ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百九十話:ルナーリア

 

「いいかルフィ! 奴の背中に炎が出ている間は恐らく攻撃が通らない! 背中の炎が消えると攻撃を避ける以上、その間だけは通ると見るべきだ!」

 

 だが、その間はゼポやペドロの攻撃さえ回避する速度を得る。加えて何の意思疎通も無しに統率された動きをするので連携が厄介だ。

 敵の攻撃は打撃と炎しかないので回避は難しくないが、避けると後ろの船に攻撃が行く可能性がある。

 つまり。

 

「敵は炎を撃ち出している間は背中から炎が消える! 誘発を狙うべきだが、下手な方向に撃たせると船に当たるから気を付けてくれ!」

「難しいぞそれ!?」

 

 そもそも敵の数は5人。船を狙われるとどうしようもないのは前回の戦いの時と同じだ。

 なので、早々に船を動かして避難させるべきなのだが……帆船は1人2人で簡単に動かせるようなものではない。サンジとゼポ、ペドロが奮闘して何とか狙いを逸らさせていたが、それもいつまで続くか分からない。

 

「とにかく、背中から炎が出てない間にブッ飛ばせばいいんだろ!!」

 

 敵──マーティンの強さはそれほどではない。少なくともルフィやゾロが戦って押し負けるほど実力差があるわけでは無く、その特異な体質によってゼポやペドロでも手を焼いているだけ。

 やってやれないことは無い。

 ルフィは真正面からマーティンに駆け寄り、真っ直ぐに殴りかかった。

 背中から炎を出しているマーティンはそれを回避することなく受け止め、気にせず前進してルフィの顔面を逆に殴りつけた。

 

「効かねェ!」

「能力者か。打撃は駄目のようだな」

 

 ゴム人間のルフィに打撃は通じない。

 マーティンは早々に殴打で倒すことを諦め、背中の炎を強く噴出してルフィを焼こうとする。

 その隙を狙ったゼポが背後から近づくも、こちらは別のマーティンがフォローに動いて攻撃の隙をカバーしていた。

 

「あちっ!」

「焼け死ね!!」

 

 炎を放ってルフィを焼こうとするも、ルフィは間一髪で回避する。

 真っ赤に燃え滾る炎が直線的に飛び、真っ直ぐ()()()()と向かった。

 

「あーっ!? ヤベェ!!」

 

 回避したルフィもそれに気付き、焦った様子で叫ぶ。

 船が焼かれてはこれから先の冒険が出来ない。ナミとウソップ、ロビンも乗っている。

 そんなルフィの気持ちなど関係なく、マーティンの炎が船へと向かい──ルフィの最悪の想像が、現実となる。

 その、直前。

 

「──は?」

 

 ()()()()()()()()()()()

 ルフィとマーティンの両方があっけに取られたその原因を作ったのは、誰あろうウソップだった。

 

「う、上手くいった……でもコエ~~!!」

「ウソップ~~~~!!? 何やったんだお前!?」

「〝炎貝(ヒートダイアル)〟で炎を吸い込んだんだよ!」

 

 〝(ダイアル)〟は何かしらのエネルギーを貯め込み、放出する性質がある。〝炎貝(ヒートダイアル)〟は炎を貯め込み放出出来るため、マーティンの炎を吸い込むことが出来たのだ。

 驚きに目を丸くするマーティンとルフィ。

 やりきったウソップは誇らしげに胸を張り、足を震わせつつもキメ顔でルフィを鼓舞する。

 

「これでこっちに炎が飛んできても何とか出来る!! 存分に戦え、皆!! でもコエーからなるべくこっちに炎は飛ばさせないでくれ!!!」

「ありがてェな! そっちに飛んだら全部任せる!」

「なんであいつあんなもん持ってんだ……?」

「良かった……船を頼むぞウソップ!!」

「ああ待って! 聞いて!」

 

 サンジ、ゾロ、ルフィの3人はウソップの泣き言を聞き流し、それぞれマーティンに対して構えた。

 これで後ろを気にすることなく戦える。その中で、ゼポとペドロは何かに気付いたように視線を敵に向けたまま会話する。

 

