。
敵のど真ん中に踏み込み、前へと出てきたナンバーズの一人を上から叩き潰そうと拳を振り下ろした。
「ジュ、ジュキキ……!!」
両手両足を突っ張ってフェイユンの拳を受け止めようとするも、拳を引かれてよろけた瞬間に横合いから殴り飛ばされた。
二人目は飛びかかった瞬間に足を掴まれ、そのまま武器代わりに振り回されて他のナンバーズに叩きつけられた。
本能のままに暴れ回る怪物も、覇気と体技を駆使する理性的な怪物の前に次々と沈んでいく。
「こいつァ少しばかり面倒だな……」
「おれも出る。テメェも無い頭使って戦え」
「一言多いんだよテメェは!」
クイーンが舌打ちをしていると、キングが横を通って嫌味を言いつつ戦場へと躍り出た。
世界でも数少ない飛行出来る能力者であり、
クイーンもまたかなりの実力を持つ幹部だが、彼の場合は単なる実力だけではなかった。
「かなりの数を揃えてきたようだが、舐めんじゃねェぞ〝黄昏〟のクソ野郎どもォ~~!!」
ワノ国は侍の強さが有名だが、優秀な職人を数多く擁する技術立国でもある。
海楼石を世界で最初に加工したのもこの国であり、この国を牛耳るオロチとそのバックにいるカイドウは当然ながらそれらの高い技術を手にしている。
例えば、
「おれの傑作を受けてみろ!」
クイーンが構えたのも、まさしくこの国で独自に作られた銃だった。
通常は単発で弾丸を込めて使う銃しか出回っていないが、クイーンのそれは弾丸を弾薬を帯状にして供給する
更に、弾丸とするのはただの弾ではなく──。
「なんだ、これ!?」
「体が熱い……!? や、焼けてるみてェだ!」
「ムハハハハ!! おれの傑作、〝
クイーンに付けられた二つ名は〝疫災〟。
その名の通り、
しかし、当然ながら彼の情報も海軍から既に得ている。
「ふん!!」
「ぬあ!」
一息に集団から飛び出したゼンが手に持った槍でクイーンの持つ機関銃を切り裂き、あわや腕まで切り落とされる寸前で回避した。
既に何人かクイーンの細菌兵器に感染してしまっているが、こういった戦い方をすることは既に聞いていた。感染した者たちは抑えつけて後方に待機している医療部隊に引き渡し、細菌兵器をバラまかれないようにこの男を抑えておけばいい。
「この馬野郎ォ……おれの邪魔してんじゃねェよ!!」
「敵の邪魔をするのが戦いの基本ですよ、若人」
クイーンの姿が徐々に変化していく。
百獣海賊団の中でもナンバーズを除けばカイドウに次ぐ巨大さを誇る恐竜。リュウリュウの実、モデル〝ブラキオサウルス〟の能力者。
人形態の時はただ太っていただけのように見えたが、獣形態では隆々とした筋肉に覆われている。
「貴方も邪魔されて腹が立っているでしょうが──私は、それ以上に怒りではらわたが煮えくり返っている!!!」
普段のゼンでは見せない、暴力的とさえ言える覇気。
クイーンもその姿に油断なく構え、気合を入れてゼンを見下ろす。
「おでん様を殺したカイドウをこそ相手したかったところですが、貴方でも構いません。八つ当たりさせてもらいましょう!!」
「おでんだァ!? カイドウさんに負けたあの侍が何だってんだ! 易々とこのおれを倒せると思ってんじゃねェよ!!」
ゼンを踏み潰そうとクイーンの前足が振り下ろされ、ゼンは正面からそれを受けて立った。
大地が揺れる程の衝撃が走り、足元には放射状にひび割れが起こる。
しかしなおも膝をつかず、ビリビリとぶつかる覇気が大気を震わせる。
「──軽い一撃です。こんなものでは、私を潰すことなど出来ませんよ!!」
「ぐぬ……!!」
クイーンの足を押し返し、飛び上がったゼンの槍が煌めく。
斬撃がクイーンの体を切り裂き、たたらを踏んだところで更に追撃で覇気を纏わせた打撃を打ち込んだ。
「ぜえい!!」
「オォ……!!」
ミシミシとクイーンの巨体が軋む。
肉体の内部にまで浸透する衝撃は古代種の能力者であっても痛烈な一撃だ。倒れ込むことこそないが、先の斬撃と合わせて出血が増えていく。
並の相手ならこれで終わるが、そこは流石に
たたらを踏もうと、血反吐を吐こうと──己の強さを疑うことはなく。
「舐めやがって……! おれはクイーン!! 〝百獣海賊団〟の大看板だ!! 〝黄昏〟なんぞに、負けて堪るかよォ!!!」
