ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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諸事情により10月は更新をお休みします。
次回は11/7(何とかなれば10/31)の予定です。


第百七十二話:密航者

 

 ルフィたちが海軍と一戦やり合いながら東の港を経由して逃走していた頃。

 

「あら、どこに行っていたの?」

「野暮用だ。それより準備は出来たか?」

「まだよ。積荷と人員の整理があるらしいわ」

 

 港町である〝ナノハナ〟にて、ジュンシーとリコリスがそのような会話をしていた。

 アルバーナに用事があるジュンシーだったが、そのことは誰にも言わずに「少し出て来る」とだけ告げていなくなっていたため、リコリスたちも待ちぼうけをくらっていたのだ。

 彼女たちを迎えに来た船ではあるが、商船なので積荷の積み下ろしもある。復興の手伝いとして人手の貸し出しもおこなっているため、それなりに時間がかかっている。

 ジュンシーは「そうか」と簡素に答え、手荷物を割り当てられた部屋に置きに行く。

 それを見送ると、リコリスはすぐそばで海楼石の手錠を付けた二人──Mr.3ことギャルディーノと、ミス・ゴールデンウィークことマリアンヌに視線を移す。

 その目の前には二人が数日かけて生み出した作品が並べられていた。

 

「……ふうん……へえ……」

 

 自らを造形美術家、写実画家と名乗るギャルディーノとマリアンヌの実力を見るため、作品を作るようリコリスが指示していたのだ。

 リコリスは作品に触ることなく、作品の置かれた机の周りをぐるぐると回って眺める。

 手指の感覚が薄いので作品を壊さないようにとの配慮である。

 たっぷり何分も眺め、作品の出来を品評するリコリス。その後ろでは危機感の薄いマリアンヌが明後日の方向を見ており、ギャルディーノはこれでダメなら命が無いと顔色が悪くなっていた。

 

「……うん。良いわ。これなら文句なしよ」

「と、と言うことは!?」

「ええ、雇ってあげます。定期的に作ってくれればいいけど、本当にいい作品を生み出すなら製作期間は設けないわ」

「あ、ありがたいガネ!!」

 

 首の皮一枚つながった事実に安堵し、ペコペコと頭を下げるギャルディーノ。

 一方のリコリスは良い拾い物をしたと思いつつも、今後の事を考えていた。

 

「給金も必要よね。でも〝黄昏〟としてじゃなくて私が個人的に雇うわけだし……」

 

 月々の固定給に作品を作った際の歩合給も含めて、どのくらいの金額がいいのか。詳しいことは後でジョルジュあたりにでも相談すればいいだろうと判断する。

 ひとまず今回の作品はリコリスが買い取ると言う。

 

「それは……構いませんが、如何ほどで……?」

「500万ベリーくらいでいいかしら」

 

 渾身の一作ではあったが、そこまでの金額で買い取ってもらえるとは思っていなかったギャルディーノは唖然とした顔をしていた。

 

 

        ☆

 

 

 アラバスタから離れ、海軍の軍艦から逃げきったルフィたち。

 一行は船を動かし、一路次の島へと船を進めていた。

 

「もう追ってこねぇな、海軍の奴ら」

「ん-」

「んー……」

「突き放したんだろ!?」

「ん-……」

「ん-……」

「あのな……」

 

 ゾロの言葉に残る五人は気の無い返事をしていた。

 ビビと別れ、海軍から逃げきったところで緊張の糸が切れたらしい。

 船室の前の欄干の下でうつぶせになってめそめそと泣きながら「さみしー……」と零していた。

 

「めそめそすんな!! そんなに別れるのが嫌なら無理矢理にでも連れてくりゃ良かったんだ」

 

 ため息を零すゾロに五人は信じられないものを見る目をし、口々に罵る。

 

「うわあ野蛮人……」

「最低……」

「マリモ……」

「三刀流……」

「待てルフィ、三刀流は悪口じゃねェぞ」

「四刀流……」

「増えてどうすんだよ!?」

「分かったよ……好きなだけ泣いてろ」

 

 これは駄目だと察し、ゾロももはや呆れ顔である。

 ひとまず針路は間違っていないようだし、シケでも来れば嫌でもきちんと働くだろうと考えて切り替えることにした。

 

「あら、無事に島を出られたのね」

「あァ、まァな……ん?」

 

