ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百八十二話:サバイバル

 

「ふーむ」

 

 エネルは眠そうに頭を搔きながら、朝から慌ただしく走り回る神隊の面々を目で追う。

 彼は常に忙しい。あらゆる研究に終わりはなく、日々新しい発見と理論の構築に勤しんでいるのだ。

 今携わっている計画はほぼ終わりを迎えているので人手は不要だが、何かトラブルがあったのかと疑問に思い、一人捕まえて事情を聞く。

 

「何かあったのか?」

「え……ああ、Dr.エネル。〝アッパーヤード〟の方で何やら侵入者がいるらしく、我々は島の監視を命じられています」

「ほう、侵入者。あそこは18年前にシャンディアに返還されて以降、彼らの土地になったハズ。我々が介入する余地は無いだろうに」

「そこまでは我々も分からず……」

 

 政治的なあれこれは面倒なのでエネルは関わらないようにしているが、和解もしていない現状で乗り込めば問題が起きることは火を見るよりも明らかだ。

 それを承知で乗り込むのなら止めはしないが、誰がそれを主導しているのかは気になる。

 

「誰がそれをやろうとしているんだ?」

「命令はガン・フォール様からですが、大本は小紫様からの指示だと伺っています」

「……あの小娘か」

 

 エネルは顎をさすりながら迎賓館のある方を見る。

 誰かに聞かれれば大変だと慌てた様子で周りを見る男を尻目に、エネルは眉根を寄せて不快そうな顔をしていた。

 

「Dr.エネル! そのようなことを言っては……誰かに聞かれたらどうするのです!」

「構うものか。それに、周りに誰もいなくともあの女の耳には入っている。()()はそういう能力者だ」

 

 小紫が手に入れた〝ゴロゴロの実〟は、元々オクタヴィアが持っていた能力だ。

 オクタヴィアに仕えていたエネルはその能力をある程度理解しているし、小紫がオクタヴィアに迫る勢いで能力を使いこなせるようになっていることも知っている。

 だが、彼にとって〝神〟とはオクタヴィアのことであり、同じ能力を使うだけの小紫のことは正直気にくわない。

 〝黄昏〟にとって有用であることを示し続ける限りエネルが処罰されることは無いため、エネルは平気で悪態をついていた。

 彼にとって〝神〟とはオクタヴィアの事であり、その娘であるカナタのみ。それ以外の誰であろうと、自身が仕えるに足る存在では無い。

 ガン・フォールにせよ小紫にせよ、この島において──エネルにとって、彼ら彼女らは〝神の代弁者〟足り得ない。

 

「事情は知らんが、面倒事を引き起こしてカナタ様の手を煩わせることの無いようにと伝えておけ」

「そ、それは……一介の神兵の身としては、少々……」

「伝えづらいか。そうだな。では直接文句を言っておこう」

 

 どうせ共同研究者を呼びに行かねばならない。迎賓館でまだ寝ている頃だろうから、叩き起こすついでだ。

 研究分野が全く違う相手ではあるが、優秀さはカテリーナにも引けを取らない。

 人体のスペシャリストとして人間工学に通じるため、船の設計などに関して意見を貰っているが……彼女の本来の目的は〝オハラ〟の知識にあると聞く。何を目的としているかは知らないし興味も無いが、エネルに意見を求めないところを見るに物理や構造に関することではないのだろう。

 彼女の護衛と言う触れ込みで小紫も来ているが、護衛と言うだけなら彼女が来る必要は本来無い。と言うかエネルはハッキリ言って彼女の事が気にくわないので滞在することを認めたくもなかった。

 

「……動力源として優秀でなければ、即追い返してやったのだがな」

 

 まぁそんなことをやってはカナタに怒られるので、思うだけで行動には移さなかった可能性の方が高いのだが。

 

 

        ☆

 

 

