ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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原作八年前

前回忘れてた話(シャンクス関連)を入れたので帝国関連は次回になります。


第百二十九話:〝赤髪〟

 ペドロとゼポを護衛にしたロビンを見送り、一ヶ月ほど経過した。

 最初こそ執務室の端で鬱々とした雰囲気だったオルビアも何とか気を取り直して研究に戻りつつある、とある日の事。

 港を管理する部下からカナタの下へと緊急の連絡が入った。

 

『こちら港湾管理です!』

「何か面倒事でも起きたか?」

『海賊です! 遠目に見える海賊旗からして、〝赤髪海賊団〟です!』

「シャンクスか。通していいぞ」

『ええッ!?』

 

 ここ数年で飛躍的に勢力を拡大しつつある〝赤髪海賊団〟が現れたという事で慌てていたようだが、カナタは至って冷静だった。

 そもそも見知った顔だ。〝黄昏〟の古株はロジャー海賊団とも交流があったので顔を覚えていることもあるだろうが、ロジャーが処刑されたのももう10年以上前の話になる。彼らとの関係を知らない者も多い。

 以前会ったときはまだ子供だったが、どれほど成長したのか。その姿を見るのが楽しみだった。

 今では七武海となった〝鷹の目〟ジュラキュール・ミホークとの戦いの噂はカナタの耳にも入っている。もちろん、シャンクスの〝左腕〟の事も。

 

 

        ☆

 

 

「カナタさん! 久しぶりだなァ!」

 

 カナタが港に着くなり、右手を軽快に振りながら呼びかけるシャンクス。左側の服の袖はひらひらと揺れている。

 その姿を見て、カナタは驚くでもなく真剣な顔をする。

 シャンクスは左利きだ。利き腕を無くすという事がどれほどの事か、また利き腕を無くしてなおここまでのし上がるのがどれだけ大変なことか。ある程度は理解できた。

 カナタは自分よりも随分大きくなったシャンクスに対し、ちょいちょいと頭を下げるよう手招きをする。

 

「? なんだ?」

「頑張った者への褒美だ」

 

 カナタに目線を合わせるように屈んだシャンクスの頭を撫でる。

 目を丸くして驚きつつ、気恥ずかしさの方が勝ったのか、カナタから距離を取ったシャンクス。

 後ろで見ていた赤髪海賊団の面々は一斉に指笛などで囃し立てていた。

 

「おや、もういいのか?」

「いやいや、おれァもう子供じゃねェよ! これでも海賊団の船長だからな。そういうのは止めてくれ!」

「そうか。残念だ」

 

 カナタにとってはロジャーと旅をしていた頃の子供のイメージが強い。ついその時の感覚で接してしまったのだろう。

 いつも被っていた麦わら帽子も無いようだし、彼は彼の冒険をしてきたことを否が応でも感じさせる。

 

「ここに来た理由も聞きたいところだが……それは後でもいい。まずはお前たちの旅の話を聞かせてくれ」

 

 シャンクスの後ろにいる仲間たち──ベン・ベックマン、ラッキー・ルウ、ヤソップなど、個々に名を上げている男たちのことも含めて。

 昼間から宴というのも、たまにはいいだろう。

 

 

        ☆

 

 

 スコッチやジョルジュを含め、時間のある者たちを集めたのちに大規模な宴を開いてシャンクスたち〝赤髪海賊団〟を歓迎する。

 シャンクス以外は初めて見る顔ばかりなので、ひとまず幹部陣だけでもと一通り顔を合わせていた。

 全員と顔合わせをするにはあまりにも多い。とは言え、〝黄昏〟ほど莫大な人数を抱えているわけでは無いのだが。

 

「しかし、ここも賑やかになったなァ……」

 

 港近くの広場を使って宴会をしているのだが、シャンクスはロジャーの船にいた頃も同じように宴会をしていたことを思い出し、あの時と違う光景にキョロキョロと辺りを見回す。

 建ち並ぶ家々や商店、行き交う人々……ほとんど人の住んでいなかった島がここまで発展していることに目を丸くするほどだ。

 今や〝黄昏〟の名を知らぬ者はいない。

 本拠地であるこの島が発展しているのもまた、必然ではあるのだろう。

 

