ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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最近は投稿頻度が安定しなくて申し訳ないです。年度末にかけて忙しいので大目に見てください

ちょっと短め


第百八十一話:嵐の前の朝

 

 オハラにはアッパーヤードから移された空島の長である〝神〟の住まう場所──通称〝神の社〟がある。

 いわゆる政治を行うための場であり、〝黄昏〟の傘下として目の届く場所にこういった建物を置く必要があったからだ。アッパーヤードをシャンディアたちに返還した今、神の社をそちらに置いたままに出来ないという理由ももちろんあった。

 その隣には〝黄昏〟の幹部や今後他国の要人が来ることを考えて迎賓館が建てられており、小紫は現在そちらに滞在している。

 夜の帳が下りる頃に空目掛けて雷を放った小紫の姿は関係者たちに目撃されており、現在の神であるガン・フォールが何事かと神の社から出てきていた。

 

「敵です」

 

 小紫は狐の面を被って表情を見せないまま、視線をアッパーヤードに向けている。

 普段は柔らかい雰囲気を纏って気さくに話す彼女だが、この状態にあってはそのようなものは一切感じ取れない。

 

「……〝アッパーヤード〟に敵が? 一体何が目的で……」

「会話を拾う限り、何かを探している様子でした」

 

 具体的な目的までは不明なままだ。

 ゼポが苦戦していることを考えるに、厄介さは現在この島にいる面々で対処できない可能性が高いと判断していたため、小紫が動く以外に解決法は無かった。

 気になるところは幾つかあるが、小紫の見聞色の範囲はそれほど広くない。逃げた彼らを探し出すのは難しいだろう。

 また現れることがあれば、その時は改めて小紫が全滅させてもいいが……。

 

「私の今の職務は護衛ですからね。下手にここを離れるのもどうかと思っているところです」

「ふむ……」

 

 ガン・フォールはちらりと迎賓館の方を見る。

 昼間はエネルと共に色々と研究に関する話し合いをしていたようだが、今は迎賓館の中で何やら忙しくやっている。ここに来てから()()が休んでいるところを一度も見ていないが、休んでいるのか心配になるほどだ。

 空島に来た時に一度だけ会食をしたが、それ以降は図書館とエネルの研究施設を行ったり来たりしている。かなり研究熱心な人だとガン・フォールは思っていた。

 

「神隊を動かすかね?」

「不要です。いざとなれば私が斬りますから」

「それは……頼もしいが」

 

 小紫の強さをガン・フォールは見たことが無い。

 が、彼女の腰に差してある三本の刀は業物と呼ぶに相応しいものであり、うち一本がカナタから借り受けている〝村正〟であることを知っていれば侮ることなど出来るはずもない。

 彼女はカナタからの信頼を受けて今回護衛に付いているのだ。

 

「何事も無ければそれでいいのだが」

「難しいでしょう。敵は明確に目的を持っているようでしたから。あの一撃で尻尾を巻いて逃げ出してくれるなら、そちらが楽ではあったのも確かですけれど」

 

 一人を撃ち落とした直後に統率された動きで逃走を開始したことを考えれば、相手は何らかの形で意思を共有して行動出来ると考えるべきだ。

 小紫の見聞色の範囲内にいて会話が拾えなかった以上、電伝虫などを使用して言葉で伝達したとは考えられないためである。

 事前に合図を決めていた可能性もあるが、それにしては合図として考えられる動きが何もなかった。

 ゼポたちが危なかったのでひとまず一人と思って撃墜したが、これは失敗だったかもしれない。

 〝黄昏〟に対して明確に敵対していると判断する前に撃墜しているので、後でカナタに小言を言われるかもしれない。

 今更の話なので考えるだけ無駄と言えば無駄なのだが。

 

「動向は注視しておいた方がいいでしょう。監視には人数をかけてください」

「手配しよう」

「お願いします」

 