『あー、こちらシュラ。島上空から偵察中。異常無し』

『こちらサトリ。島外縁部に船を発見。先日来た〝麦わら〟の船と思われる。どーぞ』

『こちらオーム。特に異常と言えるものは無い。どうぞ』

『こちらゲダツ。こちらはンンンンンン! ンン──』

『おいテメェ! また下唇噛んで喋ってやがるな!?』

『うっかり』

「問題は特に無さそうですね。引き続き監視をお願いします」

 

 普段は国境警ら隊として重用している者たちをアッパーヤードの監視に割り振り、島の近くまで船を出して子電伝虫で情報を共有していた。

 船に乗っているのは普段オハラで住人同士のいざこざや宿泊客のトラブルを対応している〝ホワイトベレー〟隊である。

 隊長のマッキンリーは生真面目に報告を受けて報告書を書いており、一時間置きに小紫とガン・フォールへ報告を上げていた。

 

「子電伝虫は引き続き通話状態でお願いします。何があるかわかりませんから」

『ああ。だがあの麦わらの一味、人の話を本当に聞かない奴らだな』

『カハハハハ! 海賊だぞ、お利口な連中なわけがあるか!』

『ほっほーう! そうだぞ! 細かいことをいちいち気にしていてはハゲるぞ!』

『サトリ、オームには既に髪は無いぞ』

『喧しいぞお前ら。先に斬られたいのか』

「…………」

 

 大丈夫だろうか、と若干不安になるマッキンリーだが、彼らの実力は確かだ。

 〝心網(マントラ)〟──見聞色の覇気を使える彼らは空島の兵たちの中でも高い実力を誇る。兵士としてこれ以上に頼れる存在は空島にいない。

 シャンディアの戦士たちはアッパーヤードの返還以降大人しく、無断で立ち入りでもしない限り問題は起こってこなかった。大体無断で立ち入っても〝黄昏〟が介入することは無く、シャンディアの戦士たちの好きにさせて来たのだ。

 それが何故今回に限ってこのような対応をしているのか、マッキンリーには疑問しかないが……今回の指示は小紫によるものだ。

 ガン・フォールはなるべく穏便に済ませてくれとシャンディアに通達するだけだったが、彼女は違う、と言うだけの話だろう。

 

「……ガン・フォール様とは行動方針が大きく違う以上、神隊もやや困惑しながら任務に就いています。出来る限り連絡は密にお願いします」

 

 麦わらの一味以外にアッパーヤードにいる侵入者がどんな存在なのか、詳しくは分からない。

 何が起こっても大丈夫なようにと監視任務に就いている以上、失敗は許されないのだ。

 

『お、巨人の湖』

『それってあれか? 人の足跡の形になってる湖とかいう』

『自然に出来た物とは思えないが、かと言ってあれほど巨大な足跡が出来るほどの巨人など、にわかには信じられんな』

『おれのオヤジが戦った時に出来たらしいぜ』

『あの辺りの木々が軒並み傾いているのもその巨人のせいだと聞く。遠目で見るだけでも興味をそそられるが、中に入れないのではな』

「あの……聞いてます……?」

 

 マッキンリーは自由に雑談しながら監視を続ける四人に何となく不安なものを覚えていた。

 

 

        ☆

 

 アッパーヤードの南西部、砂浜のある海岸の端から島に上陸したマラプトノカ達はそれぞれバラバラに動き始め、唯一ペアで動くマラプトノカと子供姿のマーティンは森の中を臆することなく歩いていた。

 虫や獣のいるジャングルではあるが、マラプトノカに怯えてか一切出てこない。

 快適ではあったが、時折鬱陶しそうに上空を見上げている。

 

「何かあるのか?」

「いえ、何かあるという訳ではないのですが……先程から聞こえるこの耳障りな鳥の鳴き声がどうにも」

「鳥?」

 

 「ジョ~!!」と叫ぶ鳥の鳴き声だ。変な鳴き声ではあるが、そういうものだと気にも留めないマーティンと違ってマラプトノカは気になるらしい。

 口をとがらせ、腰に手を当てて「私怒ってます」と言わんばかりのポーズである。

 

