何はともあれ、朝を待たねば行動出来ない。
夜に行動しようと思えば出来なくは無いが、昼間の航海の疲れもあるし、視界が悪い中で土地勘のない場所を捜索したところで何かを見つけられるとも思えない。
一応交代で見張りをしつつ、各自体を休めることにした。
そして朝を迎えると──ゴーイングメリー号のマストに縛り付けていたMr.11を除くバロックワークスの面々は忽然と姿を消していた。
「おいおい……お前見捨てられたのか?」
「……任務に失敗した以上、何らかの沙汰は下されるだろう……あいつらもそれは同じだが、数が多い。どうにか逃げようとしたのかもしれん」
とは言え、船も何もないのだ。逃げると言っても島のどこかに身を隠すくらいしか出来はしない。
加えて、問題がもう一つ起きていた。
「マーティンがいないィ?」
昨日保護した少年ことマーティン。男部屋にルフィたちと一緒に雑魚寝していたはずだが、気が付いたらいなくなっていた。
体中怪我だらけでまともに動けるはずは無いのだが、家族のことが心配で飛び出した可能性はある。
サンジがルフィと入れ替わりで部屋から出る際にはまだいたことを確認している。その時間帯に見張りをしていたはずのサンジが見つけられなかったことだけは奇妙だった。
「何見てたんだよアホコック」
「っかしいな……船の近くは確かに見てたはずなんだが」
サンジは首を傾げながら自らの失敗を認める。
ルフィは仕方ねェと笑い、ひとまず瓦礫の山となった町を一通り見て回ることにした。
ゾロは迷子になるので留守番である。
手分けして探すことになり、ルフィは勝手気ままにあちらこちらをふらふらと見て回る。どこもかしこも瓦礫の山だが、島の内部には山もある。そちらに逃げ込んでいれば、あるいは助かっている人がいるかもしれない。
「よし、行ってみっか!」
山の方を目掛けて腕を伸ばし、近くの瓦礫を掴んで腕を縮める勢いをそのままに山の方へとひとっ飛び。
それほど大きくもない山だ。探索に時間はかからないだろう。
人を探すついでに山の幸をあれこれと取り、頬張りながら山道を歩く。サバイバル経験は豊富なので食べ物は見分けられるため、歩き始めてすぐにルフィの頬はリスを思わせる程膨らんでいた。
山菜を探す傍らに人を探すという、もはや目的が入れ替わっている状態になりつつもきょろきょろと辺りを見回しながら山を散策する。
「んー。いねェなァ」
町が瓦礫の山になった以上、撤去しなければ住むには難しい。ルフィは論理的にその辺りのことを考えて山まで来たわけでは無いが、結果的に今現在人がいる一番可能性が高い場所ではあった。
それでも人の気配など微塵も感じないのだが。
野生動物は妙にたくさんいるが、どこを探しても人がいない。
やっぱり町の方かなー、などと呟いていると、人が乗れるほどの大きさの黄色いカルガモとばったり出くわした。
「クエッ!?」
「カルガモか……食えるかな?」
「クエエ!!?」
命の危機を感じたのか、カルガモはルフィに背を向けて猛スピードで走り始める。
「待て食料ォ!!」
「クエエエエエ!!」
逃げるカルガモを追いかけるルフィ。
そう広くも無い山をあちらこちらへ駆けまわり、最終的にカルガモは一人の女性の後ろに隠れてしまう。
追いかけて走りっぱなしだったルフィは肩で息をしつつ、この島でようやく見つけた人に目を丸くした。
青く長い髪の女性だ。だが、腕や足には怪我をしたのか包帯を巻いており、顔色も良くない。彼女は怯えるカルガモを背に隠し、ルフィを睨みつけていた。
「貴方、誰? カルーをどうして追いかけていたの?」
「ああ、食えるかなと思って」
「食べる気だったの!?」
憤る女性は警戒心を強めてルフィを見る。
ルフィは気にすることなくもごもごと口の中のモノを呑み込み、改めて名乗った。
「おれはルフィ。海賊だ」
「海賊……!」
案の定、海賊であることを名乗ると女性は警戒したように構えた──が。
ぐぎゅるるるるる……と間抜けな腹の虫が盛大に辺りに響く。
女性は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯き、ルフィはキョトンとしたのちに大笑いする。
「あっはっはっはっは!! なんだおめー、腹減ってんのか?」
「うるさいわね! 船は沈められるし、サバイバルなんて経験無いし、食べ物なんてここ何日かまともに食べてないのよ!」
水だけは近くに泉があったのでなんとかなったが、サバイバル経験などある訳も無し、なんとか食べられそうな木の実を見つけて凌いでいた。
野生動物はいるが、カルガモのカルーに狩りを期待するわけにもいかない。
彼女も狩りなど経験はそう多くなく、猪や虎に逆に追いかけられる羽目になることも何度かあったくらいだ。
「大変だなー」
「他人事だと思って……!」
