ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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前哨戦です


第百八十七話:隠し持った戦力

 

 森の中をうろうろして迷っていたゾロと、まっすぐ見当違いの方向に歩いていたらばったり大蛇と出くわして追われることになったルフィ。

 そして追われているうちにゾロを見つけ、合流してしまったが故に2人一緒に追いかけられる羽目になってしまった2人である。

 大蛇はジャイアントジャックの近くの遺跡でとぐろを巻いて獲物を逃がすまいとしており、ルフィとゾロは息を切らしながら口喧嘩をしていた。

 

「ルフィ! あの蛇に追いかけられてたと思ったらおれまで巻き込みやがって!! 今日だけで何回あの蛇に追いかけられたと思ってんだ!!」

「どんまい」

「テメェのせいだよ!!」

 

 笑うルフィに思わずキレるゾロ。

 だが、とゾロは大蛇から視線を外してマラプトノカとシャンディアの方を見る。

 

「良く分からねェところに来ちまったみてェだな」

「あ! あいつ! あの時のキツネ女!!」

「あだ名を付けるにしてももうちょっとマシになりません?」

 

 キツネ女ことマラプトノカは、緊張感もなく現れた2人に肩をすくめる。

 誰が来ようと同じ事。

 殺して野晒しにすればそれで終わりだ。

 悪魔の実の能力者を生かして〝黄昏〟まで運べば金になるが、今のマラプトノカの立場ではそれも難しい。賞金首を捕まえて海軍に引き渡そうとする賞金首のようなものである。

 

「貴方がたもこの辺りの海で活動する海賊にしては強いようですが、まあそれはそれ。手早く片付けさせていただきましょう」

 

 リボルバー式の銃に弾丸を装填しなおし、マラプトノカは銃口をルフィへ向ける。

 躊躇なく引き金を引くと、乾いた音と共に弾丸が発射され──びよ~~んと伸びるや否や、弾丸を弾き返した。

 

「効か~~ん!!!」

「おやまぁ。能力者でしたか」

 

 そう言えば前回戦っている時も腕が伸びていた。大したことでは無いと記憶の端にやっていたが、弾丸が効かないとなると打撃系では結果は同じと判断し、攻撃方法を変えることにする。

 爪で引き裂けば同じことだと言わんばかりに腕を振るい、咄嗟に間に入ったゾロに斬撃を防がれる。

 ガキィン! と金属がぶつかるような音が響き、ゾロの刀とマラプトノカの腕が拮抗した。

 

「素手とぶつかって出る音じゃねェな……!」

 

 アラバスタで戦った全身刃物人間──Mr.1ことダズ・ボーネスを想起するゾロだが、彼と同じ能力を持つことはあり得ない。

 別のカラクリがあると見て、マラプトノカの腕を弾くと同時に刀を鞘に納めた。

 

「一刀流、居合──〝獅子歌歌(ししそんそん)〟!!」

 

 鉄を切り裂く斬撃をマラプトノカに食らわせるも、その手応えに舌打ちを一つ。

 斬れていない。

 先の斬り合いもそうだったが、およそ人体とぶつかって出るような音では無いのだ。人間の強度を遥かに凌駕している。

 

「何かの能力者……だろうが、同じ能力者ってのは世に二人といねェと聞く。体が鉄になる能力者はもう会ってるが、どういうことだ?」

「わたくしが能力者なのはそうですが、生憎と超人系(パラミシア)ではありません」

「そうかい。だったら、テメェを斬れるようになりゃおれはもう一段階強くなれそうだ!!」

「まあ好きなように考えていただいて構いませんけれど──わたくし、そこまで暇ではありません」

 

 ルフィには通じなかったが、ゾロは能力者ではない。

 マラプトノカは至近距離で発砲し、ゾロは咄嗟に横に飛んでそれを回避した。

 しかし、それすら予測されてマラプトノカの放った弾丸は正確にゾロの腹部を貫通する。

 

「うっ!!」

「ゾロ!! お前ェ!!!」

「弱者が喰われるのは当然の摂理。あなた方が弱いのが敗因です」

 

 マラプトノカの背後からルフィが殴りかかるも、マラプトノカは一瞥することも無くそれを回避して伸びた腕を掴む。

 伸びた腕を戻そうとしたルフィを逆に引き寄せ、強かに殴りつけて吹き飛ばした。

 

「い、いってェ~~~~!!? なんでだ!? おれゴムなのに!!?」

 

 思ってもいなかった衝撃で混乱しながら痛みに呻くルフィ。

 それを見てか、腹部を撃たれて血を流すゾロが痛みを堪えて立ち上がる。

 船長がやられているのを見て、黙って倒れていられる男ではない。

 