──恐竜、未だ倒れず。
☆
六合大槍が空を切る。
人が手繰るには些かばかり長いと思われる槍だが、武具を体の延長と考えるジュンシーにとっては広い場所であれば何のことはない。
敵対するは〝プテラノドン〟──〝火災〟のキングである。
空中で三次元的な動きをしつつ、時折痛打を与えるジュンシーに状況は傾いていると言えるが……手応えはあっても倒れない、今までにない感触に笑みをこぼしていた。
「くははは……
ディルスを始めとした古代種の頑丈さは知っているが、併せ持つ飛行能力もあって中々攻撃が当たらない。空中戦には相手に分があると見える。
人形態でも存在する翼を見るに、恐らく普通の人間では無いのだろう。
こういう手合いは引きずり降ろして自分の優位な場にしてしまうのが一番だが、ジュンシーは不要だと考えて笑っていた。
「お主以外に見たことのない種族だ。以前まみえた時も思ったが、どういう種族だ?」
「テメェに教える義理があるのか?」
ガキン!! と空中で衝突する二人。
覇気を集中させて硬質化した
衝突の影響で一瞬動きが止まったジュンシーの腕を嘴で挟み、そのまま高速で地上へ向けて飛行する。
「このまま地面にぶつけて終わりだ! 腕一本貰っていくぞ……!!」
「これは厄介な……!」
腕を噛まれたままでは逃げることも出来ない。鋭角に地面へ向けて進む中、ジュンシーは体を揺らしてキングの腹に強烈な蹴りを見舞う。
しかしキングはそれが来ると想定していたのか、腹部に覇気を纏わせてダメージを軽減させていた。
二発、三発と強烈な衝撃が来るもジュンシーの腕を離すことはなく、遂に地面へと墜落させる。
衝撃と土埃で一時的に視界が悪くなり、近くにいた〝黄昏〟の船員がジュンシーへと声をかける。
「ジュンシーさん!?」
「今のはヤベェんじゃ……!!」
助けに行くべきか、と思案していると、土埃の中から人形態のキングが転がり出てきた。
その直後、キングを追う様に出てきたジュンシーは武装色で全身を固めていたのか、大きな傷こそないがところどころに血が滲んでいた。
「ぐあ……!」
「やってくれたな。今のは中々効いたぞ」
横薙ぎに振るわれる槍はうねりを上げてキングの首を狙い、キングは咄嗟に刀でそれを防ぐ。
キングとジュンシーではキングの方が体格が遥かに良い。刀と槍ではリーチが違うが、体格差で武器のリーチ差を埋めている形だ。
それでも巧みに槍を操るジュンシーの技術にキングは防戦一方となり、大きく距離を取ろうとも即座に距離を詰めてくる。
空中で腹に何度も蹴りを食らったのが効いているのか、キングの動きは戦い始め程の精細は無い。
「くははは! 頑丈なものだ! あれだけ蹴りを食らわせたというのに、まだ動くか!」
「舐めんじゃねェ!! おれはキングだ! カイドウさんの右腕として、簡単に倒れられねェんだよ……!!」
「その意気や良し」
光月おでんの敵討ちという意味合いの強い戦争だが、ジュンシー個人としてはそこまでおでんに対する思い入れは無かった。
あの男は強かったし、ジュンシーとしても強い武人が死んだことに対する悲しみはあるが、ゼンやイゾウのように近しいわけでもなく、カナタのように親しくもない。
キングと戦いつつも、ジュンシーは戦場を俯瞰して見ていた。
戦いは優勢。負ける要素は無い。
ここで潰れるならそれも良し。抵抗して見せるならそれもまた良し。
「その大言壮語に見合う力を見せてみろ。出来なければここで死ね」
──恐竜、未だ沈まず。
☆
〝花の都〟付近で百獣海賊団、侍、忍者連合と黄昏の海賊団が戦争をしているころ。
オロチへの従属を拒み、反乱を起こしてカイドウと戦って敗れた敗残兵たちにも情報が入っていた。
「今、〝花の都〟の近くで誰かがカイドウと戦っているらしいぞ!」
「一体誰が……ワノ国には、もうオロチとカイドウに逆らうようなやつがいるはずがない……」
「それが、海外の海賊だって話でよ」
人々の噂は瞬く間に広がり続け。
「……海外の海賊が、今……? あまりに出来過ぎているように思うが……」
かつての大名は傷だらけになってなおオロチへの反抗心を失わず、一縷の望みがあるのならと考え。
