ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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ネコマムシの口調が難しすぎる。何弁なんですかねあれ…土佐弁?


第百十話:〝スカイピア〟

「〝空島〟へ?」

 

 〝ゾウ〟であらかた用事を済ませて一泊し、出発間際でイヌアラシに「もう帰るのか」と問われたイゾウは「今から〝空島〟へ行く」と告げた。

 イヌアラシは懐かしそうな顔で顎を撫でる。

 

「懐かしいのう。おでん様と一緒にバケモノ海流で空に昇った時は生きた心地がしなかったもんじゃき」

「ああ。あの時は流石に死を覚悟した……だが、空に人がいるというのも驚きだったが、そこにあった()()()()もまた驚きだった」

「ありゃあ凄かったにゃあ」

「黄金の鐘?」

 

 イヌアラシとネコマムシの会話を小耳に挟んでいると、興味深い言葉が聞こえてきた。

 カナタは興味をそそられたのか、三人が話しているところに近付いて〝黄金の鐘〟について尋ねてみる。

 

「興味深い言葉が聞こえたが、〝空島〟には〝黄金の鐘〟があるのか?」

「ええ。島の名前も同じですし、当時のままなら恐らくは」

「ほう……」

「台座には古代文字で書かれた文章もありましたし、当時の文明で作られたものなのでしょう」

 

 オルビアが聞いたらすぐにでも飛びつきそうな話だ。

 イゾウ曰く「古代兵器に関する文章」らしいので、内容には余り興味を抱かない可能性もあるが。

 というか、おでんとロジャーが何やら文字を彫り込んでいたらしいが、歴史的な建造物に妙なものを書き込むなど考古学者が知ると怒りそうだ。

 どちらも既にこの世にいないので知られて困ることも無いだろうけれど。

 微妙にしんみりした空気になったので、イゾウ達に〝スカイピア〟についてわかっていることを聞いておくことにした。

 

「〝スカイピア〟は神の治める土地です。神と言っても、国の王──ワノ国で言えば将軍に当たる地位になりますが」

「リゾートみたいな場所だったにゃあ。美味いモンが多いき、日和様も楽しめると思うぜよ」

「ただ、色々と問題を抱えている土地でもありました。余所者を排除しようとする部族の〝シャンディア〟、〝聖地〟と呼ばれる土地〝アッパーヤード〟……カナタさんたちならば問題は無いでしょうが、日和様と千代様からは出来る限り目を離さない方が良いかと」

「……それくらいの問題ならいいのだが」

 

 多少の危険ならば船員たちも慣れているし、イゾウや河松の実力は数いる海賊たちの中でも非常に高い方に入る。

 あとは不測の事態にだけ気を付けておけばいいのだが……。

 

「……一度現地に行ってみないことには分からないこともあるが、概ね問題は無さそうだな。気を休めるには良さそうだ」

 

 現地の戦士の実力はそれほどではないというから、怪我の心配も無いだろう。

 五老星があれこれ決めるまではゆっくり出来そうだ。

 

「カナタさん。日和様の事、よろしくお願いします」

「わしらはここで牙を研ぎますき。いつかワノ国に討ち入りに行く際は、わしらに一声お願いします」

 

 光月とミンク族は古くからの盟友だ。

 おでんの無念を晴らし、その遺志を受け継ぐために戦えるならばこれ以上の誉れは無い。

 当初は付いていくつもりだったようだが、イゾウと河松を交えて一晩色々と相談した結果残ることにしたらしい。

 電伝虫も設置し、連絡は何時でも取れるようになった。錦えもんたちが本当に戻ってくるかはわからないが、現時点ではそれを目標に牙を研ぐことにしたと言う。

 

「喧嘩はするなよ」

「それはもちろん。日和様のためにも、我らは一度誓ったことを破りはしません」

 

 イヌアラシとネコマムシは頭を下げ、仲が悪くとも日和のために殺し合いなど二度としないと誓った。

 鍛錬をする上で二人が戦うことはあるかもしれないが、それでも一線は守る。

 話しているうちに出航時間となり、全員が船に乗り込む。

 

「また来てください! その時は盛大にもてなしをします!」

「日和様も、たまには顔出してもらえるとわしらも嬉しいきに!!」

 

 徐々に高度を上げる船に手を振りながら、二人はそう言って見送った。

 次に目指すは空島──〝スカイピア〟だ。

 

 

        ☆

 

 

 今回目指す島は海面より高度一万メートル上空にある。

 イゾウが以前訪れた時は〝突き上げる海流(ノックアップストリーム)〟によって下から突入したらしいが、今回はそんな博打な手段はとらない。

 もし取ると言っていたらイゾウは日和を連れてくることに反対していただろうから然もありなん。

 上空に浮かぶ空島を、更にもう少しだけ高い位置から見下ろす。

 

「おお……こりゃあスゲェな……」

 

 クロも初めて見る光景に思わず感嘆する。その隣では千代もお供の侍に抑えつけられながら騒いでいた。

 

