ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百十七話:黒い雷

 クロとデイビットを脇に抱え、切り出した雲を使ってフェイユンたちを間接的に船まで運ぶジョルジュ。

 両脇の二人が血塗れなので必然的にジョルジュも血塗れになっているが、そんなことは欠片も気にせず空中を移動していた。

 

「死ぬんじゃねェぞ、二人とも……!」

「ヒヒ……流石に血ィ流しすぎてヤベェかもな……」

 

 クロは昔、とある島で拷問まがいのことをされてきたことがあるため、痛みには耐性がある。ヤミヤミの実の特性もあって意識を保っていられるが、普通なら死んでいてもおかしくない傷だ。

 デイビットはその手の経験もないし、傷の位置がマズイ。

 急いで手当てしなければ間に合わなくなる可能性もある。

 船に戻ったジョルジュはすぐさま医療班を呼びつけ、二人の治療に入るよう指示する。

 先程までカナタの治療に当たっていたカテリーナがバタバタと慌てた様子で出てきて、クロとデイビットの傷を確認するなり難しい顔をした。

 

「カテリーナ! すぐに治療に入れ、間に合わなくなるぞ!」

「……うん。すぐに輸血の準備を! それと止血剤! 手術をするからそっちの準備も!」

 

 カテリーナの指示を受けて医療班がすぐに二人を連れて医務室へと入っていく。

 ジョルジュは連れてきた他の三人を船へ運ぼうとするが、その前にカテリーナが呼び止めた。

 

「ジョルジュ」

「なんだ、早く治療に──」

「覚悟は、しておいて」

「……難しいか」

「うん。クロもデイビットも、オクタヴィアの雷をまともに食らってる。かなり酷い火傷だ。それにクロは片腕欠損、腹部貫通。あれで意識があるのが不思議なくらい。デイビットは胸部を貫通してる。心臓は大丈夫みたいだけど、出血量からして多分大きい血管も傷ついてる。詳しく検査しないとわからないけど、肺は片方潰れてるし、もし奇跡的に生き残れても今まで通りの生活は難しいと思う」

 

 危険はあまりないと考えていたのでスクラが乗っていないのが痛かった。彼ならばあるいは……とも思うが、神ならぬ人の身で出来ることなどたかが知れている。

 治癒、治療に特化した悪魔の実でもあれば話は別だが、生憎〝黄昏〟の手元にはそんな便利なものは無かった。

 

「おれがもう少し戦ってりゃあ……」

「駄目だよ。君が気絶しちゃったら船も墜落しちゃう」

 

 先の爆発のせいで船も一部破損したが、そちらはまた直せばいい。墜落していれば多くの人命も失われていただろう。

 生き残ることを優先したジョルジュの判断は間違っていない。

 

「ティーチは?」

「彼は頑丈だから、気絶はしてるけど命に別状はないよ」

 

 治療と言っても火傷と打撲の手当てだ。しばらくすれば目を覚ますだろう。

 カイエ、フェイユン、イゾウの三人もオクタヴィアにやられて酷い怪我をしている。なるべく早めに治療に入った方が良い。

 ジョルジュは三人を船に移動させようとすると、カイエが既にフェイユンを抱えて船に移動していた。

 巨人族のフェイユンはどうやって運ぶべきか悩みどころだったが、人獣形態のカイエならば易々と抱えられる。カイエは動物(ゾオン)系の能力者であるため、人より頑丈なのが幸いして早めに目が覚めたのだろう。

 

「カイエ! お前、無茶すんじゃねェよ!」

「このくらい無茶の内に入りませんよ。それより、二人の治療を」

 

 イゾウもフェイユンも相当な実力者なのだが、オクタヴィアの前ではそれほど変わらない。二人とも雷に打たれて全身に火傷を負っている。フェイユンは特に集中砲火を受けていたため重傷だ。

 急いで医務室に運び込み、医療班が総出で治療に当たり始める。

 カテリーナも急ぎ医務室に入り、手術用の服に着替える。

 

「オクタヴィア……どうして」

 

 カテリーナは一時期オクタヴィアと行動を共にしていた。

 当時のオクタヴィアはやや苛烈なところはあったものの、それほど悪い人間には見えなかった。

 それがどうしてこれほどカナタにこだわり、熾烈な戦いを繰り広げているのか……カテリーナには見当もつかない。

 

「…………」

 