 一つの島を統括する立場にあるガン・フォールではあるが、小紫はそれよりも立場的に上にいる。指示に従い、神隊を〝アッパーヤード〟の監視に動かすよう動き始めた。

 小紫は変わらず視線を〝アッパーヤード〟へ向けており、撃墜した敵を思い返す。

 姿形は視認していないが、見聞色の覇気で大まかに強さはわかる。

 会話の節々から異様な頑丈さと炎を身に纏っている事はわかったが、やはり情報としては不足している。

 

「ゼポがダメージを与えられない頑丈さ、ですか……カイドウとどちらが頑丈なのでしょうね」

 

 無意識のうちに腰に差した〝閻魔〟に触れ、少しだけ好奇心が顔をのぞかせていた。

 

 

        ☆

 

 

 朝日が昇る中、ルフィたちは目を丸くして船を見ていた。

 

「……なんでメリー号が修繕されてるんだ?」

「見ろ! 言った通りだろ!? 夜に誰かがいたんだ!! 見たんだよおれは!! あれはやっぱり夢なんかじゃなかった!!!」

 

 メインマストは焼かれてチョッパーが圧し折ったハズだが、朝起きてみれば下手くそな修繕が成されていた。

 その上、フライングモデルとして改造されていた各種パーツは取り外されている。メインマストの修繕に使ったのか、一部のパーツは流用されているようだが。

 こんなことが出来るのはゼポかウソップくらいのものだが、二人とも覚えが無いと言う。

 

「こんなところでメリー号を直してくれる親切な奴がいるのか?」

「そんなワケねェだろ」

「でも、フライングモデルじゃなくなってるな」

「そこなんだ。これをやった奴は、メリー号本来の姿を知ってるってことになる」

 

 一体誰がやったのか。深まる疑問だが、答えは出ない。

 ウソップは深夜に見た光景は夢のようだったが、考え続けても答えが出ない以上は仕方がない。この疑問を一旦棚上げすることにした。

 今日はやることが多い。

 船はこのまま停泊させ、ゼポとナミ、ウソップとサンジが船の守りに当たる。

 残りの面々は森に入って昨日通った道を使い、更に森の奥を探索して黄金を探す。

 昨日のようにシャンディアが襲撃してくる可能性があるが、そこはそれ。結果的に人質のような形になっているが、シャンディアの戦士たちがいた。

 

「……助けてもらったことには礼を言うが、お前らが森に入ることを容認するわけじゃねェ」

 

 口でどれだけ言っても、武器を失った上に傷だらけの体ではルフィたちを止めることなど出来はしない。ゲンボウは苦々しい顔をしながらルフィたちが森に入っていこうと準備をしているのを見て立ち上がった。

 

「あ、おい。まだ火傷の痕が残ってんだろ。もう少しくらい休んで行けよ」

「うるせェ! おれだって戦士だ。早く仲間のところに戻らなくちゃいけねェ! ……昨日1人は消えたが、()()()()5()()()()()()()。ワイパーに忠告しなきゃならねェ」

 

 アイサが言っていた『バラバラに動いてる6人は全く同じ〝声〟に聞こえる』と言う言葉の意味も気になる。

 侵入者15人の内、麦わらの一味は9人。1人は撃墜され、残る5人は不明。

 ゲンボウには嫌な予感がしていた。

 もし、昨日戦った敵と同じような存在があと5人いるのなら、ワイパーたちがどれだけ手を尽くそうと勝つことは出来ない。敵の目的は不明だが、シャンディアを滅ぼしにかかってくることがあれば勝ち目はないのだ。

 戦ってはならない。

 ゲンボウが零したその言葉を、サンジが耳聡く捉える。

 

「……待て。あと5人いるだと? どういうことだよ」

「……侵入者は合計で15人。昨日の敵は当初、固まって入って来て島の中でばらけた。お前らの仲間と昨日消えたやつを除けば、残りは5人だろ」

「あれの仲間があと5人もいるってのか……!?」

 

