ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百七十話:後始末

 

「ママハハハハ!! やるじゃねェか〝鷹の目〟ェ!! お前、ウチに入らないかい!? お前程の男なら大歓迎だ!!!」

「断る。おれはおれより弱い奴の下に付く気は無い」

「ほォ……言うじゃねェか! 誰がお前より弱いって!?」

 

 ガギン!! と凄まじい衝突音を響かせてリンリンとミホークの刀がぶつかる。

 海軍とビッグマム海賊団はこの数日間ずっと戦い続けている。海軍大将三人も動員されているとはいえ、リンリンと言う怪物を前に長期間戦い続けることは難しい。

 なので、ミホークを含めた四人でローテーションしながら足止めを続けていた。

 一方のリンリンは食事で一時的に退くことはあれどもほぼずっと最前線で戦い続けている。怪物級のスタミナと言わざるを得なかった。

 ミホークとてその気になればずっと戦い続けられるだろうが、そこまでやる気は無いので事前の協定に従って最低限の働きをしているに過ぎない。

 〝将星〟たちもいるのだ。ローテーションで大将も休息と戦いを続けているとは言え、互いにかなり疲弊していた。

 そこへ、龍の姿をしたカイドウが派手に吹き飛ばされて乱入してくる。

 

「フガッ!!」

「カイドウ! 何してんだいお前!!」

「うるせェなリンリン……カナタと戦ってんだ、見て分かんだろ!! あの女、人をピンポン玉みてェにポンポン蹴り飛ばしやがってよォ!!!」

 

 酒が入っているのか、カイドウは泣きながら人獣形態に変わる。

 大きな傷は無いが細かい傷は多く、血が滲んでいた。

 対するカナタは特に怪我らしい怪我もなく、数日間カイドウと戦い続けて多少疲れた顔をしている。

 

「大体よォ、なんで本気で戦わねェんだテメェ!! 舐めてんのか!!?」

「あくまでこれは時間稼ぎだからな。アラバスタの一件が終わるまでお前たちを足止め出来ればそれでいい」

 

 機動力を重視して行動したため、どちらも全戦力が集まっての戦争という訳ではない。

 本格的な戦争なら被害はより大きくなっているだろう。

 第一、とカナタは潮風で濡れて張り付いた前髪をかき上げながら言う。

 

「本気で戦っているつもりだ。お前が頑丈なだけだろう」

 

 全力ではないにしても、並の相手なら数日もカナタの相手など出来はしない。

 小競り合いこそ何度かあったが、ここまで大規模な衝突は久々だ。カイドウの実力も随分上がっているし、手の内を見せ過ぎるのも後々困るので地道に削っていたのだが……この程度では全く堪えた様子が無いのだから疲れた顔もしたくなる。

 首を落とせば事態は解決するが──百獣海賊団は四皇の一角だ。

 そのナワバリは広く、カイドウが落ちた後の海を安定させるのにまた時間がかかる。今回のような突発的な状況で落としてはシキの時の二の舞になるだけだ。

 

「嘘つくんじゃねェよ!! おれには分かるぜ……テメェ、まだ()()()()()()()だろ!?」

「……鼻の利く奴だ」

 

 バチバチと黒い雷がカナタの槍を中心に放射され、金棒を片手に近付いて来るカイドウを迎え撃つ。

 

「〝軍荼利龍盛軍(ぐんだりりゅうせいぐん)〟!!!」

 

 高速で金棒を叩きつけるカイドウの攻撃に対し、カナタはそれを確実に受け止めて防ぐ。

 互いの覇気が衝突する影響で足場となっている船がバキバキと軋みを上げて壊れており、近くにいた海兵たちが這う這うの体で逃げ出していた。

 戦っている二人はそんなことなど気にもかけず、至近距離で衝突する。

 

「〝降三世〟──〝引奈落(ラグならく)〟!!」

 

 筋肉が膨張して破壊力の上がった振り下ろしを受け止めきれないと判断したのか、カナタはその一撃を回避して完全に壊れた船から離れる。

 真っ二つに圧し折られた軍艦が沈みゆく中、海を凍らせて足場を作って足を止めた。

 リンリンがカナタ目掛けて斬りかかろうとしていたが、ミホークに止められたらしく、衝突音がカナタの耳にも届いていた。

 カイドウはカナタを追って氷の大地に着地し、そのまま両手で金棒を構える。

 