「相棒、気付いたか?」

「ああ。()()()()()()()()()な」

 

 ルフィと戦っていたマーティンが動揺するのはわかる。ああいうことが起こり得るとは想定もしていなかっただろう。

 だが、直接目にしていたわけでもない他の面々まで()()()()()()()()()()()()()のなら、そこには何かしらの理由があると見るべきだ。

 元々何の意思疎通も無しに協調する敵ではあったが、こうなるといくつかの仮説が浮かび上がってくる。

 恐らくは()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「妙な奴らだとは思っていた。だが、これならこれまでの行動に納得いく」

 

 1人が動揺すればそれは全員に伝播するし、1人の死角から攻撃しても別の1人がそれを見ていれば回避出来る。そういう事なのだろう。

 まぁ種族としての特性が厄介であることは変わりないので、全体的な脅威度はさして変わらないのだが。

 

「これで船の方は気にしなくていい。あとはお前をぶっ飛ばすだけだな!!」

「やってみろ、ゴム人間!!」

 

 ルフィとマーティンは互いに振りかぶって顔面を殴りつけ、互いにダメージが入らないまま弾き飛ばされる。

 サンジ、ゾロ、ゼポ、ペドロの4人がそれぞれ1人ずつ相手にしている中で、最初に炎を放ったのがゼポの相手をしていたマーティンだった。

 基本的に攻撃方法が殴るか炎を撃ち出すしかないため、背中に炎を纏ったままでは状況が一切動かないのだ。

 それでも動かざるを得なくなったのは、空へと立ち昇る/降り注ぐ雷の柱を目にしたが故である。

 マラプトノカは小紫と戦っているが、いくらマラプトノカでもあれでは無事では済まない。こちらに応援に来られる前に、と焦った。

 

「死ね!」

「やっとか! 待ちくたびれたぜ!」

 

 ゼポはマーティンの炎を回避し、カウンターでその顔面へと拳を振るう。

 マーティンも当然ながらそれを回避しようとするが、何者かに足を掴まれて動けなくなった。

 地面から生える数本の腕──ロビンの能力である。

 

「〝熊手(ベアナックル)〟!!」

 

 覇気を纏った拳は強かにマーティンの顔面を撃ち抜き、待機していたチョッパーがランブルボールを噛んで〝腕力強化(アームポイント)〟に変形する。

 殴られて動きが止まったマーティンの背中へと迫り、畳みかけるように追撃した。

 

「〝刻蹄〟──〝十字架(クロス)〟!!」

「ぐお……っ!?」

 

 2人からの攻撃を受けて痛みに呻くマーティン。

 その様子を見てゼポが確信した。

 やはり背中の炎が出ていない状態なら攻撃は通る。ペドロの判断は正解だった。

 逃げられる前に、あるいは再び防御状態に入られる前に倒そうと、ゼポは拳を握って帯電させる。

 何をやろうとしているのか理解したのか、ロビンは能力で生やした腕を解除する。

 

「今! ぶっ倒す!! やるぜチョッパー!!」

「分かった!!」

 

 ミンク族特有の〝エレクトロ〟で一瞬放電してマーティンを痺れさせると、膝をついたマーティンの顔面目掛けて武装色の覇気を纏った拳をもう一度叩き込んだ。

 背中側からチョッパーが同じように蹄を握って攻撃を叩き込むと、2人の攻撃に挟まれた肉体が耐えきれなくなったのか、ガクンと膝から崩れ落ちる。

 思っていた通り、種族特性としての頑強さはあるが、本人の強さはそれほど隔絶したものではない。

 意識を飛ばして気絶するマーティンを前に、ゼポとチョッパーは勝利の雄叫びを上げた。

 

「よっしゃあ!!」

「た、倒した!!」

 

 残るは4人。

 マーティンは舌打ちして一ヶ所に集まり、4人が同時に炎を放って辺り一帯を焼き尽くそうとし始める。

 これは流石にマズいと思ったのか、ゾロやサンジも距離を取って逃げに徹する。

 だが1人、ルフィだけはこれをチャンスだと思ったのか、サンジの下へと走り寄って来た。

 