「『この森から出ていけ、化け物め』と……こんな美女に向かってなんと無体な」

「鳥から見て美女かどうかは分からないだろ」

「だまらっしゃい」

 

 至極当然の指摘にマラプトノカは怒り気味に返答し、しかし罵倒を受けても銃を抜くことは無い。

 彼女にとって鳥など相手するに足らないと判断したのか、あるいは別の理由からか……怒りはしても暴力に訴えることはしないようだった。

 罵倒を飛ばしているサウスバードもマラプトノカの事は怖いのか、声が届くギリギリの距離から声を飛ばすばかりで具体的な行動に出る様子は無いため、この程度なら無視してもいいと判断しただけかもしれない。

 

「何か面白いものでもあれば、退屈しのぎになるのですが……」

「面白いもの……と言えるかどうかは分からないが、現地の住人たちを見つけた。戦士共らしい」

「ほほう。その方たち、どちらに向かっているのです?」

「島の南側にある集落から北へ向けて移動しているようだ。昨日〝麦わら〟の連中と戦った場所を目指しているんじゃないか」

「なるほど……そちらも面白そうですね」

 

 現地の住民なら、幾らか聞き出せることもあるかもしれない。

 さして面白いものがあるとも思っていないが、この島が長く人の手が入っていない地だと言うのは何となくわかる。切り拓かれた跡が無いのだ。

 であれば、まだ見つかっていない何かか……あるいはこの島では価値が無くとも外では価値があるものが見つかる可能性はある。

 オハラがあるのはアッパーヤードから見て北東。小紫の見聞色の範囲はまだ詳しいことはわかっていないが、昨日マーティンがやられた場所を考えるに半分以上はカバーしていると考えられた。

 遊ぶなら近付き過ぎないようにしなければならず、誘い出すなら敢えて踏み込むべきだが──さて。

 

「……まずは現地の住人の方々から色々と聞き出すことにいたしましょう。ある種の商機かもしれませんし」

 

 悪辣な笑みを浮かべながら、マラプトノカは進路を変えて歩き始めた。

 

 

        ☆

 

 

 一方その頃。

 ルフィたちは恐らく黄金があるであろうと予想していた場所に向かう途中、巨大な蛇に襲われて散り散りになっていた。

 キャンプをしていた海岸から南に進んでいたところで遭遇したのだが、巨大な上に牙には毒があったので戦うことを諦めて逃げた結果バラけてしまったのだ。

 

「さては迷子か。仕方ねェな~あいつらと来たら。まァでも大丈夫だろ。先に行って遺跡で待てばいいや。南だからあったかそうな方だな」

 

 ルフィは良い感じの棒を拾って真っ直ぐ南東へと歩き始め。

 

「あいつらどこだ? 探索に出て早速迷子とは仕方のねェ奴らだ。まァいい。あいつらはあいつらで何とかやるだろ。地図は大体頭に入ってる……南なら〝右〟だな」

 

 ゾロは頓珍漢な方へと歩き始め。

 

「……はぐれたか。〝声〟を辿れば追えないことも無いが……こうバラけられては判別が付かないな。遺跡に行って待つのが最善か。……南はどっちだ」

 

 ペドロは森の中を彷徨ってサウスバードを探し始め。

 

「困ったわね……はぐれちゃったみたい。コースへ戻っても誰も来ないし……先に行って待つのがいいのかしら」

 

 ロビンは事前に考えていたコースに戻っても誰も戻ってこないことに困り果て、一人遺跡に向かい始め。

 

「はぐ、はぐ、はぐれた~~!!! 誰、誰か~~!!! ああアアァァァ!!!!」

 

 チョッパーは一人はぐれたことに泣きながら森の中を疾走し、南西へ向かって盛大に迷子になっていた。

 




位置関係が若干分かりにくくてどうしようか悩んでるんですが、とりあえず島の位置関係はアッパーヤードの北東にオハラ、東側にエンジェル島跡地があるくらいに思って貰えれば。
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