ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百七十六話:空の上には

 

 海面の爆発によって空へと打ち上げられ、上昇気流によって推進力を得たメリー号は真っ直ぐに積帝雲へと突っ込んだ。

 常識的に考えれば雲の中は乱気流や水滴があるくらいのハズだが、突っ込んでみれば中は海水で満たされていた。

 水の抵抗を受けて急激に速度が減衰するも、今度は打ち上げられた水による水流と浮き上がろうとする浮力でどんどんと上昇していく。

 いつまでも続くかと思われた水中での移動も終わり、メリー号は再び何もない空中に飛び出た。

 そこで勢いは完全に死に、雲の海へと着水する。

 

「ゲホゲホ……!」

「ハァ、ハァ……」

 

 能力者でなくとも、いきなり水中に放り込まれて息を止めていたので全員息が上がっていた。

 フライングモデルに改造されていたメリーの翼や帆は壊れていたが、致命的な損傷は見られない。これも運が良かったという事だろう。

 

「し、死ぬかと思った……」

「全員いるか?」

「大丈夫……の、ようだな」

 

 必死に船にしがみついていたためか、脱落者はいない。

 ひとまずそれに安堵したのか、ゾロは胸を撫で下ろし、いの一番に立ち上がって周りを見渡すルフィを見る。

 

「おい、みんな見てみろよ!! 船の外っ!!!」

 

 言われてようやく周りに気を配れば、視界の果てにまで広がる真っ白な雲の海。

 色々と不思議なことはあるが、ともかく無事に空島に辿り着けたらしい。

 

「でも、記録指針(ログポース)はまだ上を指してるわ」

「まだここは中層よ。上にも雲がかかっているでしょう? あれの上まで行けば、青空が見えるわ」

 

 ロビンに言われて見上げてみれば、確かにまだ上にも雲がある。目的地はもう少し上のようだ。

 だが、どうやって上に行けばいいのかもわからない。どうするんだ、と一行の視線はロビンに集中する。

 まぁロビンもここに来るのは初めてなので、どこに行けばいいのかなどわからないのだが。

 

「ここでジッとしているわけにもいかないし、船を動かしてみましょう。船の損傷具合も確かめないといけないでしょう?」

「そうだな。おいウソップ……」

「一番、キャプテンウソップ!! 泳ぎます!!」

 

 ロビンの言葉を受けてゾロが振り向くと、ウソップが上半身裸になって今まさに雲の海に飛び込もうとしているところだった。

 当たり前のように見送ろうとしたが、ロビンが能力を使って慌てて止める。

 

「駄目よ長鼻君。私たちは今、下から雲を突き抜けてここにいるの。()()()()()()()()()()()()ことも可能なのよ!」

「……っ!!?」

 

 ウソップはハッとした様子で、雲を突き抜けて落下していたかもしれないことに思い至る。

 しかも普通の海と違って雲の海は視界が悪い。底があると勘違いして泳いでいれば、突き抜けて下の海まで真っ逆さまだったかもしれないのだ。

 

「そ、空島怖ェ~~!!」

 

 顔面が真っ青になりながら船にしがみつくウソップ。余計な事件が起きなくて良かったと思うべきだろう。

 何はともあれ、船を動かして移動するべきだとペドロが発言する。下手なことは出来ないが、現状では島の端っこから落下でもしない限りは船で移動するのが一番安全だ。

 誰も異論を挟むことなく、ペドロの意見に賛成する。

 

「じゃあまずは帆をなんとかしないとな」

「派手に破けちまってんな……応急処置でなんとか──」

 

 船を動かそうとしていた最中、奇妙な気配を感じてペドロとゼポが同時に視線を動かした。

 雲の海を突っ切り、真っ直ぐこちらに向かってくる何者かがいる。

 船を使っている様子は無い。足に付けている何かで水上を滑っているようだ。

 

「おい、何者だ! 止まれ!!」

「──排除する」

 

 上半身裸に刺青を入れ、仮面を被った男。左手に盾を持ち、右手にバズーカを持った何者かは、水上を滑る勢いのままにメリー号へと乗り込んだ。

 

