ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百五十話:チェス&クロマーリモ

「医者~~!!! どこだ~~~~!!!」

 

 ルフィが叫びつつ城の中を走り回る。当然城の中にも守備隊の兵士たちはいるが、ものともせずに殴り倒して進んでいた。

 後ろを走るペドロとチョッパーは楽なものだが、このまま後ろをついていっても目的の医者が見つかるとは思えなかった。

 

「どこか、医者が居そうな場所に心当たりでもあればいいんだが……」

 

 誰かに聞こうにも兵士たちは軒並みルフィが倒しているし、それ以外の城で働く者達は皆部屋に閉じこもってしまっている。聞き出すのは容易では無いだろう。

 チョッパーはきょろきょろと辺りを見回しながら走っていたが、突如足を止めた。

 ペドロも釣られて足を止めると、チョッパーがクンクンと匂いを嗅ぎ始める。

 

「これ、ドクトリーヌの匂い……こっちだ!!」

「匂いで分かるのか?」

「うん。でも、似たような薬品の匂いはあっちこっちからする」

 

 城の中にはドラム王国お抱えの医者たちが常日頃から治療や研究をしているため、くれはと同じように薬品の匂いがそこかしこからしている。

 完全にかぎ分けるのはチョッパーとて至難の業なのだろう。

 

「居場所はわかりそうか?」

「大丈夫! ドクトリーヌの匂いはちょっと独特だから、すぐわかるよ!」

「……それ、本人にはあまり言わない方が良いぞ」

 

 女性に対して「匂う」と言うのは少々配慮に欠けた物言いだ。チョッパーにそれを求めるのもどうかとは思うが、人の社会で生きるならそういった配慮も必要になる。

 このままドラム王国と言う閉じこもった世界で生きるならそれでもいいかもしれないが……チョッパーもいずれ独り立ちする時が来る。

 覚えておいて損は無い。

 

「こっちだ!」

「良し、ルフィ!」

 

 ペドロが視線を戻すと、既にルフィはいなくなっていた。

 足を止めている間にどこかへ行ってしまったのだ。

 参ったな、と思う一方、ルフィなら大丈夫だろうという思いもある。ひとまず死ぬような危険は無いはずだと判断し、医者の救出を優先することにした。

 

「チョッパー、おれ達だけで医者を救いに行くぞ。その後でルフィたちと合流だ!」

「わかった!」

 

 二人は進路を変え、くれは救出のためにルフィとは別の道を走り出した。

 

 

        ☆

 

 

 医者を探して城の中を爆走しているルフィの前に一人の男が立ち塞がった。

 

「待てェい!! この麦カバ野郎!! 一体誰の許可を得ておれの城を走り回ってやがる!!!」

「なんだお前。おれは医者を探してんだ、邪魔すんな!」

「医者だと!? このドラムの誇る優秀な医者が目的か!!」

 

 ずんぐりむっくりとした体形の男が気炎を上げてルフィを睨みつける。

 ドラム王国国王、ワポルその人だ。

 彼は、三人の腹心が城門前で海賊を迎え撃つと言うので好きにさせていたら城に入られたというので自ら海賊を粛正しに出向いて来たのだ。

 

「このカバめ……!! チェスもクロマーリモもドルトンも!! どいつもこいつもこんな海賊一匹止められねェのか!!? 失望させやがって!!」

 

 ワポルは怒り心頭とばかりに罵詈雑言を口にする。

 誰も彼も役に立たない、やはり己でどうにかするしかない──と。

 ワポルは巨大な口を開いてルフィを丸呑みにしようと跳躍し、ルフィはそれをジャンプして避ける。

 

「うわっ!?」

 

 結果としてルフィの後ろにあった壁にぶつかるが、ワポルはそれをものともせずに壁を食い破り、バキバキと凄まじい音を立てながら咀嚼していく。

 いくらルフィでも煉瓦の壁を食べようなどとは考えないため、実際に壁を食べるワポルを前にドン引きしていた。

 

「壁を食ってる……!?」

「避けるんじゃねェよ! 食い殺せねェだろうが……!!」

 

