ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百四十二話:偉大なる航路(グランドライン)

 ローグタウンを無事に出航し、嵐に揉まれながら海を進むルフィ一行は、島の灯台を目印に〝赤い土の大陸(レッドライン)〟にあるリヴァース・マウンテンを目指していた。

 ずぶ濡れになるのも構わず、ルフィはゴーイング・メリー号の船首の上で座っている。

 その後ろでゾロとナミが進路を確認していた。

 

「うひゃー、すっげー嵐だな!」

「この嵐に乗って〝偉大なる航路(グランドライン)〟に入るのか?」

「うん。ジンベエに聞いた通りよ」

 

 運河を使い、山を登った先に〝偉大なる航路(グランドライン)〟がある。ジンベエから聞いた通りで間違いないらしい。

 進路が確定したところで一度船室に戻り、ウソップとサンジも交えて今後の方針を決めておく。

 

「〝偉大なる航路(グランドライン)〟に入ったら岬があるはずよ。そこでまずは情報を集めましょう」

「人がいんのか?」

「いる……と、思うわ。私だって実際に行ったことあるわけじゃ無いもの、わかんないわよ」

「そらそうだ。まァ行くだけ行ってみて駄目ならその時考えりゃいいだろ」

 

 楽観的な意見のゾロに対し、ナミは呆れた様子を見せる。

 

「第一、〝偉大なる航路(グランドライン)〟っつってもわざわざ入口から入る必要があんのか? 南に下ればどこからでも入れるんじゃねェのか?」

「そんなわけないでしょ。ちゃんと理由があるのよ」

「そうだぞお前! 入口から入った方が気持ちいいだろ!!」

「違う!」

 

 ゾロに反論するルフィにゲンコツを食らわせ、ナミが説明しようとすると、ふと外を見たウソップが声を上げた。

 「あれ、晴れてるぞ」と。

 

「え? そんなはずないわ。あの嵐に乗ってリヴァース・マウンテンまで行けるはず……」

 

 急いで船室から出ると、嵐どころか風すら吹いていないことに気付いて顔色を悪くするナミ。

 南に移動して〝偉大なる航路(グランドライン)〟に入ったのか、と楽観的なことを言うゾロだが、次の瞬間にそれが間違いだとわかった。

 ざばりと船が大きく揺れる。

 すわ地震かと船に掴まる一同。

 彼らが見たのは、海面から顔を出す──大型の海王類たちだった。

 

「…………!!?」

「でっか……!!」

「ここはね、〝凪の帯(カームベルト)〟って言って……見ての通り、海王類の巣なの……それも、大型のね」

 

 船のマストにしがみつきながらナミがそんなことを言うものだから、ルフィたちはもう言葉を口にすることも出来なかった。

 今は海王類の()()()()()()()()ためか気付かれていないが、いつこちらに気付くとも限らない。男たち四人はオールを手に構え、海王類が海に潜り次第全力でオールで漕いで〝凪の帯(カームベルト)〟を脱出するつもりでいる。

 その瞬間を人生最大かと思うほどの集中力で待っていると、海王類が()()()()をして船ごと吹き飛ばされた。

 

「何ィィィィーー!!?」

 

 幸運にも嵐の方向には向かっているが、突然の出来事にルフィたちは誰もが船にしがみつくので精一杯だった。

 途中でウソップが落ちるもルフィが何とか拾い上げ、船は盛大に水しぶきを上げて嵐の真っただ中に着水する。

 五人全員がぐったりとしており、今生きていることを噛み締めているようだった。

 

「これで、〝偉大なる航路(グランドライン)〟に入口から入る理由が分かった……?」

「……ああ……わかった……」

 

 一味の中ではどちらかと言えば精神的にタフなゾロでさえ疲弊した様子を見せている。

 ともあれ。

 

「このまま嵐に乗ってリヴァース・マウンテンを目指すわ。理屈は……説明、いる?」

「不思議山なんだろ?」

「うん。必要なさそうね」

 

