ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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中弛みしてると意見を頂きました。取り合えず次々話あたりからマシになると思うのでそれまで飛ばして貰っても大丈夫です。大まかな流れは原作とそう変わらないので。


第百五十一話:ドルトン

 雪を踏みしめ、ドルトンが疾走する。

 櫂にも似た特殊な形状の武器を構え、ローの斬撃を次々に躱して接敵した。

 

「チッ!」

 

 パワーとスピードは流石に動物(ゾオン)系のドルトンに分がある。しかし、ローの能力は自然(ロギア)系だ。

 液体の性質を持つため、足元に広がる光沢のある液体から時折串刺しにしようと棘を生やすことでドルトンの動きをけん制している。

 加えて、雪の上に広がる光沢のある液体を踏みしめることで圧力を分散し、足が雪に取られることを防いでいる。雪上の戦闘に慣れていないのでドルトンに対抗するための策だった。

 しかし、ローは自然(ロギア)系であるにも関わらず、ドルトンの攻撃を刀で受けている。

 不思議に思ったドルトンは動きを止めて問いかけた。

 

「君の能力、それは自然(ロギア)系だろう? 聞くところによると、自然(ロギア)系は通常の攻撃など受け流すという話だが……」

「教えてやる義理があるのか?」

「……それもそうだな。だが、それを抜きにしても君は強い」

 

 ドルトンはドラム王国の守備隊の隊長である。

 即ち、ドラム王国でもトップクラスの実力を持つという事に他ならない。

 同じ幹部であるチェスやクロマーリモも近しい実力ではあるが、単体戦闘力と言う意味ではドルトンを超えることは無かった。

 その男と正面から打ち合っているだけでも、ローの実力は十分察せるというものだ。

 

「メタルコート」

 

 ローの肉体から流れ出た液体が刀に纏わりつく。

 足元に液体を広げるのではなく、足の裏にスパイクを作り、雪上でも滑らないようにする方式に変えてドルトン目掛けて走り出した。

 ドルトンはそれを迎え撃ち、派手な金属音を響かせ──先程ぶつかった時よりも重い衝撃に思わずグラついた。

 

「何!?」

 

 ローの能力は〝メタメタの実〟──即ち液体金属人間である。

 刀に纏わせることで斬撃からその重さを利用して叩きつける攻撃に変えることも出来、形状を変えるだけで様々な攻撃法に変化させられる。

 まさしく変幻自在の能力だ。

 しかし、無敵と謳われることの多い自然(ロギア)系の能力にも弱点は存在する。

 砂が水で固まる様に。

 雷がゴムに無効化されるように。

 液体金属は、このドラムにおけるマイナス50度と言う極寒の環境下では固まってしまうため、攻撃を受け流せない。

 最初に兵士たちの銃撃を受け流せたのは、極寒の環境に身を置いて時間が浅かったので固まっていなかったからに過ぎないのだ。

 

「面倒だな……!」

 

 それでも能力自体が無効化されたわけでは無い。

 初めての経験ではあるが、流体の体を捉えられたことなら何度もある。覇気を使わずとも普通の攻撃が通用するようになっただけだ。

 ローは焦るなと自身に言い聞かせ、白い息を吐きながら刀を構える。

 

「厄介な能力だ。攻撃は通じるが、君自身も相当鍛え上げているな」

「当たり前だ。この国の王みたいな連中を軒並み引きずり下ろすために、おれは戦ってんだからな」

「ワポルを……? 君は、何故この国に対してそこまで……」

 

 捕らわれた医者を救い出すだけならワポルと戦う必要は無い。

 だが、ローは初めからワポルを倒すことを計算に入れた上で戦いを挑んでいた。

 赤の他人の住む島だ。何の関係も無い国のはずだ。それなのに、何故ローはそこまで必死に戦うのか──ドルトンは、不思議で仕方なかった。

 ローの答えは単純明快。

 

()()()()からだ」

 

 かつて、とある国の上層部が金を稼ぐためだけに有毒物質を発掘させていた。

 国民は気付かぬ間に毒に蝕まれていき、一斉に発症した時には既に手遅れだった。

 誰もが絶望した中で、唯一見捨てず助けてくれたのは国の王でも政府でもなく、海賊だった。

 彼女の手引きで革命軍に籍を置いたローは、その背中を追いかけて強くなったのだ。

 幼き日の自分のように、王のせいで国民が虐げられる──そんな国を無くすために。

 

「国王ってのはそんなに偉いのか? 人の命を簡単に使い潰して良いのか? んな訳ねェだろ」

 

 だが、自身の意思を押し通すには力が必要だった。

 弱いままでは自分の生き方すら変えられない。だからローは強くなったし、こうして海賊として名を揚げつつ世界を巡っている。

 

「弱ェ奴には生き方も、死に方すらも選べねェ! 利用されるだけで惨めに死ぬ人生なんざ、おれは御免だ!!」

「…………!!」

 

