ヒエヒエの実を食べた少女の話   作:泰邦

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第百九十二話:黄金郷

 

 宴の翌朝。

 小紫とマラプトノカが戦った場所、ジャイアントジャックと呼ばれる巨大な蔓があるその場所に黄金郷がある。

 ロビンはそう説明し、麦わらの一味、小紫、ソラ、エネル、ガン・フォール……それにシャンディアの戦士たちがぞろぞろと森の中を歩いていた。

 シャンディアの今後の身の振り方も考えねばならないが、本当に黄金があるのなら所有権はシャンディアにある。

 ルフィたちは海賊なのでその辺を気にする必要は無いのだが、小紫はそうもいかない。

 ガン・フォールと協議し、シャンディアに伝えておくべきだと判断していた。

 

「ここね」

 

 遺跡はちらほらと見えるが、それ以外の大部分は雲に覆われた場所。

 先日ロビンが見た時と大きく変わったところと言えば、切り裂かれて落ちて来たジャイアントジャックの先端部分と青海まで貫通している巨大な穴くらいのものだ。

 ロビンがチラリと小紫の方を見ると、小紫は顔を明後日の方向に向ける。

 加減してどうにかなるような相手では無かった。ロビンもそれは理解しているが、どうしても責めるような視線になってしまうのだ。

 

「恐らく、この雲の下にあるハズよ。降りられる場所か、雲を切って道を作りましょう」

「この下に黄金郷があんのか?」

「多分ね。〝ドクロの右目に黄金を見た〟と言うノーランドの言葉に嘘が無ければ、だけど」

 

 地図とノーランドの日誌、それに遺跡の位置なども考えればここ以外に可能性は無い。見つからなかったのなら初めから黄金郷など無かったと思う他にない。

 幸い、小紫の空けた穴は遺跡から少しズレている。下手に近付くと青海まで真っ直ぐ落ちてしまうので利用するには難しいが、断層を見るに地下……と言うより窪地があるのはわかる。

 

「とにかく下まで通じればいいんですね?」

「……無茶なことはしないようにね」

「任せてください」

 

 小紫は〝春雷〟を引き抜くと、真四角に雲を切り抜いた。

 断層からある程度雲の厚さを想定して、最低限の力で切ったらしい。

 広めに切り抜いて〝雲貝(ミルキーダイアル)〟で即席の道を作ると、ルフィがいの一番に駆け出して地下へと駆けおりていく。

 

「スッゲェ……!!!」

「これは……!!」

「わァ……!!!」

「素敵! こんなに一杯の黄金なんて!!」

 

 そこにあったのは、目も眩むほどの金銀財宝の山々。

 400年前に空へ打ち上げられるよりも前、蓄え続けられた黄金が所せましと置いてあった。

 誰もが驚き、その光景に息を飲む。

 

「これほどの規模とは思いませんでしたね」

「なんと美しい……」

「確かにこれは知らねば気付かんだろうな。〝黄昏〟の調査が入らなかったこともあるとはいえ、地下にこんなものがあるとは」

「これが……先祖たちが守ってきた都市……」

 

 駆け出して黄金やら宝石やらを手に取るルフィたちを尻目に、小紫やエネルたちはその壮麗な都市の姿に見入っていた。

 ルフィたちを止めるべきかとも思ったが、マーティンたちを止めたのは紛れもなく彼らだ。酋長もそれは知っているらしく、持って行けるだけ持って行ってくれて構わないと言う。

 戦士たちが異論を挟むかと思ったが、彼らはマーティンもマラプトノカも止められなかった。

 敗者が異論を挟むことは出来ない、と言う事らしい。

 

「……変ね」

「何がですか?」

「この都市、ノーランドの手記によれば〝黄金の鐘〟があるハズ……でも、どこにも見当たらないの」

 