 ともかく、今は一刻も早く治療を始めなければならない。

 切り替えるように自分の頬をはたき、カテリーナは自らの戦場に入った。

 

 

        ☆

 

 

 斬撃がエンジェル島を両断する。

 二人の戦いは熾烈を極め、余波だけで空島全域が嵐に覆われていた。

 通常、上空1万メートルに位置するこの白々海よりも上層に雲が出来ることは無い。だが、二人の悪魔の実の能力によって空は暗雲に覆われ、雨のように降り注ぐ雷と猛烈な吹雪で誰一人として近づけない状況になっていた。

 〝村正〟を振るうカナタはオクタヴィアの首を両断しようと斬撃を放ち、オクタヴィアはそれを槍でいなして雷撃を放つ。

 カナタは覇王色の覇気を纏うことで触れることなくオクタヴィアの雷を弾き、触れるものすべてを凍らせる雪を降り注がせる。

 天変地異のような二人の戦いによって空島は既に壊滅状態に陥っており、青海への逃げ道である〝雲の果て(クラウド・エンド)〟への道も既に塞がれてしまっていた。

 

「落ちろ、オクタヴィア!!」

 

 カナタが吼えると同時に斬撃を放つ。

 振り下ろされた〝村正〟には黒い雷が走っており、相対するオクタヴィアの槍と衝突して幾たびかの激突が起こる。

 暗雲は一時的に吹き飛び、受け止めたオクタヴィアは衝撃をいなすように後ろへと飛んで槍を構えた。

 

「この程度ではまだまだ、落とされはせん」

 

 吹き飛んだ暗雲が再び集まり、幾条もの雷が降り注いだ。

 隙間を縫うように回避するカナタへと、今度はオクタヴィアが攻勢に移る。

 覇王色の覇気を纏えるようになったカナタはその力を十全に引き出しているが、それでも両者のこれまでの経験差を覆すほどではない。

 ようやくスタートラインに立っただけなのだ。ここからオクタヴィアを倒すには、まだ手が足りていない。

 それゆえに、あらゆるものを使ってオクタヴィアを追い詰めねばならなかった。

 

「──ッ!」

 

 カナタの背後に何本もの氷の槍が作り出される。

 一本一本に覇気を纏わせ、弾丸のように打ち出されるそれをオクタヴィアは時に回避し、時に打ち払う。

 その間にカナタはオクタヴィアとの距離を詰め、刀に纏った覇王色の覇気をオクタヴィアの槍と衝突させつつ至近距離で拳を握り込んだ。

 

「ぐ……!」

 

 直後にオクタヴィアの顔面目掛けて拳が振るわれる。

 オクタヴィアはそれを間一髪で回避し、カナタ同様に拳を握り込んで反撃に出た。槍ではこの至近距離で対応するのは難しいと判断してのことだ。

 カナタは僅かに余裕を持って攻撃を回避し、オクタヴィアの腹部へと手を添える。

 打撃ではなく、掌から放たれる覇気の衝撃波がオクタヴィアを襲った。

 

(これ、は……!)

 

 不意の一撃にオクタヴィアは思わず目を見開く。

 覇気を放出することで相手の体内を撃ち抜く技術だ。

 似たような技術の使い手は幾らかいるが、今回の使い方にはオクタヴィアにも見覚えがある。

 ()()()()()()()()だ。

 まさか、と咄嗟に距離を取るが、カナタはそれを見越してさらに大きく踏み込んできた。見聞色はカナタに分があるため、先読みの戦いではオクタヴィアよりも精度の高い未来を見ることが出来る。

 右手に〝村正〟を持ったまま、カナタは左手で拳を握り込んでオクタヴィアの頬を殴りつけた。

 

「──その、戦い方……! どこでジーベックの戦い方を知った!!」

 

 見たことも聞いたことも無いはずだ。

 ロックスの戦い方など、見覚えはあっても再現できるほどの実力者はいない。オクタヴィアなら可能だろうが、カナタに教えた覚えもない。

 

「戦い方をどうやって知ったか。そんなものが重要なのか?」

 

 カナタは再び刀身に黒い雷を纏わせた。

 見聞色は敵の思考、感情を読み取るためだけの力ではない。

 時に未来を視ることもあれば、過去の記憶を視ることが出来る者もいる。カナタがやっているのはその技法のひとつ。

 〝声〟とは万物に宿るもの。宿った〝声〟を聞くことで過去を知ることも出来れば、()()()()()()()()()()ことさえ可能とする。

 つまり──カナタは〝村正〟を介してロックスの戦闘経験を共有しているのだ。

 

