世界中の海に存在する、150を超える世界政府加盟国。
その中から聖地マリージョアに集まった50の国々の王たちによる会議──それが〝
会議に参加出来る国の基準は明確ではないが、共通するのは最低限の国力を有している事であろう。
軍事力、経済力、政治力……力の形は様々だが、間違いなくこの世界の上澄みにいる者たちの集まりだ。
海軍は総力を結集して各国の王たちを護衛し、海軍本部マリンフォード、あるいはG-1支部へと招き、そこから〝
海軍にとっては威信をかけた仕事であるし、各国の王たちも
☆
その一部の例外であるロムニス帝国の船は、帝国から真っ直ぐG-1支部へと進んでいた。
独自の戦力を持ち、海軍の護衛を不要だと申し出た場合はその国の持つ戦力のみで移動することになる。
己が国の武力を証明する一種のパフォーマンスのようなものだ。
ロムニス帝国はいつもそうしているが、今回に限っては海軍を頼る必要がないもう一つの理由もあった。
「て、敵襲!! 大型の海王類です!!!」
甲板で慌ただしく動く兵士たち。
海上に姿を現し、鎌首をもたげる大型の海王類。
ある程度のサイズまでは大砲も通用するが、大型の海王類ともなると大砲の効きも悪い。兵士たちも必死に大砲で撃退しようとしているが、案の定通用していなかった。
そんな中、周囲の慌ただしさを気にもかけずに目をキラキラさせながら海王類を見て興奮する少女が一人。
そして、それも気にせず紅茶を楽しむ二人の女性がいた。
「海王類か。この海域に出るのは珍しいな」
「うるさいから早く仕留めて貰えるかしら」
「そうだな」
甲板でパラソルを差して紅茶を嗜んでいたカナタとディアナ。
海に出ていればこういうこともある。カナタは紅茶をテーブルに置き、視線を海王類へと向ける。
覇王色の覇気で威圧され、赤い瞳に射貫かれた海王類は怯えたように船から離れ、そのまま海中へと潜っていく。
「おおー……すごいな! どうやったのだ!?」
金髪碧眼の少女──ディアナの娘が目をキラキラさせて海王類が海に潜っていくのを眺めた後、カナタの方を振り返ってそう言った。
まだ年若いからか、あるいは初めて外海に出る故か、多くの事に興味津々らしい。
「メア、あまり浮かれた行動をしないように。貴女は次期女王なのです。相応の威厳を持たねばなりません」
「……はい、申し訳ありません。母上」
ディアナに諫められた少女、メアは僅かに肩を落として大人しくなる。
「この年頃なら仕方あるまい。何事も興味をもって知るのは良いことだ」
「貴女とこの子では立場が違うの。王になるのであれば、感情をみだりに表に出すべきではないわ」
「これは手厳しい」
次期女王としての教育のためか、メアに対して非常に厳しいディアナ。
カナタが諫めようとしても、すげなく反論される。カナタも思わず苦笑するほどだ。
「見識を広めるのは良いことだ。それと感情を表に出さないことは別の話だろう。どちらもこれから学んでいけば良い」
「……随分あの子に甘いのね。私とあの子への態度が全然違うじゃない」
「子供は可愛いが、お前は可愛くないからな」
「張り倒すわよ」
額に青筋を浮かべるディアナに肩をすくめるカナタ。普段は薄く笑っていて不気味ささえ覚える女も、カナタと話しているときは随分気安い態度になっていて周りの部下もメアも目を丸くしている。
そうやって時間を潰していると、目視できる距離までG-1支部が近付いていた。
だが、目的地はG-1支部ではなくその奥。
G-1支部の奥に〝
「ここに来るのも四年ぶりね」
「私は時々来ている。七武海の会議もあるからな」
頻度は少ないが、七武海を招集して会議を行うことがある。七武海の誰かが落とされて後任を決めるとき、あるいは政府や海軍から重要な話し合いが行われる場合だ。
カナタはなるべく参加するようにしているが、都合が合わない時は代理でジュンシーを派遣して議事録だけ受け取っている。
「あれがシャボンなのか?」
「ああ。この辺りはシャボンディ諸島と気候が同じだからシャボンの文化も使えるからな。マリージョアまではシャボンを使った
他の国の王族たちも続々と到着しており、一目見ようと集まった民衆が歓声を上げている。
ロシュワン王国のビール6世。
バリウッド王国のハン・バーガー王。
タジン王国のモロロン女王。
誰も彼もが名を知られた国の王族だ。民衆の歓声が止まないのも当然と言えるだろう。
「あれは……ロムニス帝国の新女王か!?」