 都市の中央ははジャイアントジャックが貫いており、ノーランドの手記に残されていた〝黄金の鐘〟などどこにも見当たらない。

 ここ以外にありそうな場所の心当たりはない。であれば、鐘は空には来ていないのかと考え込むロビンの横で、酋長が声をかけた。

 

「お嬢さん。先も言っていたが、ノーランドの手記と言うのは……?」

「……かつてこの島が青海にあった時、この島を訪れた探検家よ。名を──モンブラン・ノーランド」

「モンブラン、ノーランド……!?」

 

 酋長の目が驚きに見開かれる。

 ともすれば、黄金郷を見た時よりも驚いていると言っていいほどに。

 ──かつて。〝アッパーヤード〟と呼ばれるこの島が空に来るより以前……ジャヤを訪れた探検家がいた。

 ワイパーの先祖、大戦士カルガラと友誼を交わし、後に〝嘘つき〟と不名誉の死を遂げた男。

 

「なァロビン!! 鐘がねェぞ!!?」

「私も不思議に思っているところよ。手記によればここにあるハズなんだけど……」

「……麦わらの少年よ。何故黄金の鐘を鳴らす?」

「友達がよ、黄金郷を探してんだ」

「友達?」

 

 かつて祖先が〝嘘つき〟とされ、今なおそれが本当にあったハズだと探し続ける男がいる。

 名を、モンブラン・クリケット。

 後ろで黙って聞いていたワイパーが、その名を聞いて息を飲んだ。

 

「モンブラン・ノーランドの、子孫……その男が、探しているのか」

「ああ。海に沈んだんだって、毎日毎日無理して潜ってるからよ、おれが教えてやるんだ。〝黄金郷は空にあったぞ〟って!」

 

 ししし、と屈託なく笑うルフィ。

 

「肝心の〝黄金の鐘〟が見つからないんじゃどうしようもないけどね」

「おいナミ! 無粋なこと言ってんじゃねェよ!」

「しょうがないでしょ。ロビンが分からないんじゃ私たちもお手上げよ」

「本来、都市の中心部に鎮座していたハズよ。でも、そこにジャイアントジャックがある……と言うことは、ここに突き刺さった衝撃で更に上空へ飛ばされたか、あるいはそのまま海底に沈んだかのどちらかね」

「ふむ……〝黄金の鐘〟自体はあるだろうな」

 

 400年前、〝アッパーヤード〟が空に来た時、当時の人々が聞いたという〝島の歌声〟……これが恐らく鐘の音だろうとエネルは言う。

 あるとすればジャイアントジャックの頂上付近。

 もし海に落ちているのならどうしようもないが、空ならばまだ探しようはある。

 探す価値はあった。

 

「ではちょっと見てきましょうか」

「あったとして、どうやって持ってくる気だ。聞くに相当巨大な鐘だぞ」

「うーん……まァ一度見てから考えます」

 

 小紫は気軽に言うと、ジャイアントジャックを伝って空へと駆けあがっていく。

 先端部分は小紫が切り落としてしまっているので短くなっているが、〝月歩〟で空を駆けることが可能なのでそれほど問題にも思っていない。

 エネルとソラは揃って小紫が駆け上がっていくのを見上げていた。

 

「カナタ様は教育を間違えたのではないか? あの女、考えるより先に体が動いているぞ」

「強さを優先したんじゃない? カナタさんの弟子って言われてる子は何人かいるけど、あの子は特別だって聞いてるわ」

「特別、か」

 

 小紫がある種の特別扱いを受けていることはエネルも知っている。

 〝戦乙女(ワルキューレ)〟と〝戦士(エインヘリヤル)〟は基本的にカナタの直属の精鋭であり、彼ら彼女らが指揮する部下とは即ち〝黄昏〟の兵になるが、彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と言う事。

 傘下の海賊が〝戦士(エインヘリヤル)〟となってそのまま幹部まで昇りつめ、かつての仲間を傘下の海賊という扱いで指揮しているという例もあるが、これだって傘下の海賊である以上指揮権の最上位にカナタがいる。

