ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百四十九話:王城襲撃作戦

 ルフィたちは雪道を行軍し、ロープウェイのある村の近くで身を隠す。

 それほど広い島では無い上に村の位置も入江からほど近いこともあってか、八人はすぐに辿り着いた。

 村に入る前にローが今一度確認する。

 

「おれ達の目的はロープウェイの奪取だ。村人への危害は無し、兵士もあくまで気絶に留めろ」

 

 なるべくなら穏便に行きたいものだが、そう上手くいくと思ってはいない。

 ワポルは悪政で国民を虐げる王だが、臣下にはそれなりに従う者も多いのだ。少なくとも兵士たちは寝返ることは無いだろう。

 

「ロープウェイの位置は村の中央から少し北に入ったところだ。通りを真っ直ぐ行けばすぐに見える。村には買い物に来たとでも言って奥まで入るが、不自然にならないようにしろよ」

「よし」

「わかった」

 

 騒ぎを起こす筆頭であるルフィとゾロが頷く。

 サンジとウソップは「おれたちで見張るしかねェな」と互いに目配せする。チョッパーはトナカイの姿になっておけば特に何かを言われることも無いだろう。

 ペドロはフードを目深に被り、なるべく顔を見せないようにしていた。

 ローとラミは不自然にならない程度に顔を隠し、全員で村に入ってロープウェイを目指す。

 村では忙しなく働く人々が多いため、ローたちもそれほど目立ってはいない。

 そそくさと村の中を進み、ロープウェイの近くまで辿り着く。

 

「丁度良かったな。ロープウェイが降りてきてる」

 

 場合によっては城からロープウェイが降りてくるまで待たなければならなかったが、今回は必要無かったらしい。

 

「トラ男、やるか?」

「ああ、作戦開始だ」

 

 ローの言葉を合図に、全員が一斉に動き出す。

 ロープウェイの近くにいた兵士たちを殴り、蹴り、腐った卵をぶつけ、刀の峰で気絶させていく。

 突然の事態に兵士たちは驚いて武器を取り出すが、ロープウェイの管理を任されているだけの兵士だ。練度はそれほど高くも無い。

 あっという間に制圧し、ロープウェイを奪い取った。

 

「これで山の上の城まで行くのか?」

「そうだ。これを漕いでいく」

「いや漕ぐのかよ!?」

 

 ロープウェイの前後に自転車のようなものが付いており、これを漕ぐことでロープウェイを動かす仕組みのようだ。

 山の上の城まではそれなりに距離があるが、これを漕ぐとなると中々大変な作業だろう。

 

「誰がやる?」

 

 ローの質問に「面白そう」との理由でルフィが手を挙げ、もう片方はじゃんけんの結果サンジが漕ぐことになった。

 二人がかりで自転車を漕いでロープウェイを進め、徐々に山頂へと向かう一行。

 

「案外速いな」

「人数が少ない分軽いからな。もっと大勢で乗ることを前提にされてるんだ、これくらいは楽な方だろう」

 

 これなら城まであっという間だろう。

 漕いでいる二人以外は楽なので、今のうちに城に辿り着いてからの動きを確認しておく。

 目的は大きく分けて二つ。

 医者を助ける事。

 国王を倒す事。

 前者の目的さえ達成出来ればいいが、ローからすれば多少のリスクを込みでも悪政を働く王はどうにかしておきたかった。

 

「城のどこに囚われているかは分からねェのか?」

「分からねェ。城の地図でもあれば別だが、そんなものを手に入れる時間も無かったからな」

「チョッパー、お前は何か知らねェか?」

「わかんねェ」

 

 ウソップの問いにチョッパーは首を振る。

 ロープウェイの周りにいた兵士たちは大したことが無かったので、城に詰めている兵士たちも大したことは無いだろうとローは考えていた。

 油断は死を招くので楽観視はしないが、現状の戦力ならば十分落とせると判断している。

 

「ひとまず城を制圧してからゆっくり探してもいいが、数が多いと厄介だ。なるべくなら早々に医者を助け出して脱出してェところだが……」

 

 一国の王が住まう城だ。広さもそれなりにあるだろう。

 医者一人を探すだけでも一苦労になる可能性は十分にある。それまでロープウェイも死守しなければならない。

 並の海賊がやるにはかなり難易度の高い作戦だ。

 

「全員倒せばいいんだろ」

「任せろ。全員斬ってやる」

「斬るな! 気絶に留めろと言ったはずだ!」

「相手は兵士だぞ。そこまで手加減出来りゃあいいがな」

「お兄様、あんまり無茶言っても出来ることと出来ないことがあるって」

 

 犠牲が出ないに越したことは無いが、理想を語るばかりで実現できなければ意味が無い。ローの発言はかなり無茶なものだ。

 ラミはローを諫めつつ、指を立てて必要な班分けをする。

 ロープウェイを守るチーム。

 医者を探すチーム。

 優先順位としてはこの二つに分けられる。国王を打ち倒すのはこの二つを達成したうえでの目的に設定しておく。

 兎にも角にも医者を探さねばならない。どこにいるかもわからないので手当たり次第にだ。

 

