ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百三十六話:Planetes/cater

 デュースはエースの手当てを終え、船の医務室から出る。

 試合が終わった後、デュースは倒れて気絶したエースを背に抱えてスペード海賊団の船である〝ピース・オブ・スパディル号〟まで戻り、治療していた。

 医務室の外にはスペード海賊団の仲間たちが集まっており、誰もがエースの安否を心配している。

 

「デューの旦那、船長は……」

「寝てる。余程疲労が溜まったんだろう……あれだけの戦いだ。仕方のないことではあるが」

 

 エースの完敗と言っても過言では無かった。

 だが、エースはそれでも負けを認めず、試合を翌日に持ち越すと宣言している。

 ボロボロになっていく船長の姿を見るのは船員としても思うところがあるが……何より、こんな時にエースの背中を支えてやれない自分に嫌気がさす。

 デュースは元々〝東の海(イーストブルー)〟のとある島で医者の一家に生まれた男だ。出来の悪さを馬鹿にされ、冒険譚を読んで家を飛び出し、とある島でエースと出会った。

 それ以降エースの姿を間近で見てきたが……助言や意見を言うことは出来ても、エースの背中を守ってやることは出来ない。

 弱いとは言わないが、懸賞金が付かない程度の存在だ。シャボンディ諸島ではレイリーに「No.2は苦労するだろう」などと言われたものの、そう呼ばれるには些か実力が不足し過ぎている自覚はある。

 エースが頼ってくれるくらい、デュースが強ければ──考えるだけ無駄とわかっていても、時折考えてしまうのだ。

 悪循環に陥る思考を止め、ため息を一つ零して食堂に移動する。

 

「相手は〝黄昏〟の幹部だ。四皇にも匹敵する勢力とは聞いていたが、実際に目にすると凄まじいな……」

 

 情報を集めるスカルと二人、エースが戦ったラグネルに関する情報を纏めた。

 とは言え、ラグネルに関する情報は極めて少ない。滅多に表に出てこないことと、政府による懸賞金がついていないことで注目されることが少ないからだ。

 敵対関係にある四皇──ビッグマム海賊団や百獣海賊団であれば幾らか情報を持っているかもしれないが、まさか正面から行って情報をくださいなどと言う訳にもいかない。

 

「百獣・ビッグマムの海賊同盟と〝黄昏〟の敵対関係は有名な話だぜい。百獣海賊団の最高幹部である〝大看板〟と戦ったことがあるのも不思議ではない……けど」

「誰かまではわからないのか?」

「恐らく、って付くが……多分〝火災〟のキングですぜい」

「恐らくとか多分とか、えらく不確定な話だな」

「仕方ねェ。〝黄昏〟の連中、誰を沈めても撃退しても一切情報を流さねェんだ。ラグネルって女に関する情報も知ってる奴を見つけられたのは本当に運が良かったと思うぜい」

 

 〝黄昏〟のナワバリに侵攻してきた百獣海賊団の艦隊と小競り合いを起こし、そこでぶつかった二人は周りに被害を出しながら戦い、遂にキングを撃退するに至った。

 キングは13億を超える高額の賞金首だ。実力も相応に高い。

 

「そりゃエースが勝てないわけだ……」

 

 海軍で言うなら大将クラス。シャボンディ諸島で中将相手に打ち勝ったものの、あれはギリギリの戦いだった。あの時より成長していると考えても、まだ大将には及ばないだろう。

 ……また明日もエースは戦いに行く。

 本来なら止めるべきだが、言って聞くようならデュースも苦労はしていない。

 

「相手が本気を出していないのが幸運だったが、あれだけボコボコにやられてちゃ慰めにもならんな」

「そうだなァ……」

 

 あれだけボロ負けしたエースを見たのは初めてだ。何を言っても傷に塩を塗り込むようなものだろう。

 諦めろと言って聞くような男でもない。

 幸い、闘技場(コロッセウム)には不殺のルールがある。死ぬことだけは無いだろうが……。

 

「……どうにか穏便に終わってくれりゃァ良いんだが」

 