 イライラを隠しもせずに咀嚼した壁を呑み込み、またもワポルはルフィに噛みつく。

 ルフィはそれを避けつつ下がっていくが、壁に追い詰められて追い詰められたことを悟った。

 ワポルは構わず壁ごとルフィを丸呑みにして咀嚼する。

 

「ぐぬ……! なんだこれは……噛みにくい……!!」

「ゴムゴムの~~」

 

 両腕だけ口の外に出ているのに気付かず、ルフィを口の中で食い殺そうと咀嚼するワポル。

 その顔面目掛けて、壊れた壁から外に伸びていたルフィの両腕が戻っていく。

 

「バズーカ!!!」

「ブバッ!!?」

 

 勢いよく吹き飛ばされたワポルは反対側の壁に激突し、ルフィはびっくりしたように麦わら帽子をかぶりなおした。

 流石に人に食べられたのは初めての経験だ。

 今ので倒れたかな、とワポルをじっと見るルフィだが、ワポルはダメージを受けつつも立ち上がる。

 

「頑丈だなー」

「この……麦カバがァ……!! ゼェ、ハァ……おれ様を本気で怒らせたな……!!」

 

 ワポルがぶつかったのは城の中央にある巨大な柱である。

 城の支柱になっているそれの一階部分には扉があり、ワポルだけが鍵を持つ部屋──〝武器庫〟であった。

 

「この〝バクバクの実〟の真の力、見せてくれる!!!」

 

 ワポルが鍵を開けて武器庫に入り、ルフィはそれを追いかけて武器庫に入る。

 中には銃や剣を始めとして多様な武器が置いてあるが、ワポルはそれを片っ端から口に入れて咀嚼していた。

 ルフィもまさか武器を使うのではなく食べるとは思っていなかったため、驚きで動きが止まる。

 

「何やってんだ!?」

「……食物はやがて血となり肉となる。食後こそ〝バクバクの実〟の真の能力!! 〝バクバク(ショック)〟!!!」

 

 ワポルが武器庫に在った銃や剣を片っ端から食べていたのは何故か。

 バクバクの実の力は食べた物を己の血肉として吸収し、あらゆる物体を自身の肉体として発現することにある。

 家を食べれば肉体は家の性質を持ち、車を食べれば車の性質を持つ。

 武器庫の武器を平らげた今のワポルがその力を発現すれば、当然膨大な数の武器をその肉体に発現させることが出来る。

 

「見るがいい……これぞ、世にも恐ろしい〝人間兵器〟の姿!!」

 

 両手に斧、肩に剣、体の至る所に銃口を備え、更には武器を食べたことによる体の硬質化さえ現れている。ついでに太った体もスリムアップしていた。

 ドラム王国屈指のパワーファイターであるドルトンでさえ足元にも及ばず、実質的な最強戦力として君臨する王がそこにはいた。

 

「……か……」

 

 ルフィも絶句し、人間兵器となったワポルを前に口を半開きにしており──。

 

「かっこいい~~!!! ビームとか出そう~~~~!!!」

 

 目をキラキラさせてワポルの姿に喜んでいた。

 

 

        ☆

 

 

 一方、城外。

 兵士たちは軒並み倒れ、残すは三人の幹部のみとなっていた。

 ラミとサンジはチェスとクロマーリモを相手取っているが、慣れない雪上での戦闘であることと初めての共闘であることが重なって苦戦していた。

 

「ふふふ……雪上での戦闘は初めてか?」

 

 にやりと笑うクロマーリモに、サンジが嫌そうな顔をしながら「まァな」とぼやく。

 標高5000メートルを超えるドラムロックの頂上にある城だ。気温も低く、降り積もった雪に足を取られて蹴りにも上手く威力が乗らない。

 サンジはずっと海上レストランで過ごしてきたため、こういった環境下での戦いに不慣れだった。

 そもそも靴が雪国用では無いので滑る。

 

「いちいち雪に足取られてちゃロクな蹴り入れられねェな。ラミちゃん、そっちは大丈夫か!?」

「私は一応訓練受けてるから平気」

 

 過去にも雪国で活動したことがあるので、ある程度は慣れている。とは言え、この国で暮らして普段から生活しているチェスとクロマーリモほどではない。

 

「〝静電気(エレキ)マーリモ〟!!」

 