「止まる気なしか」

「仕方ねェ」

「おし」

 

 それにいち早く反応したサンジ、ゾロ、ルフィ。

 襲い掛かってくる男はその三人に一撃ずついれて一蹴し、船を破壊しようとバズーカを構えた。

 だが容易く攻撃を許すわけもなく、ペドロが剣を抜いて謎の男とぶつかって弾き返す。

 

「む」

 

 剣にエレクトロを纏わせての攻撃だったが、相手は何ら影響を受けた様子が無い。受け止めた盾の材質が鉄では無いのだろう。伝導性が低いために感電していないのだ。

 ペドロは船に着地し、再び襲い掛かってくる相手を前に剣を構える。

 

「ゼポ!」

「任せろ!」

 

 ペドロとゼポは慣れた様子で肩を並べ、今度こそ襲ってくる男を捕えようと覇気を纏った。

 その背後ではロビンも隙を見て能力を発動させようと構えており、準備は万全のように思われた。

 が。

 

「ちょっと待てェ!!」

 

 突如乱入してきた第三者。

 鳥に乗ったその男は槍を持ち、飛びかかっていた仮面の男を弾き返すと、ペドロたちの前に立って両者の仲裁をするように声を張り上げる。

 

「そこまでだ! おれの心網(マントラ)の届く範囲でドンパチやってんじゃねェよ!!」

「チッ、警ら隊か……!」

「テメェに言ってんだぞゲリラ! 下からの拾い物漁りに来たんだろうが、誰彼構わず襲い掛かってんじゃねェよ狂犬が!!!」

 

 仮面の男は怒鳴る声もどこ吹く風と言わんばかりで、そのまま背を向けて姿を消した。

 フンと鼻を鳴らし、鳥に乗っていた男は視線をメリー号へと向ける。

 

「テメェらもテメェらだ! 入国時にあの手合いにゃ気を付けろって言われてたハズだろ!? おれ達の仕事増やしてんじゃねェぞ!!」

 

 怒りつつ船に降り立つと、槍を背に仕舞ってゴーグルを外す。

 シュラと名乗ったその男は、責任者は誰だと目を吊り上げているが、船長のルフィは先程仮面の男に転がされて不思議そうな顔をしていた。

 

「ちょっと待って! あいつ何なの!? それに入国時に説明って、そんなの受けてないし……それにあんた達、何よだらしない! 三人がかりでやられちゃうなんて!!」

「いや、まったく……ふがいねェ」

「体が上手く動かねェな……」

「……お前ら下から来たんだろ? ここは〝白海〟、地上7000メートルに位置する。ここより上にある〝白々海〟に至っては10000メートルだ。空気が薄いせいで身体機能が落ちてるのさ」

「それでか」

 

 ドンドンと胸を叩き、慣れたと言うルフィに呆れるシュラ。

 人間の体はそこまで適応力は高くない。あり得ねェと否定しつつ、シュラはもう一度問いかけた。

 

「もう一度聞くが、お前らどこから入国した? 他所の島を通って来たなら、少なくとも誰かと会ったハズだ。説明を聞いてねェのか?」

「おれ達は〝突き上げる海流(ノックアップストリーム)〟で下から飛んで来たんだ。誰とも会ってはいない」

 

 ペドロの説明に、シュラは目を丸くして驚いたかと思えば腹を抱えて笑い始めた。

 

「ガッハハハハハハハハ!!! あんなバケモノ海流に乗って飛んでくる奴がいたとは!!! こりゃケッサクだ!!」

「笑いすぎだろ!」

「いや、すまんすまん! そんな大馬鹿は初めて見たもんでな。そりゃ確かに誰とも会ってねェハズだ!」

 

 ひとしきり笑った後で怒りを納めたシュラは、改めて自己紹介をした。

 

「おれは国境警ら隊に所属しているシュラ。この国に入ってくる奴ら、出ていく奴らを管理する仕事をしてる。基本的に他の島から移ってくる奴らしかいねェんで、暇してるのさ」

 

 空島は空島を使って移動することしか出来ない。〝ハイウエストの頂〟のように下から登ってくることも出来る空島もあるが、この島に関してはそこから直通で登ることは出来ないので割愛する。

