ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百八十話:発火する種族

 

 日が傾き始め、夜の帳が下りようとしている世界の中で煌々と輝く真っ赤な炎。

 ゼポは見た事の無いその力に警戒を強め、サンジとチョッパーもゼポの後ろに出て相手の男を見上げる。

 

「なんだありゃあ……!?」

「燃えてる!? 大丈夫なのか!?」

 

 後ろでびっくりしてる二人に答えるよりも早く、敵はゼポへと迫った。

 ゼポが見上げる程の巨体を誇る敵だが、威圧感に反して戦闘技術はそれほど高くはない。

 殴りかかって来た拳を受け止め、エレクトロを纏って顔面を殴り返す──が、手応えがあったにも関わらず敵は一切怯む様子さえ見せなかった。

 殴った感触は通常の人体とそれほど変わりは無い。覇気による硬化も見て取れず、しかしダメージが無いという違和感。

 

「うおっ!?」

 

 吹き出すように燃え上がっていた背中の炎が規模を増し、ゼポを焼き焦がそうとする。

 間一髪でそれを避けて距離を取ったが、吹き出した炎は形を変えて地面を滑るようにゼポを追う。これはまずいと敵を中心に円を描くように回避し、その隙にサンジが敵の腹部目掛けて強烈な蹴りを叩き込んだ。

 手応えはある。

 だが、僅かによろめいただけで倒せていない。

 ギロリと睨みつけた敵は、手に炎を纏ってサンジにつかみかかった。

 

「そいつに触れるなサンジ! 火傷じゃすまねェぞ!!」

「わかってらァ!!」

 

 敵の股の間を抜けるように転がって回避したサンジは、そのまま距離を取った。

 動きは見切れないほどではない。気を付けるべきは身に纏う炎と異様な頑丈さだけだ。ゼポとサンジはそう判断し、どうにか倒そうと算段を立てはじめる。

 しかし、それを待つほど優しい相手では無い。

 かかって来ないというのなら、かかってくるように仕向けてやるまで。

 

「……フン。船でも燃やしてやれば少しはやる気は出るか?」

「何を……いや、おい待っ──」

 

 ごう、と大気が熱で膨張する音がした。

 真っ直ぐに船へと放たれた炎はメリー号のメインマストを焼き、更に延焼させようと火の手が広がり始める。

 

「うわあああああ!!! ふ、船が!!!」

 

 チョッパーは叫びながら急いでメインマストを圧し折って海に落とし、今度は船本体を焼こうとする敵にサンジとゼポが攻撃を畳みかけた。

 だが、やはりどちらの攻撃も痛撃な一打とは言い難い。

 これまでの経験上、これだけ攻撃を叩き込んでピンピンしている相手などいなかっただけに違和感が大きい。

 

「どうなってやがんだこいつ! 頑丈すぎるだろ!!」

「分からねェ! だが、放置してたら船が燃やされちまう!!!」

 

 防御に手を割く必要が無く攻撃だけに集中出来るのなら、当然ながらその分手数は増える。

 敵はゼポとサンジの攻撃を受けながら殴り返し、蹴り返し、時に炎を放って徐々に追い詰めていく。

 ゼポとサンジが炎を避けることで森へと着弾して炎上し、薄暗くなっていく世界とは真逆に炎に照らされて明るくなっていた。

 傷だらけのシャンディアの戦士、ゲンボウは燃える森を呆然と見ており、敵に強烈な怒りを抱いて睨みつける。

 

「テメェ、この森を……!!」

「負け犬に選ぶ権利は無い。さっさと焼け死ね!!」

 

 傷だらけのゲンボウに避ける体力は無い。放たれた炎をまともに受ければ死ぬだろう。

 チョッパーはそれを見過ごすことが出来ず、獣形態になってゲンボウを担ぎ上げ、急いで炎を回避した。

 

「なんだこいつ、どうやったら倒れるんだ!?」

 

