ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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黄金失墜樹海スカイピア/猛き雷鳴
第百七十三話:落ちてきた船


 

『今日も始まったよ、ラジオ〝新世界〟より! 今日のパーソナリティーはおれ! ドナルド・モデラートが担当するよ~~!!』

『アシスタントのショコラよ、よろしくね』

『実は残念なお知らせが一つ! アシスタントを数年務めてくれていたモネちゃんだけど、この度一身上の都合で急遽仕事を辞めることになった! 美人が居なくなっておれは悲しいよ……』

『美人なら私がいるじゃない、モネにも負けてないでしょ?』

『鏡見てから言ってくれ』

『ぶっ飛ばすわよ!?』

『……まァそれはそれとして、今日は大物ゲストを呼んでいる!! いつまでも辛気臭い話をしてる場合じゃねェ!! さァご登場願おう、本日の特別大物ゲスト──〝黄金帝〟ギルド・テゾーロ氏だァ!!!』

『やあ諸君! 〝黄昏の海賊団〟に所属するプロデューサー、テゾーロだ!!』

『ご存じの方も多いだろうが、簡単に経歴を! 彼は〝黄昏〟に所属する芸能部門を担当する人で、皆も良く知る〝歌姫アン〟や〝歌姫カリーナ〟をプロデュースし、数々の楽曲を提供している!! そして彼自身もまた大人気の歌手だ!!』

『ハハハ、そう褒めちぎらないでくれ、恥ずかしくなってしまう』

『いやいや、これでも足りないくらいだ! それで、今日は何やら発表があると聞いたけど、それは一体?』

『ああ。皆を待たせるのも悪い、早速発表と行こう。実はこの度、アラバスタの内戦が終わったことを耳にした方も多いと思う。そこで我々は復興支援の一環としてライブツアーをすることになった!! アン、カリーナ……それに今回はかの〝海底のディーバ〟マリア・ナポレ氏もお呼びしている! 現地のライブは映像電伝虫で中継する予定なので、これを見逃さないでくれ』

『なんと、ライブツアー!! となると、先日発表されたアンちゃんの新曲もそこで聞けるってこと!?』

『もちろんセットリストに入っているとも!! ──それに、まだ秘密だが、ライブではとっておきのサプライズも用意している。楽しみにしていて欲しい!』

『これを見逃す手はねェ!! 具体的な日取りは──』

 

 

        ☆

 

 

 ラジオから聞こえてくる声など、ルフィたちには聞いている余裕が無かった。

 次々に落ちてくる木片、鉄片、果ては人骨。船そのものが空から落下してきた衝撃に耐え、何とか船が転覆しないように操舵するので精一杯だった。

 嵐のような数分が過ぎ、メリー号に乗る面々は呆然とした様子で落下してきた船を見る。

 

「……な、何だったんだ……?」

「船が……空から?」

 

 思わず空を見上げる面々だが、雲が多少かかっている程度で目立つものなど何もない。

 ウソップとチョッパーは奇怪な現象に抱き合って震えていた。

 

「あ!!?」

「どうした、ナミ!?」

記録指針(ログポース)が……上を向いて動かない!!! 壊れちゃった!!」

「何ィ!?」

 

 アラバスタから次の島へと向かう航路の途中である。海のど真ん中で指針を失ったとなれば、即ちそれは遭難と同義と言っていい。

 さーっっと顔色が悪くなる一行だが、ロビンとペドロ、ゼポだけは落ち着いていた。

 

「それは壊れたわけでは無いわ。指針(ログ)が変わったということは、より強い磁力を持つ島に書き換えられたという事」

「書き換えられた……? そんなことがあるの? っていうか、上を向いてるのよ!?」

「上を向いているのなら、〝空島〟に指針(ログ)が奪われたという事」

 

 ロビンの言葉にいち早く反応したのはルフィだった。

 