「〝砲雷八卦〟!!!」

「おっと」

 

 雷鳴の如く振り抜かれる高速の打撃を僅かに身を捩って回避し、回避と同時に振り抜いた槍で斬撃を放つ。

 覇気と硬質な鱗に覆われたカイドウの肉体を切り裂き、浅い傷から血が流れた。

 だが浅い。致命傷には程遠いかすり傷だ。

 

「面倒だな」

 

 強靭な肉体。高い武力。恐れ知らずの最強生物。

 無尽蔵のスタミナも相まってカナタもかなり手こずる強さだ。この成長速度は脅威と言わざるを得ず、放っておけば秩序を乱す存在になることは間違いない。

 この数日戦ったことでカイドウの成長速度はおおむね理解できた。決めるならカイドウが耐えて覇気がより洗練されるよりも先に潰しきる必要がある。

 その上で、カナタは決めた。

 

「……殺すか」

 

 カイドウを落としても同盟相手のリンリンさえ生きていれば〝新世界〟の海も大きく荒れはしない。リンリンを頭に海賊同盟はビッグマム海賊団として再構成されるだろう。

 なし崩し的に海軍を巻き込めば、ナワバリを端から抑えつつ一か所に集めた百獣・ビッグマムの海賊同盟全戦力を潰しきることも可能だ。

 トップであるリンリンとカイドウ以外は然したる脅威ではない。

 少なくとも、カナタにとっては。

 スッと目を細め、槍を覆う覇気が更に密度を増していく。放射状に広がっていた黒い雷が、今度は逆に圧縮されるように集まっていく。

 見た事の無い挙動に気付いたカイドウは口元に笑みを浮かべ、カナタの攻撃を受けて立つとばかりに覇気を漲らせる。

 

「ウォロロロロ……!! やっとやる気になったか、カナタァ!!!」

「お前を生かしておくと後々面倒そうなのでな。ここでその首を置いていけ」

「やらねェよ。おれがテメェを倒すんだからな!!」

 

 互いの覇王色が衝突して大気が軋んでいく。

 この場で戦えば海軍とビッグマム海賊団の両方に被害が行くだろうが、そんなことなど露ほども気にしない。

 一瞬の静寂が辺りを包み、二人が衝突する──その瞬間。

 

「カイドウさん!!」

「ママ、大変だ!!」

 

 キングとペロスペローの二人がそれぞれ船長の二人に近付いていく。

 危険な状況だとわかってはいるだろうが、それでも情報を伝えないわけにはいかないからだ。

 

「どうした、キング。今じゃなきゃあダメか」

「ああ。ジャックが失敗した。ニコ・ロビンは捕まえられなかったそうだ!」

「何ィ? ジャックが負けるようなやつが〝楽園〟に居たってのか!? それとも出し抜かれたか!?」

 

 意識はカナタの方に集中しながらも、キングの言葉に驚きを隠せないカイドウ。

 大看板に若くして成り上がったジャックの強さはカイドウも認めている。そのジャックが失敗した以上、何かしらの予想外が起きたのだと想像するのも難くない。

 

「ダグラス・バレットだ!! あの合体野郎がうちの連中を軒並み倒していったらしい!!」

「バレットだァ……!? まさか、テメェ」

 

 バレットとて他人に従うような男ではない。だが、カナタならばどうにかして従わせている可能性もある。

 そう思ってカナタに問いかけた。

 

「お前が〝楽園(あっち)〟に行ったと教えたら喜んで行ってくれたよ。随分好かれているな」

 

 まぁ実際はこんなものなのだが。

 ともあれ、カイドウとリンリンの策は失敗した。これ以上の戦いはどの勢力にとっても益にならない。

 カイドウとリンリンは渋々武器を納め、撤収するようにキングとペロスペローに伝えていた。損切りは早い方が良い。

 個人的な決着をつけるのは後でも出来るが、組織に疲弊を強いているのは理解していた。

 