 背後から聞こえた声に返事をした後で、聞き覚えの無い声だと気付いて振り返る。

 ルフィたちがいる欄干の下、船室から出て来たのは──誰あろう、アラバスタで色々と世話になったロビンとペドロ、ゼポの三人であった。

 ここに来るまで誰も気付かなかったことに驚き、そもそも密航していることに全員が絶句する。

 

「なんでおめーらがここに……!?」

 

 レインベースからアルバーナに向かう折、移動手段を確保してくれたこともあって全員がロビンの顔を知っている。

 バロックワークスの裏切り者で〝黄昏〟と繋がっている謎の女……と言う印象ではあったが、ナミの服を着てラフに過ごしている彼女を見ているとミステリアスな雰囲気も特に感じられない。

 ペドロとゼポは短い間とは言え一緒に旅をした間柄なので今更であろう。

 

「ずっと下にいたの。ジェムとサボには話しておいたから、貴方達には黙っててもらったのよ」

「なんだ、サボの知り合いなのか?」

「いいえ、さっき初めて顔を合わせたわ」

 

 だが、革命軍はずっとロビンの行方を追っていた。

 過去に世界政府の手によって滅ぼされた〝オハラ〟の生き残りである。同志足り得る可能性もあり、実際に勧誘もされた。ロビンたちの事は最重要な機密なのでカナタはドラゴンにも話していない。

 まぁここにいるということは当然ながら断ったという事なのだが。

 ロビンにとって〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を追うこと以上に大事なことはない。革命になど興味は無かった。

 

「海軍に全域を封鎖されていたから、おれ達も島を出られず困っていた。四皇の襲撃を警戒して配備された軍艦の数は30を超えていたし、その全てが少数のおれ達に向けられてはどうにもならなかっただろう」

「〝黄昏〟は立場上手出しは出来ないし、革命軍もおれ達との繋がりがあると思われれば四皇からの攻撃の対象になり得る。邪魔はしたくなかったんでな」

 

 サボがルフィを守りたい理由があったのは幸いだった。

 百獣海賊団、ビッグマム海賊団、海軍の三者から身を隠しつつ島を出るには、この方法が一番だったのだと語る。

 

「船は仕方がないから置いて来たんだ。しばらくこの船においてはくれないか」

「なんだ、そらしょうがねェな。いいぞ」

「まァ世話になったしな」

 

 特に反対意見もなく、ロビンたちが船に乗ることを了承する一同。

 気になったのは〝黄昏〟に助けを求めなかったことくらいだが……上層部はともかく、一般の従業員程度ではロビンとカナタのつながりなど知るはずもない。下手な干渉は〝黄昏〟の立場を危ぶめるだけだと遠慮したらしい。

 ともあれ、何が出来るかは知っておきたいというウソップの言葉に三人がそれぞれ改めて自己紹介をする。

 

「ニコ・ロビンよ。私は考古学者なの。よろしくね」

「ペドロ。戦闘員だ」

「ゼポだ。コック兼航海士兼船医兼船大工だ」

「一人だけ役割多くねェか!?」

 

 ロビンとペドロの二人に比べてゼポの負担が大きいことにウソップがツッコミを入れる。

 ゼポは手先が器用なので自然と色々な役割を任せることになっていたのだと言う。流石に本職には及ばないようだが。

 

「しかし、考古学者か」

「そういう家系なの。8歳で考古学者になって、その直後にとある事件があって賞金首に。それからは政府から身を隠すように生きてきたわ」

「へェ……大変だったのね」

「悲劇ではあったけれど、一人では無かったから」

 

 もし、一人だけ生き延びていたら──きっと、ロビンは今のようにはなっていなかっただろう。

 苦笑するロビンを尻目にウソップが続けて質問をする。

 

「何か得意なこととかあるか?」

「得意なこと……そうね、裏で動くのは得意よ。お役に立てると思うわ」

「裏で動く……と言うと」

「暗殺とか誘拐」

「ルフィ!! この女やっぱり危険じゃねェか!!?」

 

 ガターン! と椅子を倒してひっくり返ったウソップが声を上げてルフィを見ると、既にロビンの能力で生えた腕にチョッパーともどもおちょくられていた。

 ウソップの方など見てもいない。

 