 ローの言葉にドルトンは呆然と立ち尽くす。

 どれほど言葉を並べ立てようとも、体制側の一翼を担うドルトンでは説得力が無い。反論など出来ようはずがない。

 医者狩りにせよ、他の悪政にせよ、止められたことなどなかった。ひとたび病に罹ればワポルに従うしか生きる術はなく、逆らったところで自分勝手な法律を作り上げられて殺される。

 どれだけ医療が発達した国と言われても、どれほど優れた薬を生み出すことが出来たとしても。そんなものに意味など無いのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「……私も、同類か」

 

 ドサリと腰を下ろし、武器を捨てた。

 ドルトンの行動に眉根を顰めるローだが、能力まで解除したドルトンは既に戦意を無くしている。

 

「私の負けだ。私が勝とうと負けようと大勢に影響はない……私は、その程度の男だ」

 

 戦意を無くしたドルトンは、「しかし」とローへ問いかける。

 

「君は、この国を変えられるのか?」

「無理矢理にでも変えてやるよ。その後良くなるかどうかはお前ら次第だ」

「これは手厳しい……だが、そうだな」

 

 悪政から解放して貰って、その上国を良くしろなどと言うのは虫が良すぎる。

 国を良くするのはその国に住む者達の役割だ。外部から来てああしろこうしろなどとのたまうのは筋違いも甚だしい。

 ローは身の丈よりも大きい刀を鞘に納め、ドルトンに背を向けて城の中へ向かう。

 その背中目掛け、ドルトンは最後に言葉を掛けた。

 

「ワポルは強い。私よりもな……気を付けてくれ」

「言われるまでもねェ」

 

 忠告を聞きながらも臆することは無く、ローは城の中へと入っていった。

 

 

        ☆

 

 

 チョッパーとペドロは城の地下室へと入り、その中で門番をしていた兵士を倒して奥へと進んでいた。

 

「この先だ!」

 

 脇目も振らずに進むチョッパー。

 一番奥の牢屋の中に、一人佇む老婆の姿があった。

 特に怪我や体調を崩している様子もなく、チョッパーが声をかけるや否や驚いたように目を見開く。

 

「ドクトリーヌ!!」

「ん? チョッパー! お前、ここまで来たのかい!?」

「おれのせいでドクトリーヌが捕まっちゃったんだ!! だから、おれが助けなきゃって思って……」

「バカだね……」

 

 多少の怪我はあるものの、チョッパーが無事なことに安堵したようにため息を漏らす。

 

「140の婆さんだと聞いていたが、えらく元気そうだな」

「あたしゃまだピチピチの139歳だよ!」

「それは失礼した。怪我は無いようだが、歩けるか?」

「怪我は無いよ。足腰ならまだまだ負けやしない。若さの秘訣を聞くかい?」

「それはまた今度に」

 

 くれはは会話しながらペドロに視線を向け、眉根を顰めた。

 

「しかし、見ない顔だね。お前さんも能力者かい?」

「いや、おれはこういう種族だ」

「ミンク族か。珍しい種族が来たもんさね」

「おれ達を知っているのか?」

「昔、知り合いの船に乗っていた奴を一人知ってる。下半身と首から上が馬のケンタウロスみたいなやつだったがね」

 

 懐かしそうに話すくれはの言葉に、ペドロは何となく心当たりがある相手を思い出す。

 今では海賊を引退して〝ゾウ〟に隠居していると聞く、かつては世話になった相手の事を。

 

「おれにも心当たりがある相手だな。だが、その話は後にしよう。まずはここから逃げるんだ」

 

 くれはに少し離れて貰い、鉄製の檻を一息に切ってしまうペドロ。

 チョッパーが腕力でどうにかしようとしても無理だったものを簡単に切ってしまったので、チョッパーは「すげー!」と目を輝かせている。

 その一方で、くれはは珍しいものを見たという様に顎に手を当てていた。

 

「覇気使いかい。この辺りの海にいるとは珍しいね」

「おれの出身は〝新世界〟だ。これくらい出来なくては身を守ることも難しいのでな」

 

 〝新世界〟には毎年多くの海賊が乗り込み、そのほとんどが四皇、あるいは七武海に挑んで海の藻屑となっている。

 四皇か七武海の傘下に収まれば生きていくことは出来るだろうが、どの勢力にも属さず〝新世界〟の海を渡っていくのは非常に難しい。

 ほぼ不可能と言っていいほどだ。

 ペドロは近年は〝新世界〟に足を伸ばしてはいないものの、情報はいつだって最新のものを仕入れている。この状況は変わっていないし、今後も変わることは無いだろう。

 

「さァ、急いでくれ。大丈夫だとは思うが、戦闘はまだ続いている。足元に気を付けてくれ」

「急かすんじゃないよ、まったく……」

 

 城内で砲撃音が響き、城が揺れる。

 誰かが派手に暴れているのだろう。城内で大砲を使うなど正気の沙汰ではないが、場合によってはそういう事もある。

 ペドロは剣を片手に先行し、城門へと戻っていく。

 地下室から出ると、丁度出て来たペドロの下へとルフィが吹き飛んで来た。

 