「それに、〝黄昏の魔女〟カナタ……!? 今回は七武海も参加するのか!?」
ディアナ、メアと共に歩むカナタはどこかの国の王という訳では無いものの、その権力の強さ故に特例で参加を認められた。
いきなり「私も参加する」と言われて調整に走った五老星の心労は察するに余りあるが、それは別の話である。
民衆にとっては世界でも名だたる美女であるカナタと、その美しさは以前から噂になっていたディアナの二人が並んで歩いていることから歓声が一際大きく上がっていた。
新聞屋もこれを好機とばかりに写真を撮っている。
もちろん世界経済新聞社も例外ではない。
「これはスクープですよ、社長! あの〝魔女〟が、とうとう〝
「……ッ!」
「駄目だ見惚れてるぞこの人!?」
目をハートにして硬直しているモルガンズに部下が思わず突っ込んでいた。
その間にもカナタたちは歩みを進めていたが、何とか正気を取り戻したモルガンズは衛兵に止められない程度に距離を詰めてカナタへと話しかけた。
「カナタさん! おれァあんたにいい話があるんだよ! だから今度食事でも……」
「後半が本音だろう、お前……まぁ良かろう。どの道お前とはどこかで話を付けねばならんと思っていたところだ」
「本当か!? これおれの番号だ! いつでも連絡してくれよな!!」
今後カナタがやろうとしていることを考えれば、モルガンズを味方に付けておいて損はない。
カナタは新聞……正確に言えばジャーナリストの事が嫌いだが、それを抑えても取引をする価値はあると判断していた。
モルガンズから受け取ったメモをポケットに無造作に突っ込み、なおも何か話そうとするモルガンズを追い払う。
「良かったの? あることないこと書きたてる男だけれど」
「鬱陶しいし個人的に言えば嫌いな類の男ではあるが、今後必要になる分野の存在だ。向こうが好意的なら利用するのも政治だろう?」
「そうね。何をやろうとしているかは知らないけど」
然したる興味も無さそうに、ディアナはメアを連れて〝ボンドラ〟へと乗り込んでいく。
リフトが上昇して頂上付近に着港するまでの時間も無駄にせず、カナタは他の国の王と歓談していた。
頂上付近の港から大きく長い階段を進み、辿り着いた先が世界の創造主の末裔達が住まう土地──〝聖地マリージョア〟である。
「相変わらず不愉快な場所だな」
動く地面──〝トラベレーター〟と呼ばれるモノに乗りながら、カナタはそう呟く。
ともすれば不敬であると取られかねない言葉であるが、誰もカナタの言葉を追求することは無い。
〝魔女〟を敵に回すのも〝天竜人〟を敵に回すのも同じくらい嫌なのだ。誰しも口をつぐんで聞こえない振りをするほかになかった。
☆
聖地マリージョア、パンゲア城。
正門より中に入り、城内にある〝社交の広場〟では各国の王及び、その親族たちが歓談していた。
会議のある7日間は誰であろうと退屈している暇はない。この場におけるロビー活動も今後の国の行く末を変えかねない可能性を持つ。
文字通り、世界が動く会議なのだ。
「おお、カナタ殿! 久しぶりだな!」
社交の広場に入るなり、いの一番に話しかけてきたのはアラバスタ王国の国王、コブラであった。
かつて滞在していた折、カナタとは既知の仲になっている。朗らかに笑いながら話しかけてくるコブラに対し、カナタも握手をしながら笑いかける。
「久しいな、コブラ王。元気そうで何よりだ」
「そちらも元気そうだな。君の噂はよく聞いているよ。まさかあの時命を救ってくれた恩人とここで再会するとは思わなかったがね」
「フフ……世の中はわからないものだ」
カナタが〝新世界〟に居を構えて以降、顔を合わせることも無かった二人だが、この場で久しぶりの再会を果たしていた。
互いに相手には世話になったと感じているため、歓談は朗らかに進んでいる。
周りにもカナタと話したい者は多いが、誰も彼もが牽制し合っていて中々話しかけに行く者もいない。
「クロコダイルの様子はどうだ? 何か問題があるなら引きずり降ろして別の者を据えるが」
「いやいや、それには及ばんよ。彼にはいつも世話になっている」
「それならいいが……私もそうだが、どこまで行っても海賊は海賊だ。余り肩入れしすぎないようにな」
クロコダイルはニューゲートに負けて以降、何を考えたのかアラバスタに居を構えている。
頭の良い海賊だ。下手に気を許すと付け入られるので気を付けねばならないが……コブラはクロコダイルの事を随分信用しているようだった。
「失礼。歓談中のところ申し訳ないが、少し良いだろうか」