「この刀がお前の倒し方を教えてくれる。だが、それで倒れるお前でも無かろう」

 

 あくまで〝村正〟に宿っているのは過去の記憶。

 現在のオクタヴィアは肉体的に全盛期こそ過ぎているが、蓄積された経験は更に増している。

 最も厳しい戦いだった〝ゴッドバレーの戦い〟以降の情報は無いのだ。共有した経験のみに胡坐をかけば、敗北するのはカナタの方だろう。

 

「……〝村正〟か。ジーベックはお前の味方という訳だな」

 

 刀を片手に構えるカナタの姿に、オクタヴィアはロックスの姿を重ねた。

 顔は似ていないが、唯一瞳の色だけはロックス譲りだ。

 かつて愛した男の忘れ形見でもある娘に思うところはいくらかあるが、オクタヴィアは一度目を瞑って切り替える。

 

「──長引かせるつもりは無い。全力で、私を打ち倒して見せろ」

 

 

        ☆

 

 

 戦いは数時間に及ぶ。

 互いに消耗は激しくも、ギラギラと殺意を漲らせて戦い続けていた。

 治療を終えたクロは絶対安静とカテリーナに念押しされたものの、当たり前のようにそれを無視してカナタとオクタヴィアの戦いを見ていた。

 

「……ジョルジュ。カナタは勝てそうか?」

「わからねェ。あのレベルの戦いになると、おれだってどうなるかもわからねェからな……つーかお前は寝てろ」

「寝てるわけにはいかねェんだ」

 

 いつもの飄々とした雰囲気とは違い、クロは静かに戦いを眺めていた。

 天変地異とも呼べる戦いだが、状況はややオクタヴィアが優勢のように思える。

 オクタヴィアが口にしたのは自然系(ロギア)の中でも最強種とさえ呼ばれる〝ゴロゴロの実〟だ。その破壊力はニューゲートの〝グラグラの実〟と同規模の災害の力を宿す悪魔の実。

 カナタが口にしたのは同じ自然系(ロギア)でも〝ヒエヒエの実〟だ。火力という一点においてはどうしても覆せない差があった。

 見聞色はカナタの方が上だが、武装色はオクタヴィアに分があり、覇王色の扱いも経験の長さに於いてオクタヴィアに分がある。

 このままカナタを一人で戦わせて、どうにかなる相手ではない。

 

「あいつのことは信じてるけどよ、信頼と勝敗は別モンだ。カナタが勝つことを盲目的に信じるだけがオレ達のやることじゃねェ」

「ゼハハハハ!! 全くだな!!」

 

 クロの言葉に同調するようにティーチが現れた。その手には医務室に転がっていたカナタの槍もある。

 ティーチも怪我をしていたはずだが、様子を見るに平気らしい。

 

「姉貴は勝つ。だが、姉貴だけじゃ勝てねェ。ならおれ達がなんとかするしかねェだろ?」

「なんとかって……どう何とかするんだよ」

「そりゃあ、おれだってオクタヴィアの隙を作るくらいは出来らァ」

「お前はいいかもしれねェが、クロは既に重傷だ。下手に巻き込まれに行けば今度こそ死ぬぞ!?」

「オレだってオレの命の使いどころくらいわかってるよ。()()()()()()()

「お前……」

 

 ジョルジュは目を丸くする。

 クロは覚悟を決めた顔で、にやりと笑ってティーチを呼ぶ。

 

「ティーチ! オレも運べ!」

「あァ? 良いのかよ。ジョルジュも言ってたが死ぬぜ?」

「構わねェ!」

 

 あっけらかんと言い放つクロに、思わずティーチも目を丸くした。

 

「……ゼハハハハハ!!! なるほど、男が覚悟決めたんならおれが言う事は何もねェ!! 行くぜ、落ちんなよ!!」

 

 右手にクロを抱え、左手にカナタの槍を持ってティーチは船から飛び降りた。

 滞空する船は吹き荒れる嵐からやや離れていたため、ティーチは嵐の中心部を目指して空を駆ける。

 カナタとオクタヴィアの戦いのど真ん中に割って入るなど自殺行為も良いところだが、それでも。

 

「カナタァァァ──!!!」

 