 バラバラに動いているということはそれだけ実力に自信があるという事。

 昨日戦った敵が能力者で特別だったのならいいが……往々にして現実は甘くない。

 

「どうするんだ、ルフィ」

「関係ねェよ。黄金があるかもしれねェんだろ? こんな冒険、探したって出来るもんじゃねェしな!」

 

 ししし、と楽しそうに笑うルフィ。

 ゾロはわかっていたように肩をすくめ、ゲンボウはしかめっ面のまま立ち尽くす。

 呆れたというのもあるが、もう一つ。

 

「……そう言えば昨日もそんなこと言ってたな。お前らの言う〝オーゴン〟ってのは何なんだ?」

「は?」

 

 至極真面目な顔で問いかけるゲンボウに、ルフィたちは揃って目を丸くした。

 空島には黄金がそもそもなく、見た事も無いのでどんなものか分からないらしい。

 

 

        ☆

 

 

 ゲンボウたちが戻らないまま夜を明かし、ワイパーは不機嫌そうにタバコを咥えて武器を整備する。

 アイサが言うには〝声〟はまだ聞こえるらしいが、場所を考えるに昨日戦った麦わらの男に捕まっているのだろうと考えられた。

 ひとりで武器を整備するワイパーの下へ、ラキが訪れる。

 

「ワイパー、時間だよ」

「ああ。カマキリとブラハムはどうだ」

「……意識は戻った。けど、カマキリはともかくブラハムの方は傷が深い。戦わない方が良いって」

「……そうか」

 

 ゾロと戦ったブラハム、ペドロと戦ったカマキリの両名は返り討ちに合い、特にブラハムは手酷い怪我を負ってしまった。

 ルフィと戦ったワイパーも少なからず傷はあるが、こちらは大したことは無い。

 再び襲撃をかけるつもりではあるが、戦力的に不安があるのは確かと言える。

 

「どうするの、ワイパー」

「襲撃をかける。ゲンボウ達を見捨てることもしねェ。おれ達の土地に勝手に入って来た奴らを見逃すこともな」

 

 先祖が取り戻そうと多くの血を流し、20年近く前にようやく取り返せた大事な土地だ。土足で踏み荒らされていい気はしない。

 一度は島の外に退いた者たちもまた入り込んできたようだし、迎撃に動く必要がある。

 

「動ける奴は全員集めろ。何が何でも、連中をこの島から叩きだす!!」

 

 怒りに燃えるワイパーは、全力を以て戦うことを決めた。

 

 

        ☆

 

 

「さて──」

 

 ピンク色の髪をなびかせ、マラプトノカは〝アッパーヤード〟に降り立つ。

 いつものタイトなビジネススーツではなく、動きやすい黒いボディスーツに身を包んでいた。

 手にはリボルバー式の拳銃を持ち、戦う準備は万全にしている。

 

「必要あるのか、それ」

「何を言います! ()()()()の戦いにはこういう物も必要でしょう?」

「……いや、お前がいいならいいが」

 

 子供姿のマーティンは呆れた様子だったが、最終的に肩をすくめるだけで諦めたらしかった。

 その後ろには同じ顔の男たちが5人並び、同じように白い翼と炎を背に纏っている。

 

「同期は完璧だ。視覚と聴覚のみの同期に絞っているが、斥候としては十分だろう」

「十分です。では参りましょう。目標はオハラだと客観的にわかる物証です。こちらの島には特に用事はありませんが……うまい事引き寄せられれば御の字と言ったところでしょうか」

「もし何かあれば回収するということでいいな」

「構いません。面白いものがあれば拾っておきましょう」

 

 まぁ〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟などであれば持て余すだけだが、もっと単純にお金に変えられそうなものがあればとマラプトノカは思っていた。

 空の上に浮かぶ島なら、未だ見つかっていない宝があってもおかしくは無い。

 ちょっぴりその辺りの期待をしつつ、島にいる者たちを全滅させようと森に入った。

 




メリー号のは例のあれです
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