ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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時間が無かったのでちょっと短めです


第百十三話:雷を操る女

 〝神の社〟に一人、女が玉座に座っていた。

 雷の肉体を持つ彼女の力と卓越した見聞色があれば、この空域一帯の会話を全て聞くことも容易い。

 その上で、彼女は全ての事象を無視していた。

 重要なのはカナタがこの場に現れる事。それ以外はすべて些事であるとして、一切の興味を抱かずこの場から動くことも無い。

 〝ビルカ〟と呼ばれる別の空島から連れてきた戦士たちもいたが、あれも彼女にとっては身の回りの世話をさせるだけの雑用係に過ぎないのだ。生きていようが死んでいようがどちらでも良かった。

 座する女──オクタヴィアはゆっくりと目を開け、〝神の社〟の扉を開け放って入ってきた女性を見る。

 

「──来たか」

 

 オクタヴィアは玉座の脇に立てかけていた槍を手に立ち上がる。

 誰もが畏怖するオクタヴィアに一切物怖じすることなく、カナタはずんずんと近付いていく。

 ため息を一つ吐き、オクタヴィアは呆れたように呟いた。

 

「久々の再会だと言うのに、挨拶の一つも無しとは」

「お前と交わす言葉などない」

 

 迷惑をかけられたことは多々あるが、助けられたことなどない。

 オクタヴィアの娘であるという一点だけでどれほどの不利益が出たことか。

 ここで会った以上、逃がす気が無いのはカナタとて同じなのだ。

 

「お前は既に時代の亡霊だ。消え失せろ──!!」

「言葉で強がることは容易い。それだけの力を見せてみろ──!」

 

 互いに同じ得物を振りかぶり、勢いよく衝突する。

 激突する覇王色の覇気は轟音と共に辺りに伝播し、二人の攻撃の余波だけで〝神の社〟が崩壊した。

 

 

        ☆

 

 

 フェイユンは空を見上げ、覇王色が激突したことを感知した。

 〝新世界〟では覇王色の持ち主などそう珍しくも無いが、カナタの覇王色と同じかそれ以上の圧力を感じる程の強さを持つ覇気など滅多にいない。

 カナタとオクタヴィアの戦いが始まったのだろう。多少離れているが、ここも危ない。

 

「出航の準備は出来てますか?」

「船に問題は無いです。荷物に多少の破損はありますが、人員には特に問題なく」

「では船に乗り込んでいて下さい。ジョルジュさんたちもすぐに来ます」

 

 最悪フェイユンが船を持って運べばいいが、なるべくならジョルジュの能力で移動させた方が良い。フェイユンは壊す専門なので船を壊さないように移動させるのは慣れていないのだ。

 そう思っていると、いくつかの気配が近付いてくるのを感知した。

 

「何でお前は大人しく出来ねェんだよ!?」

「ヒヒヒ、こんな面白そうな島で大人しくするなんて嘘だろ」

「ティーチとカイエがいるし、怪我も無い。心配するのはわかるが、過保護ではないか?」

「コイツ一人が痛い目見るくらいならいいがよ、大抵厄介事を引っ張ってくるんだよ」

「ゼハハハハ! 随分な言われようだな!」

「貴方も同じですよ」

 

 船に移動する途中で合流したのだろう。クロたちとジョルジュたちが一緒に船へと戻ってきた。急いでいたのか、クロはティーチに担ぎ上げられ、カテリーナはジョルジュの背中に乗っている。

 見聞色が使えるなら、上でカナタとオクタヴィアが衝突していることは察せる。あの二人レベルの戦いになると周りに出る被害も相当なものだ。怪我をしないうちに離れておいた方が賢明だろう。

 ジョルジュは背負っていたカテリーナを降ろし、船を見ると目を丸くしていた。

 

「うおっ! 完全に座礁してるじゃねェか!? 船壊れてねェよな?」

「大丈夫です。点検しましたから」

「そうか……悪いな、フェイユン。他の連中は無事か?」

「はい。変な人が攻めてきましたけど、弱かったのですぐ倒せました」

 