「〝花の都〟へ? 今は危険だと思うんじゃが……」
大名の娘は傷だらけになってもなお動こうとする父に呆れつつもそれを支えようとし。
「姫様。もし本当に彼女がここに来ているのなら……恐らく、イゾウも来ているはず。ワノ国に留まるよりは、海外に出たほうが良いかもしれません」
「……私は……」
また別の場所では、入った情報の真偽を疑いつつも僅かな可能性に賭けて移動することを決断し。
「海賊……一体誰だ……?」
カイドウを倒す可能性が僅かにでもあるのならと、盗賊団を作り上げていた男は動き始めた。
そして。
グロリオーサたちは〝白舞〟にある〝
「……カナタさんは、私がまだ子供だと思っているから……前線に出してもらえないんでしょうか」
「それもあろうな。此度ニョ戦いは凄惨なもニョとなろう……出来るならば子供に見せたくは無いと思うニョも理解出来る」
「でも、ティーチは戦ってますよ?」
「向き不向きニョ問題だろうて。そう気にするな」
カイエは今年で17になる。子供扱いされるような歳では無いが……それでもやはり、カナタから見ればまだ子供だった。
そういう意味でも前線に出していないが、防衛も立派な仕事である。
「カナタニョ考えはあまりわからないが……この港を橋頭保とする以上、攻め続ける上でニョ補給路と何かあった際ニョ退路ニョ確保は出来ている。ここを守るニョも重要な仕事だ」
「そうですが……」
「子供は逸るものだ。いっぱしの戦士にはまだ遠いな」
巨人族のディルスが笑う。
黄昏の本隊の半数と巨人族部隊の半数は防衛に残されている。何があってもこれだけの戦力があれば対処できるが……念には念を入れるのも理解出来るにせよ、今回の動員は些か過剰にすら思えた。
繋がっている前線の情報を聞けば、百獣海賊団と侍、忍者の連合部隊の人数は多くても一万を超えない。総戦力で言うなら三倍近い数を用意しているし、天然の要害である滝を既に突破している。負ける要素は無い。
「勝ち戦だと気を緩めるなと怒られそうではあるが、ことこの状況ではこの陣地まで攻め込まれることはまずあるまい」
「で、あろうな」
グロリオーサの指揮の下で陣地の構築も終わり、補給のために〝ハチノス〟へ戻った船団の一部を除いて休息を取っている。
戦っている〝花の都〟付近までは多少距離があるが、ここに居るのは怪我人と入れ替わりで投入される予備戦力でもある。場合によってはカイエにも戦う機会はあった。
可能性は限りなく低い、というのがグロリオーサの見立てだったが。
「今一番危惧しなければならないのは、むしろ……」
戦力のほとんどを引き抜いて来た〝ハチノス〟の方かもしれない。そう思うグロリオーサだったが、口には出さなかった。
〝黄昏〟とまともにやり合おうという海賊は〝白ひげ〟か〝ビッグマム〟くらいのものだが、前者は互いに手を出すことはなく、後者は海軍の監視がついている。
細々とした海賊の襲撃はあるかもしれないが、そちらに関しても最低限の戦力は常駐させていた。
落とされる可能性は限りなく低い。
しかし。
(なんだ、こニョ妙な胸騒ぎは……)
グロリオーサの中には、長年培ってきた勘が僅かな危機感を報せていた。
何かがある。しかし、具体的に何があるのかがわからない。
もやもやした感情を抱えつつも何かが起きることはなく……戦いが早く終わることを祈っていた。
その時のことだ。
「プルプルプルプルプル」
電伝虫が鳴き始めた。
連絡事項があるのだろうと判断し、グロリオーサはすぐに受話器を取った。
少しだけ音質の悪い声がすぐに聞こえてくる。まるで誰かに聞かれることを恐れるように、声は小さかった。
『あ、あー……聞こえているか? 黄昏の海賊団』
「ああ。こちらは黄昏ニョ海賊団だ。誰だ?」
『おれは海軍本部大佐、
おれ達が上に報告した情報は世界政府に握りつぶされているようだからなと、聞き逃せない情報を口にして。
ちなみにビブルカードによるとオーズの身長が67mらしいので、ナンバーズは大体プラスマイナス10mくらいで考えてます。何喰ったらそんなになるんだ。
あと一人オリキャラ混じってます。
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