 クロの叫び声がこだまする。

 突然の乱入者にカナタもオクタヴィアも驚愕の色を隠せないが、ティーチはそれを気にせず左手に持った槍を投げた。

 

「姉貴! 忘れモンだ!!」

 

 〝村正〟は確かに強力な武器だ。黒刀で最上大業物十二工に位列する一振なのだから。

 対してカナタが普段使いしている槍はそこらの海王類の牙を削りだしただけの無銘の武器。

 どちらが優れているかで言えば当然〝村正〟だろう。

 だが。

 積み上げた経験は、最も使い慣れた武器でこそ真価を発揮する。

 

「邪魔を──!」

 

 オクタヴィアは暗雲に手をかざし、ティーチとクロを撃ち抜こうとする。

 カナタは飛び上がってティーチの投げた槍を受け取り、その真上へと──オクタヴィアが暗雲から放った落雷から二人を庇う様に移動した。

 二人の戦いはほぼ拮抗していた。

 どちらかが大きなダメージを食らえば、その時点で勝敗の天秤は傾く。それを理解出来ないカナタではない。

 あれは覇気を纏わせた極大の黒い雷だ。覇王色の覇気を纏ったことで生み出されるものではなく、能力によって生み出された雷に武装色の覇気を注ぎ込んだもの。

 まともに食らえばカナタとて無事では済まない。

 

「カナタ!」

「退いていろ! こんなもので、私は死なない!」

 

 ──空中で極大の雷がカナタへと向かう。

 それを、カナタは受け取った槍で()()()()()

 

「受け止めた!? そりゃマズイぜ、姉貴!」

 

 ティーチが焦ったような顔をする。

 あんなものをまともに受け止めてしまえば、莫大なエネルギーで押し潰される。

 実際、受け止めたカナタの腕も雷の一撃で焼け焦げている。このまま受け続ければ体へのダメージは計り知れない。

 

「こんなもので終わるのか……ノウェム!」

「私を……その名で、呼ぶなと! 何度言えばわかる!!」

 

 空気を引き裂く雷鳴が未だ轟き続ける。

 オクタヴィアの雷が死んでいない証だ。

 どのみち、オクタヴィアの雷をどうにかしなければ火力で押し負けていたのだ。クロとティーチの乱入でそれが早まったに過ぎない。

 ずっと考えていた。

 ロックスは〝疑うことなく信じれば力になる〟のが覇気だと言った。

 悪魔の実の力に対して、覇気は常に効果を発揮し続ける。能力者の実体を掴むのも、流動する能力者の位置を把握するのも、覇気によって可能となる。

 ならば、オクタヴィアの雷とて同じだ。

 

 ──空中で受け止め、留めて返す。是なる絶技……即ち、地に足つけぬ〝雷返し〟!

 

 オクタヴィアの雷を受け止めたカナタはそれを槍に押し留め、己の覇気をもって力尽くでコントロール下に置く。

 放射状に放たれたカナタの雷は受け止めたオクタヴィアの腕を僅かに焼き、想定外の反撃を食らったオクタヴィアを驚愕させた。

 

「受け止め、返すだと……? まさか、そんなことが」

 

 それなりに修羅場を潜り、多くの戦いを経験してきた。

 そのオクタヴィアでさえ、此度のカナタの技は視たことがない。

 思わず口元に笑みを浮かべ、空へと手をかざした。

 

「く、ふふ……フハハハハハ!!! ああ、良いな。お前は最高だ──であれば、これも受け止めて見せろ!!」

 

 オクタヴィアが手を振り下ろすと同時に、()()()()()()()

 異常なほど帯電した暗雲が纏まり、この国全土を覆う超巨大な爆弾として落下してきたのだ。

 雷の能力者であるオクタヴィアを除けば、全てが滅びる最悪の一撃。

 

「空が……!? おい、クロ! どうする!?」

「うるせェな! こういう時のためにオレがいるんだろ!!」

 

 クロの肉体から立ち昇る〝闇〟が広範囲を覆い、落ちてくる暗雲とぶつかる。

 カナタでもこれは受け止めきれない。先程の雷だけでカナタは腕一本焼かれるところだったのだ。その大元の雷雲が抱える莫大なエネルギーを受け止めるのは無理がある。

 受け止めきれないなら呑みこむまで──クロの展開した〝闇〟が黒雲を呑みこみ始めた。

 

「〝闇穴道(ブラックホール)〟……!!」

 

