ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百五十九話:タイムリミット

 

 翌日の早朝。

 麦わらの一味の男衆は軒並みタンコブを作っており、夜中に騒いだせいでナミにしばき倒されたことが窺えた。

 本来この手のバカ騒ぎに参加しないジェムとイガラムもタンコブを作っている辺り、余程盛大に騒いだのだろう。

 

「さて、じゃあ今日の予定を確認するわね」

 

 ビビとミキータが呆れている横でナミが地図を取り出し、甲板の上で全員に見える様に開く。

 目的地は〝レインベース〟──アラバスタの中でも反乱とは無関係のカジノの町だ。

 クロコダイルの居城がそこであるため、必然的に全員でそこに向かうことになる。

 だが、ここでゼポとペドロが声を上げた。

 

「悪いが、おれ達はここから共に行くことは出来ない」

「どうして!? クロコダイル倒す気満々だったじゃない!」

 

 最大戦力として当てにしていた二人が一緒に行けないというものだから、ナミは焦ったように問い詰める。

 ゼポとペドロも心苦しい様子だが……夜中の内にロビンから連絡があったと言う。

 バロックワークスが本格的に動き始めたのだと。

 

「おれ達……と言うより、ロビンがクロコダイルと組んだのは元々あるものを探していたからでな。()()()()()()()()()()今は、まだクロコダイルを倒せない」

 

 だから二人は一緒には行けない。

 国一つの存亡がかかった戦いであっても自分の目的を優先する二人にナミは憤りを見せた。

 

「何それ……ふざけんじゃないわよ! 今がどういう状況かわかってんの!?」

「ふざけているつもりは無い。そのためにロビンはクロコダイルと手を組んだし、おれ達が明確にクロコダイルに反旗を翻せばロビンの身も危ない」

 

 薄情と言われようとも、一度始めた以上はやり通すべきだとペドロたちは考えていた。

 途中で投げ出す程度の覚悟なら、最初からクロコダイルと手を組んだりしない。

 探し物のためにクロコダイルと手を組み、〝黄昏〟が討伐に動かないよう頼み込み、機会を待っていたのだから。

 そこまでするほどの探し物と言うのが何なのか、ウソップは尋ねる。

 

「そこまでして何を探してんだ、お前ら」

「……〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟だ」

「なんと!? それは……それを探すことは政府が重罪としているはず!」

「ああ。だからおれ達の首には3億を超える懸賞金が付けられているし、今もずっと追われ続けている」

 

 イガラムの驚きようからしてとんでもないものなのだろう、と当たりは付けられるも、具体的にどういうものかはビビを含む麦わらの一味は分からない様子だった。

 なので、ジェムが簡潔に説明する。

 決して砕けず、割れず、融けない硬石に記された古代文字による歴史文。

 いつ、誰が、何のために作ったのか何も分からないものだが……その古代文字を読むことで過去の歴史を紐解くことが出来るのだと。

 今となっては古代文字を読める者もほぼいないため、探したところでどうなるものでも無いのだが。

 そこにどれほどの価値があるのか、具体的にはジェムも知らない。

 

「クロコダイルがロビンに目を付けたのは、()()()()()()()()からだ。〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟に記された()()()()が欲しいと奴は言っていた」

「あるもの?」

「大昔に作られた兵器だ」

「兵器!? そんなモンがあんのか!?」

「あるかどうかも不確かだ。だが、クロコダイルはあると確信していた……兵器の真偽はともかく、〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟があるなら何としてでも手に入れておきたい」

 

 クロコダイルがアラバスタを手に入れようとしていた理由はずっと不明だったが、ビビはここに来てその理由を知ることが出来た。

 砂の王国は彼にとって最高のパフォーマンスを発揮できる場所だが、国一つを転覆させて王座に就いたところで世界政府や海軍と敵対することは難しい……だが、強力な兵器を手に入れることが出来れば、政府や海軍に対する抑止力となり得る可能性は確かにある。

 気紛れでも何でもない。最初から理由があってアラバスタが狙われていた。

 

「……わかったわ」

「ちょっとビビ!? いいの!? こいつらがいないと、クロコダイルを倒すことだって……!」

「クロコダイルはおれがぶっ飛ばすからいいだろ」

「アンタは黙ってなさい!」

 

 口を挟んだルフィはナミに怒られて口を噤み、ナミはビビに手で制される。

 そういう理由なら、交渉の余地はあると踏んだのだ。

 

「あなた達は〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を読みたいのよね。でも、それがどこにあるか分からないから、クロコダイルと協力して探してる」