 ビブルカードの主に会う、と言うだけの目的が、いつの間にか随分大変なことになっている。

 デュースは天を仰ぎ、額に手を置いて何も出来ない自分の情けなさにため息を零した。

 

 

        ☆

 

 

 翌日。

 闘技場(コロッセウム)を訪れたサボとコアラの二人は、一般の列に並んで中へと入る。

 入口でチケットを検められた際、担当の男が妙に緊張した様子だったのが気になるが……二人はそういう事もあるかと考え、手紙に同封されていた地図の通りに中を歩く。

 辿り着いたのは特別観覧席だった。

 ノックをして中に入ると、既に誰かが座って闘技場(コロッセウム)を見下ろしている。

 入ってきた二人に気付いたのか、その人物はサボたちへ視線を向けた。

 

「アンタは……確か、ラグネル」

「サボとコアラだな。閣下からお前たちが来ることは聞いている」

「ああ、そっちが連絡してきたからな。それで、カナタさんはどこに?」

「少し席を外している」

 

 本来ならラグネルがここにいるはずがない。

 今日の戦いは彼女とエースの戦いである。中に入る際にサボとコアラもそれは聞いたし、それを見るために大勢の観客が詰めかけていることもわかっている。

 普通なら控室の方にいるはずなのだが……。

 

「閣下からお前たちの事を聞いたのでな。伝言役に残された」

「残された、って……もうすぐ試合が始まるんじゃねェのか?」

「その予定だったのだが、今日は私は出ない」

 

 元より殺し合いのための場ではない。ラグネルの剣は敵対者を滅ぼすモノであっても、観客に見世物にするためにあるモノではない。

 それに全力を出さないように戦うのは中々ストレスが溜まる。

 闘技場(コロッセウム)で全力で戦えるのは、その程度の強さしか無い者だけだ。

 しかし今日の相手であるエースは精鋭の中でもそれなりに強いサミュエルを破った男だ。相手を出来る者は限られている。

 サボはそれを問うと、ラグネルは中央の舞台へと視線を移した。

 

「すぐにわかる」

 

 ラグネルはそれきり言葉を発さない。

 サボとコアラは顔を見合わせ、ひとまずラグネルの隣に座ってカナタが来るのを待つことにした。

 

 

        ☆

 

 

 エースは昨日同様、闘技場(コロッセウム)へと入って時間まで控室に待機していた。

 ラグネルに付けられた傷は完治していないが、動くのに支障はない。エースは城塞の如き彼女へ攻撃を仕掛けるばかりで、エースが攻撃を受けるのはほとんどが反撃によるものばかりだったからだ。

 本気で潰しに来ていれば、エースが今日再びここに来ることは無かっただろう。

 だがチャンスは消えていない。

 昨日の戦いでコツは掴んだ。覇気の使い方は実戦で磨くのが一番なのだろう。

 

「時間だ……エース、おれからは特に言える事なんかねェんだが」

 

 心配して控室にまで押しかけていたデュースが、エースの背中を押すように言葉を投げかける。

 

「やりてェようにやれ。お前が怪我したら、おれがいくらでも治してやる」

「ハッ、もう怪我しねェさ。今日こそぶっ倒すからな」

「……エース」

 

 何かを言おうとして、デュースは言葉が出てこずに口を閉じた。

 エースの強がりに軽口で返せばよかったのか、あるいは別の言葉を投げかけるべきだったのか。デュースには分からなかった。

 

「行ってくる。目的はもう目の前だ。退くことは出来ねェ」

 

 そう言って、デュースから目を逸らして部屋を出る。

 闘技場の舞台まですぐだ。気合を入れなおし、再び挑むために立ち止まることなく舞台へと立った。

 

『さァ、今日も再び〝火拳〟のエースが現れた!! 昨日は散々ラグネルにやられたと聞いたが、今日はやり返すことが出来るのか!! ここまで来れる奴も少ねぇ、おれは期待してるぜ!!!』

 

 デマロ・ブラックが高らかにエースの名を呼ぶ。

 舞台は昨日の戦いで壊れたところもあったはずだが、既に綺麗に修繕されている。整備の時間を取るための時間制限なのだろう。

 

