あと古戦場終わったのでペース戻します。週2(多分)くらいで。
「何ということを……!」
ジュンシーとぶつかっていたチンジャオは、カナタの所業に怒りを露にする。
天竜人が害されるというだけでも大事件だというのに、殺害されるなど前代未聞。世界政府も、海軍本部も、カナタの行動を許しはしないだろう。
文字通り全世界が敵に回る。まともに生きて行くなど不可能だ。
「くははは! 遂にやりおったか。いつか大きなことをしでかすと思っていたが、ここまでとは!」
「笑い事か貴様! これは前代未聞だぞ……!!」
「前代未聞、大いに結構」
ジュンシーは狂気的な笑みを浮かべ、チンジャオの懐に潜り込んで大きく吹き飛ばす。
武装色による防御の上から殴ったにも関わらず、チンジャオに蓄積したダメージは大きい。口の中の血を吐き出し、ジュンシーを睨みつける。
「権力にも地位にも、金にも興味はない。儂はただ強者との戦いこそを望むまで」
「……だから貴様には八宝水軍を任せられなかった! お前ほど強ければ、私の右腕になれたものを!」
「任せられるつもりもなかったさ。軍を率いての戦いなど儂には向いていない」
武装色を纏った拳が何度もぶつかり合う。
ビリビリと強烈な衝撃波が辺りにまき散らされ、爆発したような音が何度も響き渡った。
怒りの形相で殴りかかるチンジャオの攻撃を、ジュンシーは笑いながら丁寧に捌く。油断できる相手では無いとわかっているからには、一切の妥協を許さず本気でやるしかない。
少なくともCP-0よりは強い以上、追いかけまわされる可能性があるならチンジャオはここで倒しておいた方が後々楽になる。
「この、大馬鹿者がァ──ッ!!!」
八衝拳奥義、錐龍錐釘。
氷の大地を叩き割るほどの一撃がジュンシーへと向かい、またジュンシーも同じように錐龍錐釘をチンジャオへと叩き込む。
「貴様との縁ならとうに切った! 儂は儂の道を行くまで!!」
互いに必殺の一撃がぶつかり合い、衝撃で大地が割れる。
どちらかが砕けるまで止まらないと思われたぶつかりあいは、横合いからとびかかってきたカナタによって突如として終わりを迎えた。
「今貴様と遊んでいる暇はない。事態は一刻を争う」
意識の外から叩き込まれた強烈な蹴りをくらい、チンジャオは意識を飛ばして倒れ伏せる。
ただでさえジュンシーとの戦闘で傷だらけだったのだ。意識の外から防御も出来ずに強烈な一撃を受ければこの結果も必定だった。
ジュンシーは不満そうだが、そんなことを言っているほど暇な状況ではない。
「CP-0も一人取り逃がしている。海軍の軍艦もいる。下手に時間をかけると包囲網を組まれて一網打尽にされるぞ」
「……確かに、そう考えれば遊んでいる暇はないか」
「電伝虫は盗聴の恐れがあるが……時間との勝負だ。一刻も早く島を出る」
カナタは胸元に隠していた子電伝虫を使い、船へと連絡する。
数秒待ち、応答したのは船で待機していたクロだった。
『こちらクロ。なんかあったのか? さっきも誰かからかかってきてゼンが慌てて出てったけど』
「
『ん、よくわからんがわかった』
特に理由も聞かず、カナタの言うように準備だけしておくと言って通話を切る。
話が早いのはいいことだ。余計な手間が省ける。
カナタとジュンシーの二人は港へと急いで向かいながら今後の対策を練ることにした。
「だがどうする。こうなった以上、海軍も追いかけてくるだろう。どこか行く当てはあるのか?」
「あるわけないだろう。だが……そうだな。追手がかかるなら逃げる必要はある」
少なくとも今までのような生活は望めまい。サイファーポール程度ならカナタ一人で迎撃は事足りるが、海軍の軍艦が相手ともなれば難しい。
「天竜人を殺したんだ。海軍大将、政府の犬、賞金稼ぎといろんな奴から狙われるだろう」
「今更臆したか?」
「馬鹿を言え。私は退かん。誰が相手でも戦うまでだ」
「それでこそだ。少なくとも儂はお前についていこう」
今まで商船として動いていた以上、いきなりの事態に船を降りると言い出す者もいるかもしれない。
選別はいずれにしても必要になる。