「そうだな」

「だったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ビビの言葉にゼポとペドロは目を丸くする。

 驚いたのはイガラムも同じだ。

 王位と共に継承される秘密である〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟の在処を、よりにもよって海賊に教えることなどあってはならない。

 それに、コブラの側近として長く仕えるイガラムでさえその在処はわからないのだ。未だ王位を継がないビビが在処を知っているとも考えにくかった。

 

「私はその在処を知らないけれど、一番知っている可能性が高いのは私のパパよ。クロコダイルもそう目算しているんじゃない?」

「……そうだな。コブラ王が一番可能性としては高い。それでダメならこの国を虱潰しに探すか、歴史書を引っ繰り返して当たりを付けながら探すしかないだろう」

 

 アラバスタ王国は広い。この国を虱潰しに探すとなると、何年かかるか分からないほどに。

 この状況はそれほどの余裕を許すことは無い。クロコダイルは遅くとも数日中に倒されるだろうし、〝黄昏〟も海軍も新世界での件が終われば本格的に介入してくる。

 ロビンたちも悠長に探し物をしている暇はないだろう。

 どのみち、コブラ王に聞く以外の道は無い訳だ。

 それがクロコダイルの手引きによるものか、ビビの手引きによるものかと言う違いだけ。なら、穏当に行く方を選ぶべきだ。

 

「良いだろう、そういう条件ならおれ達も手を貸せる。それと──兵器の在処があったとしても、おれ達は悪用するつもりは無い。それだけは言っておく」

「良かった……」

 

 安堵したようにビビが息を吐く。

 この土壇場で一番重要な戦力が抜けるとなると困るところだったが、何とか引き留めることが出来た。

 何はともあれ、アルバーナへ向けて一行は出立する。

 まだ日も昇らないほどの早朝だ。昼間の砂漠は暑いが、この時間帯はまだしも空気が冷えている。

 

「今までお世話になったんだし、やっぱりルフィさんたちにもお礼は必要よね」

「礼?」

 

 ルフィたちの厚意に甘えてこれまで手伝って貰っていたが、ビビは彼らにも何かしらの礼をするべきだと思い、何か欲しいものがあるかと尋ねる。

 

「メシ」

「酒」

「アラバスタ料理のレシピ」

「火薬とか工具とかかなァ」

「本! 医学の本がいいぞ!」

 

 思い思いに欲しいものを上げていく一行。その中でナミはキランと目を光らせた。

 

「いくら出せるの?」

「この国から金を絞ろうってのかよ……」

 

 ゾロとウソップがナミに戦慄していると、ジェムが口を挟んだ。

 

「アラバスタには〝黄昏〟から復興支援金が出るはずだ。少なくともおれはその予定だと聞いてる」

「そうなの?」

「コブラ王とカナタさんは旧知の仲らしいからな。ある程度落ち着いたあとになるだろうが……」

 

 金額も定かではないが、それなりの額にはなるはずだと言う。

 ナミは一つ頷き。

 

「じゃあそれでいいわ」

「支援金を横領する気かよ!?」

 

 ジェムも目玉が飛び出る程驚いている。

 いくらなんでもそれは無理だろうと言うが、「こちとら命かけて戦ってんのよ。ケチケチしないでお金くらい出しなさいよ」とナミに詰め寄られる。

 もちろんこの場所にいるのは彼ら自身の意思によるもので、決して誰かに強制されたものでは無いのだが……それはそれとしてお金を手に入れるチャンスを逃すつもりは無いらしかった。

 

「わ、私の貯金、50万ベリーくらいなら……」

「止めておいた方が良いわよ。あの子、全部むしり取るつもりみたいだから」

 

 ビビは自分の貯金で何とか納得してもらおうと思うも、ミキータに止められる。

 勢いづいたナミは止められないと思ったらしい。

 

「おれの権限じゃどうしようも出来ねェ。協力相手ってことで報奨金を出してもらうくらいは出来るかもしれねェが……」

 

 この間の連絡を見るに、どうしてかは分からないがカナタはルフィたちに随分好意的だ。申請すれば報奨金も出してくれるかもしれない。

 心理的なハードルは果てしなく高いが。

 

「じゃあそれでいいわ」

「まァやるだけやってみるが、期待はすんなよ……ところで、いくらくらい欲しいんだ?」

「そうね……10億ベリーくらいかしら」

 

 ジェムは驚きでひっくり返った。

 

 

        ☆

 

 

 数時間かけてサンドラ河からレインベースまで歩いて移動した。

 日が昇る前から出て、今は既に昼を回っている。砂漠越えの疲労感はあるが、休息している暇はない。

 この町にいるであろうクロコダイルを倒すために、すぐにでも動く必要がある。

 