「止めておいた方が賢明ですよ。ロビンさんもちょっかい出そうとしているようですけれど、どのみちあなた方が何人束になってもわたくしには敵いません」

「やってみなきゃ、分からねェだろうが……!!」

「相手の覇気から強さを読めない時点で勝敗などついているようなものです。わたくしの目的はあなた方ではありませんし、退くなら追いはしませんが」

 

 シャンディアの面々を見捨てて逃げるなら追うことはしないと、マラプトノカは言う。

 近くに隠れているロビンとチョッパー。痛みに呻きながらも刀を構えるゾロ。殴られた場所を押さえながらもマラプトノカを睨みつけるルフィ。

 彼女は麦わらの一味には用が無い。眼中に無いと言ってもいい。

 むしろロビンに関しては逃げ回ってくれた方が金づるになるのでいいとさえ思っているほどだ。

 逃げることを促すマラプトノカに対し、ルフィとゾロは戦意を隠さずに構える。

 

「退くべきよ、船長さん!! 彼女には勝てない!!」

「勝てるか勝てねェかじゃねェ。()()()()()()()()()()って話だ」

 

 どこまで行ってもマラプトノカの言葉は信用出来ない。それだけの関係性を築けていないし、何より他の仲間を傷つけないとは限らない。

 それに、マラプトノカを警戒してか、ルフィたちを追いかけていた大蛇が遺跡から少し離れたところで狙っている。逃げたところで今度はあちらに追いかけられる可能性もあった。

 マラプトノカはよよよとわざとらしく泣き真似をし、信じられていないことに悲しむ。

 

「わたくし、これでも信用第一で通しておりますのに……信じて貰えないとは、悲しいですわ」

「本当に逃がしてくれる気があんのかも分からねェんだ。信用なんか出来るか!」

「まあそうですね。わたくし、あなた方とは〝ルネス〟からこっち、敵対行為ばかりですし」

 

 泣き真似を止めてあっけらかんと言い放つマラプトノカ。

 生かすも殺すも興味なし、と言うのが本音ではあったが、信用出来ないから聞かないというのであれば仕方がない。

 全員この場で始末して〝オハラ〟に攻め込むまでの事。

 そう判断してルフィたちの方へ一歩踏み出したマラプトノカの隣に──バチリ、と空気に放電する音がした。

 

「──っ!?」

 

 遠距離から空気を引き裂いて現れた雷の如き女は、マラプトノカが振り向いた瞬間には既に刀を振り上げていて。

 青白い光が体の周りをループしており、振り上げられた〝春雷〟は覇気を流し込んで黒刀となっていた。

 

「──〝断絶〟」

 

 振り下ろされた斬撃は天より来たる裁きの如く。

 咄嗟に両腕へと覇気を集中させて斬撃を防ぐも、続く雷にバチバチと肉体を焼かれて思わず呻き声をあげる。

 永劫に続くかと思われた衝突だが、完全に振り下ろすよりも先にマラプトノカが距離を取った。

 

「くっ……奇襲とはまた、随分なご挨拶ですね……!」

「手段を選ばない相手なら、こちらも手段を選ぶ必要は無いでしょう」

 

 狐の面を被っているので表情は見えないが、その声色は酷く冷たい。マラプトノカのやって来た所業に怒りを募らせているのは間違いないだろう。

 今なおバチバチと放電する音を出す青白い光が小紫の体の周りをループしており、その意志一つで雷がいつ飛んでもおかしくは無かった。

 

「小紫!」

「ロビンさん、ここから離れてください。出来るだけ遠くへ」

「……ええ。なるべく周りの遺跡に被害を出さないでくれると嬉しいわ」

「善処しましょう」

 

 マラプトノカを移動させたことでワイパーを連れ戻せるようになったため、シャンディアの戦士の一人が急いでワイパーの治療をするために駆け寄ってくる。

 チョッパーもそこに近付き、マラプトノカから視線を外さないように移動してきたゾロも腹部の止血処置を始める。

 チョッパーは二人いっぺんに治療しようとしているらしい。

 

「チョッパー、おれは最低限でいい。そっちを優先してやれ」

「でも、お前も重傷だぞ!?」

「おれは動けるから後でもいい。ここから離れるほうが先だ」

「そうね。彼女が戦うなら、私たちがここにいては邪魔になるだけよ」

「…………」

 

 ゾロはジッと小紫の背中を見つめる。

 自分の斬撃では傷一つ付けられなかったマラプトノカの両腕には、浅くではあるものの斬撃の痕が残っていた。

 小紫の剣士としての腕前が、自身を上回っていることを示すものだ。敵では無いので現状戦うことは無いだろうが、その太刀筋は目に焼き付けておきたいと思ったのだ。

 

