ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百八十四話:過去の足跡

 

 バラバラに動くことになった麦わらの一味の中で、唯一ロビンだけは当初想定していたルートを辿っていた。

 フィールドワークには慣れたもので、コンパスが使えずとも島の中ならある程度方角を見極めることが出来る。その辺りロビンに頼り切りだったペドロは同じようなところをぐるぐると彷徨う羽目になっているため、合流出来ずにいた。

 時折手帳を開いて模写した地図を確認しつつ、植生や建物の残骸などを見つければそれを書き留めていく。

 ところどころに残されている碑文のようなものも見つけられたため、ロビンは自身の好奇心が赴くままにそれを解読しようと読み解いている。

 

「……これは、〝都市〟そのものの慰霊碑……滅んだ後に子孫たちが建てたのね」

 

 今から約800年前、古代都市〝シャンドラ〟は滅んだ。

 約1100年前から隆盛を誇っていた都市であるにも関わらず、である。

 約900年前から800年前までの間を〝空白の100年〟と呼び、世界中からあらゆる情報が抹消されている中で……〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟にしか記されていないその期間に実際に存在した都市であるのなら。

 もはや語る者もいない歴史を知る方法が、どこかに残っているかもしれない。

 ロビンは静かに興奮しながら手帳にメモを取り、〝アッパーヤード〟の全図を確認しながらどこに情報が一番残っている可能性があるかを考え始める。

 

「……都心部なら、もっと手掛かりになるものが残っているかも」

 

 これまで集めた情報を精査すれば、都心部に当たる場所はある程度想像がつく。

 そこならば──これまで探し続けていた情報が手に入るかもしれない。

 そうやって目の前の情報に集中して考え事をしていたロビンに、背後から声をかけるものがいた。

 

「ニコ・ロビンか」

「誰!?」

 

 咄嗟に手帳を懐に隠して振り向くと、そこにはロビンの倍以上の身長の男が立っていた。

 黒翼、褐色肌、白い髪。サンジやゼポが言っていた特徴に一致する敵である。

 森の中を歩いて来たその男は、鬱陶しそうに枝を圧し折りながらロビンに近付いて来た。

 

「驚かせたか。まァどうでもいいことだ。お前には用は無いからな」

「……貴方は昨日、小紫にやられて倒れたと聞いていたけれど」

「小紫? ……ああ、昨日の遠距離砲撃をして来た奴か。おかげで肉体のストックが一つ減ったよ。作るのもタダじゃ無いんだがな」

「ストック……?」

 

 男の言葉に眉根を顰めるロビン。

 言っていることが理解出来ない。目の前にいる男はサンジ達の言っていた特徴に当てはまるが、彼とは別人では無いのか。

 

「分からないか? お前は頭が良いと聞くが、そっちの分野は流石に門外漢か……自己紹介をしておこう。おれはマーティン。アルファ・マラプトノカの仲間だ」

「っ! 彼女の仲間だったのね……!」

「ああ。だからお前には手を出さない。自由に泳いでもらった方が()()()()からな」

 

 先のアラバスタでの件も、元を正せばマラプトノカがロビンの居場所をカイドウとリンリンに流した事によって発生した出来事だ。

 多額の金を受け取って情報を流し、同様にカナタにもバレたと情報を流すことで動かして阻止させ、目的達成を邪魔する。

 マラプトノカにとって、ロビンはカイドウ達に捕まえられない方が都合が良いのだ。自由に動いている限り、情報を流すだけで多額の金が流れてくるのだから。

 それ故にマーティンはロビンに手を出すことは無い。

 

「……そんなにお金を集めて、何をするつもりなの?」

「? 妙なことを聞くな。金はあればあるだけ良いものだろう。何をやるにも、何を買うにも金は必要だ。人間の社会とはそういうものだろうに」

「お金を集めるだけが目的なら、もっと他に方法があると思うけど」

「そうかもしれないな」

 

 手を出すつもりは無いが離れるつもりも無いのか、マーティンは近くの倒木に腰を下ろした。

 ロビンの近くにいれば何か情報が手に入ると思ったのか、あるいは他に狙いがあるのか。

 商人であるマラプトノカとそれに付き従うマーティン。二人の目的が、ロビンにはわからない。

 

「集めた金は使って、また金を集める。その繰り返しだ。色んな勢力に蝙蝠のように取り入っては離れてを繰り返す。人間ってのはどうにもまどろっこしい」

「……まるで自分が人間ではないかのような物言いね」

「この体は人間だ。()()()()()

 