 被害と呼べる被害は無い。フェイユンが暴れて多少木が圧し折れたくらいだ。

 カテリーナたちはすぐに船に乗り込み、いつでも出発できるようにする。イゾウはすぐに日和と河松の無事を確認しており、安堵していた。

 他の面々も次々に船に乗り込み、ティーチは治療を受け……ジョルジュとフェイユン、カイエは意見を交わしていた。

 

「島を出るべきだな。カナタとオクタヴィアの戦いが終わるまでは下手に近付けねェだろう」

「空島の外縁部に留まるべきでは? カナタさんが負けるとは思いませんが、万が一の場合、カナタさんを連れて脱出する必要があるかもしれません」

「だが、カナタでも敵わねェとなるとな……おれ達が束になっても太刀打ち出来ねェ。せめて足を引っ張らねェようにするべきだろ。フェイユン、お前はどう思う?」

「……少なくとも、この島に留まるべきでは無いと思います。きっと、邪魔になっちゃうから」

 

 肌に打ち付ける覇王色の衝突の余波。

 絶え間なくぶつかり合う二つの覇気は、島に少なくない影響を与えている。

 島の動物たちが島の中央から必死に逃げているのが感じ取れる。誰もが恐怖しているのだ。

 その中で、真っ直ぐこの場所を目指して移動している一団もある。動物たちが逃げて移動するそれではない、別の存在だ。

 面倒事に巻き込まれる前に、早めに島を出た方が良いかもしれない。

 

 

        ☆

 

 

 高速で振るわれる槍から一拍遅れ、斬撃をなぞるように雷が後を追う。

 斬撃は槍に阻まれ、雷撃は氷の盾によって防ぐ。オクタヴィアの攻撃は苛烈そのものだが、カナタはそれら一つ一つを丁寧に対処して一切の隙を見せない。

 速度ではオクタヴィアの方が勝るはずだが、カナタはオクタヴィアの攻撃に遅れることなく対処できている。

 

「見聞色は既に私より上か。武装色も悪くはない」

「随分余裕を見せるものだ。私を甘く見過ぎだぞ」

 

 オクタヴィアに負けず劣らず、カナタは反撃に転じた。

 これまでに培った技術を余すことなく使い、オクタヴィアの首を落とそうと苛烈に攻撃する。

 しかし、見聞色はカナタの方がやや上手だという理由だけではオクタヴィアは落とせない。硬質な武装色もそうだが、オクタヴィアの戦い方が時折がらりと変わるのだ。

 スイッチを切り替えたかのように動き方が突然変わり、守りに入っていたかと思えば突如攻撃に転じる。攻撃していたかと思えばカナタが反撃に出るタイミングでカウンターを狙うために守りを固める。

 戦闘経験は確かにオクタヴィアの方が上だろうが、それにしてもここまで戦い方が違うのは妙だった。

 

(7……いや、8つか)

 

 カナタの見立てでは都合8つの型があり、状況に応じて使い分けることで見切りにくくさせている。

 だが、それが通じるのは格下だけだ。一定以上の実力があれば対応するのは難しくない。

 現にカナタは即座に対応して見せたし、いくつもある型を全て見切ることで使えるようになってすらいる。

 

「フフ……眼の良さは私譲りか」

 

 オクタヴィアもまた、カナタの槍の型を見切っては己が物として対応していた。

 技術、身体能力が同じならば優劣をつけるのは悪魔の実の能力──そして、何よりも覇気の強さが重要となる。

 だが、覇気に関してはカナタも引けを取らない。

 

「覇気の扱いは上々だが……まだまだだな」

「……二つを十全に扱えて()()()()とは。お前は何か手品でも隠しているのか?」

「なんだ、知らないのか──では教えてやろう。素質を持つ者は多かれ少なかれ存在するが、扱える者は極めて少ない」

 

 オクタヴィアの槍が()()()を纏った。

 咄嗟にカナタは槍を構え、横薙ぎに振るわれるオクタヴィアの槍を防ぐ──が。

 

「ぐ──っ!!?」

 

 ミシミシと腕が軋みをあげる。

 二人の槍は()()()()()()()()、距離を空けて激突したのちにカナタを大きく吹き飛ばした。

 

(何だ、今のは……!? 触れずに私を……!)