「あなた方は自分の船へ戻った方が良いでしょう。彼女の仲間が襲撃しているようです」

「本当か!? ナミたちが危ねェ!!」

「落ち着け、ルフィ! 船にはあのアホコックもゼポもいるんだ、簡単にやられやしねェ!!」

「いえ、急いだほうが良いでしょう。ペドロも合流していますが、敵は5人です。危機的と言っても過言では無いと思いますよ」

「ヤベェじゃねェか!?」

「待って!」

 

 チョッパーの処置もそこそこに走り出そうとするルフィとゾロをロビンが足を掴んで止める。

 ビターン! と顔面から地面にダイブすることになり、二人は鼻血を出しながらロビンに切れた。

 

「「何すんだよ!!」」

「そっちは逆方向よ」

 

 元よりこの二人は適当に歩くので道に迷いやすい。ロビンが先導して移動しなければ船まで辿り着くことは出来ないだろう。

 チョッパーを置いていくことも出来ず、ワイパーの応急処置が終わるまでは少なくとも待たねばならない。

 船の方は心配だが……少なくともこの場において負けることは無いだろうと、ロビンは確信を持っていた。

 

 

        ☆

 

 

 小紫はカナタ直属の部隊〝戦乙女(ワルキューレ)〟のトップを走る実力者。彼女と互角以上に戦えるのは、カナタを除けばラグネルやティーチくらいのものである。

 良業物〝春雷〟を両手で持ち、マラプトノカの隙を窺う様に剣先を揺らしている。

 

(……一見してわかる、この覇気。なるほど確かに、これは強いですね……)

 

 先の衝突でもそうだったが、単純な剣技も覇気の強さも尋常ではない。マラプトノカの体に傷を付けられる者など、それこそ数える程しかいないのだ。

 最強生物の遺伝子を持つ彼女の肉体も、覇気も、並の強さで貫けるものではない。

 それでも、自身が負けるとは一切思っていないが。

 

「アルファ・マラプトノカ。投降する気はありますか?」

「知れたことを。当然するつもりはありません」

「良いでしょう──聞きたいことはありますが、喋るとも思えません。ここで斬り捨てます」

「出来るものなら!」

 

 今度はマラプトノカから仕掛ける。

 連続して振るわれる爪は鋼さえ引き裂く強靭な爪だ。まともに受ければその膂力もあって体勢を容易に崩される。

 なので、小紫は()()()()

 流動する自然系(ロギア)の肉体はマラプトノカの攻撃を受け流し、小紫は攻撃後のマラプトノカの首目掛けて刀を振り下ろす。

 

「なんの!」

 

 ギリギリでそれを回避したマラプトノカだが、即座に返す刃でその頬をざっくりと切り裂かれた。

 続く斬撃を腕に覇気を纏わせて受け止め、空いたもう片方の腕で小紫の首を狙う。

 再び流動する肉体はマラプトノカの爪を受け流し、体の周りをループしていた青白い光のいくつかが強く光った。

 

「〝雷槍〟」

 

 雷の槍が複数足元に撃ち込まれ、マラプトノカは小刻みに回避行動をとりながら小紫から距離を取る。

 僅かな攻防ではあったが、その厄介さは思わず舌打ちをしたくなるほどだ。

 見聞色の精度は高く、マラプトノカの覇気を纏った攻撃さえ防御ではなく回避して見せる。加えて武装色も強い故に一撃が重い。

 これは確かにこの島における最終兵器のような扱いをされるわけだ、と理解する。

 〝黄昏〟の既存の幹部はあらかた知っているが、その誰にも該当しない能力と名前、容姿。実力も含め、カナタの隠し玉だろうとマラプトノカは考えていた。

 腹の底からため息が出た。

 

「はぁ~~……あの方、一体どれだけ戦力を隠し持ってるんですかね……」

 

 先の四皇同盟との小競り合いでも政府が把握していない戦力が幾らか表出したと聞いたが、そちらにも該当していない。

 ダグラス・バレットを引き入れていることを考えれば、カイドウとリンリンが同盟を組んでいなければどちらか一方、あるいは順番に落とされていた可能性は十分にある。

 これほどの戦力は政府にとっても、マラプトノカ自身にとっても少々不都合だ。

 

「そちら、表に出てきてない実力者、あとどれくらいいるんです?」

「答える必要があるんですか?」

「ありませんが、まぁ興味本位ですね。わたくしも本気でやらねば少々危なそうですし──」

 

 地面を踏みしめて何かをしようとしたマラプトノカ目掛け、小紫が雷の速度でドロップキックをぶちかます。

 強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされたマラプトノカは木々を薙ぎ倒して森の奥へ行き、小紫もそれを追う。

 その直前、ロビンの方へと顔を向けた。

 

「急いで離れてください! すぐに!」

 

 直後、小紫が追う暇もなく、間髪入れずにマラプトノカが反撃に出た。

 

「──〝熱息(ボロブレス)〟!!!」

 




今更ですが感想返しを停止してます。そちらに時間割かれると本編書く時間が減るので
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