 もったいぶったような言い回しをするマーティン。

 ひとまず襲ってくることは無いと判断したのか、ロビンはマーティンを無視して自身の位置と目的地を確認する。

 マーティンが目的地までついてくるつもりならどうにかしたいところだが、ゼポでもどうにもならなかった相手ならロビンでは打つ手がない。

 さてどうしたものか、とため息を一つ。

 力も速さもロビンの能力の前では無意味だが、自然発火するというのが本当ならロビンの能力では分が悪い。自傷しながら戦うほど無茶なことはしない。

 

「……お前ら、ここから離れる気は無いのか?」

「無いわ。見つけたいものを見つけるまでは、少なくともね」

「そうか……じゃあ気を付けることだ。マラプトノカが暴れてるからな。麦わらの連中はともかく、お前に死なれちゃ情報を売れなくなる」

 

 マーティンはそう言って立ち上がると、どこか別の場所へ向けて移動をし始めた。

 ロビンは疑問に思いながらそれを見送ると、彼が立ち去った方向とは別の方向へ歩き始める。

 目的地は都心部、かつて黄金都市〝シャンドラ〟と呼ばれた場所だ。

 

 

        ☆

 

 

 ルフィがワイパーたちと接触し、戦闘になりつつある中。

 ゾロが森の中を彷徨って再び巨大な蛇に追いかけられている中。

 ペドロはマーティンとばったり出くわし、戦闘になっていた。

 森の中で発される炎は厄介極まりなく、下手に戦えば火に巻かれて煙を吸い込むことになる。ペドロは慎重に移動しつつ、隙を見つけてはマーティンに攻撃を叩き込む。

 エレクトロを併用する斬撃は、しかし背中から炎を発しているマーティンに通じず、長いこと戦闘を続けていた。

 

「く……どれだけ斬ってもダメージが入っている感じがしない……! ゆガラ、頑丈にも程があるだろう!!」

「鬱陶しい奴だ。さっさと焼かれてくれりゃァ話は早いんだが」

 

 マーティンの肉体性能は凄まじいが、それは必ずしも強いことを意味しない。

 ペドロの攻撃は通じないが、マーティンの攻撃もまたペドロには当たらない。当然疲労もあるため、戦い続ければ先に疲弊しきった方が倒れるだけだ。

 

(これでは打つ手がない……姫様クラスの一発を叩き込めなければ倒すのも難しいという事か)

 

 少なくとも一人は倒しているはずだが、仲間がいることは確定した。あと何人いるのかにもよるが、その脅威度は計り知れない。

 多少無茶をしてでも倒せるのなら……と思っていたところで、今度はペドロの後ろから炎が襲い掛かって来た。

 

「っ!?」

「良く避けたな。奇襲は完璧だったハズだが、見聞色を集中していなかったか」

「どういうことだ……!?」

 

 同じ顔、同じ体格、同じ声。

 今まで戦っていた相手と同じ相手がいる。マーティンが二人になったことに混乱するペドロ。

 

「分身したのか!?」

「そんなワケがあるか」

「……まァ、実際にこの状況を体験すればそう思うのは無理もねェが」

 

 両方のマーティンを見ながらトンチキなことを言い出すペドロに呆れるマーティンだが、この状況では混乱するのも仕方がない。

 仲間がいることは想定出来たが、ほぼ同一人物と言っていい相手が現れたのなら驚きもする。

 二人のマーティンは同じように背に炎を纏い、ペドロの死角を突くように炎を操って攻撃し始める。

 

「くっ! 厄介な!!」

 

 木々を足場に三次元的な機動をすることで回避するが、先程まで使っていた木が炎に焼かれて足場が減っていく。

 状況はどんどんと悪化していく中、とにかく一人は仕留めねばと剣に覇気とエレクトロを集中させて構えた。

 

(……攻撃するなら奴が炎を放った瞬間だな。その一瞬だけ、奴は身に纏った炎が無くなる)

 

 炎を身に纏った状態ではペドロにも熱が来る。焼かれるのは御免被るので背中に攻撃するならその瞬間しかない。

 同じ悪魔の実は存在しないことを前提に考えれば、二人いるマーティンのどちらも同じ能力を使っている以上、あれは種族の特性と見るべきだ。

 どちらかに痛打を与えられれば道はある。

 

「死ね!」

 

 そうして、マーティンが極大の炎を放ってペドロを呑み込もうとするその瞬間。

 

(今だ!!)