 四つの海から集まった海流が運河を押し上げている、などと説明しても理解してはくれなさそうなので、ナミは早々に説明することを放棄した。

 ただ、海流に乗って運河を上るとしても、大破すればそのまま海の藻屑であることだけは伝えた。航海士として船に乗る全員の命をベットするのだ。説明しないのは航海士としての沽券に関わる。

 サンジとウソップが何時でも舵を切れるように待機し、ナミが海流を見て、ルフィとゾロが船がぶつからないように周囲の確認をする。

 海流の勢いは凄まじく、嵐の風も相まって猛スピードで運河へと突っ込んでいく。

 

「ヤベェ、ずれてる!! 船、もう少し右! 右!!」

「右だな!? 面舵だァ~~!!」

「オラァァァ!!!」

 

 サンジとウソップが全体重をかけて舵を操作する──が。

 バキィッ!! と派手な音を立てて舵が壊れた。

 

「え~~~~ッ!!?」

 

 目玉が飛び出る程驚くルフィ。真っ青で卒倒しそうなナミ。圧し折った舵を持ったまま倒れる二人を思わずジッと見るゾロ。

 全員の思考が僅かに停止し──その中でいち早く動いたのはルフィだった。

 麦わら帽子をゾロに預け、船から身を乗り出して進路上の障害物との間に入り込む。

 

「〝ゴムゴムの~~風船〟!!」

 

 ルフィが空気を目いっぱい吸い込んで膨らみ、障害物と船の間にクッションとしての役割を果たした。

 その甲斐もあって船は障害物に正面衝突することなく弾かれ、無事に進路を修正して運河を上り始める。

 

「ルフィ!!」

 

 ゾロが伸ばした手へと、ルフィは手を伸ばした。

 何とか海に落ちずに船へと戻れたルフィは、船が無事だったことに安堵しつつ立ち上がる。

 リヴァース・マウンテンに無事に入れた。そのまま頂上を越えて進路は下り坂に。

 船首の上によじ登ったルフィは、偉大なる海に足を踏み入れたことにワクワクを隠しきれず目を輝かせた。

 

「ここが世界で一番、偉大な海……!!」

 

 下り切った先には見渡す限りの大海原があった。

 世界で最も偉大な海。

 見た目自体は今まで航海してきた海と同じでも、自然と空気が違うことをルフィは敏感に感じ取っていた。

 

「よ~~し!! 行くぞ、一つ目の島へ!!!」

「待ってルフィ! 言ったでしょ、まずここにある〝双子岬〟で話を聞くの!!」

「え~? 別に良くねェか?」

 

 冒険したい欲が溢れて仕方ないと言わんばかりの様子で、ストップをかけるナミに対して不満げな顔を見せるルフィ。ナミは毅然とした態度で「駄目よ!」と強く言う。

 ジンベエからもある程度情報を得ているし、〝記録指針(ログポース)〟もきちんと持っているが、それでも初めての場所ならきちんと情報収集をしたうえで行動すべきだとナミは強調する。

 サンジもウソップもナミに賛成したため、ルフィは船首の上で不貞腐れながらも仕方なさそうに灯台の方へ向かうことを了承した。

 ……舵が壊れているので少し苦労したが、何とか船を岬に停泊させることが出来た。

 

「人は住んでるっぽいな。洗濯物が干してある」

「つーか灯台の上に掲げられてるの、あれ海賊旗じゃねェのか?」

「ホントだ。何だあの海賊旗……って、〝黄昏〟の海賊旗じゃねェか!?」

 

 サンジが灯台の上に掲げられている海賊旗を見つけると、ウソップがそのマークを確認する。

 海に沈みかけているドクロと、その後ろに三本の槍。見覚えのある海賊旗だ。

 ギョッとした顔で〝黄昏〟のものだとわかると、「じゃあここは〝黄昏の海賊団〟のナワバリってことか!?」と顔を青くしていた。

 

「まァジンベエの話だと、〝東の海(イーストブルー)〟以外じゃ結構な勢力っぽいからなァ。ナワバリにしてる可能性はあるわな」

「話を聞くだけ聞いてみましょう。ダメだったら全力で逃げるのよ」

「逃げる方向なのか……」

 