「ラミ、お前は防衛に徹しろ。一番危険がねェ」

「私だって戦えるけど……お兄様がそういうならそうする」

「ラミちゃんの安全はおれが守るぜ、任せろ!!」

 

 後部で自転車を漕ぐサンジが気合を入れたように叫ぶので、ローがギロリと睨みつけていた。

 

「ラミに手ェ出そうってんじゃねェだろうな……!」

「落ち着け、あのアホコックはいつもああだ」

「誰がアホだコラマリモ!! テメェいつも迷子になって役に立たねェじゃねェか!」

「なんだと!? やんのかコラァ!」

 

 言い争うサンジとゾロを放置し、ペドロは静かに挙手する。

 医者を探すチームとして名乗りを上げたのだ。

 

「ウソップはどうする?」

「おれは残る。援護は任せろ!」

「防衛側はどうしても多くの兵士たちが押し寄せてくるが、大丈夫か?」

「!?」

 

 防衛側の方が安全だと思って名乗りを上げたが、どちらにしても危険だという事に気付いて絶望的な表情を浮かべるウソップ。

 ペドロはそんなウソップを尻目に、あらかた組み分けをしてしまう。

 医者を探すチームにはルフィ、ペドロ、チョッパー、ロー。

 ロープウェイを守るチームにはゾロ、サンジ、ウソップ、ラミ。

 

「良し、これで良いな──もうすぐ山頂だ。全員の無事を祈る」

 

 ペドロの言葉に全員が頷き、ロープウェイは山頂へと辿り着いた。

 

 

        ☆

 

 

 ロープウェイ乗り場から出ると、そこには既にドラム王国の兵士たちが武器を持って入口を囲んでいた。

 当然と言えば当然だが、下の兵士たちの内無事な者から連絡を受けて待ち構えていたのだろう。

 

「大人しくしろ、海賊ども! この城にまで乗り込んでくる度胸は認めるが、お前たちの好き勝手になどさせん!!」

「ワポル様に逆らう海賊など処刑してくれるわ!」

 

 ワポルの腹心である二人、チェスとクロマーリモが気勢を上げて恫喝している。

 だがそれでビビるルフィたちではない。

 どうにかこの包囲を突破して医者を探しに行こうと隙を窺っていた。

 

「おーおー、えれェ嫌われようだ。やったことがやったことだし、仕方ねェが」

「なんだ、ビビってんのか?」

「んな訳あるか。テメェこそどうなんだよマリモ」

「少しは張り合いがあればいいがな」

 

 下にいた兵士たちを見るに、あまり期待も出来なさそうだが。

 兵士たちは一様に銃を構えており、合図一つで何時でも発砲できる。とは言え、武装としてはその程度。遮蔽物に身を隠して射線を遮ってしまえば恐れることも無い。

 まぁ射線上に出れば撃たれるので打って出ることも出来ないのだけれど。

 

「さて、どうする?」

「このまま無策で出ても撃たれるだけだ。どうにか混乱させねェとな」

「よし、おれの〝卵星〟であいつらを動揺させてやる」

「……ん? ルフィとローはどこに行った?」

 

 ペドロの言葉に気付いたのか、その場の全員が辺りを見回す。

 どこにも二人の姿が無い。ロープウェイはあるので降りたわけでもない。

 元々出口は一つだけだ。ロープウェイがこの場にあるならそちらから出たとしか考えられない。

 急いで出口へ向かって外を窺うと、ルフィとローが囲んでいる兵士たちを前に仁王立ちしていた。

 

「おれがなんとかしてやるから下がってていいぞ、麦わら屋」

「何言ってんだお前。おれが何とかするからお前こそ下がってろ」

 

 お互い何でもない風に装いながらも、対抗心むき出しで張り合っていた。

 投降するつもりもなく構える二人へと、兵士たちは銃を構えて一斉に放つ。

 銃弾はルフィに直撃し、弾丸はゴムの体に跳ね返されて兵士の一部が負傷する。

 ローへ向かった弾丸は肉体をすり抜け、体に開いた穴はすぐさま塞がっていく。

 

「ゴムゴムの銃乱打(ガトリング)!!!」

「メタルコート」

 

 ルフィは連続したパンチを兵士たちに叩き込み、ローは体から流れ出した液体のようなものが刀に纏わりついて伸長し、兵士たちを薙ぎ払う。

 あっという間に兵士たちを倒すと、ルフィとローは共に城へ向かって走り出した。

 目的はここで兵士と戦うことではない。

 

「すげー……ローも能力者か」

「うん。麦わらの人も能力者だったんだね」

 