「空!? 空に海が浮いてて島があんのか!? すぐ行こう!!! 野郎ども!! 上に舵を取れ!!!」

「上舵いっぱーい!!!」

 

 ルフィにつられてウソップも元気に騒ぎ始めるが、話が進まないのでロビンが能力でルフィの口を無理矢理閉じる。

 ひとまず落ち着かせたところで、ロビンは冷静に話し合いを進める。

 

「でも空島なんて……空に海があって島がある? そんなことありえないわ!! やっぱり故障としか!!」

「いえ、空島は実在するわよ。私は実際に訪れた経験があるもの」

「行ったことあるの!?」

「おれ達は無い。〝黄昏〟にいた頃の話だろう」

 

 ナミがもしやとペドロたちに視線を向けたので、ペドロが疑問に答えた。

 空島に行った経験があるのはロビンだけだ。聞いた話と言うだけならともかく、実際に行ったことがあるのなら疑う余地は無い。

 とは言え、空島と言ってもいくつかある。

 まずは落ちてきた船から持ち出せる物を持ち出し、情報を集めるべきだった。

 

「先達として言っておくけれど、何が起きても記録指針(ログポース)だけは疑ってはいけない。その指針が指す先には必ず島がある……覚えて損は無いわよ、航海士さん」

「う、うん……わかったわ」

 

 ルフィはロビンから空島の話を聞きたがっていたが、落ちて来た船が沈む前に拾えるものを拾っておこうと、船番にチョッパーを残して全員で急いで回収していく。

 日誌などは見つからず、剣や鎧は全く手入れがされていないために古びて使い物にならない。

 船の中は争った形跡が多く、死体がそこかしこに散乱している。まぁこれは船が落ちてきた際の衝撃で散らばった可能性もあるのだが。

 船が沈むまでそれほど時間も無かった。全員で急いで回収できたものはと言えば、大きめの棺にガラクタのようなものばかり。一番の収穫はルフィの見つけたとある地図と壊れた船のようなモノだった。

 

「見ろよこれ!!」

「〝スカイピア〟……?」

「空島の地図ね」

 

 日に焼けた紙を見るに相当古そうではあるが、ロビンにとって聞き覚えのある名前だ。

 この船もそこから落ちて来たのかとルフィたちは話していたが、ロビンは回収した棺桶を開けて中の遺体を復元していく。

 白骨化した遺体の頭部には穴が開いており、これは〝穿頭術〟と呼ばれる古い医術によるもの。年代は30代前半で、死因は恐らく病死。

 他の骨に比べて歯がしっかり残っているのはタールが塗り込んであるため。この風習は〝南の海(サウスブルー)〟の一部の地域特有のものであるため、その辺りの探検隊と推定。

 これらの情報から、ロビンは資料を探す。

 

「あったわ。〝南の海(サウスブルー)〟の王国、ブリスから出航した探検隊の船。〝セントブリス号〟208年前に出航してる」

「遺体だけでそこまでわかるもんなのか……スゲェな」

 

 図鑑に載っていたマークを見せると、落ちて来た船の帆に描かれていたマークと一致する。

 少なくとも200年前後は空の上を漂っていたわけだとわかり、全員感心したような目でロビンを見ていた。

 

「……で、肝心の空島に関する情報はあったのか?」

「焦らないで。まだ記録と資料を確認し終えてないわ」

「そもそもお前、行ったことあるなら行き方も知ってるんだろ? 空島なんてどうやって行くんだ」

「知らないわ」

「知らないィ!!?」

 

 ロビンの言葉にウソップが思わずツッコミを入れる。

 行ったことがあるなら行き方を知っていると思うのが当然だが、ロビンが過去に空島に行ったときに使ったルートは正規のものではない。

 ルフィたちでは取れない手段だ。

 

「私が過去に空島に行ったのは、物を浮かせる能力者が船ごと空島まで運んだからよ。だから正規のルートは使ったことが無いし、知らないの」

「そう言う能力者もいるのか……」

「でもどうするんだ? 指針が空に奪われたままじゃ、おれ達このまま遭難するしかねェぞ?」

 