カナタとコブラの会話に割り込んできたのはベルクだった。
相も変わらず堅物のようだが、実力は以前よりも随分上がっているのが感じ取れる。
「おや、直接会うのは久しぶりだな、ベルク。海軍大将になったと聞くが」
「当方には身に余る地位である。が、市民を守る上で必要な地位とあれば否はない」
「天竜人に顎で使われるだけの地位がそれほど重要とも思えないがな」
「貴殿、そういう事は出来るだけ避けて貰えると助かるが……いや、今回はそういう話をしに来たのではない。当方の今回の仕事は貴殿に付く護衛である」
「私に護衛など不要だろう」
「貴殿の護衛ではなく、
世界中の重要人物が集まるこの場において、武器の携帯は厳禁だ。無論屈強な護衛達は付いているものの、カナタが素手だからと言って太刀打ち出来るかと言われると難しい。
海賊であるカナタが参加していることがまず異例なのだ。最低限、安全を担保するという意味でベルクがカナタと共に行動することになったらしい。
面倒なことを、と思うも、安心は何物にも代えがたいという考えは理解出来る。海軍と政府の判断も仕方ないと言えた。
「熊は素手でも強いゆえ」
「ぶっ飛ばされたいのか」
暗にカナタが熊のようなものと言っているベルクだった。
「今回の〝
「そうだな。連中の顔など見たくもない」
下手なことをされては強硬手段を取るしかなくなる。
そう何度も天竜人を手にかけられては威厳も地に落ちるし、反乱の土壌は生まないに限るという五老星の考えなのだろう。
時たまふらりと現れる天竜人の扱いには各国の王たちも考えあぐねていたので、あからさまにホッとした様子を見せていた。
だが。
「その中で一人だけ、特例で会うことを許可された天竜人がいる」
「……私は会うことを了承していないが」
「当方も直接会ったことは無いが、五老星に直接許可を得ていると聞く。好き好んで貴殿を敵に回すことも無いだろう。会ってはくれないか?」
「誰が何の用事で私に会いたいと言うんだ。そこをはっきりさせない限りは何とも言えないな」
ふむ、と納得した様子を見せるベルク。
「ドンキホーテ・ミョスガルド聖である。魚人島の今後のことについて話したいと仰せだ」
☆
パンゲア城、城内。
天竜人は本来、パンゲア城の正門から更に奥へ入った〝天竜門〟と呼ばれる門の先に居を構えているため、七武海や海軍がパンゲア城へ訪れた際にも出会うことは無い。
世界政府の機能のほとんどはパンゲア城に集中しているため、そこから奥へと行く必要もないのだ。
なので、カナタがミョスガルド聖と会う上で他の天竜人に出くわす可能性はゼロであった。
ベルクの案内の下、パンゲア城の一室に入ると、中にはミョスガルド聖が一人で待っていた。
天竜人であるにもかかわらず、護衛も奴隷もいない。
「はじめまして。私がドンキホーテ・ミョスガルドだ。あなたがかの〝黄昏の魔女〟カナタ殿で相違ないか?」
「ああ……天竜人にしては随分変わった男だな」
「そうだな。こうなったのはここ最近の話だ」
ベルクはミョスガルド聖の護衛のために背後に控え、カナタは勧められるままにテーブルを挟んで対面へ座る。
他の天竜人を見たことがあるが、ミョスガルド聖の雰囲気はそのどれとも違う。
ドンキホーテの名の付く者は大抵ロクなことをしないのだが、彼はどうなのか。カナタは目を細めて値踏みをしていた。
「まずは感謝を。会議前の忙しい時間にここへ来てくれたこと、ありがたく思う」
「構わない。魚人島の事であれば会議前に話を詰めておいた方が良いからな」
「それでも、あなたの立場を考えれば話したい者も多いだろう。私は天竜人の立場を使って横入りをしたに過ぎないのだから」
さて、とミョスガルド聖は本題に入る。
話は少し長くなるが、ここに至るまでの経緯を話そう。ミョスガルド聖はそう言い、静かに話し始めた。
「私はフィッシャー・タイガーの一件で奴隷を全て失い、当時奴隷にしていた魚人や人魚が魚人島で暮らしていると聞いて取り戻しに行った。若く、愚かで、どうしようもない蛮勇さだった。
船は海難事故で船員はほぼ全滅。私自身も重傷を負い、恨みを持った元奴隷の魚人たちにあと一歩で殺されるところだった。
そこで私を助けてくれたのは──オトヒメ王妃だった」
怪我の治療を受けたミョスガルド聖はなおも頑なな態度だったが、オトヒメ王妃は地上に戻るミョスガルド聖に同行すると言い出した。
「当時の私は魚人や人魚を差別していた……だが、地上に戻る間、そして地上での僅かな期間、私はオトヒメ王妃と語らい続けた。