 ウソップの言葉にラミが頷く。

 ロープウェイを守るとは言ったが、この分だと必要ないかもしれない。

 ルフィとローを追いかけてチョッパーとペドロが走り出し、通すまいとしたチェスとクロマーリモをラミとサンジがそれぞれ受け持つ。

 

「ぬうっ……! 貴様ら!」

「邪魔を……貴様らから先に消してくれる!」

「サンジさん、そっちお願いね」

「任せろ、ラミちゃん!」

 

 戦い始めた二人を尻目に、ウソップは物陰からパチンコを構えつつ辺りを見回す。

 ルフィとローのおかげでほとんどの兵士は倒れたが、まだ一部無事な者がいる。横やりを入れられないように援護するのが狙撃手の役目だ。

 ……ゾロの姿が先程から見えないのが気になるが、もしかすると兵士もほとんど倒れたから防衛にそれほど人は必要ないと判断して医者を探しに行ったのかもしれない。

 城門前ではルフィとローが誰かに止められているのが見えるが、ゾロの姿はそちらには無い。

 まさか迷子になったのか? ウソップは城しかないこの場所でいなくなったゾロに対してそんなことを思っていた。

 

 

        ☆

 

 

「そこを退けよ、おっさん」

「残念だが、通すわけにはいかない。中には城に勤めているだけの民もいる」

「おれ達の目的はお前らが捕えた医者の婆さんだ。ワポルを差し出すならついでに取っていくが」

「……何を言われようと、私はこの国の守備隊の隊長だ。通すわけにはいかん」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしながら、ドルトンが武器を構える。

 ルフィとローはそれぞれ構えるが、ローはルフィに対して「先に行け、麦わら屋」と促した。

 

「おれはちょっとこいつに用がある」

「そうか、わかった! 頼んだぞ、トラ男!」

 

 通すまいと武器を振るうドルトンとローが鍔迫り合いになり、膠着状態になった二人の横を通ってルフィが城の中へ入る。

 少し遅れてチョッパーとペドロも中へ入って行き、ローとドルトンは少し距離を置いて互いに武器をぶつけ合う。

 剣戟の音が響き、互いに見合ったまま動きを止めた。

 

「随分やる気の無い戦い方だな。止めるってのは口だけか」

「……私とて、医者狩りが悪政だと言うのは理解している。だが、私が離反してワポルに好き勝手させればそれこそ民に余計な被害が出る」

 

 ドルトンはワポルの暴走を水際で何とか食い止めていると言うが、完全には止められていないのだろう。

 村にあった焼けた家屋や道具類もそうだ。いくらドルトンが言葉を重ねようと、ワポルは聞く耳など持ちはしない。

 

「こんなことしか出来ぬ自分が腹立たしいが……国が崩壊すれば、大きな混乱が起きるだろう」

 

 疲弊した国民がその混乱を乗り切れるのか。ドルトンにはそれが分からないからこそ、行動に移せなかった。

 出来ることと言えばワポルの行動になるべく国民へ被害が出ないようにするくらいで、根本的な解決など望むべくもない。

 いっその事海賊が一度国を滅ぼしてくれれば……とも思うが、国民に被害が出ない形で国が滅ぶなどそれこそありえない出来事だ。

 ドルトンの顔には諦観と絶望が張り付いていた。

 

「余計な混乱など望まない。ただ民が穏やかにいてくれれば……それでいい」

「……つまらねェな。多少は気骨があると思ったが」

 

 本気でローを倒すつもりもないのだろう。能力者だと聞いていたがそれを使う気配もない。

 

「立ち上がる気はねェのか? 圧政に苦しめられるだけで、抵抗もしねェ奴隷になるのを良しとするって?」

「奴隷になど! ……奴隷になど、なったつもりは無い……!」

 

 だが、今のドルトンはまさしく奴隷のようだった。

 唯々諾々とワポルに従うばかりで反逆する気骨も無く、忠言をする気も無い。民のためだと言い訳をして現状に甘んじているだけだ。

 

「ワポルは強い。従う以外の道は、私には無かった……」

「だったらおれが変えてやるよ」

 

 堂々と言い放った。

 ローは自身の体から光沢のある液体を流出させ、足元へと広げていく。

 

「戦う気もねェならそこを退け。戦う気があるなら本気でやれ。何もかも中途半端な奴に、何かを変える事なんざ出来やしねェ!」

 

 ローの言葉を聞き、ドルトンはしばし目を瞑り──覚悟を決めたように、武器を構えなおした。

 ウシウシの実、モデル〝野牛(バイソン)〟。その能力を発現させ、人獣形態へと変わって。

 

「──悪かった。私も覚悟を決めよう。名を聞いても?」

「トラファルガー・ロー。覚えなくていい。この国を変えるのはあくまでお前らで、おれはそのきっかけを作るだけだ」

 

 二人は互いに武器を構え、再び衝突した。




ドラム編、割と蛇足感が強いので早めに終わらせてアラバスタ編を早く書きたい所存。
あと二話か三話くらい、ですかね…。

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