 永久指針(エターナルポース)もなく、記録指針(ログポース)も空を指したままでは陸地に辿り着けない。

 食料は潤沢に載せているが、あくまで次の島に着くまでのもので数週間も海の上を漂えるほどの量は無い。

 だが、それに関しては大丈夫だとロビンが言う。

 

「こういう事態のために〝黄昏〟は海難救助の役割も担っているのよ」

「でも、海の真っただ中でどうやって場所を……?」

「電伝虫はあるでしょう? それがあれば場所は伝えられるわ」

 

 近辺の島に建てられている複数の電波塔を使い、三角測量で位置を割り出すことで特定出来る。

 〝黄昏〟が世界各地に建てた電波塔はそういう目的のために使われているのだ。

 海賊であっても金さえ払えば海難救助をしてくれるので、海を渡る者たちにとってなるべく知っておくべき情報であった。

 

「だから、遭難自体はそれほど心配するべきことじゃないわ。お金は必要だけど」

「そうなのね……知らなかった」

 

 

        ☆

 

 

 そうして、回収できたものだけでも記録などを確認していると、どこかから妙な音楽が聞こえて来た。

 メリー号の何倍もある巨大な船だ。船の上で騒々しく騒ぎ立てており、見るからに陽気な男たちばかりのようだった。

 船体に様々な装備が付けられており、特に目立つのは船首の猿だろうか。

 

「全体~~止まれ!!! 船が沈んだのはここかァ!!!」

「アイアイサー!! 園長(ボス)!!」

 

 騒がしい船である。

 妙なのが出て来たなと見ていると、園長(ボス)と呼ばれていた男がルフィたちの方を見た。

 

「おい、お前らそこで何してる。ここはおれのナワバリだ」

「ナワバリ?」

「そうとも。この海域(テリトリー)に沈んだ船は全ておれのものだ。お前ら手ェだしちゃいねェだろうな……んん!?」

 

 そう言う男──マシラの言葉に、ルフィたちは目を見合わせる。

 色々と拾いはしたが……まぁ沈む前に拾ったのだしサルベージはしてないからいいんじゃない? と言わんばかりのナミの様子にルフィたちは素直に頷く。

 

「手は出してねェ」

「そうか、それならいいんだ」

「一つ聞くが、オメェら船をサルベージするのか?」

「そりゃオメェ、するもしねェもおれは沈んだ船があるなら引き上げる男さ!! 浮いた船があるなら沈めて引き上げる男さ!!! おれ達に引き上げられねェ船はねェ!!!」

 

 断言しきるマシラに感心する一同。

 ガレオン船をサルベージするのは常識的に無理があるが、そこまで断言するのなら興味もある。どのみち救助が来るまで動けはしない以上、見学させてもらうことにした。

 マシラたちは見学がいるためか妙に緊張して浮足立ちながらサルベージ作業を進めていたが。

 

「しかしスゲェ猿だな」

 

 〝ゆりかご〟と呼ばれるアンカーで船を固定し、船首の飾りだと思っていた猿を連結させる。そこから空気を送り込んで船体を浮き上げ、ロープで引き上げるらしい。

 驚いたのはマシラが最初に大量の空気を供給したことか。あれほどの肺気量は中々得られるものではない。

 ゾロやサンジ達も感心したように見ていた。

 

「え? そんなにおれは〝サルあがり〟か?」

「なんだそりゃ……」

「〝男前〟って意味だ」

「そんな言葉ねェだろ……」

「ああ、サルまがいだな」

「おいおいそんなに褒めんなよ!! ウッキッキー!!」

 

 ルフィの言葉に照れるマシラ。

 そうこうしているうちに船が海面近くまで引き上げられ、船体が露になる。

 マシラたちにとっても中々の大物らしく、騒がしくなっていた。

 