「まァいいや。おれも人を探してるんだ。まだ
主にナミの意見ではあるが、ルフィは特に反対もしていない。
昨日見せて貰った写真のことなど頭からすっかり抜け落ちており、兎にも角にも人を連れて行けばいいだろうと判断していた。
「おめー、名前は?」
「…………ビビよ」
「腹減ってんだろ、ちょっと待ってろ」
山を下りるにも体力がいる。ルフィは近くを散策して適当な山菜やキノコを手に取って戻り、「これ食え」と手渡した。
ビビは目を丸くしながらも受け取り、小さく礼を言う。
「……あ、ありがとう……」
「気にすんなって」
「ところでこれ、変な模様のキノコだけど……安全なのよね?」
「ああ、ワライダケだ」
「
食えるかァ!! と地面に投げつけ、他のキノコも全て捨ててしまう。危なすぎて食べられたものではない。
当たり前のようにそれを渡すルフィにも呆れるが、空腹の状態で怒ったものだからいよいよ足元がおぼつかなくなってくる。
近くにいたカルーに掴まり、膝をついて頭を抱えるビビ。
「私は、帰らないといけないのに……!」
「……家に帰りてェのか?」
「ええ。あなたは知らないでしょうけど、私は帰らなくてはならない理由がある」
「そっか。乗っていくか?」
「……あなた、海賊でしょう? どうして私を……」
「ついでだ」
最終的に最後の島まで辿り着く、と言う目的こそあるが、道中の島までこだわる気は無い。
気に入らないならもう一周すればいいとさえ思っているほどだ。多少寄り道するくらい、ルフィにとっては問題にならなかった。
仲間たちもそれぞれ目的があるが、どこかの島に行きたいという目的は無いのだ。
ビビは海賊と言う一点のみで信用出来るかどうかを図りかねていたが、どのみち船も無い。このまま野垂れ死にするくらいなら賭けてみても良いかもしれないと、そう判断した。
「それじゃあ、お世話になるわ」
「おう、任せろ!」
ところで、とルフィはビビと握手しながら質問する。
「町はどっちだ?」
「…………」
頼るべき人物を間違ったかもしれない。ビビは笑いながら質問するルフィを見ながら心の底からそう思った。
☆
なんとか町まで戻ったが、その頃にはもう昼時を過ぎていた。
ビビはカルーに乗って町の近くまで案内し、ルフィはサンジの作る昼食の匂いを頼りに港まで真っ直ぐに向かう。
既にルフィ以外の面々は戻ってきており、船の外で食事の準備をしているようだった。
「お、戻ってきた」
「遅かったな、ルフィ。飯時だってのに帰って来ねェからどうしたのかと思ったぜ」
「まァ色々な」
「ところで、そちらの麗しの美人は……って、もしやネフェルタリ・ビビ王女!?」
「え、ええ。そうだけど……どうして私の名を?」
「あいつに聞いた」
サンジがテンションを上げて回転する横でウソップはMr.11を指差す。
未だゴーイング・メリー号のマストに縛り付けられたままの男である。バロックワークスの追手を目の当たりにしてビビは思わず警戒するが、当のMr.11はマストに縛り付けられたまま器用に寝ていてビビの事に気付いてすらいない。
「その王女サマを良く見つけられたな、ルフィ」
「山にいたんだ」
「サバイバルしてたのか、逞しいな」
「危うく野垂れ死にするところだったけれど……」
「サンジ! おれも昼飯!!」
「ちょっと待ってろ」
サンジも含めて捜索に出ていたため、全員まだ昼食を食べていないらしい。スープだけは先に配られてゾロやナミも口を付けているが、ルフィは肉肉肉と連呼しているのでサンジが別途準備していた。
ビビは居心地が悪そうに席に座り、目の前に配膳されたスープを一口飲む。
「……美味しい」
「そりゃ良かった。お代わりもあるから好きなだけ食べてくれ」
「サンジ、お代わり!」
「おめーはちょっとくらい遠慮しろ!」
大食漢のルフィにサンジが苦言を呈するが、ルフィは気にすることなくお代わりのスープを飲んでいる。
ここ数日ろくに食べていないビビは温かいスープが体に染みわたるような気分になり、サンジが最後の工程として食べる直前に香辛料を振りかけている料理に目を引き寄せられていた。
すぐに配膳されていく料理に手をつけ、一心不乱に食べ続けるビビ。隣でカルーも食事を分けて貰っており、ここ数日の分を取り返さんとばかりに食べている。
あっという間に食べ終えて満足したところで、ゾロとルフィ以外の捜索に出た面々は成果を報告する。
「おれは誰も見つけられなかった」
「おれも」
「私もよ。この町、本当に生き残りとか居るのかしら?」
サンジ、ウソップ、ナミの三人は成果ゼロだと肩をすくめた。
ビビを追ってきたはずの〝ミリオンズ〟すら見当たらなかったのだ。どこかに潜伏するにしても、そう隠れるところは多くないはずなのだが……手掛かりは一切なしである。
ビビは食べ過ぎて横になっているルフィからサンジへ視線を向け、疑問を口にした。