 クロスカウンターのような状態になっても、ダメージを受けるのはゼポやサンジばかりで相手にダメージが入っている様子が無い。

 ゼポのエレクトロも、何なら武装色の覇気を纏った攻撃も通じているようには感じられず、焦りばかりが募っていく。

 桁違いの頑丈さを突破出来ない以上、この敵を撃退出来ないからだ。

 ゼポは歯噛みして頭を回転させるも、この場で出来る事には限界がある。ゼポでダメならペドロがいても恐らく駄目だ。ロビンの能力で抑え込めても、能力で発生した腕が怪我をすれば本体にフィードバックが来る。炎を操るこの敵相手にそんなことをすればあっという間に焼き尽くされてしまうだろう。

 どうすれば、と何度目かも分からない思考をしながら拳を敵の顔面に叩き込み、カウンターで顔面に拳を貰うと、船から少し離れた場所に突如()()()()()()()

 

「なんだ!? 雷!? 雲なんかねェぞ!?」

「まさか、姫様!?」

 

 あれは合図だとゼポは即座に判断し、サンジとチョッパーに離れるよう叫ぶ。

 

「お前ら離れてろ! デカいのが来るぞ!!」

 

 ゼポは言うが早いか敵につかみかかり、今度は打撃ではなくその胸倉を掴んで勢いよく島の岸壁へと投げつけた。

 メリー号からは距離を取り、なおかつ出来る限り島にダメージを与えない位置がそこしか無かったのだ。

 

「何が来ようと無駄だ! おれに攻撃など通じねェ!!」

「そいつはどうかな! 喰らって見りゃァわかるぜ、こいつをよ!!」

 

 ゼポの手を離れてされるがままに投げ飛ばされる敵。

 黒い翼がある割に空を飛ぼうとするわけでもなく、炎を噴射して空中で体勢を立て直して再び飛びかかろうとする──その直上から光が降ってくる。

 

「っ!!?」

 

 背筋にゾワリとした感覚が走り、背中の炎を消して噴射に全てを回してその場を離れる。

 その瞬間に、()()は降って来た。

 

 

        ☆

 

 

「──彼方より来たりて星を撃ち抜く者(デウス・アルクス・トニトゥルス)

 

 

        ☆

 

 

「どわァァァ──っ!!?」

 

 辺りに響く雷鳴、島を削る轟音。ゼポは衝撃に耐えるように身を伏せ、サンジもチョッパーも同様にその音と衝撃に耐えるように耳を塞いで伏せている。

 雷の柱と表現すべきその攻撃は島の岸壁を抉り取っていた。

 辺りには雷が大気を焼いたオゾン臭が漂い、鼻の利くチョッパーは顔をしかめる。

 森はまだ燃えているが、目まぐるしく変わる状況にサンジは目を白黒させていた。

 

「こいつは……何が起きたんだ?」

 

 島に開いた穴は()()

 先程まで戦っていた黒翼の敵の姿は無く、少なくともゼポの見聞色の範囲内にはいないようだった。

 

「姫様が援護してくれたんだ。実際、助かった……ありがとうございます、姫様」

「ここで言っても聞こえねェだろ……つか、姫様って昼間に会った、あの?」

 

 手を合わせて拝むように礼を言うゼポにタバコを咥えたまま呆れるサンジ。

 実のところ聞こえているのだが、それを言う必要も無いとゼポは判断していた。

 

「その姫様だ。あの方ならこれも可能だ……それより、森の火事をなんとかしねェと、ロビンたちも帰ってこれねェぞ」

「はっ! そうだ、ロビンちゃんとナミさんの身に危険が!! これしきの炎、おれがなんとかしてやらァ!!!」

 

 やる気を出して船にバケツを取りに行くサンジ。バケツでは埒が明かないだろうが、ゼポはそれを指摘する気力も無く、岸壁を抉るように放たれた一撃を思い出す。

 一撃目は確実に避けられていた。

 野生の勘か何かは分からないが、少なくともその判断は正しかっただろう。こんな攻撃をまともに受けてはゼポも生き残れる自信は無い。

 だが、()()()()()()()()()()()()