 

 直接触れずに攻撃する、と言う意味ならば、武装色の覇気を使いこなせるようになれば可能な領域だ。

 しかし、今のオクタヴィアの攻撃はそのレベルではない。

 武装色を纏っただけでは精々指一本分程度の距離が開くに過ぎない。これは体の外側に纏う覇気によるもので、カナタにも扱えるものだ。どちらも使えるならば練度の差はあれどもダメージは大きくない。

 だが、今の一撃は明確に違った。

 具体的に言うならば──()()が違うのだ。

 武装色の覇気だけではない、別の何かが層を成している。

 

(──また来るか!)

 

 踏みとどまり切れずに空中に吹き飛ばされたカナタへと、オクタヴィアが追撃をかけてきている。

 一度受けただけではわからなかった。ならば、もう一度受ければその正体を掴めるかもしれない。

 目を凝らし、知覚を最大まで研ぎ澄ませてオクタヴィアの攻撃を感知する。

 ()()()()()()()

 

「防いで見せろ──加減は無しだ」

「──ッ!!!」

 

 空中で二人が激突する。

 二人の間には隔たりがある。明確な力の差が現実として存在することを見せつけるように、オクタヴィアの攻撃を防ぎきれずにカナタはまたも吹き飛び、地面へと叩きつけられた。

 先程までと違うのは、強烈な一撃が来ると心構えが出来ていたこと。

 

「……今のは、まさか……!」

 

 ()()()

 オクタヴィアが振るった力の正体について、朧気ながらも見当がついた。

 だが、対抗策がない。単純に体を動かせばできる技術では無いのだ。使い方がわからなければ意味がない。

 どうする、と必死に頭を回転させていると、上空から明確な敵意を感知した。

 

「10億V(ボルト)──」

 

 オクタヴィアの右腕が青白い稲妻となって狙いを定める。

 まずい、とカナタは反射的に行動を起こす。

 

「──虹弓(インドラ)

 

 高密度の雷は〝アッパーヤード〟を貫通し、下層にある〝白海〟をも貫いていく。

 それが更にあと6本、次々に生み出されてはカナタ目掛けて撃ち放った。

 赤、緑、紫……どういう変化を与えたのか、雷の色がそれぞれ違い、しかし威力はどれも変わらず当たれば即死してもおかしくないほどの攻撃を乱射している。

 

「滅茶苦茶な女め……!!」

 

 思わずカナタも悪態を吐き、オクタヴィアを上回る見聞色でようやく攻撃を回避する。

 しかし、このままでは反撃が出来ない。

 先程のオクタヴィアの攻撃のタネは視えた。だが、それを貫くことが出来るかどうかはまた別の話だ。

 時間が足りない。

 

「どうした、逃げるばかりか! 私を失望させてくれるなよ、()()()()!!」

 

 上空からの点攻撃では埒が明かないと考えたのか、オクタヴィアは地上に降り立って木々を薙ぎ払いながらカナタへと追撃をかける。

 対するカナタは雷撃の隙間を縫ってオクタヴィアへと接近し、武装色の覇気を纏わせた槍を横薙ぎに叩きつける。

 ゴキィン!! と轟音を立ててオクタヴィアの槍と衝突するが、この攻撃もオクタヴィアには届いていない。

 触れる事すらできないのでは対処も何もないが、今はとにかくひたすらに攻撃を叩きつけて感覚を掴むしかなかった。

 

「私を、その名で呼ぶな……!!」

 

 覇王色の覇気が衝突するたびに周りの木々が軋みをあげている。

 厄介なのは槍による攻撃だけではない。時折死角を縫うように放たれる雷撃を氷の盾でいなしつつ、カナタは何とか隙を見つけては攻撃を叩きつける。

 攻撃が届かない。

 見聞色では僅かに上を行っているため、オクタヴィアの攻撃は何とかいなせているが……ここまで明確に差を見せつけられたのは久々だった。

 なりふり構っている暇はない。

 全力で、オクタヴィアの力を削がねばならない。

 

「──〝白銀世界(ニブルヘイム)〟」

 

 僅かにでも力を削ぐための場を作るべく、カナタは攻勢に出る。

 




ここのところちょっとバタバタしてるので来週はお休みします。
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