「サンジ! おれを空に投げ上げてくれ!!」

「あァ!? なんでそんな……いや待て、上から行く気か!?」

「ああ!!」

 

 言うが早いか、サンジが構えた足の上に乗ったルフィはそのまま空へと蹴り上げられた。

 炎が迫っていて視界が悪い。大まかな方向に蹴り上げて後は自分で何とかしろと言う事らしい。

 「おれも行く」とそれにペドロが追随し、ゼポの手で投げ上げられたペドロはルフィよりも低い位置でルフィに手を伸ばす。

 

「ルフィ! 掴まれ!!」

「わかった!!」

 

 ルフィは手を伸ばして空中でペドロの手を取り、そのまま腕を縮めて勢いを付ける。

 踏ん張りが利かないので多少勢いは落ちるが、ペドロはうまく投げ飛ばすようにルフィに勢いを付けさせてマーティンたちの上を取らせた。

 反動でペドロは海の方へと勢いよく投げ飛ばされ、やや離れた雲の海へと落水していた。

 ルフィは勢いを付けて加速し、腕を後ろに伸ばして捻じる。

 

「ゴムゴムのォ~~〝ロケット回転銃(ライフル)〟!!!」

 

 炎を放っている最中で視界は悪く、上を見ていない。

 マーティンが仮に視界を共有していたとしても、()()()()()()()のなら同じだ。

 気付いた時には既に遅く──回転するルフィの拳を避ける間もなくまともに受けたマーティンの1人が勢いよく殴り飛ばされ、地面に叩きつけられながら気絶した。

 残り3人。

 しかし、敵の真っただ中に飛び込んだルフィの逃げ場を塞ぐように炎が放たれる。

 

「飛んで火にいるなんとやら、だな。焼けて死ね、ゴム人間!!」

 

 木々ごと焼き尽くすように炎を放つマーティン。

 だが、それは背中の炎が消えることと、ゾロたちに背中を見せていることを意味している。

 走って近付くには少々距離があるが、そんなものは関係ないと、今度はゾロがサンジの足に飛び乗った。

 

「〝空軍(アルメ・ド・レール)〟──〝パワーシュート〟!!!」

「三刀流──〝焼鬼斬り〟!!!」

 

 未だ炎の残る場所を真っ直ぐ突っ切るように飛び、構えた刀に僅かに燃え移る。

 背を向けたままのマーティンを蹴り飛ばされた勢いのままに斬り捨て、僅かに出来た逃げ場にルフィが逃げ込んだ。

 

「あと!!」

「2人!!」

 

 ルフィとゾロは共に残った2人のマーティンに攻撃するも、その時には既に背中に炎を纏わせていたためにダメージは通らなかった。

 焦った攻撃だったために反撃の拳をまともに受けたルフィとゾロ。

 ルフィはともかく、ゾロはマラプトノカに撃たれた場所から出血が酷くなっており、顔色もどんどん悪くなっている。

 

「ウッ……!」

 

 動きが鈍くなったゾロ目掛け、マーティンの拳が突き刺さる。

 肉体の特異性に頼り切っている敵とは言え、身体能力は高い。単なる殴打もまともに受ければ十分なダメージだ。

 刀こそ手放さなかったが、痛みに意識が明滅するゾロ。

 膝をつく彼目掛けて目の前で炎を放とうとするマーティンの背中目掛け、サンジがドロップキックで割り込んだ。

 

「どりゃァァァ!!! クソ剣士が1人仕留めておれが戦果ゼロじゃあ恰好つかねェだろうが!!!」

 

 意識の外からの攻撃に体が揺らぐマーティン。

 もう一人はルフィとゼポの相手に忙しく、周りを確認している暇が無かった。

 舌打ちしながら振り向き、今度はサンジ目掛けて炎を放つ。

 サンジは焦ることなく体勢を整えてマーティンの懐を潜り抜け、後ろから膝を攻撃して膝をつかせた。

 

「〝粗砕(コンカッセ)〟!!!」

 

