ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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ちょっとやりたいことあるので急ぎ目で更新しております。


第百五話:大寒波

 咆哮と共に雷が走る。

 カナタはそれを回避し、龍の口を蹴り上げて強制的に閉じさせた。

 

「ハッハァ!!」

 

 横合いから斬りかかってきたリンリンの攻撃を槍で防ぎ、二合、三合と轟音を立てて衝突しながら捌いていく。

 プロメテウスを纏ったリンリンに氷の槍で牽制するが、覇気も込めていない攻撃では牽制にもならない。

 ゼウスを手に殴りかかってきたため、僅かに体を逸らして懐に入り込み、槍を捨てて素手で踏み込みと同時に両手で掌底をぶつける。

 肉体を貫通する衝撃にリンリンは一瞬息が詰まり、動きが止まったその瞬間に蹴り飛ばした。

 

「…………」

 

 カナタは掌底を繰り出した両手を見る。

 僅かな熱さはあったが、火傷をするほどではない。炎を纏っていると言っても、カナタは冷気を纏うことで相殺できるからだ。

 だが、手応えは薄かった。

 

「以前より強くなったか、リンリン」

「テメェ、誰に向かって上から目線で物言ってんだ……! おれはずっと、テメェより強ェよ!」

「その割に私の首は付いたままだがな。私はカイドウを始末したいのだが……先にお前から落とすぞ」

「出来るもんならやってみやがれ!!」

 

 力任せに叩きつけられた斬撃を()()()と受け流し、再び打撃を当てようとしたところで見聞色が危険を察知する。

 咄嗟に回避を選択すると、先程まで居た場所に雷撃が落ちてきた。ゼウスの仕業だろう。

 

「厄介な」

 

 リンリンの操るホーミーズは意思を持つ災害のようなものだ。

 大火事の化身、プロメテウス。

 嵐の化身、ゼウス。

 これまで何度か戦ってきたが、この二体のホーミーズはリンリンの魂を分け与えているだけあって並の強さではない。

 カナタはプロメテウスを纏ったままのリンリンに対して肉薄し、今度はカナタから攻撃を仕掛けていく。

 体格差が大きいので狙うのは足元。鬱陶しそうにカナタの攻撃を捌くリンリンは、カナタと鍔迫り合いに持ち込んでプロメテウスが更に燃え盛る。

 

「ハ~ハハママママ!! このまま焼き殺してやるよ!」

「ぬるい炎で私をどうこう出来るとでも──」

「──〝熱息(ボロブレス)〟!!」

 

 カイドウの放つ強烈な爆炎が背後から迫る。

 リンリンは武装色で固めるばかりでそれを避けるそぶりも見せず、カナタは舌打ちしてリンリンの刀を弾き、鍔迫り合いの態勢から槍を回転させて〝熱息(ボロブレス)〟を縦に切り裂く。

 まるでカナタがそうすることを知っていたとばかりにリンリンが攻撃に移り、横薙ぎに振るう刃をカナタは右ひじと右ひざで挟み込むように受け止めた。

 片足では当然踏ん張り切れず、リンリンが振り抜くと同時にカナタが弾き飛ばされる。

 それを待っていたかのようにカイドウは金棒を構え、最速最短で振り抜いた。

 

「〝雷鳴八卦〟!!」

 

 ガシャン! と音を立ててカナタの体が砕け、次の瞬間には氷が集まって再生する。

 金棒を振り抜いた直後で体勢を戻せないまま、カイドウは腹部に槍の一撃を受けた。

 

「オォ──!」

 

 ギリギリのところで武装色による防御が間に合い、斬撃で切り裂かれることこそ避けたが衝撃で大きく弾き飛ばされるカイドウ。

 入れ替わるようにリンリンがゼウスを手に接近し、カナタへと叩きつけた。

 

「〝雷霆〟──!!」

「入れ替わり立ち代わり、鬱陶しいことこの上ないな!」

 

 地面を凍らせ、そこから生み出された氷の巨人の腕がリンリンの一撃を止める。

 轟音を立てて砕け散る氷の腕の奥からリンリンが姿を覗かせた瞬間、カナタは槍を構えて迎撃に入った。

 

