ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。


第百七十九話:〝アッパーヤード〟

 

「──侵入者は何人だ?」

「たぶん、15人。9人は固まってたけど、2つに分かれて片方は移動してる。残りは最初こそ固まってたけど今はバラバラ。こっちは別口だと思う」

「ふん。どちらも同じことだ」

 

 〝アッパーヤード〟にあるシャンディアの村。

 大戦士カルガラの血を引き、今やシャンディアの戦士たちのまとめ役としてアッパーヤードの防衛をしている男──ワイパーがタバコを咥えたまま吐き捨てた。

 その対面にいるのはラキと呼ばれる女性であり、その背中に隠れるようにしてワイパーと話すアイサという少女だ。

 アイサは生まれつき見聞色の覇気を身に着けており、この能力によって定期的な巡回から漏れた侵入者を見つけ出すことを可能としている。

 

「でも、変なんだ」

「変? 何がだ」

「言葉にするのが難しいけど……普通、あたいが聞こえる〝声〟はひとりひとりちょっとずつ違うんだよ! でも、バラバラに動いてる6人は()()()()()()()()()()()()

「似ているだけじゃないのか?」

「わかんない……」

「…………」

 

 アイサの言葉にワイパーは少しだけ考え込み、しかし侵入者であることには変わりないと急いで動くことを決めた。アイサのように見聞色の覇気を使えないワイパーにとって、この感覚を理解することは難しいからだ。

 日は既に傾きかけている。悠長にしていては夜になってしまうだろう。

 先祖代々取り戻すべき土地をようやく取り戻し、これを再び守るために戦う彼らにとって、土足で踏み入られることは何より許しがたい。

 ワイパーはすぐさま戦士たちに声をかけた。

 

「ゲンボウ、お前は隊を率いて一人一人バラバラに動いている連中を仕留めろ。カマキリ、ブラハム、お前らはおれと一緒に来い。一番数が多い連中を排除しに行く!」

「何人連れていく?」

「村の防衛にある程度は残して行く。こっちはあと3人もいればいい」

「わかった。おれの方も同数連れていく」

 

 ゲンボウと呼ばれた男はワイパーの言葉を聞いてすぐに準備に動き、カマキリ、ブラハムの両名も同様に人員と装備を整えに走った。

 アイサからある程度方向を聞いておけば、敵と入れ違いになることも無い。

 グループの一つは動くことなく留まっていると言うから、恐らくは敵の拠点だろうと推察していた。

 海賊だろうが何だろうが、この島に入ってくる余所者は全員排除する。その誓いを破ることは決してない。

 

 

        ☆

 

 

「ここ、なんか……変じゃねェか?」

「何がよ」

「何がってお前、ちょっと傾いてるような……」

「周りの木々が傾いているのよ。だから平衡感覚がちょっとだけおかしく感じるの」

 

 アッパーヤードがジャヤの別たれた島の一部だと気付いた一行は、人員を島を調査する班と船を守る班で分かれることにした。

 前者はルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップ、ロビン、ペドロ。

 後者はサンジ、チョッパー、ゼポ。

 調査班が多いのは成り行きによるものだが、ナミが付いて来たのは黄金郷に目がくらんだため、ウソップが付いて来たのはルフィとゾロがいる方が安全だと判断したためであった。

 一行は当てもなくまっすぐ森を突き進んでおり、ある程度で戻ってキャンプをするつもりで簡単な調査をしていた。

 

「でもなんで全部の木が同じ方向に傾いてるんだ?」

「そういう成長をしたってだけじゃねェのか?」

「でも、そんな変な育ち方するのかしら? 元がジャヤにしては木も異様に大きいし……」

「さあ? そこまでは分からないわ。でも、この不自然に凹んだ地面に幹を締め付けたような痕……まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ロビンはしゃがみ込んで巨大な窪みに目をやり、続けて木の幹を撫でる。

 まっさかー、とナミとウソップが笑い飛ばすも、よくよく地面のくぼみを見れば人の足跡のように見えることに気付いてしまい、ハッとした表情をした。

 こんな痕跡は通常すぐに消えてしまうものだが、白々海より上に自然に雲が出来ることは無い。雨によって痕跡が消えることが無かったのだろう。

 

「で、でもよ! 流石にこの足跡はデカくねェか!? こんなデケェ人間がいるのかよ!!?」

「巨人族なら平均サイズじゃないかしら。これだけはっきり痕が残っているということは、よっぽど力を入れたのでしょうね」

 

 ウソップはまだ出会ったことが無いので分からないが、巨人族の平均身長は10メートルを優に超える。

 ロビンは足のサイズもなんとなくわかるため、目測で大体の大きさを測っていた。

 ロビンの説明を聞いてルフィはキラキラした目を向けている。

 