 無限の重力によって空島全土を覆っていた黒雲が呑み込まれていく。

 どれほど強大な攻撃であろうとも、〝闇〟の中に呑み込んでしまえば意味を為さない──しかし、悪魔の実の能力とは能力者本人の強さに依存して規模が変わるもの。

 ヤミヤミの実の能力者があるいはカナタであったなら、全ての黒雲を呑み込むことも可能だったかもしれない。

 

「ぐ、あァ……!!」

「クロ! クソ、吞み込み切れねェのか!?」

 

 人より多少鍛えている程度のクロでは、オクタヴィアの攻撃の全てを呑み込むことは出来なかった。

 更には呑み込んだ雷の影響か、折角塞いだ傷も開いてしまい、おびただしい出血が雲の大地を赤く染め上げる。

 カナタはこの隙を突いてオクタヴィアを殺そうと接近し、右手に〝村正〟を、左手に槍を持って相対する。

 

「今すぐあれを止めろ!」

「怒り、焦り──そう言ったものは冷静さを削ぐ原因だ。弱者を守ることに何の価値がある。弱ければ死ぬ、それだけの話だろう」

 

 斬撃、打撃、能力による攻撃。

 あらゆる手段をぶつけるも、オクタヴィアは崩れない。

 割り込もうとするティーチも、激しい衝突の余波でクロが吹き飛ばされないようにするので精一杯だった。

 

「ティー、チ」

「なんだ、クロ! おれに出来ることがあるのか!?」

「────」

 

 クロが小さい声でティーチに何かを伝えた。

 ティーチは思わず「本気か?」聞き返し、クロは答えるのも億劫なのか頷くだけにとどまった。

 

「……ああ。任せろ。お前の頼みだ、嫌とは言わねェ!」

 

 ティーチは即座にカナタの名を呼び、右手に着けた鉤爪に覇気を纏わせる。

 クロは倒れ掛かる体を何とか持ち直し、残った右腕をオクタヴィアへと向けた。

 

「〝(くろ)(うず)〟……!」

 

 オクタヴィアの体がクロの下へと吸い寄せられる。

 この技は既に見た。対処はクロを殺せばいい。

 オクタヴィアはすぐに視線をクロの方へと移し、槍を持たない方の手に雷を纏わせた。

 直接触れるまでは能力の使用も可能だという事も既に学習済み。今度こそクロをこの手で殺すべく雷を放った。

 

「ぐおおおお!!!」

 

 しかしクロとオクタヴィアの間にティーチが割り込み、その身を盾にして雷を受け止める。

 強烈な攻撃にティーチの意識が明滅するが、武装色を纏ったティーチの体を貫通することは出来ず、雷は止まった。

 

「ゼハハハ……!! 効いたぜ、オメェの雷……!」

「頑丈な奴め……!」

 

 雷を止めたとしても、何かが変わるわけではない。オクタヴィアは変わらずクロに引っ張り続けられ、その障害となるティーチに衝突するも勢いは衰えずにクロの下へと向かう。

 吸い寄せているのは能力者の実体だ。防ぐ手段は無く、クロが吸い寄せるのを止めるまでオクタヴィアは引きずられ続ける。

 

「私の雷を止めても、槍が届く範囲まで近付けば関係は無いぞ」

「だろうな。だから、おれの役目はお前の槍を止める事なのさ」

 

 オクタヴィアに組み付いたティーチは、その手に持った槍を動かないように固定する。

 如何にオクタヴィアと言えども、カナタとの戦いで疲弊はある。加えてティーチの怪力と武装色により、動きを阻害することは可能だった。

 吸い寄せるクロの腕がオクタヴィアの腕を掴む。

 カナタはその一瞬を狙って斬撃を放つ──が、オクタヴィアは掴まれた腕ごとクロを無理矢理振り回すことでその斬撃を回避する。

 

「弱者がつまらん策を練ったとしても、私には通用しない」

 

 ティーチは槍を使わせまいと組みついていたが、オクタヴィアは槍を手放してティーチを蹴り飛ばすことで僅かに距離を空け、片手を開ける。

 今度こそ邪魔は無く。

 オクタヴィアの腕がクロの心臓を貫いた。

 滴り落ちる血の雫はオクタヴィアの腕を伝い、オクタヴィアの腕を掴んでいたクロの手が力なくだらりと下がる。

 確実に殺した──そう判断したオクタヴィアの脇腹を、ティーチが鉤爪で抉り取った。

 これで二度目。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()