 

 ペドロは最高速度で木々を渡り、その背中に回り込んで黒化した剣を振りかぶる。

 ペドロはジャガーのミンク。木の上を移動し、暗殺するように背中を狙うことなど手慣れたものである。

 覇気によって黒く染まった刃がマーティンの背中を襲おうとして──背後を向いたまま、マーティンは高速で刃を回避した。

 

「──()()()!?」

 

 これまでどれだけ分かりやすい攻撃でも回避せず、受けに徹していたマーティンがここに来て回避を選択した。

 それがどういう意味を持つのか。

 即座にペドロを捕まえようとするマーティンから距離を取り、再び刃を構える。

 

(奴の頑丈さは異常だ。おれの斬撃を真正面から何度受けてもケロッとしているくらいには。だが、今の一撃だけは回避した)

 

 これまでの状況と比べて、先のマーティンに違うところがあるとすれば二つ。

 攻撃箇所が背中であること。

 炎を纏っていないこと。

 このどちらか、あるいは両方をもう一度試す必要がある。

 先程までの打つ手なしの状況から比べれば、かなり好転したと言えるだろう。

 ──だが。

 

「やはり強いな、ペドロ。流石に3億を超える賞金首はモノが違う」

「ゼポもそれなりに強くはあったが、戦闘センスで言えばお前の方が上に見える」

「だが、ここまでだ」

「侮りは無し。お前が相手なら全力で戦う必要があると判断した」

「念には念を入れておいて良かった。最大勢力で以て、お前を倒そう」

 

 一人、二人、三人。

 同じ顔の人物が次々に現れるのを、ペドロをあんぐりと口を開けて見ていた。

 総勢五人の同一人物を見比べ、ペドロは思わず呟く。

 

「五つ子……と言う訳でも無いか」

 

 全員が同じ顔、同じ体格。いくら何でも似すぎている。

 理解を超える状況に、ペドロは思考を放棄した。

 ひとまずはここを切り抜ける必要がある。マーティンは最大勢力と言った以上、これ以上の隠し札は無いだろう。他の仲間たちの下へ向かうことは無いとわかっていれば、ある種安心も出来ると言うもの。

 剣を構えなおし、ペドロは目の前の五人に集中する。

 

「少なくとも攻略の糸口は見えた。ゆガラたちが何人だろうと倒して見せよう」

「やって見せろ!」

 

 森の炎上は更に激しさを増し、熱と煙は体力を奪う。

 状況は好転しながらも不利なまま。ペドロは死力を尽くして戦うことを決め、踏み出した。

 

 

        ☆

 

 

「こんなものですか」

 

 マラプトノカは血で汚れた手をハンカチで拭きながら炎上する村から立ち去る。

 刺した場所を発火させる槍は圧し折られ、鉄雲の刃を噴出する柄は砕かれている。素手で戦う事が主体だった他の二人は武器こそ残っているが、体に残る傷跡は無残なものだ。

 四人の誰もがその鋭い爪で引き裂かれ、下手なナマクラよりも余程綺麗に切られている。

 対するマラプトノカには傷一つなく、時間のみを浪費していた。

 

「ここにはもう誰もいないようですし、誘いをかけてみるとしましょうか」

 

 見聞色で島を探ってみれば、ある程度固まって動いているグループが二つほどある。

 一つは覚えのある〝声〟だ。マーティンなのだろうと推定し、対する相手はその気配の強さから総戦力で挑む理由に納得する。

 もう一つは見知らぬ〝声〟ばかりなので、恐らくこれはシャンディアのものだろうと判断していた。

 

「さて、どちらに行くべきですか……」

 

 ペドロは少なくとも3億を超える賞金首。マーティンでは少々荷が重い。そちらの手助けに行ってもいいが……あまり時間をかけすぎるのも良くない。

 〝黄昏〟には空を移動出来る能力者がいることはわかっているため、下手に時間をかけすぎれば援軍が来る可能性もある。

 道中でシャンディアと麦わらの一味を潰しつつ、〝オハラ〟に攻撃を仕掛けるのが一番だろう。

 直接攻撃をされれば無視は出来ないと考え、マラプトノカは移動を始める。

 その道中。

 

「うう……ルフィ~~……ゾロ~~……ロビ~ン……ペドロ~~……みんなどこ行っちゃったんだよ……」

 

 道に迷い、意気消沈しながらトボトボと歩く可愛い生物──もとい、チョッパーと鉢合わせした。

 明らかに既存の生物ではなく、見聞色で感じるまでもなく純粋さを感じる独り言。

 総じて──マラプトノカのウィークポイントにズギュンと刺さった。

 

「か……可愛い~~!!!!

 

 一も二も無く駆け出し、マラプトノカはチョッパーの下へと駆け寄って抱き上げる。

 

「う、うわあああああ!!? なんだなんだなんだ!!?」

「こ~んなに可愛い生き物がこんなところにいるなんて聞いてませんわ!! これはもう連れて帰るしかありませんわね!!!」

「ぎゃあああああああ!!!?」

 

 先程までの殺伐とした雰囲気などどこ吹く風。抱き上げなでなですりすりと好き放題するマラプトノカの姿が、そこにはあった。

 

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