 タイムラグ僅かコンマ数秒。遅れて来た二撃目は僅かに軌道を変え、敵を呑み込んで島を貫通した。一撃目に気を取られて二撃目に気付くことは出来ず、たとえ気付けていても小紫の見聞色によって回避先を予測されている。

 回避は極めて難しい、雷による長距離砲撃だ。

 

(……姫様は絶対怒らせちゃいけねェな……)

 

 ゼポは心の中でそう誓った。

 

 

        ☆

 

 

 ゲンボウが持ち歩いていた雲貝(ミルキーダイアル)水貝(ウォーターダイアル)を使い、延焼を防ぐために木を切り倒したりしてなんとか火事を抑え込むことが出来た。

 その頃にはもう日はどっぷりと沈んでおり、ルフィたちもその頃になって戻って来た。

 大した怪我は無かったようだが、シャンディアの一団と戦闘したらしく、汚れが目立つ。

 

「なんか焦げ臭いわね。何かあったの?」

「ああ……まァ、色々な」

 

 近くで倒れていたゲンボウの仲間を回収してチョッパーが介抱しているし、サンジは遅れた分急いで夕飯の支度をしていた。

 ゼポは焼け焦げたメインマストをどうするかと頭を悩ませているところである。

 

「マストが……お前らもそんな怪我して、一体何があったんだ!!?」

 

 ウソップは思わず呆然とした顔をするが、サンジやゼポにも少なくない傷があることに気付く。何があったのか分からないが、大変なことだったのは理解できた。

 一度全員で情報を整理する必要がある。

 シャンディアの戦士たち……ゲンボウに加え、一緒にいた戦士たちも酷い火傷を負いつつも息はあったのでチョッパーが治療している者たちについても。

 焚火を囲み、サンジが作った食事を口にしながらそれぞれの情報を共有する。

 船を襲撃してきた黒い翼に白髪と褐色肌の男のこと。

 森の中でルフィが出会ったシャンディアの戦士たちのこと。

 

「おれ達の方はそんなところだ。船を守れなかったのは悪かったと思ってる。何とか修理出来ればいいんだが……」

「襲ってきたそいつは能力者なのか?」

「だと思うが……少なくともおれは知らねェ種族だったし、妙な力だった」

「ゼポが本気で殴っても倒せない相手か……」

 

 ペドロが考え込む横でルフィは空魚の丸焼きを齧っており、「でもそいつはもういねェんだろ?」と一番重要なことに切り込む。

 

「ああ。姫様の一撃をまともに食らってたからな。あれで生きてるとはちょっと考えたくねェ」

「それ、小紫って人でしょ? そんなに凄い人だったの?」

「あの子、カナタさんの弟子だもの。それも20年くらい直に指導を受け続けてる選りすぐりよ」

 

 カナタの直接の部下にはいくつか部隊があるが、〝戦乙女(ワルキューレ)〟の上澄みはカナタから直接指導を受けている。だが、この面々は入れ替わることも多いので20年間指導を受け続けているというのは〝黄昏〟の中でも例外に等しい立ち位置だった。

 霜月千代も同様に直接指導を受けており、〝黄昏〟内部においてはこの2人が子供のいないカナタの後継者候補だと目されている部分もある。

 それはともかく。

 

「彼女が下手を打つとも思えないし、考えるべきは相手の数でしょうね」

「能力者だった場合は一人だが、仮にそうではなかった場合……数人いると考えるだけでも頭が痛くなるな」

「シャンディアの人たちは今のところ何も教えてくれる気は無さそうだし、具体的な対策も分からないから見張りを立てながら順番に休むのがいいんじゃないかしら」

 

 夜襲に警戒をしなければならないし、ルフィは探索を止める気がなさそうなのでロビンが折衷案を出す。

 もう一度襲撃を受けた場合、今度は麦わらの一味の全戦力で戦うことになる。サンジとゼポだけでは駄目だったが、全員ならあるいは……と言うのは些か楽観的でもあった。

 それでも逃げるつもりはない。

 ノーランドの残した〝ドクロの右目に黄金を見た〟と言う言葉の意味も、アッパーヤードとジャヤの地図を合わせることで分かった今、逃げるという選択肢はいつも臆病なナミでさえ排除していた。