「うべっ!」

「ルフィ! 大丈夫か!?」

「お、ペドロ。そっちの婆さんが医者か?」

「ああ。しかし……随分苦戦しているようだな」

 

 ルフィは多少傷があるものの、大きなダメージがあるようには見えない。

 吹き飛んで来た方向を見ると、ゆっくり歩いて追いかけてくる男がいた──ワポルである。

 

「あいつ滅茶苦茶頑丈になったなー。何発か殴ったんだけど、鉄みたいになってんだ」

「悪魔の実の能力か……手伝うか?」

「いや、いい。おれ一人で十分だ」

 

 ルフィは帽子をかぶりなおし、右腕を後ろに伸ばしてワポルへと駆け寄る。

 

「麦カバァ……! いい加減に倒れやがれ、鬱陶しい!!」

 

 斧へと変形している両腕を振り回してルフィを切り刻もうとするが、ワポルの能力はあくまでも武器の性質を肉体に与えるだけのもの。

 ()()()使()()()()()()()()()()()()()

 ワポルの攻撃をひらりひらりと躱したルフィは、ワポルの腹部目掛けて右腕を叩きつけた。

 

「ゴムゴムの──銃弾(ブレット)ォ!!!」

「ぐぬ──!!」

 

 ワポルは鋼鉄の武器を多数食べた影響で体が頑丈になっているのか、ルフィの攻撃を何度も受けてなお立ち上がるタフネスさを見せている。

 しかし、そうは言っても普段から戦う事の無い男である。

 ここに来てスタミナ切れを起こしていた。

 

「ゼェ……ハァ……!! 何度も何度もカバみてェに伸びたり縮んだり!! いい加減飽きたぜ!!」

「おれだってそうだ! 見た目はカッコいいのにビームも出さねェし!! 出てくるのは銃弾ばっかりじゃねェか!!」

「出るわけ無いだろう」

「何言ってんだいあの小僧」

 

 ペドロとくれはが呆れたような言葉を口にする。

 ルフィは二人の言葉が耳に入らないままワポルに飛びつき、体をグルグルと回転させていく。

 武器を食べてワポルの肉体は強化されているが、全身を武器としたために機動力が落ち、回り込んで組みついたルフィに対処できないのだ。

 

「な、何をする!! 離れ──」

「ゴムゴムのォ~~〝ボーガン〟!!!」

 

 遠心力を利用し、上層目掛けてワポルを吹き飛ばす。

 吹き抜け上部の天井を突き破って上層へ到達し、余りの勢いに屋根を体半分突き抜けた状態で停止した。

 

「ガカ……ゴフ……っ!」

 

 如何に頑丈であろうとも、これだけの衝撃を与えられれば血も出るし痛みもある。

 頭部から血を流し、ワポルは何とか体を捩って抜け出そうともがく。

 そこへ、下から追いかけて来たルフィが屋根の上に立った。

 

「む、麦カバ……!」

「お前に恨みはねェ。けど、おれ達の冒険には邪魔だ」

「お、おれが誰だかわかってんのか!? 世界政府加盟国、ドラム王国の国王!! 偉いんだぞ!! テメェなんかよりずっと、おれ様の方が偉いんだ!!」

「関係ねェよ」

 

 ルフィは限界まで腕を後ろに伸ばしていく。

 

「関係ねェだと!? そんな訳があるか! いいか、これは世界的大犯罪だぞ!? 世界政府加盟国の王に対して、こんなことが赦されると思ってんのか!!」

「だから、関係ねェんだ──これは、おれとお前の喧嘩だからな」

 

 ワポルの言葉などどこ吹く風。一切取り合う気も無く、今までに無いほど腕を伸ばす。

 

「ゴム、ゴム……」

「ま、待て! わかった、良いだろう! 医者が欲しけりゃ何人か連れて行くと良い! 医者が欲しいんだろう!? ドラムの医者は世界最高だぞ!!」

「ゴム、ゴム、の──」

「そ、それとも地位か!? 勲章か!?」

 

 苦し紛れにルフィの手を緩めさせようとするワポルの言葉など耳に入らない。

 ドラムの冷たい風を浴びてもなおワポルの額には冷や汗が止まらず、ルフィはそんなワポルを見据えて──。

 

「──バズーカ!!!」

 

 海の彼方まで吹き飛ばした。

 

 

        ☆

 

 

「……終わったのか」

 

 城の屋根から海の彼方まで吹き飛んでいったワポルを見据え、ドルトンは静かに呟いた。

 兵士たちの安否は気になっていたため、気絶した兵士たちの手当てをしていたが……あれだけ派手に戦っていれば嫌でも気付く。

 ドラムは変わる。それが良いか悪いかは今後次第だとしても。

 未来を変える権利を掴み取ったのは確かだった。

 




あらゆる意味でローの天敵がカナタになってしまった。

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