 下手に敵対すると厄介なことになると聞いているので、そうなると戦うより逃げる方へ思考が傾くのも仕方がない。

 ゾロは呆れた様子だったが、灯台下の建物から人が出て来たことに気付く。

 奇抜な髪形に最初は花が動いているのかとさえ思ったが、一人の老人であることに気付いて刀にかけた手を放す。

 

「あー、ちょっと良いか」

「なんだお前らは。海賊か?」

「ああ。〝偉大なる航路(グランドライン)〟について話を聞きてェんだが」

「まずは名乗るのが礼儀だろう。人に質問があるというのなら尚更な」

「……そうだな。おれは──」

「私の名はクロッカス。双子岬の灯台守をやっている。年は71歳、双子座のAB型だ」

「コイツ斬って良いか!?」

 

 人に名乗れと言っておきながら自分から話し出すクロッカスにゾロは思わず刀に手をかけていた。

 ルフィはそれを見てけらけらと笑っている。

 ひとまず屋外にあるテーブルを囲んで椅子に座り、サンジが船からお茶を入れて各人の前に置いていく。

 

「それで、何を聞きたいんだ」

「基本的なことは聞いてるの。〝偉大なる航路(グランドライン)〟の海は常識が通用しないって事とか、〝記録指針(ログポース)〟を使う事とか。でも、記録(ログ)を貯めるって言ってもどうすればいいのかわからなくて」

「簡単なことだ。その島に数日滞在すればいい。島によって滞在時間はまちまちだがな。大抵は数日もあれば貯まる」

「そうなんだ。特に何かする必要もないのね」

記録(ログ)とは島にいるだけで勝手に貯まるものだ。もっとも、一番最初のルートだけは七本あるうちから好きなものを選べるがな」

 

 クロッカスは一度診療所に戻り、手に海図を持って再び現れる。

 七枚の海図はそれぞれ別の島を表しており、どれを選ぶかによってその後のルートも変わるのだと言う。

 だが、七つの内どのルートを選んでも最終的に辿り着くのは一つの島だ。

 

「〝ラフテル〟──〝偉大なる航路(グランドライン)〟の最終地点であり、歴史上にもその存在を確認したのは海賊王の一団だけだ」

「じゃ、そこにあんのか! 〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟は!!」

「さァな……そこにある、と言うのが最も有力な説だ。誰も証明出来てはいないがな」

「そんなもん、行って見りゃわかるさ」

 

 にっと笑うルフィ。

 必要なことは聞けたのか、ナミは手元のメモを確認しながら聞き漏らしが無いか見直していた。

 どうせ出航はまだ時間がかかるからとサンジは食事の準備を始め、ウソップは灯台に掲げられた海賊旗について質問する。

 

「おっさん、あの海賊旗だけどよ。あれを掲げてるってことはおっさんも〝黄昏〟の一員なのか?」

「数年ほど船医の経験はあるが、彼女の船に乗ったことは無い」

「じゃあわざわざ〝偉大なる航路(グランドライン)〟の入口をナワバリにしてんのか」

 

 ナワバリにすることで金銭を徴収できる、という訳でもない。この岬をナワバリにすることで得をするのはクロッカスだけだ。

 人や船が駐留している様子も無いので、本当にただ名前を貸しているだけなのだろう。

 

「勝手に使ってるだけだ」

「勝手に使ってんのかよ!?」

 

 ウソップが驚いてひっくり返った。

 〝黄昏〟が巨大な組織だという事はアーロンの一件で分かっている。その名前を勝手に使って怒られやしないのかとウソップは他人事ながら顔を青くしている。

 クロッカスはそんなことなどどこ吹く風と言わんばかりに堂々と言い放つ。

 

「〝魔女〟とは顔見知りだ。勝手に使っていることは向こうも知っている」

 

 実質黙認状態だ。

 特に取るものも無い場所をナワバリにしたところで意味は無いが、クロッカスの身の安全を守る上では役に立つ。カナタとしても、クロッカスは〝ラフテル〟の詳細を知る者の中では場所が知れている数少ない相手だ。余計な手が及ばないようにしておく必要があった。