「巨人族かァ! この島にもいんのかな?」

「そこは分からないわね。でも、私が以前来た時は空島に巨人族がいるなんて話は聞かなかったわ」

 

 少なくとも、今現在住んでいる巨人族はいないだろうと推察していた。

 アッパーヤードにいるのはシャンディアと言う部族だけだという話だったし、シャンディアが巨人族だという話も聞かなかったからだ。

 少し先に進むと木々の傾きは無くなり、自然の風景になる。

 それでも巨大な木々はそのままなので、空島に来た影響か何かだろうと話していた。

 

「雲の川が多いな。歩き回るのも難しそうだ」

「人工的に作られたものでしょうね。理由までは分からないけど……森を縦横無尽に走る雲の川は、ウェイバーがあれば確かに移動するのに便利ではある」

 

 ウェイバーにもいくつか型があり、足に履くスケート型などは靴の代わりとしても使えるので水上、陸上両方が細かに入り交じるこの環境では重宝するだろう。

 雨が降らない代わりに雲の川によって水を循環させているという理由もあるのかもしれない。

 詳しい理由までは作った者に聞かねば分からないが、おかげで進みにくい道になっていた。

 

「この分だと、そろそろ引き返した方がいいだろうな。日が暮れてしまう」

「夜に移動するのは危険だものね。ルフィ! そろそろ戻るわよ!!」

「えー? もう戻るのか?」

「冒険したいなら明日またすればいいじゃない。軽く探索した感じ、拾った地図と外形は変わってないみたいだし」

 

 ある程度黄金の在処に見当がついたのか、ナミはペドロの意見に賛同して帰ると言う。

 見知らぬ森の中で夜を過ごすのは不安だ。船に戻ればサンジが食事を用意して待っているだろうし、ルフィとしてもくいっぱぐれは避けたい。

 そんなこんなで船に戻ることになり、ロビンを先頭にくるりと方向転換する一行。

 

「よし! じゃあ今日は撤収!」

 

 特に何が見つかったわけでも無いが、ルフィたちがそう思うだけでロビンは別だったらしい。

 メモ帳にはひっきりなしに色々書きこんでおり、時折立ち止まっては木に飲み込まれた井戸や過去の生活痕らしきものを熱心に調査していた。

 考古学者としてはやはり気になることが多いのだろう。

 

「なんか、最初の印象とは違うな」

「ロビンは子供のころから考古学者として色々と勉強してきたからな。行く先々の島でもフィールドワークをやって過去の事を調べたりしていた」

「そうなのか。じゃあペドロもそういうのに詳しいのか?」

「おれに出来るのは敵を切ることだけだ」

「物騒だなオイ!」

 

 ペドロは歴史そのものにはあまり興味が無いのか、立ち止まって調べるロビンの横に立って周りを警戒していた。

 元々そういう役割分担をして来たのだろう。二人の行動は淀みなく、手慣れた様子が窺える。

 

「ロビン、帰りは流石にのんびり歩いてはいられないぞ」

「ええ、でももう少しだけ……」

「……いや、これは手遅れだな」

 

 ペドロは視線を動かし、腰に差した剣に手をかける。

 ゾロとルフィもそれにつられて視線を動かすと、民族衣装に身を包んだ6人の姿があった。

 

「お前……」

「向こうの島で教わらなかったのか? この島はおれ達の土地だ。勝手に入ってきた以上、生きて帰れると思うな」

「シャンディアか!」

 

 戦う気はあるが、少々マズいなとペドロは思っていた。

 戦力は問題ない。ルフィとゾロ、そしてペドロがいれば全員を相手にしても余裕はある……が、この土地で問題を起こすとカナタに迷惑をかける。

 出来るだけ穏便に済ませたいと考え、口を開いた。

 

「待て! おれ達はそちらに危害を加える気は無い!」

「何をいまさら。この土地に土足で踏み込んだ時点で、お前らと話し合う余地など無い!」

「おれ達はこの土地の歴史を調べているだけだ! 戦う意思はない!!」

「何度も言わせるな!! 排除する!!」

 

 バズーカを構えたワイパーはペドロの言葉を聞き入れることなく、引き金に手をかける。

 発射された砲弾は真っ直ぐにルフィへと向かい──。

 

「ゴムゴムの~~〝風船〟っ!!」

 

 ──大きく体を膨らませたルフィが砲弾をはね返した。

 跳ね返された砲弾は避けたワイパーの背後にあった木に着弾して爆発し、爆風の勢いに乗ったワイパーがルフィへと蹴りかかった。

 ルフィとてただでやられることはなく、ワイパーの蹴りを蹴りで返して殴りかかる。

 

「ゴムゴムの〝(ピストル)〟!」

超人系(パラミシア)か。能力者とは面倒な」

 