「カイエは元気にしてるのか?」

「ああ。あの子も随分背が伸びた……お前よりもな」

「そうかァ……今日はいねェのか?」

「仕事で出ている。それより、バギーはどうしたんだ? お前たち、いつも一緒だっただろう」

「船長が処刑されてから、一緒に来ねェかって聞いたんだけどな。風の噂じゃどこかで海賊やってると聞いてるよ」

 

 海賊王の死んだ町、〝東の海(イーストブルー)〟のローグタウンで別れてそれっきりだと言う。

 〝新世界〟に入る前にシャボンディ諸島でレイリーには会ったらしいが、同じことを聞かれたらしい。

 実力はロジャー海賊団の中でも一際アレだったが、皆が気にかけている辺り気に入られてはいたのだろう。

 

「……お前のその腕、誰にくれてやったんだ?」

「これか? ……〝新しい時代〟に、懸けてきた」

「そうか……後悔が無いのなら良い。どんな奴なんだ?」

「まだ小さいガキさ。だが、ロジャー船長と同じことを言うんだ!」

 

 嬉しそうにその子供のことを話すシャンクス。

 〝東の海(イーストブルー)〟のとある島に一年ほど拠点にした際に出会い、仲良くなった。最終的に左腕を落とし、麦わら帽子を渡してきたのだと語る。

 いつか一人前の海賊になったら返しに来ると約束をしたらしく、今からその時が楽しみだと笑っていた。

 

「その子供、名前は?」

「ルフィって言うんだ。海賊やるって言ってたが、カナヅチでな! まァ悪魔の実を食べたからもう泳ぐのはどう足掻いても出来なくなっちまったんだけど──」

「……その悪魔の実、ゴムゴムの実か?」

「! ……知ってたのか?」

「政府が一時期騒いでいたからな。お前にしては珍しく、政府の船に襲撃をかけたそうじゃないか」

 

 政府の護送する船を襲撃し、ゴムゴムの実を奪ったシャンクス。

 当時は情報が漏れないように政府も色々と対策を講じていたが、カナタの耳にはばっちり入っていた。担当していたCP9は投獄されたし、政府はシャンクスと一戦構える覚悟もあったようだが、リスクとリターンが合っていないと判断したのか結局そのままうやむやになった。

 そうでなくともカナタはその少年の事は知っていたのだが。

 

「色々理由があったんだ。どうしてもその実が欲しくなって……」

「そうか。私は別に興味はない。嘘を吐いてまで誤魔化す必要は無いぞ」

「……あー、やっぱりバレるか」

 

 色々理由があったのは事実なのだろう。カナタはそこまで追求するつもりが無いのでその辺りの話は切り上げ、ルフィという少年の話に戻す。

 

「その子供、モンキー・D・ルフィという名前か?」

「いや、フルネームは知らねェけど……なんでカナタさんが知ってるんだ?」

「私の息子だ」

 

 ブーッ!!! とその場にいた全員が一斉に酒を吹き出した。

 酒が飛び交って虹がかかっている。汚いのでカナタは咄嗟に氷の壁で防いでいた。

 

「冗談だぞ」

「し、心臓に悪い冗談はやめてくれ……!!」

 

 呆れた顔のカナタに対し、周りの者たちは安堵したように口元を拭っていた。

 実際、カナタに息子がいたら爆弾どころの話ではない。長いことカナタから離れる機会の無かったスコッチやジョルジュまで驚いているのはカナタの普段の行動ゆえだろうか。

 それだけ影響力の強い女なので仕方ないところもあるのだが。

 

「先日ガープが来て、ひとしきり孫の自慢をしていったからな」

「なんでここでガープが出てくるんだ……?」

「お前の言うルフィの祖父がガープだからだ」

 

 「冗談だろ?」とカナタを見るシャンクスだが、今回は冗談ではない。

 ロジャーとよく戦っていたガープの孫がまさかルフィだとは、シャンクスも流石に知らなかったらしい。酒を片手に遠い目をしている。

 

「世の中、案外狭いなァ……」

「あそこにいる青緑色の髪の少女だが、あれはおでんの娘だぞ」

「そうか、おでんさんの……おでんさんの娘!!?」

 

 ギョッとした顔で小紫の顔を見るシャンクス。

 おでんにはあまり似ていないが、おでんの妻であるトキにはよく似ている。言われてみれば確かに面影はあるのでシャンクスも納得したようだ。ロジャーの船に乗っていた頃に会っているはずだが、幼すぎて成長した今の姿が分からなかったらしい。