「なァ、これ引き上げてどうするんだ?」

「中には色々と貴重な資料があったり、貴金属があったりする。そういうものを回収して金にすんのさ。船自体は傷んでるが、使い物になる木材なんかがありゃあそれもバラシて売り捌くのよ。船自体が貴重な資料になるって買い取る奴もいるが、まァ金額次第だな」

「へェ……」

 

 過去の貴重な日誌や記録が手に入れば、それを欲しがる者に売る。そういう商売らしい。

 海賊と自称してはいるが、海賊とは少々言い難いタイプの者たちのようだ。

 

「しかしオメェら、海のど真ん中で、それも沈没した船の傍でサルベージするわけでもなく何してたんだ?」

「何もクソもねェよ。次の島に行く途中で船が降ってきたんだ」

「ウキキキ!! そりゃ災難だったな!!」

「ああ、記録指針(ログポース)は上を向いたまま動かねェし、救助を待ってるところさ」

「近くにおれ達がナワバリにしてる島がある。そこまで連れて行ってやってもいいぜ」

 

 引き揚げ作業が終わり、マシラの部下たちが船を固定しているところでマシラはサンジとそんな話をしていた。本人が忙しいのは給気まででそれ以降は部下任せなのだという。

 サンジのお茶を飲みながら提案するマシラの言葉に、ルフィたちは頷いてその提案に乗る。

 救助と言っても数日かかる可能性もあったのだ。早いに越したことはない。

 キャンセルの連絡を入れてマシラの船に付いていくことにする。

 

「いやー、助かった!」

「これも縁ってやつよ! ウキキキ!!」

 

 ルフィとマシラは意気投合したのか、仲が良さそうに肩を組んでいた。

 サルベージ作業も無事に終わり、マシラたちが拠点にしている島に行こう──となったその時。

 ()()()()()

 

「なんだ!? いきなり夜になったぞ!?」

「ウソよ、まだそんな時間じゃないわっ!!」

「じゃあ何なんだよ!! これも偉大なる航路(グランドライン)特有の現象か!?」

 

 日が沈んだことによる暗さではない。本当に急に、辺りに日が差さなくなったのだ。

 突如として暗くなったことに慌てるルフィたちだが、マシラは比較的落ち着いていた。

 と言うより、「そんな場合ではない」と知っていたからこそ行動は早かった。

 

「おいお前ら、急いで船を出すぞ!!」

「なんだ、お前これについてなんか知ってんのか?」

「知ってるって程じゃねェ。これに関しちゃ()()()()()()()()からな!!」

 

 偉大なる航路(グランドライン)における不可思議な現象はいくつかあるが、解明されているものと解明されていないものがある。

 今回の現象は後者に属し、なおかつマシラは何度かそれを自分の目で見て来た。

 

「今の海は危険だ!! とっととずらかるぞ、野郎ども!!!」

「ボ……園長(ボス)……!!」

「どうした、お前ら何やって……」

「あ、あれ……あれが……!!!」

 

 マシラの部下たちが示す方向を見ると、マシラを含めたルフィたち全員が目を見開く。

 そこには。

 船などとは比べ物にならない、()()()()()()()()が映っていた。

 その影は音もなく槍を振り上げ、穂先を下に向けた。

 この世の光景とはとても思えない。恐怖の象徴のような姿を見て誰もが慄き、冷や汗を流す。

 

「怪物だあああ──!!!」

 

 あんなものが振り下ろされてはただでは済まない。

 出来る限り最速で帆を畳み、オールを漕いで全速力でその場を離れる。

 暗闇の中に現れた理解不能な怪物のことなど、誰にもわかりはしない。それが何であれ、逃げる以外に選択肢は無かった。

 




ちなみにショコラは原作における偽麦わらの一味にいた偽ナミです。

ジャヤでの話は一応ある程度はやりますが、基本は原作と変わらないので巻いていく予定です。
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