「……次はテメェを倒してやる。首洗って待ってやがれ」

「精々強くなることだ。次に会ったときもその調子なら、待ちくたびれてその首を落としてしまうかもしれないからな」

 

 カナタの言葉に鼻を鳴らし、カイドウはキングを伴って空を移動していく。

 リンリンはゼウスに乗り、ペロスペローはリンリンの肩に乗って自分たちの船へと戻っていった。

 

 

        ☆

 

 

 カイドウ達を見送ると、カナタは近付いて来た千代の船に乗り込む。海軍も撤収の準備を始めているころだろう。カナタ達も手早く〝ハチノス〟へ帰投しようと指示を出していくと、船の奥から軍服姿の千代が出て来た。

 

「お疲れじゃのう。言われた通り時間稼ぎに徹したが、殲滅じゃなくて良かったのか?」

「構わん。金獅子海賊団の時の荒れ具合を思えば、勢力一つ潰すためには準備が必要だと思っていただけだ」

 

 それも最終的には自分の手で反故にしようとしていたが。

 手渡されたコップに入った水をグイッと一息に飲み干し、千代に返す。

 疲れはあるが、まずは食事だ。二人は食堂に向かって歩きつつ、情報共有をする。

 

「ティーチの馬鹿が居れば色々と楽だったんじゃがなー。どこ行ったんじゃろうな、あいつ」

「あいつは放っておいていい。休暇が終われば勝手に帰ってくるだろう。私の意図を汲める程度には頭が回る男だ、探す必要もない」

「そんなもんかのう?」

「それより、ジュンシーから報告はあったか?」

「ああ、それなら電伝虫を繋いでおくようにさっき伝えておいたわい。食事の準備してる間に聞くか?」

「頼む」

 

 船の食堂はごった返していたが、カナタが来ると自然と誰もが道を空けて奥の部屋への道が出来た。

 カナタは先にそこへ入って食事を持ってくるように言い、出ていくコックと入れ違いになるように千代が入ってきた。

 手には電伝虫が二つある。

 テーブルの上に並べた千代は両方の受話器をカナタの方に向けてテーブルに置いた。

 

「片方はジュンシー、もう片方はバレットじゃ」

『おいカナタ! テメェ、よくもフカシやがったな!!』

「そう怒るなバレット。開戦当初はカイドウの姿が見えなかったのでな、念には念を入れただけだ」

『チッ……今からそっちに行く。首洗って待ってやがれ』

「ああ、いい酒でも用意して待っているとも」

 

 言いたいことだけ言ったバレットはそれで通話を切った。

 カナタは肩をすくめると、ジュンシーと繋がっている電伝虫の方へ向き直る。

 

「そちらはどうだった?」

『マネマネの実は確保した。リコリスが駄々をこねたのでMr.3ペア……ギャルディーノとマリアンヌの二人は捕縛している』

「……まぁマネマネさえ確保出来ていれば問題は無い。クロコダイルはどうした?」

『〝麦わら〟の小僧が倒した。儂とリコリスである程度ダメージは蓄積していただろうが、倒しきったのは間違いなくあの小僧の力だな』

「フフフ、そうか」

『上機嫌だな』

「そう聴こえるか? フフ……おっと、それ以外の戦果は?」

『Mr.4ペアは殺害した。Mr.1ペアは海軍が先に捕縛していたようだ。クロコダイルは聴衆の面前にいたのでこちらで連れ出すことは出来ていない。海軍が連れて行くだろう。ジェムは大怪我で安静中だ』

「ジェムは生きているんだな?」

『ああ。致命傷ではない』

「ならいい……あとはロビンたちか」

 

 アラバスタへ向かったジャック達がバレットに敗北して撤退した以上、ロビンたちは無事なのだろうが……海軍はまだアラバスタにいる。

 面倒事になる前に離れていればいいのだが、とカナタは呟いた。

 

『あの子ならビビ王女と取引をして〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を見せて貰うと言っていた』

「何がどうなってそんなことに……いや、いい。その辺りは後で聞こう。それより」

『わかっている。〝写し〟だな』

「お前にしか頼めない。苦労を掛ける」

『呵々、構わんとも。委細承知した、吉報を待つがいい』

 