 クロマーリモがラミに向かって黒いアフロのようなものを投げると、すかさずサンジが足を延ばしてそれを止める。

 目の前の自分ではなくラミを狙ったことにカチンと来たサンジは、真っ直ぐクロマーリモ目掛けて駆け出した。

 

「テメェ、レディに向かってアフロ投げるなんざ何考えて──ん?」

「かかったな……!」

 

 アフロが取れない。

 静電気でくっついているのだ。

 

「何だこれ!? 取れねェ!!」

「よくくっつくだろう? いくらでも出せるぞ! 〝静電気(エレキ)マーリモ〟!!」

 

 ポンポンと投げつけてくるアフロを避けようとするも、足が雪に取られて避けきれずにアフロが引っ付いてしまうサンジ。

 

「うおーっ!? なんだこのアフロ!? ラ、ラミちゃん助けてくれっ!!」

「えーっ!? で、でもアフロなんてどうすれば……!?」

 

 静電気で引っ付いたアフロを剥がすなど初めての事でどうすればいいか分からないラミ。

 手で取ってみるも、今度はラミの手に引っ付いて離れなくなる。

 嫌な顔をしてサンジに引っ付け返すと、距離を取って手でバッテンを作る。生理的に無理だったらしい。物凄い勢いで拒否していた。

 

「無理無理無理!! 自分で何とかして!!」

「見捨てられた!? おいウソップ、何かねェのか!?」

「何かって何だよ!? それより気を付けろ、もう一人が弓で狙ってるぞ!」

「チームワークがなってねェな……」

 

 火矢を番えてサンジに狙いを定め、連続して放つチェス。

 サンジ自身を狙ったものではなく、引っ付いたアフロの方を掠め、引火してアフロが炎上した。

 即座に転がって周りの雪で鎮火させるが、危うく服まで引火するところだった。

 

「あつっ! あっつ!!」

「〝静電気(エレキ)マーリモ〟は良く燃えるだろう? お前ら全員火炙りにしてやる!」

「させない!」

 

 再び火矢を番えたチェスに対し、ラミが刀を構えて斬りかかった。

 チェスはそれに反応して戦斧を取り出し、ラミの刀とぶつかり合って派手な音が鳴り響く。

 両手に一本ずつ持った戦斧を振り回してラミと切り結ぶチェスは、所詮小娘一人と侮っているが──ラミは見た目よりもずっと強い。

 

「ハッ!!」

「ぐぬ! 小娘め、ちょこまかと……!」

 

 振り回される戦斧をいなし、受け止め、反撃する。

 革命軍にはチェスよりも強い相手などいくらでもいた。彼らに比べれば、条件が悪かろうともチェス相手に負ける道理などない。

 連続する斬撃がチェスの戦斧を弾き、真正面がガラ空きになる。

 

「しまっ──」

「──〝切断(アンピュテート)〟」

「がはっ……!!」

 

 ズバン、とチェスの体を袈裟切りにし、ラミは血を払って刀を納める。

 チェスは今の一撃に耐え切れず膝から崩れ落ち、意識を失った。

 

「チェス!」

「おいおい、どこ見てやがるアフロマン」

 

 先の攻撃で火傷を負ったサンジだが、その闘志は衰えることは無い。チェスが敗北したことに動揺するクロマーリモ目掛けて駆け出した。

 クロマーリモは動揺しつつもサンジを倒そうと、再び〝静電気(エレキ)マーリモ〟をサンジ目掛けて投げつける。

 だが、サンジは避ける事さえしない。

 

「コイツは良く燃えるが、逆に言えばそれだけだ。こいつ単体なら何のダメージにもならねェ」

「ぐ──ならば!」

 

 クロマーリモは両手に大木槌を持ち、それを振り回してサンジを叩き潰そうとする。

 だがサンジはそれを即座に回避し、振り下ろした大木槌を足場にクロマーリモの顔面目掛けて蹴りを振り抜いた。

 

「ぐあっ!?」

「まだまだ行くぞ! 散々コケにしてくれやがって……!」

 

 〝首肉(コリエ)〟、〝肩肉(エポール)〟、〝背肉(コートレット)〟、〝鞍下肉(セル)〟、〝胸肉(ポワトリーヌ)〟、〝もも肉(ジゴー)〟。

 人体の各部位目掛けて蹴りを叩き込み、クロマーリモの動きが鈍ったところでとどめの一撃を振りかぶった。

 