『さてさて、続いては昨日と同様、〝戦乙女(ワルキューレ)〟トップ勢であるアド──えええええ!!?』

 

 誰もがざわついた。

 こんなところにその女がいるはずがない。ブラックも思わず立ち上がって目を擦り、二度見した。

 

『な、な、な……!!』

 

 長い黒髪。白磁のような肌。赤い瞳──ラフな格好ではあるが、その女は確かに。

 

『なんでアンタがここにいるんだ!! カナタさん!!!』

 

 〝黄昏の魔女〟カナタが、闘技場に姿を現していた。

 エースも突然の事態に目を丸くする。

 カナタに会う事が目的だったが、思わぬ形でそれが達成された。だが、このまますんなりと終わるとは思えない。

 

「初めまして、ポートガス・D・エース。お前のことはラグネルから聞いているよ」

 

 カナタは特に敵意を持つことも無く、ニコニコと笑みを浮かべながら話しかけて来た。

 身長はエースよりも頭一つ分低い。ラグネルのような覇気に満ちた凶悪な相手を想像していただけに肩透かしではある。と言うか、少なくとも30年前から活動しているにも関わらず、見た目がエースとそれほど変わらないように思えるので違和感も大きい。

 思わぬ状況に面食らったエースだが、故郷で学んだように丁寧にお辞儀をした。

 

「エースです。初めまして」

「うん、礼儀正しいな。そういうやつは嫌いではないよ」

「……アンタと会うためにラグネルと戦ってたと思うんだが、なんで出て来たんだ?」

「少々気になることがあったのでな。ラグネルと代わって貰った」

「気になること?」

「その辺りは試合が終わった後に確かめる。折角の闘技場だ、少し相手をしてやろう」

 

 カナタは素手だ。槍使いと聞いていたが、武器はどうするつもりなのか。エースは問いかけた。

 

「武器はどうしたんだ? 確か槍使いなんだろ、アンタ」

「うん? 必要あるまい。お前相手に武器など使わん」

 

 侮っている、と憤っていいのかもしれない。

 だが、エースはそうは考えなかった。

 

「……後悔するなよ」

「後悔させてみるがいい」

 

 エースは即座に駆けだし、カナタへと接近戦を仕掛けた。

 殴り、蹴り、時に炎を交えて攻撃するが──カナタは攻撃を簡単に捌くばかりで反撃もしてこない。

 甘く見られているのだろうが、エースにとっては都合がいい。

 連続して攻撃し、どうにかして隙を作る。

 

「ふむ、こんなものか」

 

 カナタはと言えば、覇気の籠った拳を受け止めてエースの覇気の出力を感じ取っていた。

 出力を絞り、エースと同程度の覇気に抑えて運用する。

 力の差はこちらの方がわかりやすく、今のエースでも鍛錬すればこの程度は出来るようになるという見本にもなるからだ。

 

「クソ、攻撃が全然当たらねェ……!」

「武装色もそうだが、見聞色も少々おざなりだな。師も無く実戦で使うのみであれば、それも仕方のないことだろうが」

 

 海軍や黄昏は組織内で覇気の使い方を教えているが、他の海賊団ではそう言ったことをやっているとは聞かない。〝新世界〟の海賊でも覇気を使えない者はそれなりにいるのだ。

 どういう訳か、カナタはまるでエースに教える様に覇気を使っている。

 今もまた、手の中に氷のナイフを作り出して武装色の講義をしていた。

 

「武装色の覇気は己以外にも武器──正確には無生物に流し込める。このようにな」

 

 氷のナイフの刃に指先を当てて滑らせる。すると、触れた場所が黒く染まっていくのがわかる。

 これが武装硬化だ、とカナタは言った。

 

「それなりに覇気が使えるなら誰にでも出来る芸当だ。お前は出来るか?」

「いや……出来ねェ」

「では鍛錬することだ。武器が不要だというのなら、悪魔の実の力と合わせることでより強く行使することも出来る」

 