 

「油断、したな……!」

 

 他人を弱者と侮り、あらゆる攻撃を流体ゆえに受け付けなかったオクタヴィア。

 クロの命懸けの罠と、それを完璧に作用させるために体を張ったティーチ。

 一度目の罠ではデイビットが。二度目の罠ではティーチがそれぞれ渾身の一撃を与え、ようやくオクタヴィアの力を削いだ。

 

「まだ、だ……!」

「こいつ、まだ生きて──!?」

 

 クロはギラギラとした目つきでオクタヴィアを睨みつけ、上空に展開した〝闇〟とぶつかっている黒雲を呑み込む。

 三分の一程度が関の山だろうと思うが、あとはカナタが何とかしてくれる。

 オクタヴィアはにやりと笑うクロの姿に被さるように、上空へと飛び上がったカナタの姿を見た。

 減衰したとはいえ、島一つを容易く消滅させる莫大なエネルギーの塊に対して、カナタは槍を掲げる。

 お前ならやれると、信じてくれた。

 クロの思いを、無駄には出来ない──!!

 

「オォ──!!!」

 

 肉体が焼け焦げる嫌なにおいがする。

 右手に持った〝村正〟で黒雲を九つに分割し、カナタはオクタヴィアへと向き直った。

 

「終わりだ、オクタヴィア──!!!」

「やってみろ!!!」

 

 胸を貫いたクロを放り捨て、オクタヴィアはティーチから槍を奪い返してまっすぐカナタへ向かう。

 地上から天へと立ち昇る雷。万物を滅ぼす神の雷が、黒雲を纏ったカナタの槍と衝突した。

 オクタヴィアの墜とした黒雲をカナタはそのまま使い、自らの刃としてオクタヴィアに叩きつけたのだ。

 単なる雷ならばまだしも、カナタが覇気を流し込んだことでオクタヴィアが相手でさえ通用する攻撃となる。

 一撃。オクタヴィアの雷と黒雲が対消滅した。

 二撃。覇王色の覇気を纏った槍とぶつかって黒雲が消滅した。

 三撃。同様に覇王色の覇気と衝突して消滅した。

 四撃。黒化した雷が押し負けたオクタヴィアの腕を焼いた。

 五撃。カナタの腕が焼け焦げ、狙いが逸れてエンジェル島が一部消滅した。

 六撃。〝村正〟を黒雲に突き刺し、振り回すように叩きつけてオクタヴィアを地面へと落とす。

 七撃、八撃。刀と槍の両方に黒雲を纏わせ、莫大なエネルギーを落としたオクタヴィアへと真っ直ぐに叩きつける。

 そして──九撃。

 

「〝神戮(しんりく)〟!!!」

 

 元来、〝神戮〟とは覇気と悪魔の実の能力を融合させて相手にぶつける技だ。

 オクタヴィアの場合は雷、カナタの場合は氷と言う風に、能力者によって特性の変わる技である。

 それを。

 カナタは雷と氷を纏ったまま覇王色の覇気を更に纏わせ、オクタヴィアへと振り下ろした。

 

「〝神戮(しんりく)〟……!!」

 

 しかし、オクタヴィアもただやられているだけではない。

 同じように雷を纏い、覇王色の覇気を纏わせてカナタの槍とぶつかった。

 オクタヴィアは既に満身創痍。デイビットとクロ、ティーチの粘りによって付けられた傷と、長時間に及ぶ戦いで莫大な覇気を消費してしまっている。

 そして、カナタが放った〝神戮〟は槍によるもの。

 まだ()()()()()()()()

 

「お前は、ここで終わらせる──〝神々の黄昏(ラグナロォォォク)〟!!!」

 

 これはカナタの剣技ではない。

 かつて、ロックスが使い──敵対するモノのことごとくを粉砕した、極限まで覇気を練り上げた斬撃だ。

 既に両手を使って攻撃を防いでいるオクタヴィアに防ぐ術はなく、咄嗟に放った雷撃を切り裂いて真っ直ぐに斬撃は突き進み。

 ──遂に、オクタヴィアに致命の一撃を与えた。

 




黒雲はエネルが使ってた雷迎みたいなあれです。雷の能力者にきくの?という疑問はカナタが覇気流し込んだからとでも思って貰えれば。
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