 ワノ国の現状とおでんの最期、リンリンとカイドウの同盟などを簡潔に説明しつつ、小紫がここにいる理由を伝える。

 

「なるほど……」

 

 なみなみと注がれた酒をジッと見つめつつ、真剣な顔で何かを考えているシャンクス。

 ロジャー海賊団の誰もが、光月おでんという男の事を好ましく思っていた。これだけ人から好かれるのはやはり彼の人徳なのだろう。

 カナタとは非常に相性が悪かったが。

 

「カイドウとビッグマムの同盟に手を焼いてるのか。やっぱりカナタさんでもあの二人を同時に相手取るのは難しいのか?」

「ここ最近のカイドウは随分力を付けてきている。リンリンは言うまでもない。この二人を同時に、というのは流石に厳しいところだ」

 

 一人ずつなら負けるつもりは無いが、二人同時となると勝算は薄い。

 特にカイドウだ。バレットでも倒せない頑強な肉体、衰えない気力、無尽蔵かと思うほどの覇気。多くの海賊たちをその実力だけで打ち倒し、従えている姿はカナタをして脅威と言わざるを得ない。

 リンリンも全盛期は過ぎているはずだが、まだまだ衰える気配はない。子供たちが育っている分、勢力としての脅威は以前よりも増していると考えていいだろう。

 〝黄昏〟単独ではこの同盟に太刀打ちできない。

 

「なら、おれ達と同盟を組むのはどうだ?」

「お前たちと?」

「ああ。おれもおでんさんの事は好きだった。あの人の故郷を救うならおれも手を貸したい」

 

 〝赤髪海賊団〟はまだルーキーの部類に入るが、実力は高い。百獣・ビッグマムの海賊同盟に対抗するなら海軍と手を組むより協力出来る。確かにありだろう。

 だが、現段階でシャンクスと同盟を組むという事は七武海の地位を放棄することを意味する。

 それはマズイ。

 

「……今、私は魚人島を世界会議(レヴェリー)に参加させようと色々動いている。この段階で七武海の地位を捨てることは出来ない」

 

 タイガーとの約束がある。魚人、人魚の地位を少しでも向上させ、対等の立場でものを言えるようになればまた別だが……人間との融和の道はまだ遠い。

 この状況でカナタが七武海から抜けることはタイガーやオトヒメ王妃の活動から手を引くことと同じだ。

 会いたくもないニューゲートと顔を合わせて調整したこともあるし、しばらくは難しいだろう。

 各国に対する影響力、という意味なら七武海の地位は不要だが、やはり魚人島が世界政府加盟国としての立場を得るならカナタが七武海の地位を使って牽引する必要がある。

 

「そうか……カナタさんも色々忙しいんだな」

「ああ、悪いな。だがお前の考えはわかった。いずれ動く時が来るだろう。その時に手を貸してくれればいい」

「わかった。いつでも言ってくれ」

 

 昔からの顔なじみだ、遠慮も不要だろう。

 同盟を組むならこれ以上に協力出来る相手もいない。

 

「ところで、なんでガープがここに来るんだ? やっぱりカナタさんが七武海だからたまに視察に来るのか?」

「いや、前回来た時はバレットが色々なところで問題を起こしたからだな。あとうちで取り扱っているお茶を買い漁っていく」

 

 バレットの釈放はカナタの要望によるものなので、政府はバレットも〝黄昏〟の一員と捉えているが、当人もカナタもそう考えてはいなかった。

 なのでバレットは好き勝手に暴れているし、カナタもバレットに苦言を呈することは無い。監督責任などないと判断しているからだ。

 必要な物資などは取引しているし、たまにカナタから仕事の依頼を出すこともあるが、バレットはあくまで個人で動いているだけだった。

 ガープが文句を言っても暖簾に腕押しである。

 

「バレットかァ……あいつも懐かしいなァ」

 

 一時期ロジャー海賊団に在籍していたのでシャンクスも顔見知りではある。当時からレイリーと同じくらいの強さを誇る実力者だったが、やはりロジャーに及ぶことは無かった。

 今戦えば、果たしてシャンクスは勝てるのか。戦うことに意欲的ではないにしても若干の興味はあった。

 利き腕を無くしたシャンクスにバレットが興味を持つのか疑問ではあるが。

 

「〝鷹の目〟との決着も付けられていないのだろう。義手でも作るか?」

「いやァ、どうかな。生身の体と同じくらい動けるとも思えねェけど」

 