 カナタは掌の上にあった氷のナイフを消し、今度は足元から大きめの四角い氷の塊を生み出した。

 エースに「攻撃してみろ」と挑発し、実際にエースが壊すつもりで炎を放つも、氷の塊はびくともしない。

 闘技場の舞台を囲む透明な壁と同じだ。並の攻撃では壊すことが出来ないほど硬質化している。

 

「お前の場合は炎だが、覇気を使えればより強い炎を纏うことも出来るだろう」

「……なんで敵のおれにそこまで親身になって教えるんだ?」

「フフフ、どうしてだろうな?」

 

 教えるつもりは無いのか、カナタは笑みを浮かべるばかりで答える気配はない。

 エースは眉をひそめながら、しかしまだ戦うつもりなのか拳を握る。

 先程カナタが言ったように、手の中に圧縮した炎と覇気を混ぜ込み──より強く打ち出す。

 

「〝火拳〟!!」

 

 昨日までのそれとは段違いの威力になった〝火拳〟が、舞台を焼きながら真っ直ぐカナタへと向かう。

 まともに受ければ誰であっても怪我は免れないその一撃を、しかしカナタは手刀で切り裂いた。

 威力がどうこうと言う話ではない。そもそも()()()()()()()()()

 

「……!?」

「良いな。話を聞いただけでここまで出来るか。まだ威力はお粗末だが、先が楽しみだ」

「おれの炎が効かねェ……」

 

 防がれたことはいくらかあるが、炎そのものを無効化されたのは初めての経験だ。

 覇気の出力はエースと変わらない。特別なことをやったようにも見えず、悪魔の実の力を使ったわけでもない。何かしらの特殊な技術ではあるだろうと当たりはつけられても、エースには詳しいことはわからなかった。

 確かなのは、これまで頼りにしてきた炎の能力がまるで役に立たないこと。

 だったら、それ以外の手札で戦うしかない。

 

「能力が通用せずとも折れず、立ち向かう気概。なるほど、悪くはない」

 

 だが、カナタも暇ではない。

 武装色の覇気を鎧のように纏い、エースの攻撃をものともせずに鳩尾(みぞおち)へと掌底を突き当てる。

 一瞬呼吸が止まり、意識が明滅して動きが止まった。膝をつくエースに対し、カナタは無慈悲に片腕を上げる。

 

「私自身、未だ頂に届かぬ身だが──深奥を見せてやろう」

 

 バチバチと黒い雷が迸る。

 カナタの腕に纏われた黒い雷を見た者は、誰もがエースの死を予感した。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 人の身で辿り着ける極点。

 覇気と言う力の深奥を前に、エースは動くことも出来ずに見ているだけだった。

 スペード海賊団の誰もが席を立ち、エースを助けねばと殺到して透明な壁に阻まれる。人死にはマズイと実況のブラックが声を上げる。それでも止まることは無い。

 エースは断頭台で処刑を待つ囚人のように膝をついたまま、カナタを睨みつけた。

 カナタが問いかける。

 

「──背を向けて逃げるか?」

 

 エースは、答えた。

 

「──おれは、逃げない!!!」

 

 カナタは笑っている。この状況でも尚、心の折れない姿に誰かを重ねて。

 ギロチンの如く振り下ろされる腕は止まることなく振り下ろされようとして──突如、カナタへと何者かが奇襲をかけた。

 覇気を纏った鉄パイプがカナタの側頭部に直撃し、僅か一瞬ながらも動きを止める。

 その隙にエースを片手で抱え、何者かは距離を取った。

 

「……何の真似だ?」

 

 奇襲をまともに受けたカナタだが、特に傷を負った様子もない。鉄パイプで殴られた側頭部はひび割れて氷の欠片が落ちているが、時を巻き戻すかのように修復されていく。

 腕を下ろし、突如乱入してきた男へと再び問いかけた。

 

「答えられないか? 何の真似だと聞いているんだ、()()

「……おれだってわからねェ!!」

 

 黒いシルクハットに黒いコートを着た金髪の青年だ。片手に鉄パイプを持ち、もう片方の手でエースを抱えている。

 本人も何故こんな行動をとったのか理解出来ていないのだろう。誰よりも自分自身が理解できず、困惑したようにカナタの問いに答えていた。

 