 そして、空島同士が接触する日取りは大体決まっているので、彼ら警ら隊が仕事をするのは大抵その時になる。

 もちろん真っ直ぐ下の海に行きたいという者もゼロでは無いので、彼らを見送るのも仕事ではあるのだが。

 

「へェ……じゃあおれ達も何か手続きしなきゃいけないのか?」

「ああ。案内しよう、ついてこい」

 

 チョッパーの言葉に頷いたシュラは鳥──名をフザと言う──に乗り、船を先導するように飛び上がった。

 ルフィたちを青い海から上がって来た者、青海人と呼ぶ彼は、先導しながら「お前ら海賊なのか」と気さくに話しかけてくる。

 

「うん。海賊だ」

「ハハハ、素直なのは良いことだ。先に伝えておくが、ここは〝黄昏の海賊団〟のナワバリだ。下手なことをすりゃあ即打ち首になる。観光と買い物をする分には自由だ、好きにしろ」

 

 彼から伝える注意点は二つ。

 入ってもいいが死んでも恨むな。

 面倒だからそもそも入るな。

 前者はエンジェル島、後者はアッパーヤードと呼ぶ島に関する注意事項である。

 

「なんだ、そりゃ。入ってもいいけど死んでも恨むなとか、面倒だから入るなとか」

「詳しいことは上に行ってガイドでも雇えばいい。目的も無しに歩き回るにゃ、上はちと娯楽が多いからな」

 

 〝黄昏〟のナワバリであるためか、身内の療養や観光目的で訪れることもままあるのだと彼は言う。

 その場合は真っ直ぐ上の〝白々海〟に行くので、入国管理の仕事は上の者がやるのだが。

 

「何があるんだ?」

「色々あるぜ。〝ウェイバーレース〟に〝ダイアルショップ〟、海賊ならあんまり興味はねェかもしれねェが、巨大な図書館もある」

「聞いたことねェな……」

「レースは下でもやってるな。おれとペドロは見た事があるぜ」

 

 これから行く場所に胸を躍らせながら、ルフィたちは巨大な門の前で船を停める。

 天国の門と書いてあり、微妙に縁起の悪い名前にサンジが呆れたような声を出していた。

 

「人数と代表者の名前、それから入国の目的を書け。賞金首はいるか? いるならそいつの名前を」

 

 そう言われて書類を渡されたので、ルフィは真っ直ぐナミに渡す。

 ナミもわかっていたようにサラサラと書き込んでいき、書類をシュラへと返した。

 書類に不備が無いか目を通し、門の傍に作られた建物の中に入っていったかと思えば、それほど時間もかからず戻って来た。

 

「〝麦わら〟のルフィ、1億ベリーか。大した奴じゃねェか。賞金首は他にも〝海賊狩り〟に……」

 

 ロビン、ペドロ、ゼポ。累計五人を確認すると、シュラは頷いた。

 賞金首は誤魔化そうとする者も多い。新聞を読んでいないのでそもそも賞金首だと自身が知らない場合もあるし、意図的に隠そうとする者もゼロではない。

 ので、この辺りの確認作業は割と面倒事が多かった。今回は正直に申告したので早かったが、人数が多いと時間がかかることもある。

 

「よし。じゃあ上まで送るぜ、精々楽しんで来いよ」

「どうやるんだ?」

「こうやるんだよ──」

 

 ピィーー、と笛の音が響き渡る。

 ルフィたちが首を傾げていると、船の下に巨大なエビが現れた。

 

「白海名物、特急エビだ! 大人しく船に掴まってな、すぐに着くぜ!」

 

 手を振って見送るシュラを尻目に、巨大なエビは船を持ちあげて螺旋状の雲の道を駆けあがっていく。自然に出来たものとは思えない、帯状に形成された雲の川だ。

 ガタガタと揺れる船に必死に掴まっていたが、シュラの言う通りそれは短い時間のことだった。

 

 

        ☆

 

 