「何やっとんじゃおめェら!!」

「まァ落ち着きなさいよウソップ……でも、一人じゃ無かったって、二人とはその時からの付き合いなの?」

「いいえ、彼らは……ううん。どうかしら。話して大丈夫だと思う?」

「短い付き合いだが、あガラらは信用出来ると思うぞ」

「相棒がこう言ってるし、おれも話すのは賛成だ。あガラらは話してて気持ちのいい奴らだしな」

「そう、じゃあそうしましょう」

「?」

 

 ナミの言葉に三人はこそこそと内緒話をしたかと思えば、気を取り直して身の上話を続ける。

 

「私は〝黄昏〟の世話になっていたの。ペドロとゼポは8年くらい前にカナタさんの紹介で一緒に海に出て、今も〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟を探しているの」

「これ、機密だから他の奴らに話すのは止めてくれよ」

 

 ロビンが話した後でゼポが付け足す。

 政府に追われているロビンたちが元は七武海の〝黄昏〟出身となると、色々面倒事が起きる。なるべくなら黙っておいてくれ、と言うことだ。

 知らない方が良かった事実にナミは頭が痛そうにする。

 

「そんなこと聞かせないで欲しかったわね……」

「そう言えば、しばらく世話になるからと思って宝石を幾らか持ってきたのだけど」

「絶対誰にも話さないから安心していいわよ!!」

 

 高速の変わり身に横で話を聞いていたゾロとウソップが思わず脱力する。

 テーブルに置かれた宝石は既にナミの手に渡っており、もう返すつもりはないのが明白だった。

 途中でサンジがおやつを持ってきたので一同はそれをパクつきつつ、穏やかに海を進む。

 ロビンの能力で遊ぶルフィにウソップとチョッパーが大笑いし、サンジとゾロが額を突きつけて些細な喧嘩をし、ナミが記録指針(ログポース)を見ながら針路を確認する。

 この騒がしさは、これまでの旅では無かったものだ。

 

「……騒がしいというのも、悪くはないわね」

「そうだな。三人だけでは寂しかったところだ」

 

 おやつの時間を過ぎ、船の進路を調整しながら進んでいるとルフィが声を上げる。

 

「なー、次の島はどんなところなんだ? 雪降るのか?」

「あんたまだ雪見たいの? 行ってみなきゃわかんないわよ」

「アラバスタからの記録(ログ)を辿ると……確か、次は〝秋島〟よ」

「秋かァ! 秋も好きだなァ」

 

 アラバスタを出たばかりではあるが、早々に次の冒険に心を躍らせるルフィ。

 海ばかりの景色では飽きるものだから、「早く次の島に着かないかなァ」と笑う。

 その時だった。

 

「ん……? なんだ、雨か?」

 

 パラパラと何かが降ってくる。晴れているが天気雨かと空を見上げる。

 小粒の何かが顔に当たり、感触から雨ではないと判断して。

 

「雨じゃねェな。あられか?」

「いや、あられでもねェ」

「何か降ってく──え?」

 

 空を見上げる一同の視界には。

 ボロボロの船が太陽を遮り、空から落下して海面に叩きつけられる瞬間が映っていた。

 




次章予告!
「次の島は──空の上!?
 青い空! 白い海! 突き上げる海流(ノックアップストリーム)に乗って吹き飛ばされた先にあったのは空に浮かぶ雲の海!
 黄金郷があると言われる自然に呑まれた島。
 そこを根城にする謎の部族。
 更には神の代弁者を名乗る不審者。
 吹雪と雷の止まない島に考古学者たちの聖地なんてところも!? この島一体どうなってるのよ~~!!

 次章! 黄金失墜樹海スカイピア/猛き雷鳴

 黄金は私たちの物よっ!!」


次章予告その2
「神、信仰、国土……語られぬ歴史、遠くて近い空。果たされることの無かった約束を果たすため、今も足掻き続けている者たち。
 国土を巡る和解の道は遠く、全てを消し去る悪意が忍び寄る。
 鎖された歴史を紡ぐべく駆け回る考古学者。
 かつて神と呼ばれた種族の模倣者。
 生命を冒涜する、理解の外側を行く女狐。
 国土と信仰を巡る騒乱の果てに、島の歌声が鳴り響く。

 次章、黄金失墜樹海スカイピア/猛き雷鳴

 〝閻魔〟──抜刀」
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