 それを最後に、通話は切れた。

 受話器を置くと、会話を聞いていた千代が質問をする。

 

「良かったのか? 友人の国なんじゃろ?」

「友人の国だからこそ、だ」

 

 古代兵器に名を連ねるものがこの海のどこかにあることは間違いない以上、クロコダイルの求めた物も実在はしている。

 知らなければどうにも出来ないが、知っていれば対処は可能なのだ。

 後々コブラに了承を取って〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟の写しを手に入れるつもりだったが、手間が省けたと思っておくべきだろう。のちに誰かが探しても手に入れられないように処置を行えばいい。

 手元に置いてもいいが……実際に手に入れてから考えるべきことだ。

 そう話していると、部屋の扉を誰かがノックした。

 

「閣下、お食事をお持ちしました」

「おう、来たか。もう腹ペコじゃ!」

「何であなたまで居るんですか、千代!」

 

 カナタの対面に座って一緒に食事を取る気満々の千代に怒るラグネル。

 もののついでだから食事しつつ報告を、という事で三人で食事を取ることになった。

 食堂も一斉に利用するものだから時間がかかっているらしく、今回の食事はラグネルが作ったらしい。

 

「まァそうじゃろうなとは思っておったわ。デカいからのう!」

 

 明らかにカナタや千代が食べるには大きすぎるサイズだった。

 

 

        ☆

 

 

 一方、アラバスタではバスティーユがセンゴクへ報告を上げていた。

 

「──以上が今回の顛末です」

『ご苦労だった、バスティーユ中将。あとはそこにいる海賊たちか……』

「未だ脱出したとは考えにくいので、恐らくまだアラバスタ国内にいるはずですが……沿岸を探しても船が見つからず」

『網を張っておけばいずれかかる。今はクロコダイルの件が優先だ』

 

 海軍が捕縛できたのは三名。クロコダイル、Mr.1ことダズ・ボーネス、ミス・ダブルフィンガーことザラ。

 残りのBWのメンバーは見つけられなかったため、逃げたのだろうと海軍は考えていた。

 一番重要なクロコダイルは捕縛出来たため、余り良いことでは無いが許容範囲として済ませるつもりであった。〝新世界〟での百獣・ビッグマムの海賊同盟との衝突の影響もあり、手が足りていないのが現状である。

 

「それと……革命軍もアラバスタにいました。会話を聞く限り、〝黄昏〟と何らかの繋がりがあるかと」

『ああ……まァそうだろうな。可能性は十分にあった』

「放置していても良いんで?」

『どうしようもない。現状で〝黄昏〟を敵に回すのはデメリットが大きすぎる』

 

 疲れたような声でセンゴクが言う。

 色々と言及したいことは多いのだが、〝黄昏〟が力を持ちすぎている今では下手に言い含めることも難しい。世界会議(レヴェリー)で各国に影響力を持つ海賊など彼女くらいのものだ。

 

『クロコダイルの件だが、近くバスティーユ中将に勲章が授与されることになるだろう』

「勲章、ですか?」

『クロコダイル討伐は海軍中将のお手柄、という事にしておきたいらしい。階級は流石に上げられんが、報奨金が出るぞ』

「はあ……」

 

 政府上層部の思惑だろう。

 実際に討ち取ったのはルフィで、それまでの間に〝黄昏〟も関わっているが、国の危機を救ったのが海賊では外聞が悪いという事らしい。

 バスティーユとて思うところはあるが、政府に逆らっても良いことなど一つもない。()()()大人しく受け取っておくべきだろう。

 

「……報奨金は受け取れねェんで、寄付にでもしてください」

『いいのか?』

「海賊の手柄で報奨金貰うなんて、海兵としてのプライドが許さねェもんで」

『ハッハッハ、海兵の鑑だな。そういう事なら手配しておこう』

 

 クロコダイルたちは近くの支部に移送したのち、護送船で海底監獄インペルダウンまで連行される。

 海楼石の手錠はしてあるが、油断のできる相手ではない。部下たちには気を付けるよう言い含めておかねば、とバスティーユは気合を入れた。

 後は今捜索させている人工降雨船だが……こちらはヒナやスモーカーたち大佐組が指揮を執っている。そう遠からず見つかるだろう。

 