「うっはっはっはっは!! なんじゃこれ! なーんじゃこれ!! 島が空に浮いとるんか!? 世界ってのは広いのう!!」

「ひ、姫様! 大人しくしてくだされ! 落ちまする!!」

 

 日和も目を丸くして驚いており、見渡す限り白い雲と海──楽園のような光景に多くの者達が興奮していた。

 だが。

 

「……どうしたんだ? お前ら上の方を見て。何かあんのか?」

 

 カナタやイゾウなど、幹部──正確に言えば見聞色の覇気が使える者たちは皆、一様に眼下に広がる雲の海ではなく、どこか一点を見つめていた。

 これほどの絶景を前に、険しい顔つきをしている。

 

「……どういうことだ、イゾウ」

「いえ……こればかりは、私にも」

「おい何だよカナタ。何かあるのか? なんにも見えねェが」

「だろうな。目視出来る距離ではない」

 

 だが、確実にいる。

 かなりの距離があるが、それでもわかるこの威圧するような気配──恐らく、あちらもカナタの事に気付いている。

 以前訪れたことのあるイゾウも、この異様な気配に冷や汗をかいていた。

 

「かなり強い気配だ。広い海の中でも、こんな気配を発することが出来る者は少ない」

 

 ニューゲート、リンリン……既に死んだ者を含めるならロジャーやシキもそちら側だ。

 そこに名を連ねることが出来る程の強者をイゾウが見逃すとも思えず、ロジャーが接触しなかったとも考えにくい。

 なら、ここ数年の間に住み着いたと考えられる。

 色々と想定は出来るが──カナタはこの気配に覚えがあった。

 

「オクタヴィアめ……ここ最近噂を聞かないと思えば、こんなところにいたのか」

 

 歩けばすぐに噂の立つ女だ。どこに身を隠したのかと不思議に思っていたが、訪れる者の少ない空島ならば確かに噂が立つことも無い。

 身を隠すならうってつけの場所だろう。

 

「戦うならいい機会だが、日和と千代を連れて乗り込むには些かリスクが高いな」

「どうする? 一度どこかの島に降ろすか?」

「そうだな。ここからなら確かアラバスタが──」

 

 刹那、攻撃の意思を感知した。

 

「上か!」

 

 カナタは咄嗟に氷の盾を発生させ、狙い澄ましたように降り注ぐ雷撃を防ぐ。

 破壊力も含め、雷の能力者という一点で敵はオクタヴィアだと確定した。

 

「……逃がすつもりは無いという事か」

 

 オクタヴィアの攻撃範囲はかなり広い。加えて今の一撃に覇気は乗っていなかった。加減したというよりも牽制の意味合いが強い。

 直接戦うつもりなのかはわからないが、逃げずに戦うなら攻撃をしてくるつもりもないらしい。

 

「近くのビーチに船を着けろ。私一人で乗り込む」

「待て待て待て。焦るなよカナタ、まずは情報収集だ」

 

 オクタヴィアの雷に冷や汗を流しつつも、ジョルジュは一旦カナタを落ち着かせようと、そう提案する。

 相手は一つの時代を築いた海賊の一人だ。いくらカナタでも分が悪いし、敵に仲間がいるようならさらにまずい。

 頭を冷やす意味でも時間が必要だ。

 ひとまず近くのビーチに船を着け、現地の住民に話を聞くことにした。

 ……幸か不幸か、大型のガレオン船である〝ソンブレロ号〟が空を飛んできたことでカナタ達はかなり目立っている。話を聞く現地住民には困らない。

 ジョルジュとカナタは船を降り、見物に集まってきている住民の一人に話しかけた。

 

「おい、ちょっといいか?」

「え? あ、はい。大丈夫です。すいません」

「いや謝る必要はねェが……」

「そうですか? すいません」

「いや……もういいか。とりあえず聞きてェんだが」

 

 この国にいるオクタヴィア──雷の能力者について。それと、もしその仲間がいればそちらについても。

 話しかけた青年は腕組みして考え込み、歯切れの悪い返答をしてきた。

 

「どちらも、私はあまりわかりません。すみません」

「わからねェ? あんな奴が近くに住んでて危険じゃねェのか? 神って奴もいるんだろ? 野放しにしておくとは思えねェが」

「神様は二年ほど前に代替わりをなされました。お姿は知らないのですが……先程仰っていた雷の能力者の方だと思います」

「……オクタヴィアが神の座に就いたってのか……普段は何をしているんだ?」

「私は存じ上げません。代替わりをされても、何かが変わったという事もなく……あ、でも時たま訪れる青海の海賊による被害は無くなりましたね」

 

 ジョルジュは困惑してカナタの方を見る。

 思っていた状況とはだいぶ違うらしい。

 圧政を敷くでもなく、暴虐にふけるでもなく。

 ただ、以前と変わらない生活を続けているのだと。

 イゾウも船から降りてきて話を聞いており、難しい顔でカナタとジョルジュのところに戻ってきた。

 

「……先代の神であるガン・フォール殿の行方がわかりません。オクタヴィアが神の座に就いたというのなら、最悪の場合……」

「あの女に容赦など無かろう。死んだと考えた方が良い」

 

