ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

211 / 323
第百八十六話:〝排撃(リジェクト)

 

「ゼェ、ゼェ……!! しつけェな!!!」

「ハァ、ハァ……それはこっちの台詞だ!! ちょろちょろと動き回りやがって……!!!」

 

 ルフィとワイパーの両名は森の中で遭遇し、そのまま先日のように戦闘になった。

 〝燃焼砲(バーンバズーカ)〟をくらいながらも〝ゴムゴムのバズーカ〟を食らわせるルフィ。ワイパーも無防備に受けたわけでは無いにせよ、何度もくらっていれば蓄積するダメージは大きい。

 ワイパーの仲間の戦士たちも手を貸そうかと声をかけるが、〝燃焼砲(バーンバズーカ)〟は規模が大きいため巻き込む可能性の方が大きかった。

 互いに意地でも倒してやると、引くに引けぬ状態になりつつある中──ワイパーの事を呼ぶ、聞き覚えのある声がした。

 

「ワイパー!!!」

「ラキ!! テメェ、何故ここにいる!! 村に戻って──」

()()()()()()()!!!」

「──なんだと!!?」

 

 殺気が強く籠った目のまま、ワイパーの視線がルフィからラキへと移る。

 ラキの体にはいくらか火傷の痕が見て取れ、その顔には悲壮感が浮かんでいた。

 

「どういうことだ!」

「分からない……マラプトノカって奴が村に来て、それで……アイサを人質に取られて、酋長に何かを聞いてた。聞きたいことを聞いたから帰るって言って、そのまま村を……」

「そいつはどこにいる」

「……分からない。〝黄昏〟の奴らが助けに来て、私たちはそのまま逃げるしか無かったから」

 

 額に青筋を浮かべ、憤怒の表情を浮かべるワイパー。

 もういない可能性の方が高いが、村に戻るしかない。何かしら手掛かりがあれば……あるいは、アイサが無事なら彼女から情報を得られる可能性もある。

 頭に血が上っていても、ワイパーはそれを考えられるだけの冷静さがあった。

 もはやルフィのことなど頭にない。一秒でも早く村に戻り、村を焼いたマラプトノカに落とし前を付けさせねばと怒りを燃やす。

 

「今回は見逃してやる、麦わら。テメェはまた後だ」

 

 それだけ吐き捨て、ワイパーは誰よりも早く村へ向かって移動を始めた。

 一拍遅れて他の戦士たちも動き出し、あっという間に姿を消す。

 ルフィは不完全燃焼で終わったことにふんすと鼻を鳴らすと、近くに置いていたリュックを背負いなおす。

 はぐれた仲間……は、多分無事だろうと楽観的に考えているが、どちらに行けばいいのか分からなくなってしまった。

 

「う~~ん……あったかそうな方だな!」

 

 のんきにそんなことを考え、鼻歌を歌いながら歩き始める。

 先程ワイパーたちが向かった方向とは別の方向へ、近場の木の枝を拾うことに夢中になりながら。

 

 

        ☆

 

 

 それほど時間もかからず、ワイパーたちは森を抜けて遺跡が多く存在する場所──〝ジャイアントジャック〟と呼ばれる巨大な蔓の麓を通り抜けようとしていた。

 気付いたのはただの偶然だろう。

 特に大きな音があったわけでもなく、ふとラキの視線の先に目立つピンク色の髪があったから。

 忘れようにも忘れられない、最悪の敵の姿がそこにあった。

 

「ワイパー!! あいつだ!!!」

 

 ラキの言葉に振り向いたワイパーは、その指差した先にいたマラプトノカを視認する。

 ロビン、チョッパーと対峙しながらも余裕を見せている彼女目掛け、ワイパーは二人を巻き込むことを一切躊躇せずに〝燃焼砲(バーンバズーカ)〟の引き金を引いた。

 

「テメェか──!!」

 

 放出されるガスに引火して発生する青白い炎は真っ直ぐにマラプトノカを呑み込み、一瞬早く気付いたロビンとチョッパーがギリギリで射線上から離れることが出来た。

 遺跡に構わず攻撃したワイパーを睨みつけるロビンだが、そんな彼女の様子などどこ吹く風とばかりにタバコを咥えたまま殺気立つワイパー。

 〝燃焼砲(バーンバズーカ)〟に飲み込まれたハズのマラプトノカは、あろうことか無傷だったからだ。

 