 サンジの倍はあるマーティンも、膝をつかせれば十分足が届く。

 飛び上がりながら縦に回転し、その勢いのまま踵落としを決めてマーティンの意識を刈り取ってみせた。

 これで残りは1人。

 ここまで来れば後は押し切るだけだとルフィたちは考え──マーティンはそれを見越してか、倒れた仲間の体を拾いながら海岸へと向かう。

 

「え!?」

「船を襲う気か!?」

 

 4人の体を抱えて海岸へと近寄るマーティン。

 もちろんそれを簡単に通すような面々ではなく、ウソップも近付いて来るマーティンへと〝火薬星〟で応戦するが、背に炎を纏った彼を相手に何をしてもダメージが通ることは無い。

 船を直接襲うつもりだと思って先回りするゼポとルフィだが、予想に反してマーティンは海岸へまっすぐに向かうだけで船を狙っていたわけでは無かったらしい。

 海岸沿いに立つと、ルフィたちが何かするよりも先に抱えていた4人を()()()()()()()()()()

 

「な──!?」

「お前!! 仲間だろ!? なんでそんなことしてんだ!!?」

「仲間ではない。今回使っているだけの体だ」

「意味わかんねェよ!」

「だろうな。おれだって不本意だが……処理するにはこれしかねェ。連中に捕まると面倒なんでな」

「逃げる気か!」

 

 背には黒い翼がある。ともすれば、あれで飛んで逃げるのではとウソップがパチンコを構えた。

 だが、またも予想に反して、背中の炎を消したマーティンはそのまま()()()()()()()

 

「…………」

 

 誰もが絶句し、後味の悪い結末に言葉も無く立ち尽くす。

 そんな時だった。

 

「ぶはっ! 一体どうなっている!?」

「ペドロ!!」

 

 ルフィと入れ替わりで海へと飛ばされたペドロが泳いで戻って来た。

 その背には先程飛び込んだマーティンの姿があった。

 ただし、その姿は褐色肌と黒い翼ではなく、白い肌の普通の人間である。

 

「ようやく戻って来れたと思ったら、上からこいつが飛び込んできてな。思わず殴りつけはしたが……」

 

 意識は無いようだが、生きてはいるらしい。

 目の前で自殺しようとした男に色々思うところもあったのか、ルフィたちはとりあえず生きていてよかったと胸を撫で下ろす。

 だが、このままにしておくわけにもいかない。どうするべきかと思っていると、バチリという音と共に小紫が現れた。

 

「姫様!」

「ご無事でしたか!?」

「ええ、私よりも貴方たちの方が大変だったようですけれど……怪我人はいますか?」

「そうだ! ゾロ!!」

 

 戦闘中だったので放置するしか無かったが、傷が開いたためにチョッパーが再び応急手当をしていた。

 ルフィが慌てたようにゾロの下に向かうと、当の本人は顔色の悪いまま「心配すんな」と強がっていた。

 

「この程度で死にやしねェよ」

「でも手当てを急がなきゃ! 船に運ぼう!!」

「おし、任せろ!!」

 

 バタバタと騒がしくゾロの治療に走るチョッパーと、それを手伝うルフィ。

 それを尻目に小紫は「何とか無事のようですね」と頷く。

 

「そちらの男が今回戦った敵ですか?」

「はい。ですが、姿はもう少し違っていたんですが……」

「その辺りは後で詳しく聞かせてください。今は彼を拘束しておきましょう」

 

 海に入って解除されたと考えるなら、マーティンは間違いなく能力者だ。海楼石の手錠を使って拘束しておく必要がある。

 小紫は気絶したマーティンを肩に抱えると、そのまま〝オハラ〟へ向かうと告げた。

 敵はもういない。後は事後処理を済ませなければならない。

 

「もちろん、無断でこの地に入った貴方たちも無罪放免とはいきません。大人しく待っていてくださいね?」

 

 仮面を被っていて見えないハズなのだが、にっこり笑顔で怒っている小紫の表情がありありと想像出来た。

 これにはペドロとゼポも言い訳すらしようと思わず、「はい」とがっくり項垂れるのであった。

 

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