「──〝威国〟!!」

「〝威国〟!!」

 

 全く同じタイミングで同じ技を使い、僅かに技量で上回ったカナタの斬撃がリンリンのそれを打ち破る。頬に切り傷を入れられながらもリンリンは止まらず、炎を纏った刀──〝ナポレオン〟を振り被る。

 

「〝皇帝剣(コニャック)〟──〝破々刃(ハハバ)〟ァ!!」

 

 炎を纏った刃を槍で受け止め、熱気と冷気の衝突による急激な温度変化で大気がうねる。

 カナタは足元を凍らせていき、徐々に氷の範囲を広げていく。

 リンリンはカナタが次に何をするつもりか察したのか、咄嗟に離れた。

 

「勘のいい女だ」

「伊達に長生きしてねェよ!!」

 

 足元から急襲するつもりが、リンリンは見聞色では無く積み重ねた経験則でカナタの攻撃を予測していた。

 二人の付き合いもそれなりに長い。これだけぶつかっていれば相手の手札もある程度はバレている。予測されたとて不思議はない。

 次はカナタから攻勢に入り、氷の槍に覇気を流し込んで投げつけつつ自身も接近戦へ移る。

 リンリンに弾かれた槍を宙に浮かせ、両手で手繰って叩きつける。更に宙に残っている槍は柄を蹴って再び勢いよくリンリンへと向かう。

 体勢を崩すことを目的とした細かな攻撃に業を煮やしたのか、リンリンは左手にゼウスを呼び出して辺り一帯を薙ぎ払った。

 

「鬱陶しいんだよォ!!」

「体勢も崩さず、隙も作らないままで大ぶりな攻撃が当たる訳が無かろう」

 

 何事も積み重ねだ。

 カナタは雷撃の隙間を縫うようにリンリンに斬りかかり、ふと気付く。

 

 ──プロメテウスを纏っていない!

 

 先程までリンリンが纏ってカナタの冷気を無効化していた。今の雷撃を放った瞬間に離れたのだろう。

 だが、プロメテウス単体ではカナタに封じ込められることはリンリンとて承知の上のはずだ。

 何が目的だ──思考を巡らせる最中、リンリンの肩越しにプロメテウスが大きく膨らんで炎を吐き出すのが見えた。

 

「〝天上の(ヘブンリー)ボンボン〟!!」

 

 ともすればリンリンすら巻き込みかねない爆炎が辺りに炸裂する。

 カナタを直接狙ったものではない。カナタの周囲を燃やすことで冷気を軽減させることが目的なのだろう。

 

「ぬるい炎だと、何度言わせる!」

「だったら凍らせてみなァ!!」

 

 バリバリと覇王色を纏った一撃が衝突して大気が悲鳴を上げる。

 その周囲に巨大な龍の姿になったカイドウがとぐろを巻き──カナタとリンリンを包み込むように回転し始めた。

 何の真似だ、と聞くまでもない。

 

「プロメテウス!」

「ハイ、ママ!!」

 

 再びプロメテウスを纏ったリンリンは竜巻の中心から外れ、追いかけようとするカナタへ〝威国〟を放って僅か一瞬の足止めをおこなった。

 

「──〝龍巻(たつまき)〟!」

 

 プロメテウスの炎をカイドウが発生させた龍巻が巻き上げ、火災旋風として空へと立ち昇る。

 尋常ではない勢いで燃えあがる火災旋風にカイドウとリンリンは距離を取り、僅かでも効果があればとジッと経過を見守る。

 大地を焼き、空を焼き焦がす炎の竜巻は留まるところを知らずに破壊を続け、生身であれば容易く焼き焦がす災害の様相にリンリンも笑みを浮かべていた。

 これだけの規模ならカナタとて無事では済まないだろうと。

 ──僅かに気が緩んだ一瞬、巨大な火災旋風から巨人の腕が突き出された。

 

霜の巨人(ヨトゥン)か!」

「なんだありゃあ……!」

 