もっとも、降りることを選択したとて〝あの〟天竜人が見逃すとも思えないが、とカナタは考えている。
「とはいえ、足りないものはいくらでもある。
「しばらくはこの海で物資の調達か」
「あとは船医だな。多少の怪我なら私たちだけでなんとかなったが、今後は必要だろう」
無いものばかりで溜息を吐きたくなるが、それでも時間は進み続ける。
一手間違えば為すすべなく殺されるだろう。
現状、最大の敵は海軍だ。天竜人の護衛に誰が付いているかで状況は変わってくる。
「今回の海軍の護衛、誰が来ているか知っているか?」
「……いや。その口ぶりだと知っていそうだな、ジュンシー」
「ああ。今ここに来ているのは、ガープ同様に大将に近いとされる中将──センゴクだ」
☆
花ノ国の宮殿内にて。
天竜人の身辺警護は基本的にサイファーポールの仕事であるため、海軍が同行することは少ない。海上での護衛を終えれば特にやることはないのだ。
だが、現在
本部を出るときは気合十分といった様子だったセンゴクも、実際に現地に来てみれば事件は収束済み。現在は安定を取り戻しているということで、宮殿内にて今後の予定の確認をおこなっていた。
安全が確保されたのなら護衛はCP-0のみでいいとクリュサオル聖に言われ、しぶしぶ宮殿内に残ることになったためだ。
国内では特に危ないこともないだろうと思い、茶を飲んで一服していた折に部下がノックもせずに扉を乱暴に開ける。
「ちゅ、中将殿! 大変です!」
「どうした。何か問題でもあったか」
どうせ天竜人の無茶ぶりで何かあったのだろうと思ったセンゴクは、ややうんざりしながらも報告を促す。
顔面蒼白で姿勢を正し、センゴクの部下は緊急事態であることを伝える。
「世界貴族〝ドンキホーテ・クリュサオル〟聖が、花ノ国に滞在中の商人に殺害されたとのことです!!」
「………………何?」
思考が停止した。
世界の常識を知っている者ならば決して行わない所業。それが今まさにおこなわれたという事実。
センゴクの驚愕が収まらぬまま、部下は報告を続ける。
護衛についていたCP-0が、死に際に残した言葉を。
「主犯は近年
「……CP-0を破り、天竜人を殺害して逃走中だと!?」
天竜人の護衛を任されるだけあって、CP-0の戦力はサイファーポール内でも最上位。それを食い破って天竜人の殺害をおこなったとなれば、相当の実力が無ければ不可能だとセンゴクは判断する。
何より、手際よく逃走していることと言い、計画的な犯行だったのかと考える。
もうすぐ日が暮れる。夜のとばりに包まれれば、追うのは至難の業になるだろう。
しかし、今は何をとっても犯人である女を捕まえなばならないと判断し。
「すぐに港を封鎖しろ! 絶対に逃がすな!」
☆
ジョルジュは泣きたい気持ちでいっぱいだった。
絶対面倒事になるから表に出るなとカナタに言ったというのに、蓋を開けてみれば誰が表に出ようと天竜人に興味を持たれていたという事実。
逃げ道がなかった。内容を聞いたとき、カナタは絶対に承諾しないだろうなと思ったのも本当だ。
何気にこの五年間という付き合いの中でジョルジュもカナタのことはそれなりに理解している。
だから素直にフェイユンを連れてきたときは驚いた。
「素直に連れてきたと思ったら……やっぱり物事ってのは上手くいかねェもんだよなァ……」
あっという間に天竜人を怒らせ、自らの美貌をさらけ出して奴隷にされる寸前と来た。
今も後ろからCP-0に追いかけまわされているが、フェイユンの方が足が速い。このままでも追いつかれはしないだろうが、ジョルジュは念のために船に連絡を入れて援軍を要請していた。
フェイユンを狙っていると言えば飛んでくる、頼りになる援軍を。
「ヒヒーン!」
前方からものすごい速度で疾走する馬の姿を視認し、ジョルジュは安堵したように息を吐く。
フェイユンの肩に乗って移動していたが、相当揺れていつ振り落とされるか気が気ではなかったのだ。その点ゼンであれば大丈夫だろうと。
もっとも、ゼンの背中に乗ったのはカナタ一人でそれ以外はジュンシーでさえ乗せようとはしていないのだが。