 雲の道(ミルキーウェイ)を抜けた先にあったのは、楽園と見紛う光景だった。

 白い雲の海に浮かぶ島と、その周りに形成されているビーチ。少し遠目には港があり、船が何隻も泊まっているのがみえる。

 

「わあ……!」

「ここが空島かァ!! 冒険のにおいがプンプンすんなァ!!」

 

 初めての光景に浮足立つ面々とは裏腹に、ロビンは懐かしそうな顔をしている。

 まずは目の前にある島に……と思っていると、小型の船が近付いて来るのが見えた。

 帆が無いのに動いている上、普通の船より遥かに速い。ルフィやロビンがアラバスタで乗っていた〝高速艇〟である。

 その船はメリー号に横づけすると、船に乗っていたスキンヘッドの男が声をかけて来た。

 

「お前らが新しく入国してきた連中か?」

「ああ、そうだ。オメェは誰だ?」

「おれはオーム。ついてこい、港まで案内しよう」

 

 見えている島の港なので案内は不要と言えば不要なのだが、港湾管理が仕事なのでな、と言っているからには大人しく従うべきだろうと舵を取る。

 桟橋の横に船をつけると、「ここには海底が無いから錨は雲に刺すんだ」とアドバイスをする。

 ゾロがそのアドバイスに従っていると、ルフィとウソップ、チョッパーが我先にと船を下りていた。

 港から一段上がった道には店が並んでおり、向かって右に行けば住宅街、左に行けばビーチがあるようだ。

 

「うっはー! スゲェな!! 見た事ねェモンが並んでるぞ!?」

「見た事ねェ魚だな……妙に平べったい」

「なァウソップ、これなんだ?」

「これは平べったいからヒラメだ」

 

 魚屋、釣り道具屋、それに〝ダイアルショップ〟と書かれた奇妙な貝を売っている店。

 前半は見慣れたものかと思いきや、並んでいる魚は初めて見るものばかりだし、並んでいる釣り道具も妙な形の貝で加工されている。ルフィたちが興奮気味になるのも理解出来た。

 騒がしい三人にプラスして珍しい魚と言うことでテンションの高いサンジが魚屋の前で話している横で、ナミはオームに話を聞いていた。

 

「ふむ。お前たちは空島は初めてか? シュラから連絡を受けたぞ、例のバケモノ海流に乗ってここへ来たと」

「ええ、そうなの……ところで、シュラさんからガイドを雇うと良いって言われたんだけど、どうしたらいいのかしら」

「今の時期はそれほど人は多くない。ガイドは簡単に捕まるだろう。案内所があるからそこで聞くと良い」

 

 先に起こった四皇同盟との大規模な抗争の影響で今はこの島に滞在する者が少ないため、ガイドを捕まえるのは難しくないとオームは語る。

 港に並ぶ店の端に観光案内所と書かれた建物があったので、そちらにまずは足を運ぶことにする。

 騒がしい面々を監督するためにペドロとゼポが残り、案内所に足を運ぶのはナミとロビンが担当することになった。

 案内所で話を聞いてみれば、滞在するにあたってガイドが必要な期間と宿泊所の登録が必要だと言う。宿泊所は船があるのでそこでいいとしても、ガイドを雇うならそれなりにお金がいる。

 現在の麦わらの一味には残金があまり多くない。

 どうしようかしら、とナミはロビンにアドバイスを求める。

 

「必要なことだけを聞くなら一日か二日でいいんじゃないかしら。パンフレットはあるみたいだし」

 

 しかし、ロビンの知る島と違って完全に観光地である。

 元々の島にそんなところは無かったが、ロビンが知らない間に色々と改造したのだろう。

 ロビンは手に取ったパンフレットをパラパラとめくって見ると、島の中心部近くにある巨大な樹を見て目を細めた。

 

「今から手配したらどれくらいかかるの?」

「それほど時間はかかりません。30分もあれば呼べます」

「だって、どうするのロビン?」

「じゃあひとまず一日お願いしましょう。私もちょっと行きたいところがあるから、少ししたら戻ってくるわ」

 

 

        ☆

 

 