 死体は確認されていないらしいが、オクタヴィアと戦って死体が残る方が珍しい。

 それだけ能力が強いこともそうだが、彼女自身の強さが隔絶している。

 ともあれ、この場に居てもどうしようもない。

 

「お前たちはここに居ろ。船を含めてここにいれば、多少は安全だろう」

 

 オクタヴィアがいると思われる島は周りの雲の島と違い大地で作られている。カテリーナや他の数名の船員も色々聞いて回っているようだが、どうもあれが〝聖地〟と呼ばれる場所らしい。

 空島には本来大地は無いため、あれほどの巨大な大地の塊はまさしく〝聖地〟と呼ぶにふさわしいのだとか。

 カナタはその辺りの事情に興味は無いが、踏み入るなと言われても退くことは出来ない。

 

「シャンディアと言う部族もいるのだったか」

「ええ。彼らにとってもあの地は大事な場所らしく、下手に踏み込むと襲ってくる可能性もありますが……」

「大して強い気配はない。大丈夫だ」

 

 カナタはイゾウの懸念に問題ないと即答した。

 空島にオクタヴィア以上の実力者は存在しない。あれ以下なら全て同じだ。

 念のために脱出の準備だけは怠らないように──そう話していると、ビーチがにわかに騒がしくなる。

 

「──カナタ! 船が!!」

 

 ジョルジュの声に反応して船を見てみれば、巨大なエビが複数体で船を抱えてどこかへ運んでいる。

 

「何の真似だ……!」

 

 すぐさま海を凍らせて動きを止めようとすると、カナタを狙って巨大な雷撃が複数回降り注いできた。

 船とカナタを断絶するように雷の壁を作り、後を追わせまいとするかのように。

 雷撃そのものは咄嗟に回避できた。近くにいたイゾウの首根っこを掴んでの移動だったので、振り回されたイゾウは溜まったものではなかったが……それでもあの雷撃を直に受けるよりはマシだったと言える。

 船は見る見るうちに遠ざかり、後を追おうとすれば再び雷撃が降り注ぐ。

 

「人質に取ったつもりか……面倒な真似を」

 

 一撃一撃が強烈だ。

 雷撃の痕を見れば、雲の島に風穴を開けて下層まで続いている。

 これ自体は後で修復出来るらしいが、それにしたって滅茶苦茶なやり方だ。

 

「あいつらどこに連れていかれたんだ?」

「〝聖地〟と呼ばれる場所だな。内部に向かって移動しているようだ」

 

 幸い、フェイユンがあちらに居るので船の防備は問題ないだろう。日和と千代もいるが、カイエや河松などの実力者も乗船したままだ。

 船を降りていたのはカナタ、ジョルジュ、イゾウにカテリーナと他に数名の船員。

 戦力的にはちょうどいいくらいにばらけていると言える。

 

「どうもオクタヴィアは何が何でも私を怒らせたいらしい。ふざけた女だ」

 

 〝村正〟も愛用の槍も手元にある。船に戻る必要は無いが、どちらにしても救出に向かう必要はある。

 

「ジョルジュ。お前は他の面々を連れて船に戻れ。船にいる面々と合流したら巻き込まれないようにどこかへ退避しておくがいい」

「そうだな、そうした方が良さそうだ。イゾウも日和の事は心配だろ?」

「心配ではあるが……河松が一緒だ。無事だろう」

 

 河松の実力は認めている。早々に後れを取ることは無い。

 だから、問題があるとすればオクタヴィアとカナタの戦闘に巻き込まれることなのだが……。

 

「私たちは先に船に戻るんだよね? カナタさん、先にドンパチ始めたりしない?」

「辿り着くまでにある程度時間はかかるだろうが、保証は出来んな」

 

 だから、なるべく早く船に辿り着いて貰いたいのだ。

 〝聖地〟──アッパーヤードまではカナタが先行して雲の海を凍らせることで道を作れる。その後は見聞色で気配を辿ってまっすぐ向かってもらう他にない。

 多少は時間がかかるとしても、ジョルジュたちは行って帰るまでの時間が必要になるからだ。

 

「船の方も大人しく待っていてくれればいいが……」

「電伝虫は船に置きっぱなしにしてたからな。連絡とれねェのは面倒だ」

「……クロさん、大人しく出来るかな?」

 

 カテリーナの素朴な疑問に黙る三人。

 

「……ジョルジュ、なるべく急げ」

「ああ。余計なことをしでかす前に、だろ。わかってるよ」

 

 カナタとの付き合いも長い。ジョルジュは煙草を口に咥えて気を紛らわせる。

 イゾウは比較的短い付き合いだが、クロがこういう時にやらかす行動はある程度把握していた。

 自由にさせていると面倒なことを引き起こしかねない。

 

「では、〝アッパーヤード〟に着き次第、二手に分かれる」

 

 カナタは単独でオクタヴィアの下へ。

 ジョルジュたちは最短最速で船へ。

 クロが余計なことをしでかさないことだけを祈って、カナタ達は移動を開始した。

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