 能力者の中には失った体の一部を能力で補うことが出来る者もいる。カナタもその気になれば欠損した部位を氷で補えるが、今のところは五体満足なので不要な技能だった。

 シャンクスは能力者では無いので、その手の悪魔の実を探せば昔のように戦えるようになる可能性はある。

 あまり興味は無さそうだが。

 

「挑戦に無駄はない。うちには腕の感覚が鈍いから脚に着ける装備を作った者もいる。興味があるなら手配はしておくが」

「そうだなァ……やるだけやってみるか」

 

 両手があれば酒を飲むときに自分で酒を注げるしな、と笑うシャンクス。

 意外とそこは気になるらしい。

 部下を使ってカテリーナを呼び、シャンクスの身長などからある程度腕の寸法を測る。実際に戦闘では使えずとも、体のバランスが取れるようになるだけで大分違うものだ。

 彼女ならば、多少時間はかかるが質の良い物を作ってくれるだろう。

 

「カッコいい奴作ってくれよな」

「任せてくれたまえ! 生身の腕より凄いのを作るとも!」

 

 シャンクスもカナタも覇気を纏わなければ普通の人間とあまり変わりはしない。リンリンやカイドウの方が例外と言える。

 普通の腕と同じように覇気を纏えるなら、普通の腕よりカテリーナの義手の方が高性能になっても変では無い。

 ……思った通りに動くなら、という前提付きではあるが。

 

「そう言えば、うちに来た用事は結局なんだったんだ?」

「ああ、そうだった。久しぶりに近くに来たんで顔を出しに……それと、酒と食料を買いたいんだ」

 

 今でも〝赤髪〟は多くの傘下の海賊を従えている。ナワバリも既に持っており、その名に守られている島も少なくない。

 もちろん世界政府加盟国だろうと非加盟国だろうと〝黄昏〟は販路を広げているが、余計なトラブルを避けるためにビッグマム、百獣、白ひげのナワバリには入っていない。例に漏れず〝赤髪〟のナワバリにも同じ対処をしていたが、シャンクスはそれを知って直接カナタの下に来たらしい。

 

「うちのナワバリになっても前と変わらず商売してくれた方が色々と助かるし、頼むよ」

「いいぞ」

 

 頭を下げて頼み込むシャンクスだが、カナタは気にした風もなくあっさり許可を出す。

 元々トラブルを避けるための処置だ。トラブルが起きないなら以前と同じように海運を行う。

 あとでリストアップが必要だなと考えつつ、この調子では明日になるだろうなと酒を飲んでいる面々を見て思う。

 実際、宴会は夜通し続き、最終的にほとんど全員が酔い潰れてお開きとなった。

 

 

        ☆

 

 

 翌日。

 案の定と言うか、当たり前と言うか、シャンクスは二日酔いでグロッキー状態だった。

 ジョルジュやスコッチもかなり深酒したらしく、朝になっても起きてこない。

 そんな中、カナタは普通にいつも通りの時間に起きて朝食を食べ、シャンクスの下を訪れていた。

 

「うっぷ……飲み過ぎた。気持ち悪い……」

「飲み過ぎだ馬鹿者。そこまでなるほど飲むやつがあるか」

「カナタさんだって結構飲んでただろ。何で平気なんだ……」

「私は元々あんまり酔わないタチだ。それにお前程深酒をしていない」

 

 何事もやりすぎは厳禁なのだ。

 呆れた顔で水の入ったボトルを渡し、シャンクスがそれを飲んでいる間に必要なことを伝えておく。

 

「お前が昨日言っていたナワバリとの交易だが、どこがお前のナワバリになっているのかリストアップしておくから確認をしておくように。それと食堂の場所はわかるか? 二日酔いに効くものを作らせておくから、多少マシになったら食べに行くと良い。どうしても駄目そうなら医務室でスクラに頼めば薬もある」

「何から何まですまねェ……母ちゃん」

「誰が母ちゃんだ」

 

 こんなデカい子供を持った覚えはない。

 体が大きくなっても抜けているところは変わらないらしい。




一応予定としては
・ロムニス帝国
・エース関連
が今章でやる予定の話になります。アラバスタ辺りも考えはしたんですが、原作入ってから描写してもいいかなと。今やると話が長くなりますし。

……今年中に原作、入れるかなぁ……。

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