 ロビンが「行きたいところがある」と言ったところ、特に何も言っていないにも関わらず全員で行くことになった。

 ルフィたちはビーチで遊びたがると思っていたのだが、今はどこに行っても新鮮で楽しいらしい。

 まず花屋に寄ったロビンは花束を一束買い、まっすぐ巨大な樹を目指し始めた。

 

「でっけー樹だな。あんなでっけー樹は見た事ねェ」

「あれは〝宝樹アダム〟と呼ばれる樹よ。詳しいことは私も知らないけれど、世界に数える程しかない珍しい樹らしいわ」

「そうなのか」

 

 興味津々のチョッパーに説明していると、その巨大な樹の根元から少し離れたところに石碑が立っているのが見えた。

 ロビンはそちらに向かい、石碑の前に花束をそっと置く。

 しゃがみ込んで手を合わせ、祈るように目を瞑っていた。

 

「……これ、名前が刻んであるな」

 

 サンジが石碑に近付いてよく見てみると、何人もの名前が刻んでることに気付いた。

 ロビンの様子を見るに、これは恐らく墓標なのだろう。

 過去に空島に行ったことがあるというロビンの言葉。巨大な樹の傍に佇むように建てられている石碑。祈るロビン。

 何となく想像は出来るが、サンジはそれを口に出さなかった。

 

「フフ、気になる?」

「いや、おれは……」

「ロビンの過去に関係あんのか?」

「そうよ。私の、一番嫌な思い出」

「おいウソップ。レディにデリカシーの無いこと言ってんじゃねェよ。誰だって言いたくないことの一つや二つあらァな」

「そ、そうだよな。すまねェロビン」

「いいのよ。もう、これは過去の事だから」

 

 ロビンは困ったように笑って、墓標を撫でる。辺りの草は短く、墓標にも汚れは無い。手入れを欠かしていないのだろう。

 それだけでロビンには十分で、誰かに語ろうと思ったわけでもないのにポツリと言葉が出た。

 

「この島、〝オハラ〟と言うんだけど……ここはね、私の故郷なの」

「故郷? ロビンは空島出身だったのか!?」

「ええっ!? そうなのかロビン!?」

「違うわ。私の出身は西の海(ウエストブルー)よ。元々この島もそこにあったの。だけど、18年前にここに持ってきたのよ」

「持ってきたァ!?」

 

 かつて言った、物体を浮かせる能力者の力で島を浮かせて持ってきたのだとロビンは言う。

 その時既に島には誰も住んでいなかったから、誰も文句を言う者などいなかった。唯一の生き残りであるロビンとその母も、反対はしなかったのだし。

 とある事件で島の住人はみんな死んでしまい、あとは朽ち果てるだけの島だったが、ここに持ってきたことで住んでいる者は違えども活気は戻った。

 それが良いことなのか悪いことなのかわからないけれど、ただ朽ち果てて忘れられるよりはずっといいハズだとロビンは思う。

 

「変わっていることが多くてびっくりしているけれど、活気があるのは悪いことじゃないわ。この辺りは静かなままだしね」

 

 ロビンはそれで気が済んだのか、石碑に背を向けて港に戻る。

 ルフィたちもロビンに続き、行きよりも少しだけしんみりした雰囲気で帰り道を歩いていた。

 そんなつもりは無かったのだが、ロビンは自分が過去の話をしたせいだとちょっと反省しつつ、明るくなれる話題を探す。

 

「ガイドさんもそろそろ到着しているころよ。まずは何から行く? そろそろお昼だし、食事がいいかしら」

「メシ!! 空島のメシって何が出るんだろうなァ……」

「おれも興味あるな。特産品に珍しい調味料でもありゃあ買っていきたいが」

「酒はあんのか?」

「地酒はあるんじゃないかしら。〝黄昏〟の療養地に使っているなら値段相応の品は出て来ると思うわ」

「へェ、そりゃ楽しみだ」

 

 ワイワイと昼食についての話をしながら港に戻ると、案内所の前に一人の女性が立っていた。

 金色の長い髪を二つ結びにした綺麗な女性だ。

 彼女はルフィたちの姿を見つけると、にこりと微笑んで頭を下げる。

 