 火災旋風を引き裂くように内側から這い出た氷の巨人の姿に、さしものカイドウも絶句する。

 表面は覇気によって黒く染まり、一切の傷も無く火災旋風を抑えつけた。のちに巨人の肩からカナタの姿が現れ、じろりとカイドウとリンリンを睨みつける。

 

「気合入れな、カイドウ。ここからが本番だ」

「あァ……そうみてェだな」

 

 これまでは本気ですらなかった。

 カイドウは本気を出すに値するとさえ見られていなかったのだと、カナタが能力を広大な範囲に使っている様を見て実感する。

 気温が著しく下がり、空に立ち込める暗雲からは雪が降りしきる。

 環境が激変していく。

 世界がカナタの手によって改変されていく様を前に、カイドウは恐ろしくも笑みを浮かべて高揚していた。

 

「そう来なくちゃな……おれが倒す〝最強〟の敵は、やはりお前だ、カナタ……!」

 

 

        ☆

 

 

 暗雲が立ち込め始め、急激に気温が下がるのを誰もが感じ取っていた。

 イゾウも空を見上げ、カナタが本気で暴れはじめたのを本能的に察する。

 

「これは……まずい。ジョルジュ!」

「わかってらァ! 黄昏の海賊団! 戦線を後退させるぞ! 急げ!!」

 

 幹部たちは慣れた様子で戦線を後退させ始め、傘下の海賊たちも困惑しつつ言われた通りに戦線を後退させる。一か所だけ突出していてはあっという間に叩かれるので、彼らも必死だった。

 急に戦線を下げ始めた黄昏の海賊団に対し、侍や百獣、ビッグマム海賊団は困惑していた。

 

「何の真似だ……?」

「我々のこれは必要な行動ですよ。ここに居ては近すぎますので」

 

 眉根を寄せるカタクリに対し、ゼンは簡素に答えた。

 急激に下がる気温、暗雲から降り始めた雪──そして、遠くに見えた火災旋風を突き破って現れた氷の巨人を見て、カタクリは全てを察する。

 

「ぺロス兄……は、駄目か……!」

 

 先程フェイユンにやられ、クイーン共々重傷を負っている。

 ならばとカタクリは後方で指揮に徹していた弟、モンドールに声をかけた。

 

「モンドール! おれ達も距離を取るぞ!」

「あ、ああ……! だが何故だ!? 黄昏を追い返せばいいとは聞いているが、このタイミングでどうして奴らは動き出したんだ!?」

「〝魔女〟が全力を出し始めたんだ! ここに居ては巻き込まれる!!」

 

 モンドールはギョッとした様子でリンリンたちが戦っている方向を見る。

 天変地異のような戦いを続けているあちらの余波で、ここまで危険にさらされるとは思わなかったのだろう。「まさか」と呟くが、肌を刺すような大寒波に冗談でも何でもないと気付き、すぐさま行動に移った。

 

「キング! 百獣海賊団はそっちに任せた! 奴らを追う形でおれ達もここから退避するぞ!」

「良いだろう。おれ達も巻き込まれるのは御免だからな」

 

 フェイユンを速度で撹乱しつつ〝ナンバーズ〟に相手をさせていたキングは、モンドールの言葉を聞いて地上に降りてきた。

 一撃で重傷を負ったクイーンを「情けない奴だ」と吐き捨てつつも、医療班に急ぐよう怒声を飛ばしている。

 恐竜の能力者の頑丈さは伊達ではない。ペロスペローよりも復帰は早いだろう。

 それでも、たった一撃でクイーンを気絶させたフェイユンの腕力は甘く見ていいものではない。キングも何度か危ない場面があった。

 ビッグマム海賊団との共闘で何とか押し返せつつはあるが……この戦場に於いて、フェイユンをどうにかしなければ勝ちの目はない。

 同時に。

 

(……カイドウさん。アンタが負けるとは思わねェが……)

 