「背後から奇襲とは。礼儀がなっていませんわね」

「テメェがおれ達の村を焼いたのか」

「ふむ? ……なるほど、あの村の方でしたか。ええ、わたくしがやりました。出来るだけ目立っていただければと思ったので」

「──テメェの言葉を聞く気はねェ。ここで消えろ」

「短気ですねえ……そんな様だから、実力の差も分からないまま死ぬことになるんですよ」

 

 呆れたように……と言うより、むしろワイパーの憎悪を煽り立てるように、マラプトノカは嘲笑する。

 手には既に銃が握られており、銃口はワイパーの方へと向けられていた。

 再び放たれた〝燃焼砲(バーンバズーカ)〟を回避し、マラプトノカは銃の引き金を引く。

 銃声が響くと同時にワイパーは回避行動に移り、銃弾を避けながらマラプトノカへと接近する。

 

「そのおもちゃが効かないからと接近戦ですか。愚行ですね!」

 

 振るわれる蹴りを片手で受け止め、再びマラプトノカは銃の引き金を引く。連続する発砲音にラキが声を上げるが、ワイパーは肩口に銃弾を受けながらもマラプトノカに組み付く。

 左肩から血を流し、右手をマラプトノカの胸に突きつけて。

 

「〝衝撃貝(インパクトダイアル)〟ですか。そんなオモチャでは──」

「いや──その1()0()()()()()()()()だ」

 

 村を襲い、仲間を、友を、守るべき者たちを傷つけたマラプトノカを許しておくものかと……怒りを滾らせるワイパーの殺意が、自身の傷など構うことなくマラプトノカを追い詰める。

 何が何でもここでこの女を倒すために。

 

「〝排撃(リジェクト)〟!!!」

 

 ガクン! とマラプトノカの体が後ろに傾く。

 あまりの衝撃に体勢を崩したのだ。

 反動で凄まじい衝撃を受けたワイパーの右腕は骨に異常が起きていても不思議は無く、現に撃たれた左腕で右肩を抑えていた。

 そのままマラプトノカは崩れ落ちる──ハズだったが。

 

「──ふっ!」

 

 崩れ落ちかけた体勢のまま止まり、挙句そのまま勢いよく体を起こしてワイパーの顔面に頭突きを食らわせる。

 マラプトノカの頭突きに跳ね飛ばされたワイパーは鼻血を出しながら吹き飛び、何が起こったか分からないまま目を白黒させて空を見上げていた。

 

「まったく、女性の胸をいきなり触るなど……躾がなっていませんわね」

「バカな……〝排撃(リジェクト)〟をまともに受けておいて……!?」

「ええ、確かに強い衝撃でしたが、それだけです。この程度の痛みではわたくしを倒すには足りませんね」

 

 並の人間なら衝撃に骨や内臓がイカレていてもおかしくないハズだ。

 それでもマラプトノカは多少咳き込むだけで痛打を与えたとは言えない姿を見せており、ワイパーの奥の手を使ってもなお倒せないことに驚きを隠せない。

 ワイパーが次の行動を起こす前に、マラプトノカは手早く銃の引き金を引く。

 乾いた音と共にワイパーの腹へ数発の弾丸が撃ち込まれ、瀕死に追い込む。

 殺すほど脅威に感じていなくとも、〝排撃(リジェクト)〟による衝撃はマラプトノカを怒らせるのには十分だったらしい。

 

「さて」

 

 大量の血を流して死にかけているワイパーから視線を移し、マラプトノカは返り血で赤い斑点の付いた顔を拭いつつ残りのシャンディアの戦士たちを見る。

 顔には笑みを浮かべているものの、マラプトノカの目は笑っていない。

 ──それほど時間も必要なく、彼らは全滅する。

 そこへ。

 

「「あああああああああああああああああ!!!」」

「ジュラララララララ!!!」

 

 猛烈な勢いで走ってくるルフィとゾロ。

 そして二人を追いかける巨大な蛇が現れた。

 

 

        ☆

 

 

 一方、ペドロ。

 樹海を焼け野原にしながら追いかけて来るマーティンから逃げつつ、どうにか隙を伺っていたが……特性がバレたと見るや、5人は声掛けすらせずに適切な配置で互いを守りながらペドロを追い詰めていた。

 率直に言ってピンチである。

 