「クロコダイルはどこなんだ?」

「町の中央にあるカジノよ。でも、なんだか町の様子が変……」

 

 国の反乱とも関係なく、常に活気のある町ではあるが……今日はどこか、人々が浮ついているようにも見える。

 ビビとイガラムは顔が割れているので顔を隠しつつ、ジェムは近くにいた人に話を聞く。

 

「すまねェ、ちょっと聞きてェんだが」

「ん? なんだい?」

「何というか、町全体が浮ついてるように見えるんだが……何かあったのか?」

「お前さん、知らないのか!?」

 

 町人の男は驚いた様子で教えてくれた。

 今日の朝、〝ナノハナ〟で国王軍が町を攻撃して火を放ったこと。

 扇動したのが国王コブラであること。

 巨大な武器商船が港に突っ込み、反乱軍がそこから武器を手に入れたこと。

 怒れる国民たちが首都アルバーナへ向けて動き出したこと。

 

「まさか……そんな……!!?」

「私も驚いたよ。だが、国王様は宮殿にいると言う話もあってね……何が本当で何が嘘なのか、今を持ってもまだわからない」

「そう、か……わかった。ありがとう」

 

 ジェムは礼を言って離れ、同じことを仲間たちに話す。

 すると、ビビとイガラムの顔色が見る見るうちに悪くなっていくのが分かった。国王に化けて国王軍が狼藉を働く、と言うのは可能性として考えていたが……クロコダイルの動きが随分早い。

 先手を打たれたのだ。ここから巻き返すのはかなり厳しい。

 

「反乱軍の本隊はカトレアにある。ここから装備を整えてアルバーナへ向けて動くとして……甘く見積もっても8時間前後」

 

 事態が起こったのは朝7時ごろらしく、そこから各地の反乱軍に伝達されたとしても猶予はそれほど長くない。

 現在は昼過ぎ……時刻としては13時を少し過ぎたあたりだ。

 来た道を辿って戻り、船を使って川を渡り、また砂漠越えをするとなると──致命的に手遅れだ。

 残り2時間では、どう頑張ってもアルバーナに辿り着けない。

 

「そんな……そんなことって……!」

「どうにかならないの!?」

「わからない! コーザは数日は動かないと約束してくれたはずなのに……!」

 

 コブラが先頭に立って町を破壊し、火を放ったというのなら、先日のビビの言葉も嘘だったのだと断じられてもおかしくはない。

 何にしても状況は最悪だ。

 

「Mr.2か……!!」

 

 コブラ王は宮殿にいたとしても、街中で先頭に立って破壊行為をした姿を見ればそちらが本物だと思うだろう。

 どちらが本物なのか、その場にいた人々には判別する方法が無いのだから。

 ジェムは厄介な能力に歯噛みする。

 

「ともかく、反乱を止めなきゃならねェ」

「でも、どうやって……!?」

 

 コーザと再び会ったとしても、信用してもらえるかどうかは賭けだ。あちらからすれば既に一度裏切っているのだから、信用に値しないと思われているかもしれない。

 かと言って、ここで手をこまねいていても反乱は止まらない。

 クロコダイルを放っておくわけにもいかない以上、二手に分かれるべきだが……町の様子を見ながら、ゾロがぼそりと呟いた。

 

「クロコダイルの奴は本当にこの町にいるのか? 入れ違いになってたりしねェだろうな?」

 

 はっとした様子でビビは町の中央にあるレインベースの方を見る。

 クロコダイルの目的は〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟だ。反乱が起こり、コブラ王が討たれる可能性が生まれた今、悠長に静観しているとも思えなかった。

 コブラ王のいるアルバーナへ向けて移動している可能性は、確かに高い。

 

「すぐにアルバーナへ向かいましょう。間に合わないかもしれなくても、それで諦める理由にはならない……!」

「ああ、すぐに移動──」

 

 しよう、と全員が頷こうとしたところで。

 町の外に巨大な砂嵐が、立て続けに複数発生した。

 

「す、砂嵐!? こんな近くに!?」

「……クロコダイルは砂の能力者だ。何十年もその力を磨いてきたことを考えれば、こういうことも出来るはず」

「まさか──」

「クロコダイルだ。奴はまだ近くにいる」

 

 クロコダイルとの交戦経験があるジュンシーからある程度手の内は聞いている。

 だからこそ、ジェムは砂嵐を巻き起こしたのがクロコダイルだと考え、まだ近くにいて──誰かと戦っていると判断した。

 