「おい、ゼン! 後ろにいるCP-0がフェイユンを狙ってる!」
「承知! 再起不能にします!」
「いやそこまでは」
ジョルジュの言葉を最後まで聞かずに背後でCP-0とぶつかり合うゼン。
六式の体術を相手に一歩も引かず、覇気のみで対等以上に──否、圧倒してさえいる。
「……やっぱスゲェな、あいつ」
「当然です。ずっと私を守ってくれてましたから」
やや距離を置いたままゼンとCP-0の戦いを見守る二人。
ゼンの槍を受け止めるたびにCP-0は雷に感電したように痙攣して動きを止める。ゾウ出身の者が使える、〝エレクトロ〟という力だ。
悪魔の実の能力ではない、異質な力を前にして遂にCP-0は膝をつき、〝鉄塊〟で体を守るもその上から覇気で強化された槍をぶつけられて意識を飛ばす。
あっという間にCP-0を打倒したゼンは、一息ついてフェイユンたちの方へと近づく。
「一体何があったのです。追われているというから慌てて出てきましたが、状況が飲み込めない」
「いやァそれがよ」
カナタが天竜人に逆らったことを簡潔に話すジョルジュ。
それを聞き、ゼンはうーむと腕を組む。
「そうですか。天竜人に……ではもうこの島にはいられませんね。船に戻って出航の準備をしましょう」
「立場も全部捨てることになるなァ」
人手が足りないこともあり、拠点とするマルクス島から書類や金銭もすべて持ってきていた。人のいない事務所に置いておくと盗まれる可能性が高かったからだ。
倉庫にはいくらかまだ残っている品もあるだろうが、固執すれば狙われる。捨てたほうが賢明だろう。
ともあれ。
「まずは無事にこの島を出てからです。カナタさんとジュンシーさんが戻るまでには出港準備を整えねば」
こんな時でも結局ジョルジュはゼンの背中に乗せてもらえず、フェイユンの肩の上で激しい揺れに耐えながら船へと戻る。
ようやくついたころには慌ただしく出航の準備を整えつつあり、防寒着を着込んだクロが出迎えた。
「おー、早かったな。さっきカナタから連絡があって、すぐにでも出航できるようにしとけって」
「だろうな。幸い、荷物は全て降ろした後だ」
あとは人さえ乗せてしまえば出航自体は出来る。
天竜人に逆らった以上は海軍も出張ってくるだろうし、海軍が出張るなら港が封鎖されてもおかしくないとジョルジュは考え。
カナタとジュンシーが早く戻ってくることを祈るしかない現状、やれることはないかと必死に頭を回転させていた。
「で、実際のとこ何やったのよ」
「天竜人に逆らった」
「マジか。ハハハ!」
けらけらと笑うクロはカナタの心配など欠片もしていないようだったが、フェイユンは自分のせいだと思って気が気でないようだった。
不安そうにカナタたちがいるであろう方向を見ては、周りに海軍の船が来ていないか確認をしてもらっている。
こういう時は何もせずにいるより、少しでも出来ることがあればそっちに気を回していた方が心持ち楽になると考えたために。
「早く戻って来い、急がねぇと軍艦が来るぞ……」
幸い、海軍の軍艦はカナタたちとは別の港に停泊してあったので今は姿が見えない。
だがこの情報が海軍に伝わればすぐにでも港を閉鎖されるだろう。
これは時間との勝負だ。
「──来た! 来ました! カナタさんたちです!」
フェイユンが陸を指さし、声を上げる。
同時に、海の方から砲撃音が響いた。
「ゼン!」
「承知!」
飛んでくる砲弾を次々に弾くゼン。これが出来るのは現状、カナタとジュンシーを除けばゼンしかいない。
海軍本部を今後相手取るにあたって、やはりこのままではだめだとジョルジュは直感的に意識した。
「急げ、逃げ切れなくなるぞ!」
ジョルジュの叫びと同時にジュンシーが船へと飛び乗り、すぐに出航しろと伝える。
同規模のガレオン船二つでも、軍艦数隻相手ともなれば大きさでも早さでも負けている。このまま逃げても道はない。
それゆえ、カナタは足止めをするために残るというのだ。
「バカ言ってんじゃねェよ! 海軍本部だぞ! まともに相手してどうする!」