 そうでなくとも友人だ。名前を貸すだけで身の安全を確保出来るならそうする。

 ルフィたちはピンと来ていないが、〝東の海(イーストブルー)〟以外の海の出身者は大抵〝黄昏〟の関係者というだけで関わり合いを避ける。

 利用するだけなら便利だが敵に回すと非常に厄介なのが知れ渡っているからだ。利口な海賊なら手出しをしようとはしない。

 

「時々〝黄昏〟の船がここを訪れることもある」

「見廻りに来るのか。まァナワバリって言ってるようなもんだし、それも当然──」

「私ではなく鯨に会いに来るのだ」

「鯨より優先度低いのかよおっさん!?」

 

 それはそれでもの悲しい話ではある。

 〝黄昏〟の船員が会いに来る鯨に興味を持ったらしいルフィは、海を見渡して鯨を探し始める。

 程なく海面が盛り上がり、巨大な鯨が姿を見せる。

 頭部に傷がある鯨は、おもむろに〝赤い土の大陸(レッドライン)〟へと頭を向けて大きく吼え始めた。

 

「いやデケェな!? なんだあの鯨!?」

「〝アイランドクジラ〟と呼ばれる種で、名をラブーンと言う。〝西の海(ウエストブルー)〟にしか生息していない種だが、理由があってここにいる」

 

 その昔、気のいい海賊たちが何時ものように〝偉大なる航路(グランドライン)〟へと入ってきた。

 本来群れを成して生息するアイランドクジラだが、ラブーンにとって海賊たちこそが群れの仲間だった。今回の航海は危険極まりないとラブーンを置いてきたはずだったが、〝西の海(ウエストブルー)〟から海賊たちを追いかけて〝偉大なる航路(グランドライン)〟まで来てしまった。

 船が故障して数ヶ月停泊していたこともあり、クロッカスも彼らと随分仲良くなっていた。

 そして出発の日──「必ず迎えに来る。だから数年預かっていてくれ」……そう言い残して、海賊たちは先へと進んだ。

 

「はー……いい話だな。その海賊たちを待って、この鯨は今も待ち続けてんのか」

「ああ……もっとも、もう50年も前の話になる」

「50年!?」

 

 4人は目を丸くして驚く。

 数年で戻ってくると言った海賊が50年戻らない。ならば、その結果は既に見えている。

 

「随分待たせるんだなー、その海賊たち」

「馬鹿、50年戻らねェんだ。死んでんだよ……約束も果たせずにな」

「お前はどうしてそう夢のねェことを……! もしかしたら戻ってくるかもしれねェだろうが!」

 

 わかっていないルフィにゾロがバッサリと告げ、ウソップがそれにムキになって反論する。

 しかし、クロッカスの口から出たのは更に残酷な真実だった。

 「彼らは逃げ出したのだ」──と。

 

「確かな筋の情報で確認済みだ」

「逃げたって……でも、〝偉大なる航路(グランドライン)〟を出るには〝凪の帯(カームベルト)〟を通らなきゃ!」

「そうとも。故に生死も不明……生きていたとしても戻っては来ないだろう」

 

 あらゆる要素が常識外れのこの海は、弱い心をたちまち支配する。その海賊たちもきっとそうだったのだろう。

 クロッカスも真実をラブーンに話そうとしたが、ラブーンは聞こうとしなかった。帰り道が無い以上、ここで待つ意味が無くなってしまえば()()()()()()()()()()ことと同義だからだ。

 一時は〝赤い土の大陸(レッドライン)〟に頭をぶつけるなどという自殺行為まで行っていたほどだ。

 ラブーンは今でもなお、彼らが壁の向こうから姿を現す日を待っている。

 

「幸いにも〝黄昏〟の船員にはラブーンと仲の良い者がいる。時折顔を見せに来てくれるから、今では随分大人しくなった」

「そういう事情もあんのか……」

 

 クロッカスの言葉にゾロ、ウソップ、ナミの三人がしんみりとした雰囲気になる。

 ルフィはと言えば、ちょっと目を離した隙にラブーンの近くへと移動していた。

 ラブーンは吼えるのを止めて岬の近くまで来ており、崖の上に立つルフィに気付く。

 

「おい、鯨!!」

「ブオ?」

 