「あの砂嵐のところにいるんだな!?」

「そのはずだ! だが、砂漠で奴の相手は──」

「うおおおお!!! 待ってろ、クロコダイル~~!!!」

「待てーっ!!」

 

 ジェムが制止する声も聞かず、ルフィは真っ直ぐ砂嵐の方向へと走り出した。

 砂嵐は風向きから考えてもレインベースへ来ることは無い。町は大丈夫だ。

 そう判断すると、ペドロとゼポは我先にと駆け出す。

 

「ルフィはおれとゼポで追う! ゆガラたちは真っ直ぐアルバーナを目指せ! すぐに後を追う!!」

「……お願い!」

 

 ビビは他人に任せるしかないことに歯噛みしながらも、希望を託して三人を見送る。

 

「とは言っても、流石に徒歩で移動するには遠すぎる! 何かねェのか!?」

「何かって……」

「辿り着いたら全部終わってた、なんてことにもなりかねねェ! とにかく砂漠を早く移動する手段だ!!」

「そんな都合のいいモンあんのかよクソコック」

「分かんねェから聞いてんだろ? 頭使えよマリモ」

「ちょっと、こんな時に喧嘩しないでよ二人とも!」

 

 砂漠を再び移動するのは時間がかかりすぎる。どうにかして移動手段を確保しなければ間に合うものも間に合わないと主張するサンジに、そんな都合のいいものがあるのかと懐疑的なゾロ。

 探す暇があれば一秒でも早く移動した方が良いというゾロの意見も理解出来るし、多少時間をロスしてでも早い手段があれば体力の温存と時間の短縮になるというサンジの意見。

 対立する二人を宥めるナミと、おろおろと二人を見るウソップとチョッパー。

 イガラムとミキータはいくつかの移動手段を提案するも、広い砂漠を超えることは出来てもその後サンドラ河を渡ることが出来ない。

 どうするべきか、とビビが必死に考え──そこに一人の女性が現れた。

 

「あなた達、まだここにいたのね」

 

 長く黒い髪を揺らしながら近付いて来る美女にサンジは鼻の下を伸ばし、面識のないチョッパー以外の面々が驚く。

 

「お前……」

「ミス・オールサンデー!」

「事態は理解している? しているなら結構。今からならギリギリ間に合うわ。すぐに移動しましょう」

 

 すぐそこでペドロとすれ違ったと言う彼女は、ビビたちの意見を聞くことなく歩き出す。

 どうあれ、ペドロたちがクロコダイルと戦うという事はロビンの裏切りが明確になるという事。公然とビビたちを手助けすることに何の支障も無くなったわけだ。

 困惑しながら後ろをついて来る面々に対して、ロビンは急ぎ足で移動しながら告げる。

 

「私はこれまでクロコダイルの側近として色々準備してきたの。こういう事態に備えて、移動手段ももちろん用意しているわ」

 

 だから大丈夫──()()()()()()

 ロビンはそう言い、ビビを奮い立たせる。

 

「アラバスタを救うんでしょう? だったら、まだ立ち止まるわけにはいかないはずよ」

「……ええ。言われるまでもないわ!」

 

 本当に全てが終わってしまうまで、諦める必要は無いのだと──ビビは学んでいる。

 ナミを助けるためにルフィが諦めなかったように、ビビもまたアラバスタを救うために諦めることは無い。

 ロビンは僅かに笑みを浮かべて頷き、町の外に待機していたそれを見せる。

 巨大な頭部にバナナ型のこぶのようなモノが生えているワニである。

 

「なんだこれ……ワニ!?」

「デッケェ……!」

「バナナワニと呼ばれる種よ。元来海王類すら食べるほど凶暴な種だけど、きちんと調教してあるから大丈夫」

 

 このバナナワニはアラバスタのレースで準優勝するほどの足の速さを誇り、何より()()()()だ。

 頭部から背中にかけてカバーがかけてあり、中に先行して乗り込んだロビンに続いて全員がバナナワニに乗り込む。

 情報の共有は移動しながらすることにして、まずはバナナワニを走らせることにする。

 全員が席に座り、シートベルトを付けたことを確認して合図を出した。

 

「さあ、しっかり掴まっていて! 飛ばすわよ!!」

 

 バナナワニはロビンの合図を受けてゆっくり走り出し、徐々にスピードを上げていく。

 ──反乱軍がアルバーナに到着するまで、残り2時間。

 




原作との相違点
・無くなったもの
 マツゲ
 ヒッコシクラブ
 クンフージュゴン
 海軍の手助け
 ユバの水

・増えたもの
 味方(ペドロ、ゼポ、ミキータ、ジェム、イガラム)
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