「そう言えば、ルフィさんも人を探しているって」
「ああ。この島の
「日数が分からない、と言う訳ね」
「そうなのよ。大体何日滞在すればいいのかわかれば、航海の計画も立てやすいんだけど……」
「でも、マーティンのことはどうするんだ? ガキ一人残して行くって言うのも寝覚めが悪いが」
「マーティン?」
この場にいる面々は紹介してもらったが、そのマーティンと言う人物は知らないビビが首を傾げる。
それに気付いたウソップが簡潔に説明する。
「この島で昨日見つけた子供だ。瓦礫の下に埋もれてて、ルフィが偶然見つけたんだが……そいつが今日の朝いきなりいなくなっててな」
「……昨日見つけた? 子供を?」
「あ、ああ……」
真剣な顔でウソップに尋ね返すビビの剣幕に、思わず声が上ずるウソップ。
その言葉を聞いて考え込むビビに、「何かおかしなことでもあんのか?」とゾロが声を上げた。
一日二日であれば、瓦礫の下敷きになっていても生き延びていることは十分考えられる。
しかし。
「私がこの島に来たのは
バロックワークスの追手が来たのはルフィたちよりも一日早い。その時には既に町は壊滅していたと言うから、海賊が暴れて町が壊滅したのは一日前くらいだと誰もが思っていた。
しかし、実際はバロックワークスが来るよりも前にビビがこの島に辿り着いており、その時には既に壊滅していたと言う。
ならば当然、
人間は水だけあれば二、三週間は生きていられると言われる。だが、それはあくまで健康状態が良ければと言う前提の話。
瓦礫の下敷きになって怪我をしている状態で、果たして水のみでそう何日も生きられるのか。それも子供が。
第一、水が手に入るのも雨が降っていなければ不可能。ビビの話によれば、
疑問が疑問を呼んでいく。
誰にも気付かれずに消えた少年。
いなくなった200人近い〝ミリオンズ〟。
到着した途端に沈められていく船。
痕跡さえ見つからない町の住人。
「……海賊が暴れて壊滅しただけの町だと思ったが……どうも、そういう話でも無くなってきたみてェだな」
こうなると、マーティンが語った「海賊を笑ったことで壊滅した」と言う話さえ信憑性に欠けてくる。
ルフィたちも船を沈められる前に島を出たほうが良いかもしれない。
幸い、ビビの
面倒事が起きる前に島を出るべきだとゾロが提言しルフィ以外の全員が賛成する。
「えー、おれは冒険してェんだけど」
「バカ言ってんじゃねェよ! 最悪おれ達だって船を沈められるかもしれねェんだぞ!? そうなりゃ終わりだ!!」
ウソップが半泣きで猛烈に反対するので、ルフィは不承不承な様子で島を出ることを認めた。
ルフィとしてはこういう不思議をこそ体験してみたいものなのだが、仲間を危険に晒すのは流石にどうかと思ったのだろう。
マストに縛り付けていたMr.11を船から放り出し、出航準備を整え始めた。
「一応、最大の目的地は〝アラバスタ王国〟でいいのよね?」
「ええ。だけど、この航路では〝アラバスタ王国〟に辿り着かない。どこかで〝
「〝
一度
アラバスタ王国の
「私もこの島から進む航路は知らないの。どんな島に辿り着くのか、行ってみなくちゃ分からないわ」
そのどこかでアラバスタ王国への
ナミはそれを理解して頷き、この先の航海の計画を脳裏に浮かべていた。
どうあれ、見えない危険があるこの島から早急に脱出して次の島で様々な情報と物資を得る必要がある。
外に用意したテーブルや皿などを船に戻していき、片付けがもう少しで終わるという段階でウソップが奇妙なものを発見する。
「……おい、なんだあれ?」
「なんだって、何が……」
ウソップが指差す方向につられて視線をそちらに向けるゾロ。
山の方に土埃が立っている。
遠くてよく見えないが……近付いてくるにつれて、その全貌が明らかになっていく。
野生動物の群れだ。
それも、犬や猫に始まり、象に麒麟にライオンや虎……多種多様な動物たちが一心不乱にこちらへ向かって走ってきている。
常軌を逸しているとしか思えない光景だ。
「な、なんだありゃァ!?」
「急げ! とにかく船を出すんだ!」
バタバタと片付けを急ぎ、動物たちが港付近に来る頃には何とか港を離れられそうだった。
──しかし、事はそう簡単には運ばない。
「もう出ていくのですか? もう少しゆっくりしていけばよろしいのに……折角歓迎のパーティをしようと、わたくし自ら手間暇かけたのですから、そう急がずとも」
タイトなスーツにピンク色の髪が目を惹く。
出航直前の船の縁に腰かけ──口端を吊り上げ、悪辣な笑みを浮かべてルフィたちを見る女性がいた。
台詞一つで分かる方はわかると思うのでもう先に質問を潰しておきますが、九尾の能力者ではありません。カタリーナ・デボンはちゃんと出番あります。
2/28はお休みです。次回の更新は3/7になります。