「ハァ、ハァ……どうなってるんだ、連中!」

 

 言葉を一切交わさないにも関わらず、完璧に連携が取れている。

 そういう訓練を受けて来たにせよ、意思の疎通を行わずに攻撃と防御を入れ代わり立ち代わりに行うなど極めて難しいことだ。

 それでいて個々人に出来ることはほぼ同じ……言い換えれば均一化されていると言っても過言では無い。

 何かタネがある。

 

「悪魔の実か……だが、それにしても一体何の能力だ?」

 

 意思の疎通を補助する能力という可能性が高いが、目で見て確認出来ない能力が相手では確証が持てない。

 子電伝虫を隠し持っていて、誰かが遠くから指示を出しているだけと言う可能性だってゼロではないのだ。

 ……まぁ、小声で指示を出していたとしてもペドロなら聞き落とすはずも無いので可能性は限りなくゼロに近いのだけど。

 

「いい加減に焼け死ね!」

「断る!」

 

 炎を回避して接近して斬撃を放つ。背に炎を纏ったままのマーティンは正面からそれを防ぐが、背に纏っていない場合は回避を選択する。

 やはり背に炎があるかどうかで何かが変わる体質だと見るべきだろう。

 加えて、背に炎を纏っていない場合、恐ろしく速くなる。

 見聞色をすり抜ける程では無いが、油断をすると攻撃を喰らってしまうほどに。

 

「このままではジリ貧か……!」

 

 逃げるにしても、島の外まで追い込まれてしまえば逃げ場は無くなる。マーティンたちに翼はあるが空を飛ぶところを見ないので飛べない可能性の方が高いが、海に落ちてはペドロから攻撃することもままならなくなるだろう。

 などと言いつつも、炎に巻かれて死ぬつもりは無いので逃げるしかない。

 そのうちに森を抜け──船のあった場所へと戻ってしまった。

 

「しまった! メリー号に戻って来たか!!」

「ちょっとペドロ! 一体どうなって──」

 

 ナミの声に反応するより先に、ペドロは後ろから追ってきたマーティンの炎を回避した。

 遠くからでも森が燃えていることはわかっていただろうが、直接目にするそれに絶句するナミとウソップ。

 対して、先日一度襲われたサンジとゼポの反応は早かった。

 

「手伝うぜ相棒!」

「あのクソ野郎、生きてやがったか!」

「待て2人とも!!」

 

 勢い勇んで出て来た2人をペドロが諫めつつ並び。

 更にペドロを追ってきた()()4()()()()()()()()を目にして、目玉が飛び出る程驚いた。

 

「「何ィィィ!!?」」

「同じ顔が5人!? どうなってんだよ!?」

「しかも全員背中から火が出てるんだけど!? 森どころかこの辺り全部燃えちゃうじゃない!!?」

 

 もうパニック状態である。

 向こうも5人ならこちらも5人で戦うしかない。

 何より、ここで退けばメリー号に被害が及ぶことになってしまう。

 

 

        ☆

 

 

 シャンディアの人々が緊急で作ったテントの避難所に一人の女性の姿があった。

 マラプトノカを発見して戦った4人の警ら隊を手当てしつつ、戦った敵の特徴などを出来る限り伝える。それが彼らの仕事だった。

 情報を集めた女性は一つ頷き、テントから出る。

 外で背筋を伸ばして待機していたマッキンリーは、敬礼しながら女性へと話しかけた。

 

「お疲れ様です。彼らの様子はどうでしょうか?」

「一命は取り留めたようです。あなた方と……彼らの治療が早かったおかげですね。ありがとうございます」

「我々に出来ることはこれくらいのものですので」

「礼はいい。お前、あいつを何とか出来るのか?」

「はい」

 

 座り込んで話を聞いていたゲンボウの言葉に、女性は当然のように頷く。

 〝オハラ〟にいた頃ならいざ知らず、〝アッパーヤード〟に足を踏み入れた今となっては全域を見聞色の覇気で知覚できる。

 マラプトノカの位置も、マーティンの位置も全てわかっているのだ。

 

「〝黄昏〟に仇なすものはすべて斬ります。どれほど強かろうと関係ありません」

 

 良業物〝春雷〟

 大業物〝閻魔〟

 最上大業物〝村正〟

 3振りを腰に差し、狐の面を被った小紫は、敵対者を切り伏せるために動き始めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。