「初めまして。私はコニス。今回あなた方のガイドを担当することになりました」

「おう、よろしくな!」

「早速で悪いんだけど、どこか食事を取れるところある?」

「食事ですか? でしたらいいところがありますよ」

 

 昼食に丁度いい時間帯と言うこともあって少々混むが、コニスお勧めの店があるらしい。

 そこへ案内しようと歩き始めた直後、コニスは誰かから子電伝虫に連絡を受けた。

 少し離れたところで何か話していると、コニスは驚いたような顔をしてルフィたちの方をチラチラと見始める。

 

「なんかあったのかな」

「さてな」

 

 ペドロとゼポはコニスの会話が聞こえているのか、見るからに緊張した様子だった。

 コニスは通話を切ると、急いでルフィたちのところへ戻って来た。

 

「ごめんなさい、案内するって言った直後に」

「いや、それは良いけどよ……何かあったのかい、コニスちゃん」

「それが……ある方から、あなた方を招待したいから連れてきて欲しい、と言われまして」

「招待?」

 

 ルフィたちは空島に知り合いはいない。もしやロビンかと思うも、ロビンも心当たりはないらしい。

 ペドロとゼポは会話が聞こえていたようなので分かっているハズだが、そわそわして落ち着かない様子を見せるばかりだ。

 行ってみればわかるとルフィは楽観的に構え、コニスに案内してもらうことにする。

 距離的にはそれほど離れてはいないらしい。

 

「わかりました。ではご案内しますね」

 

 コニスに先導され、ビーチ方面に一度向かって砂浜へ下りる階段を通り抜け、やや高級な店の立ち並ぶ市街へと入る。

 〝黄昏〟の療養地として使われるだけあって、並ぶ店はどれもブランド物ばかりだ。

 コニスに案内されたのはその中でも一際立派な、一目でそれとわかるほど高級そうな店だった。

 建物自体が妙に大きいのはそれだけサイズの大きい相手も想定しての事か。

 コニスが先に中に入り、中の店員と何やら話しているのを少しだけ待つルフィたち。

 

「でっけーな……そういや、ここに来るまでに並んでた建物も妙にデケェのが多かったな」

「巨人族が来ることを想定しているからよ。あなた達はまだ見た事ない?」

「巨人族かァ……いつか会ってみてェもんだな」

「この島には今はいないけど、そのうち会うこともあると思うわ。戦士としての一面ばかり取り沙汰されることが多いけれど、〝黄昏〟で荷運びをやっている人も多いから」

「そうなのか?」

「皆さん、どうぞ中へ!」

 

 ウソップの疑問にロビンが答えていると、準備が出来たのか、コニスが皆を呼びに来た。

 中はコニスも不慣れなのか、店員の先導に従って奥へと歩く。

 巨人族用に大きな部屋もあるが、普通サイズの部屋も用意されてはいるらしい。ルフィたちが案内されたのは普通サイズの部屋だった。

 店員は入口に控えており、コニスが先に入って中にいる人物に一礼する。

 

「お客様をお連れしました」

「ありがとうございます。迷わずに済んで何よりです」

 

 やや広めのテーブルはアラバスタの王宮で見たそれよりも小さくはあったが、豪奢な物と言う意味ではルフィたちには同じように見えた。

 奥に座っていたのは、エメラルドグリーンの髪を後ろでひとまとめにした、ルフィたちと同じくらいの身長の女性だった。

 ただしその美貌は並外れており、にこりと笑う彼女の姿に同性のナミでさえ見惚れたほどである。

 サンジなど、雷が落ちたかと思うような衝撃を受けてさえいた。

 表情一つ変えていないのはルフィとゾロ、チョッパーくらいのものだった。

 

「お久しぶりです、ロビンさん。それにペドロとゼポも」

「本当に久しぶりね……今は小紫、と呼べばいいのかしら?」

「はい。それでお願いします」

「お久しぶりです、姫様」

「姫様もお元気そうで何よりです」

 

 ロビンは小紫と呼ぶ女性と親し気に言葉を交わし、ペドロとゼポは彼女を姫と呼んで片膝をつく臣下の礼をとった。

 

 

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