「わからねェんだ……! けど、こいつがここで死ぬかもしれないって思うと、体が勝手に動いてた!!」

「ほう? 自分でも理解出来ない行動か……」

 

 奇襲されたことはそれほど気にしていないのか、顎に手をやって考え込むカナタ。

 その間にサボはエースを降ろし、鉄パイプを両手で構える。

 エースは自分を助けてくれたサボを見上げ、その横顔を見て目を見開いた。

 

「サボ……!?」

「……おれの事を知ってんのか?」

「お前、本当にサボなのか……!? 生きてたのか!?」

「ま、待て! お前、なんでおれの事知ってんだ!?」

「知ってるに決まってんだろ!! お前、おれの事を覚えてねェのか!?」

 

 かつて、エースにはコルボ山で杯を交わした義兄弟がいた。

 エース、ルフィ──そしてサボ。

 サボは天竜人の船を横切り、砲撃され、船は海に沈んだ。その時に死んだと思われていたが、ドラゴンに拾われて生きていた。

 ()()()()()()

 

「エース、その男は記憶喪失だ。幼少期のことは覚えていない」

「記憶喪失!? それで……!」

 

 死んだと思っていた兄弟が生きていた。それは喜ばしいことだが、状況が悪かった。

 

「それで、私に刃を向けたんだ。覚悟は出来ているか?」

「……それは悪ィと思ってる。ドラゴンさんにも合わせる顔がねェ! けど!! ここでこいつを助けなかったら、おれは一生後悔する気がしたんだ!!!」

 

 サボは未だエースを助けた理由がわからない。それでも、体が勝手に動いた以上は仕方がない。

 コアラは顔を青くしていることだろう。ドラゴンにも合わせる顔が無い。それでも、サボはこの選択を後悔していなかった。

 エースはサボと隣り合って拳を構える。

 

「まだ戦う気があるのか」

「まだ負けてねェ。あんたとサボの間にどういう関係があるのかはわからねェけど、おれが勝ったらチャラにしてくれ!」

「ほう?」

 

 随分な大言壮語だ。不可能と言っても過言ではない。カナタは驚きに眉を動かし、続けてみろとエースに促す。

 エースの目は未だ死んでいなかった。

 

「サボが生きてて、おれを助けてくれた。そのせいでサボの立場が悪くなったんなら、おれが何とかする。おれ達は兄弟だ! 見捨てる事なんか出来ねェ!!」

「……兄弟。お前の血の繋がった兄弟姉妹には見えんな。となると杯を交わしたのか、なるほど」

 

 拳を構えるエースと、鉄パイプを構えるサボ。

 二人とも、まだやる気はあるどころか、カナタに打ち勝って不義理をチャラにしてもらおうとしている。

 思わず笑みが零れる。気持ちのいい馬鹿者たちだ。

 

「良かろう、二人纏めてかかってくるがいい。もし傷の一つでも入れられたならサボの件は不問だ」

 

 その言質を取ると同時に、サボとエースは同時にカナタへと立ち向かった。

 

 

        ☆

 

 

 もっとも、やる気だけで覆せる実力差でも、二人がかりで何とかなる戦力差でも無かった。

 カナタのゲンコツでエースもサボも脳天にたんこぶを作り、二人揃って気絶して倒れ伏している。

 闘技場の観客たちはカナタの戦闘と言う珍しいものを見れたことに興奮し、熱狂している。ラグネルの戦いを期待したものもいただろうが、そこはそれ。次の機会を待ってもらうしかない。

 

「この二人を医務室へ運んでやれ」

 

 闘技場のスタッフにそう命じて、カナタは機嫌が良さそうに中央の舞台を後にした。

 まずは特別観覧席にいるであろうコアラだな、と考えながら。

 




今回でエース編終わりの予定だったんですが、あれこれ書いてたら文字数が滅茶苦茶膨らんだのでまたまた分割に。
あとはエピローグ部分だけなので次話で本当にエース編は終わりです。年内に何とか投稿します。

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