 〝魔女〟はこれまで戦ってきた多くの敵の、そのどれとも違うと理解していた。

 ここまで大規模に環境を変えるような化け物など見たことがない。キングもそれなりに強いと自負しているが、あれに巻き込まれれば余波だけでもただでは済まないだろう。

 船長を信じることしかできない自分を恥じたのは、初めての事だった。

 

 

        ☆

 

 

「私は暑いのは嫌いでな」

 

 降りしきる雪の中で、カナタはそう言った。

 火災旋風の中にあって多少熱い思いはしたが、即座に防御に移ったので火傷などはない。

 細かな傷はどちらかと言えばリンリンとカイドウの方が多く、カナタの肌に未だ傷は無かった。

 だが。

 

(面倒だな)

 

 一見カナタが押しているように見えるが、リンリンとカイドウの怒涛の攻撃で反撃が難しい。

 防御に専念すれば凌げるが、それでは打つ手がないと言っているに等しかった。

 なので、多少の傷を織り込んでも攻撃に移ることにする。

 

「〝霜の巨人(ヨトゥン)〟よ」

 

 武装した氷の巨人は覇気によって黒く染まり、カナタと動きが同期している。以前リンリンと戦った時よりも更に精度が増しており、その動きに淀みはない。

 異様な姿にリンリンとカイドウは笑い声をあげた。

 

「ママハハハハ……! 毎回毎回、驚かせてくれるじゃねェか!」

「ウォロロロロロ……!! 気持ちが高ぶって暑苦しかったところだ! 涼しくなって丁度いいぜ!!」

 

 巨大な龍の姿に変化したカイドウは、容赦なく霜の巨人を狙って強烈な一撃を放つ。

 

「〝熱息(ボロブレス)〟!!」

 

 しかし霜の巨人は右手に持った槍であっさりとそれを切り裂き、見た目とは裏腹に猛烈な速度でカイドウとの距離を詰めて抑え込んだ。

 リンリンは拳に覇気を纏い、霜の巨人の背中を強かに殴りつける。

 

「……! 手応えがあった。やっぱりテメェの肉体と同期してやがんのか!!」

 

 カイドウを抑え込むだけの膂力と覇気を、単なる氷が持ち得るわけがない。

 カナタの肉体と同期することで流し込まれた覇気が力を押し上げている。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ママハハハハ!! 丁度いい的が出来たぜ!!」

 

 左手にゼウスを呼び出したリンリンはカナタ本人ではなく、カイドウを抑え込むために動きを止めて背を向けている霜の巨人へと向かう。

 頑丈ではあるが、破壊できないほどではない。

 先程までの戦いでは勝てないと悟って別の戦法を取って来たようだが、付け焼刃だったなとリンリンは口元を歪めた。

 

「〝雷霆〟!!」

 

 叩きつけられる強烈な雷撃。霜の巨人の胸元には巨大な穴が開き、そのままカイドウにまで余波が及ぶほどの威力を見せた。

 少なくとも今は共闘相手だ。「悪いな」と口で謝りつつも、この隙を逃せばカナタにまともなダメージを与えることは出来なかっただろうと考え。

 今の一撃は強力だった。

 たとえカナタでも無傷ではいられないだろうと考え──霜の巨人を形作る氷の色が黒から元の水晶のような透明に戻っていることに気付いた。

 まさか、とリンリンは咄嗟に振り向く。

 

「お前は頭は悪くないが──油断が過ぎるな」

 

 再び作り上げられた霜の巨人。

 速度を重視したためか、不格好な右半身だけの姿でリンリンを殴りつけた。

 

「同期が出来るなら同期を切ることもまた同じ。一つ勉強になったな、リンリン」

 

 カナタの覇気を込めた一撃だ。リンリンとて真正面から受けた以上ダメージ無しとはいかない。

 このまま続けてダメージを与えようとした刹那──カイドウがカナタの至近距離にまで迫っていることに気付く。

 見聞色をどれだけ鍛えても、目の前の相手だけに集中していれば死角は生まれる。ましてや相手は同格のリンリンだ。

 既にカイドウは攻撃動作に入っている。迎撃ではなく回避を選択しようとして、右腕に痛みが走った。

 