 ルフィのパンチを躱したワイパーは単なる砲弾では意味が無いと判断し、弾を入れ替えた。

 砲身に入れるのは砲弾ではなく一つの(ダイアル)

 ルフィに狙いを定めて起動させると、鼻を突く臭いが風に乗って充満し始める。

 

「フガッ!? なんだこれ、クセェ!!」

「これは、ガス!? まずい!」

「このバズーカの名は〝燃焼砲(バーンバズーカ)〟。風貝(ブレスダイアル)に乗って充満したガスに引火し、青白い炎は対象を焼失させる」

 

 引き金を引くことで発生する火花でガスに引火し、一気に燃焼するガスは青白くなって大木を貫通するほどの威力を見せる。

 ゾロはナミを、ペドロはロビンを抱えて即座に退避したので怪我は無かったが、ペドロは実質〝エレクトロ〟を封じ込められたも同然の攻撃だった。

 電気を発生させれば充満したガスに引火して自爆する。出来る事なら剣をぶつけて発生する火花すら避けたい。

 だが、それはあちらも同じだ。

 下手に乱発することは無いと思いたいが……当てにし過ぎるのも問題である。

 

「ひとまずは切り抜けねば……!」

 

 戦うことは出来るだけ避けたい。双方にとって得にはならないと考えるが故に。

 

 

        ☆

 

 

 一方、船に残ったサンジ、チョッパー、ゼポの3人。

 今夜はここにキャンプをすることになると考え、いくらか道具を降ろしていた。

 空島に来る際の衝撃で船も幾らか修理が必要な状態であるため、キャンプの準備をした後でゼポとチョッパーは大工道具を手に持っていた。

 

「ルフィたち、どれくらいで戻ってくるかな」

「さてな。日はそれほど長くはないから、探索はそこそこにして戻ってくるとは思うが」

 

 オハラを出た時点で既に時刻は昼をだいぶ過ぎていた。探索をするにしてもそれほど深いところまではいけないだろう。

 トンテンカンテンとリズムよく金槌を振るい、ツギハギの船を修理していく。

 ゼポとて専門の船大工では無いので、出来ることと言ったら木材とブリキで外側の補強をしたり穴を塞いだりと言った程度の物だ。

 帆も破けているので修理が必要だし、やることはいくらでもあった。

 

「…………」

「どうしたんだ?」

「いや……」

 

 リズムよく振るっていた金槌を止め、ゼポは顔を上げる。

 普段はサングラスをしているので目を見る機会は無いが、今は手元が狂わないように外していた。

 そのゼポの目が、険しく細められている。チョッパーは不思議そうに首を傾げ、手に持った木の板を渡そうとしたまま止まっている。

 

「……これはまずいかもしれないな。サンジ! 大事なものは船に載せておけ!」

「あァ!? どうしたんだよ!」

 

 ゼポは金槌をチョッパーに預け、船の調理場で下処理をしているサンジに声をかけてから船を降りる。

 遠くでは派手な爆発音が響いており、徐々に近づいてくる。流石に近場になるとサンジとチョッパーも気付き、サンジはタバコに火を付けてチョッパーと共にキャンプ道具をなるべく端に片付けておいた。

 ゼポがすぐ近くまで来ていることを知覚すると、森の中から一人の男が吹き飛ばされてきた。

 全身に火傷を負っており、殴られたような跡も見受けられる。

 ゲンボウと呼ばれる、シャンディアの戦士である。

 

「ぐ、がはっ……!」

「おい、大丈夫か! しっかりしろ!!」

「お前ら……青海の海賊か……! クソ、こんなところで……!!」

「お前はこの島の住人だな? 何があった!」

「や、奴が……」

「奴?」

「おれ達とは、違う……羽の生えた、怪物が……」

 

 傷だらけのまま森の中を指差すゲンボウ。

 それにつられてゼポが視線を上げると、森の中から誰かが出て来るのが見えた。

 身長は4メートルを超える大柄。髪は白く、肌は褐色──何より特徴的なのは、その背に黒い羽を携えていることだった。

 

「なんだ、ありゃあ……」

「……ゼポか。それに、あのマーク……〝麦わらの一味〟だな」

 

 黒いスーツを身に纏っているその男はゼポから船に視線を移し、再び視線をゼポに戻す。

 青海の事情にも通じているらしく、ゼポのことも正確に把握している様子だった。

 

「何者だ、テメェ」

「答える義理は無い。邪魔をする奴は皆殺しにしていいと言われているのでな、全員ここで消していく」

 

 男の背から炎が噴き出る。

 ゼポは即座にゲンボウをチョッパーに預けて前に出ると、拳に覇気を纏わせて構えた。

 

「能力者か! 見た事ねェ種族だな……幻獣種か、あるいは古代種か!?」

 

 男は答えることなく、背に炎を纏ったままゼポへと殴りかかった。


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