 

「そうね。この島には莫大な黄金が眠ってるんだもの! 見つけるまでは逃げられないわ!」

「あー……」

「? 何?」

「いや、どのみち隠し通せはしないだろうしな……量にもよるがおれ達じゃ全部は持っていけねェだろう。ちょっとちょろまかすくらいなら問題にはならねェと思うが」

 

 良く分からないことを言うゼポに首を傾げるナミ。黄金をちょろまかそうとしていることをシャンディアや〝黄昏〟側にあまり知られるべきではないだろうと主張しているのはわかるが。

 そうと決まれば行動は早いほうが良い。焚火は敵に位置を知らせることになるので消すべきだと主張するロビンに、ルフィとウソップは嘆くような表情をして目を見合わせた。

 あんなこと言ってるぞ、と残念そうに。

 

「私、何か間違ったこと言った?」

「間違ってはいないと思うが……」

 

 ロビンは思わずペドロの方を見るが、ペドロもルフィたちの表情に困惑していた。

 

「キャンプファイヤーするだろうがよォ普通!!」

「キャンプの夜は、たとえこの命が尽き果てようともキャンプファイヤーだけはしたいのが人道!!」

「アンタらはバカか」

 

 ナミのツッコミの横では既にサンジとゾロがキャンプファイヤーの木組みを終えており、もう止められそうも無かった。

 夜も更けていく中で、静寂な森にどんちゃん騒ぎが夜じゅう響く。

 シャンディアの戦士たちは、それを複雑そうな顔で見ていた。

 

 

        ☆

 

 

「どうです?」

「駄目だな。完全にやられてる。防御状態じゃなかったとはいえ、一撃とは……肉体強度は相当高く作ってあったんじゃなかったのか?」

「それはもう。ですが何事にも限度はありますし。想定外ではありますけど、これはこれで売れる情報なので損ばかりでもありませんわね」

「強かなやつだ。だがどうする。目的は大まかに遂げているわけだが、これ以上深入りするのか?」

「うーん……」

 

 空島の端。やや大きめの船にて、マラプトノカはマーティンと会話していた。

 小紫と言う存在は想定外だが、彼女の見聞色は空島全土を覆っているわけではない。見聞色の範囲外、と言うことで大まかに位置は特定されている可能性はあるが、現時点ではまだ大丈夫だろうと考えていた。

 1人が撃墜され、残る5人はこれ以上攻撃を受けないために船に戻ってきている。マラプトノカはそちらを確認し、椅子に座ったままの子供姿のマーティンに語り掛ける。

 

「あの島が〝オハラ〟である確証が取れていないので、厳密には目的を遂げているとは言い難いのですよね。ですが、あちらの島はがちがちに防備が固めてあって偵察も難しいですし……」

「防御状態ならすぐにやられることは無いと思うが」

「もちろんルナーリア族の身体能力は重々承知していますけれど、海に落とされて無力化される可能性もありますからね」

「ではどうする。使()()()()子供(これ)も含めて6体しかないぞ」

 

 悩みどころだとマラプトノカはコーヒーを片手に考え込む。

 今回ばかりは自分が出るしか無いか、と溜息を吐く。依頼をして来た男には精々高額の請求書を送りつけてやろうと考え、彼女は立ち上がった。

 

「〝黄昏〟と全面的に敵対状態に入ると色々面倒なんですけどね……仕方がありません。今回の件であちらが少しでも弱体化することを祈るばかりですわね」 

 




彼方より来たりて星を撃ち抜く者(デウス・アルクス・トニトゥルス)

使用者 オクタヴィア、小紫
 雷の力を利用した長距離砲撃。当たった敵は大体死ぬ。
 オクタヴィアが使う時は見聞色の覇気でマルチロックした無数の敵を攻撃する広域殲滅砲撃になるが、小紫の場合は遠距離にいる敵の回避先を予測して牽制と本命を僅かなタイムラグの後に叩き込む精密砲撃になる。
 敵の強さ次第で牽制の数が増えることもある。
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