「〝刃母の炎(ははのひ)〟ィ!!」

「リンリン……!」

 

 プロメテウスの炎を纏った刃が霜の巨人の右腕を破壊する。

 リンリンの頑丈さを甘く見ていた。

 カイドウの方に意識を移して見聞色がおろそかになったこともあるだろう。攻撃した後のリンリンの動きを確認しなかった。

 だが。それでも。

 この状況で、カイドウを目の前にして、リンリンに意識を割くべきではなかった。

 

「──〝雷鳴八卦〟!!!」

「──ッ!!」

 

 その一撃は雷鳴の如く。

 雷を纏った金棒の強烈な打撃が、カナタの頭部を捉えた。

 今回の戦いにおいて、初めてカイドウの攻撃がカナタに直撃する。

 

「オォ──らァ──ッ!!!」

 

 今出せる全力で金棒を振り抜き、カナタを吹き飛ばす。

 全身全霊、これ以上のものは無いと自負するほどの一撃だった。

 既にカイドウの肉体はボロボロだ。如何に頑丈な動物系幻獣種の能力者とは言え、これ以上のダメージが蓄積すれば命に関わるほどに。

 それでもカイドウは不敵に笑い、吹き飛ばしたカナタを見る。

 

「……どうだ、おれの最高の一撃は」

「……ああ。悪くない一撃だった」

 

 吹き飛ばしたカナタは頭部から一筋の血を流し、口の中を切ったのか血を吐き出す。

 冷えた空気が心地良く火照った頭を冷やし、攻撃のために無数の氷の武器を生み出した。

 

「だがお前も限界だろう。お前もリンリンも、殺せないことは無いが……」

 

 正直、分が悪い。

 霜の巨人は同期する特性上、破壊されれば直にカナタにダメージが行く。それでもブラフとカイドウを抑え込むために使用したが、リンリンは学習した。次はない。

 奥の手である〝白銀世界(ニブルヘイム)〟もあるが、あれは体に炎を纏うリンリンとは相性が悪い。

 閉鎖空間を作り出して冷気で弱らせる空間であるため、熱を自前で生み出し続けられる能力相手では効果が薄いのだ。 

 二人同時に閉じ込めればカイドウは殺せるが、それだけやって莫大な覇気を消費した後でリンリンの相手は些か手に余る。

 無論、リンリンも消耗はするだろうが……カナタとは疲弊度合いが違う。

 

(……今回はここまでか)

 

 カイドウだけは殺しておきたいところだった。

 今回の戦いで今後の脅威になる可能性を見た上、リンリンとの共闘ありきとは言えカナタに一撃入れるまでに研ぎ澄まされている。

 しかし無理をしてカイドウを殺してもリンリンとの連戦になる上、最悪の場合そのまま海軍との戦争にもつれ込む可能性もある。

 リンリンの動きを報告しなかったセンゴクの真意も不明だ。

 このまま戦っても良い結果が得られないなら、余力を残しておく方にシフトした方が良い。

 

「残念だが、今日はここまでだ」

「ほォ、偉く素直じゃねェか。簡単に尻尾巻いて帰るとは思わなかったよ」

「カイドウを殺すだけなら簡単だが、お前を殺すのは骨が折れる。実力はそれなりに認めているつもりだ」

 

 いずれ落とす首ではあるが、その強さは認めている。

 生み出した無数の氷の武器を一斉に投擲して目くらましにして、カナタはカイドウの懐に入り込んだ。

 

「次は殺す。首を洗って待っておけ」

 

 覇気を纏った蹴りをカイドウの横っ腹に叩き込み、リンリンの方へと蹴り飛ばす。

 リンリンは武器を切り払った直後に飛んで来たカイドウを危うく切りそうになり、慌てて手を止めて受け止めた。

 邪魔になったカイドウを横に振り落としてカナタの姿を探すが、既にどこにもいなかった。

 




前回あれだけ援軍登場!みたいな河松登場フラグ立てたのに次の話で登場する前に撤退とは…。

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