 ぱちくりと目を瞬かせるラブーンへ、ルフィはビシッと指を差した。

 

「お前の仲間は死んだけど! おれは世界一周してまたここに戻ってくる!! だから、それまで待ってろ!!」

「……ブオ?」

「怪我する程頭ぶつけて、お前は仲間が帰ってくるのを待ってんだろ! でも、そいつらは死んだ!! だから、おれがまた約束する!!」

 

 いきなりの事にラブーンも理解が追い付いていない。だがルフィはそれを気にすることなく、「約束だ!」と右手の小指を出す。

 ルフィ自身、シャンクスと再会を約束している身だ。それが守られなかった時のことを考えると他人事とは思えなかったのだろう。

 独りよがりでも、ルフィはラブーンを放っておけなかった。

 ただそれだけの話だ。

 ラブーンはコクリと頷き、ルフィの下へと頭を近づける。

 

「よし、約束だ!! おれは世界一周して、またここに戻ってくるから!! その時は一緒に宴をしよう!!!」

「ブオ!!」

 

 クロッカスはその様子を見て口元に笑みを浮かべていた。

 かつての仲間は帰ってこないが、新しくここで待つ意味が生まれたのなら、それはきっとラブーンにとっていいことなのだろう、と。そう思ったのだ。

 話は一通り終わり、サンジが持ってきた食事をとりながらここから先の進路を決める話し合いを始めた。

 

「クロッカスさん、どの航路が安全とかってあるの?」

「私も全ての航路を通ったことがあるわけでは無い。どの航路が安全かは断言できん」

「そう……そうよね」

 

 ナミは七枚の海図を見比べ、どれが一番安全な航路になるのか頭を悩ませていた。

 最終的に同じ島に辿り着くとは言え、道中の危険はなるべく少ない方が良い。何より自分の安全のために。

 だが、七つの島のどれかを選んで最初が安全だとしても、その後の航路まで安全とは口が裂けても言えない。結局は運任せだ。

 ローグタウンで買ったエレファント・ホンマグロと言う魚を骨までバリバリ食べていたルフィは、海図とにらめっこをするナミの手元を覗き込んだ。

 

「何悩んでんだよ」

「これからの航路よ。この船の航海士になった以上、出来るだけ安全なルートを選ばなきゃ」

「ふーん。じゃあこれにすっか」

「え?」

 

 七枚の海図から一枚、ルフィが拾い上げた。

 慌てたようにナミがそれを止める。

 

「ちょ、ちょっと待ってよルフィ! どの航路が安全か、今見比べてるところなんだから!!」

「でもその海図で分かるのは最初だけなんだろ? 安全かどうかより、面白そうなところでいいじゃねェか」

 

 ナミはしかめっ面をして、ルフィはこうなると人の話を聞かないことを思い出して溜息を吐いた。

 船長命令ならば従うしかない。

 ナミは取り分けられたエレファント・ホンマグロをやけ食いし、クロッカスに聞きながら次の島への記録(ログ)を貯める。

 海図の方向をきちんと向いていることを確認し、出航の準備が整ったことをルフィへ報告する。

 

「よし、じゃあ出航すっか」

 

 ルフィたちは船に乗り込み、見送りに来たクロッカスと最後の挨拶を交わす。

 

「気を付けろ、最初の航海が一番大変だからな」

「ええ、頑張るわ!」

 

 クロッカスの言葉に気合を入れるナミ。

 帆を張って船は動き出し、ゆっくりと岬から離れて次の島へと進み始めた。最初の航海だ。ルフィはワクワクしながらクロッカスの方を向き、手を振って別れの言葉を投げる。

 

「じゃあな、花のおっさん。鯨!!」

「行ってこい」

「ブオオオオオオ!!!」

 

 手を振って出航するルフィたちを見送り、クロッカスは口元に小さく笑みを浮かべていた。

 

「何とも不思議な空気を持つ男だ。あいつらは……我々の待ち望んだ海賊だろうか──なァ、ロジャーよ」

 

 ルフィたちの選んだ島──〝ルネス〟と書かれた海図を手に、クロッカスはそう呟く。

 


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