「〝羊肉(ムートン)ショット〟!!!」

「ぐばァ!!!」

 

 吹き飛んだクロマーリモは城の壁に激突し、城壁の一部を崩しながら倒れる。

 ラミもサンジも辺りを見回し、周囲にはもう敵がいないことを確認してから一つ息を吐いた。

 

「こっちはこれで終わりかな?」

「ふざけた野郎だったぜ、全く」

 

 ──城門前の戦い。勝者、ラミ&サンジ。

 

 

        ☆

 

 

 ゾロは道に迷っていた。

 本来ならロープウェイを守るためのチームに振り分けされていた彼だが、最初にルフィとローが大半の兵士を()()()しまったので、そちらにはもう手が必要ないと判断して医者を探す方に回ったのだ。

 だが、しばらく城門付近で他に入口は無いかとウロウロしていたが見つけられず、ローとドルトンが戦っている横を通り抜けて城に入り、そのまま適当に部屋を開けて回っていた。

 どこにいるか分からないので手当たり次第である。

 吹き抜けの城内を歩き回ってはドアを開け、中を確認して次のドアへ。

 またガチャリとドアを開けると、怯えた様子の給仕たちがゾロの方を見つつ手にモップや包丁を構えていた。

 

「あー、襲う気はねェ。医者がどこにいるか知らねェか?」

「い、医者……?」

「イッシー20(トウェンティ)なら上にいるはずだが……」

「そうか、ありがとよ」

 

 ゾロは礼を言って扉を開けたまま駆け出す──下に繋がる階段に向かって。

 

「そっちは逆だ! 上だと言っただろう、上!」

 

 給仕の男は恐怖など忘れたようにゾロを怒鳴りつけ、ゾロはそれを聞いて上への階段へ方向転換した。

 そのまま階段を上ると、別の部屋の扉があったので勢いよくそれを開ける。

 中には何人もの白衣姿の医者が居た。

 

「き、君はなんだ!? 城を襲っているという海賊か!?」

「……あー、まァ医者と言えば医者か」

 

 ゾロが言葉足らずだったのが悪いが、どうみても捕まっている医者には見えない。ここではない別の部屋なのだろうと思い踵を返すと、その背中へ声を掛けられた。

 部屋の中にいた医者の一人が話しかけてきたのだ。

 

「待ってくれ! 君は……君たちは、ワポルを倒そうとしているのか?」

「まァついでにな。おれ達は捕まってる医者を助けに来ただけだ」

「そうか、彼女を……だが、ワポルがそれを許すとは思えない。気を付けてくれ、あの男は君たちが思っているよりもずっと強い」

「あァ……?」

 

 海賊の心配をするのも随分妙な話ではあるが、ワポルが余程嫌われているという事なのだろう。

 あるいは、この現状を変えられるなら海賊にでも縋るというつもりなのか。

 どちらにしても、ワポルという男は警戒した方が良さそうだとゾロは考える。

 城の中に先に突入したルフィやペドロが戦っている可能性が高いが、自分が先に戦うことも十分あり得る──そう考えていると、背後から連続して爆発音が聞こえてきた。

 何事だと部屋を出て階下を見下ろすと、ルフィが戦っているのが見える。

 

「なんだ、ありゃあ……?」

 

 体から剣や銃が生えている。

 ああいう能力者もいるのかと思っていると、医者の一人が同じように階下を見下ろして「遅かったか……!」と悔しそうな顔をしていた。

 

「あの状態になったワポルは無敵だ! 悪いことは言わない、Dr.くれはを連れて逃げなさい!」

「逃げろったって、捕まってる医者はどこにいるんだよ」

「地下だ。城の奥まったところに地下牢への入口がある。そこから入っていけばすぐのところに捕まっている」

「そうか、ありがとよ」

 

 そう言ってゾロは、来た方向とは逆方向に向かって走り出した。

 「そっちは逆だ!」と叫ぶ医者の言葉を置き去りにして。

 




パーフェクトワポル、原作だとシルエット姿しか出てないので大半想像です。
代わりにチェスマーリモ(肩車の姿)がリストラされました。
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