「だが誰かが足止めをせねば船ごと沈められるぞ! 海上で戦える奴だけが殿を務められるのだ!」
中将こそセンゴク一人だが、ジュンシーとゼンを除けば海軍本部の佐官でも十分に脅威だ。まともに戦っては勝ち目がない。
それになにより。
「奴が全力で戦うなら、我々は足手纏いだ。奴の能力の規模はよく知っているだろう」
「そりゃそうだが……いや、わかった。俺たちのトップはあくまでもあいつだ。あいつが決めたんなら、俺たちは従うだけだ」
「賢明だな。では一度オハラへ向かう。合流場所はオハラの近海だからな」
☆
カナタが乗船しないままジョルジュたちは船を出し、それを追うために舵を切った軍艦の動きがふいに止まる。
海が凍り、軍艦を止めている。
海上には氷の槍を手に一人の女性が立っていた。逢魔が時の夕日が水平線の果てに消え、月が頭上から照らし始める。
しかし空は雲に覆われて月は陰り、まともな明かりもないままにジョルジュたちを乗せた船は外海へと向かう。
だが、軍艦に乗っているセンゴクはそれを許しはしない。
「何者だ!」
氷の上に飛び乗ったセンゴクは、見聞色で捉えた一人の女性へと言葉を投げかける。
返答を期待したわけではない。海軍として、最低限の儀礼としての問いかけに過ぎない。
それでも、その問いには答えがあった。
「カナタ。お前たちが追っている最大の犯罪者だ」
「……貴様がそうか。だが、天竜人を殺めた以上はその首一つでは事は収まらん。全員捕縛していく」
「そうはさせないし、私も捕まる気はない」
雪が降る。
息が白く凍り付く。
武装色の覇気で体を覆わねばたちまち凍ってしまいそうになるほどの外気に、センゴクは呟く。
「……これほどの力。なるほど、報告にあったように
「そうだ。海の上ということは私にとって有利に働く」
「笑わせるな。その程度で、おれを倒せるとでも思ったか!」
ヒトヒトの実の幻獣種、モデル〝大仏〟。
倒せるなどとは思っていない。もとより力の差なら見聞色でもわかるほどだ。
それでも、やらねばならないと覚悟しているがゆえに。
「行くぞ。甘く見ればその首を落としてやる」
「抜かせ。叩き潰してくれる!」
二人は同時に飛び出し、武装色を纏わせた槍と拳がぶつかり──同時に、二人の覇王色がぶつかって氷の大地を裂いた。
☆
夜が明ける。
氷の海はひび割れ、砕け、氷山の如く巨大な物体が形成されたところもあった。
未だ曇天は続き、凍り付いて完全に動きを止めた軍艦の上でずぶ濡れのセンゴクは怒りの形相で水平線を睨みつける。
「やられた……クソ、すぐに軍艦を動かせないのか!」
「無理です! 海が凍っているのもありますが、その、この雪が……」
天候さえも操り、海と同様に軍艦さえも完全に凍らせてしまっていた。
派手に戦ったために氷は一部砕けているが、それさえ利用されてセンゴクは海に突き落とされたのだ。
そうでなければ、取り逃がすことなどありえなかった。
(天候さえ操って、おれを出し抜くなど……奴の見聞色は、そこまで強力ではなかったはずだ)
月明かりの無い夜の海でも、見聞色が十全に働いていれば敵を見失うことなどない。加えてセンゴクの見聞色はごく近い未来を読むことさえできた。
加えて、強靭な肉体と武装色によってカナタの攻撃はほぼセンゴクに通っていない。センゴクの攻撃はカナタの実体を確実に捉えてダメージを蓄積している。
逃がす要素など一つもなかった。
負ける要素さえ一つもなかった。
それでも、センゴクはカナタを取り逃がしたのだ。
理解しがたい。理解しがたいが、あるいはセンゴクとの戦いを通して成長したとでもいうのか。
悪態をつきたいところだったが、理性で押しとどめて指示を出す。
「急いで氷を融かせ! 奴とて致命傷のはずだ、そう遠くまでは行けない!」
コング元帥に報告するのが憂鬱だな、と考えながら、センゴクは歯を食いしばっていた。
作中は真冬ですけど現実は夏なので皆さん熱中症にお気を付けください。
私は既に一度熱中症で倒れました。
ちなみに最後のセンゴク戦、海上ではなく陸上だったら間違いなくカナタの完封負けでした。