「海賊たちの事も含め、数日中にカタが付くと思います。アラバスタの件に関する報告はまたその時に」

『ああ。〝新世界〟の方も何とか抑え込めた……ニコ・ロビンはやはり見つからないか?』

「〝黄昏〟の船員と共に戦場に一瞬現れたのを目撃している海兵はいるんですが、その後の行方までは……」

『あの女なら、我々の動きを察知していち早く島を出ている可能性は高いか……護衛の二人もいたようだが、そちらも行方は分からんのだろう?』

「ええ……すいません」

『構わん。だが、ここに来て〝黄昏〟か……』

 

 オハラの件もある。秘密裏に繋がっていることはわかっていたが、少々動きが派手になってきているように思えた。

 革命軍、オハラの生き残り、古代兵器……無視するには少々厄介な繋がりだ。

 何かの前触れでなければ良いのだが、とセンゴクは溜息を吐きたい気持ちを抑え、労いの言葉をかけた後に通話を切った。

 

 

        ☆

 

 

「おや、クロコダイルさんは失敗したのですね」

『お前、知っていたのか?』

「依頼を受けたものですから、色々とご用意しました。銀、武器、それ以外にもあれこれと」

『……何故報告しなかった』

「顧客の情報を横流しするなどとんでもない! わたくしは商人ですから、信用を重視しておりますわ」

 

 何食わぬ顔でそう言うのは、ピンク色の髪の女性──アルファ・マラプトノカだ。

 優雅にコーヒーなど飲みながら、誰かと通話している。その隣ではマーティンが暇そうに新聞を読んでいる。

 

「それで、今回はどのようなご用件でしょう? 奴隷500名なら既に納入しましたが」

『そちらは既に確認している。金も払っただろう』

「あんな安い金額では奴隷狩りなど流行らないのも理解出来ますけれどね。そろそろ諦めたらどうです?」

 

 経済が低迷すれば仕事が無くなり悪行に走る者は増えるが、経済が回り仕事が増えればまっとうに働く者が増えるのもまた道理。

 大海賊時代によって多くの商会が倒れ、多くの島で経済が低迷したが、〝黄昏〟の手によって経済を立て直した島も多い。

 普通の人間の値段などたかが知れており、珍しい種族は相応に捕縛が難しい。普通に働いた方が金になるとわかれば誰もやらなくなるものだ。

 そのしわ寄せがマラプトノカの方へ行っているのだが。

 

『奴隷の需要は常にある。わかっているハズだぞ』

「ええ、ええ。存じておりますとも」

 

 奴隷の需要が無くなることは無い。少なくとも、天竜人がいるうちは。

 マラプトノカもそれは理解しているし、だからこそ商売として成り立っていることもわかっている。金にならないからやりたがらないだけだ。

 

「そろそろ本題を聞きましょう。今度は何がご入用ですか? 武器ですか? 悪魔の実ですか? それとも珍しい奴隷ですか?」

『────だ』

 

 話を聞いた瞬間、マラプトノカが眉を顰める。

 

「……それ、本気で言ってらっしゃいます?」

『私が冗談を言う様に見えるのか?』

「……そうですね。冗談であれば良かったのですが」

 

 思わず漏れ出た溜息と共に悪態の一つでも吐きたくなったが、言うだけ無駄なので口をつぐんだ。

 金払いだけは良い相手だ。面倒な仕事ではあるが、奴隷以外の商品は高値で買い取ってくれる。カイドウやリンリンと同じくらいには優良顧客だった。

 その後いくつか条件の話し合いをしたのち、通話を切ってコーヒーを一気飲みする。

 

「面倒な仕事のようだな」

「面倒と言う他にありません」

「では数人ほど連れて来なければな。おれ一人では戦力が足りないだろう」

「そうしましょう」

 

 子供のマーティンではルーキーにも押し負ける始末だ。出来れば数人ほど戦力を拡充してからことに臨むべきだとマラプトノカは判断していた。

 

「しかし、()()とはまた。随分とおかしなものが世の中にはあるものですねえ」

 

 


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