天竜人としての視点しか持たない私ではわからないことを、彼女は根気強く私に話してくれた。
彼女が私を〝人間〟にしてくれたのだ」
だからこそ、ミョスガルド聖はカナタをこの場に呼びつけた。
カナタの行動を噂で耳にしたがゆえに。
「あなたは今、いくつかの国に手を回して魚人島を再び〝
「そうだな。色々と手を回して準備をしている。会議が始まり次第、議案として提出する予定だ」
「私の一筆した書類をオトヒメ王妃に渡したが、他に出来ることがあればなるべく手伝いたい。天竜人の権力を自由に使って貰っても結構だ」
人間と魚人族の友好関係をより良くするために尽力する。それが自身のやるべきことだとミョスガルド聖は見定め、カナタにも接触を図った。
その言葉に悪意はない。本当に、この男は本心から友好関係を築き上げたいと考えている。
天竜人の権力は巨大だ。ミョスガルド聖の後押しがあれば、カナタの目的は概ね達成出来るだろう。
「……魚人島は今、少し難しい状況にある」
二年前、オトヒメ王妃の暗殺未遂事件が起きた。
身を挺して庇ったタイガーのおかげでオトヒメ王妃は難を逃れたものの、犯人は人間だった。
この件を発端として魚人島では魚人至上主義の思想が再燃しており、人間側で受け入れる土壌が出来たとしても魚人島側で燻ぶる火種がある限りは〝
統治が安定していなければ、クーデターの危険性がある。
「現状、魚人島内部では人間に対する悪感情がある。そもそもあそこのナワバリは私のものではないから手出しもしにくい」
これがカナタの直接統治下であればもっと話は早かったが、幸か不幸かあそこは〝白ひげ〟のナワバリである。
手出しもしにくく、間接的に解決策を探ろうにもタイガーやジンベエは王族の護衛で何かと忙しい。使える戦力が極めて少ないのが問題だった。
人間側にも魚人と仲良くするのを嫌がる勢力が少なからずいるだろうが、そちらの対処は何とでもなる。魚人島内部の問題を解決する方法が無いのが一番の悩みのタネであった。
「便宜上は世界政府加盟国だ。海軍を動かせればいいが……魚人島は深海だ。人間では活動も難しい」
まさかリュウグウ王国の兵士たちをカナタが顎で使う訳にもいかない。
おかげで状況の調査をするのも一苦労だ。偵察が出来なければ敵の動きがわからないので軍も動かせない。
「海軍に魚人や人魚がいないのがこれまでの対立の深さを物語っているな」
「それに関しては当方も同意見だ。巨人族のように融和政策を取れれば良かったのだが」
「マザー・カルメルは偉大だった、という訳か」
ネプチューン王が自力で解決してくれれば良いのだが、彼も彼でオトヒメ王妃の思想につられ過ぎているところがある。
理想を目指すにはまず足場を固めねばならない。土台を作らずに建物を作ったところで簡単に崩れ落ちるのだ。
「……まぁ、私に出来るのは彼らが地上に出て来た時、手を取り合える状況を作ることくらいだ」
「それが難しいのだが……」
「私たちが魚人や人魚の事を詳しく知らないように、彼らも人間の事を詳しく知らない。〝知る〟ことは重要だ」
経験の有無もそうだが、知識として知っておくだけでも違う。
違いを受け入れるには〝理解出来ずともそういうものがあると知っている〟ことが根幹にあるのだ。
「そういうものか……難しいのだな」
「お前だってオトヒメ王妃と話し合うことで様々なことを知り、変わったのだろう。それと同じことだ」
はっとした様子で納得するミョスガルド聖。
「では私が知ったことを、より多くの人に知ってもらえれば……」
「少しずつでも、世の中は変わるかもしれないな」
「おお……」
やるべきことのビジョンが見えて来たのか、ミョスガルド聖は何度か頷いて「やはりあなたと会って良かった」と言う。
だが、残念ながらもうすぐ会議の始まる時間だ。
「ミョスガルド聖、貴方の思想は理解した。魚人島の問題、人間と魚人の融和については手を借りることもあるだろう」
「ありがとう、カナタ殿。私に出来ることがあれば何でも言ってくれ」
二人は握手をし、これから問題解決に向けて協力することを確認し合った。
メア
新キャラ。ロムニス帝国次期女王。
金髪碧眼14歳。
折角なのでチンジャオとか出そうと思ってたんですが、花ノ国ってどうも戦争真っただ中っぽくてこの頃は世界会議に参加してなさそうなので没になりました。
ドフィは普通に海賊が王になっただけなので参加権はありません。
会議そのものは次回にでも。