 現状、カナタの権限が及ばない部下を持っているのは本当に小紫だけだ。

 

「特別扱いも過ぎれば軋轢を生むと思うが」

「私は〝黄昏〟の所属じゃないから詳しいことは分からないけれど、あの人ならその辺り考えてるんじゃない? 少なくとも、あの子が特別扱いされてるのは()()()()()()()()()()()()からでしょうし」

「情けないことだな」

「あれだけ強い人が何人もいるのもちょっとと思うけど……」

 

 2人が話している間に小紫が戻ってくる。

 ルフィは両手いっぱいにお宝を持ったまま結果を聞こうとしており、「まずそれを置けよ」とゾロに突っ込まれていた。

 

「結果から言いますと、ありました」

「あったのか!!!」

「ただ、流石にあれを持って降りてくるのは無理があるので……後ほど〝雲貝(ミルキーダイアル)〟で道を作って降ろすのがベストかと」

 

 物理的に重すぎて個人で運ぶのは無理がある。足場が悪いのもあり、フェイユンでもなければ個人で運ぶのは難しい。

 ただ、鐘としての機能に異常は無さそうだった。

 それを伝えると、とにかく鐘を鳴らしたいルフィがジャイアントジャックを駆け上ろうとしたのでウソップとサンジが力づくで止めていた。

 先端部分は切り落とされているのでどのみち高さが足りていない。登って行っても辿り着くには空でも飛ばねば不可能である。

 じゃあどうするか、と言う話になると、ソラがとある提案をした。

 

「うーん……じゃあ、()()使わない?」

「あれ?」

「私たちが作ってる船! 試運転には持って来いじゃない? それに、あの甲板の広さなら黄金の鐘も載せられるでしょうし」

「……そうですね。広さは十分だと思いますが」

「カナタ様の許可なしに勝手なことは出来ん。あれは軍事機密だ。おいそれと人の目につく場所で使うのは反対だ」

 

 3人の会話に首を傾げるそれ以外の面々。ガン・フォールはある程度聞いてはいるが、実際に動いているのを見たことは無いのでやや懐疑的だった。

 ともあれ、聞いてみないことには始まらない。

 動かすには人手も必要だし、とにかく一度戻る必要がある。

 〝オハラ〟へと。

 

 

        ☆

 

 

『いいぞ』

「いいのですか?」

『構うことは無い。試運転はしておかねばと思っていたところだ、丁度いいだろう』

 

 オハラの研究所でカナタに連絡を取ると、思いのほかあっさり許可が下りてエネルは目を白黒させる。

 ただ、動力部と兵器類はなるべく身内以外に見せないようにすることを指示され、エネルはすぐに周りの研究員たちに指示を飛ばしてバタバタと動き始めた。

 ついてきたルフィたちは何が何だかと言った風である。

 

『それと、ソラ』

「何かしら?」

『仕事が終わったのならそれ以降のことについては関知しない。誰と行動を共にするかは好きにすると良い』

 

 小紫はこの研究の要でもあるのでついて行くことは出来ないが、ソラ自身の行動をカナタが止めることはしない。

 ジャッジに小言を言われるかもしれないが、そんなものは適当に聞き流すだけだ。ソラは子供でも無いし、そもそも協力者と言う立ち位置なのでカナタに行動を縛る権限はない。

 あと、久しぶりに再会した子供と少しでも一緒にいたい気持ちも多少ながら理解している。

 

「ありがとう!」

『行先はあとでジャッジに伝えておくようにな。私に連絡してきてうるさいんだ』

「もちろんよ!」

『毎回返事だけはいいなお前……』

 

 自由に出歩けるようになると、必要なこととは言えあちこち出歩くことが増えたためにジャッジが知らない間に移動していることも多々あった。

 連絡を怠るので監視と連絡役を兼ねて常に1人つけているのだが、今回その役を担っていた小紫が同行しないので面倒なことになりそうな臭いがしている。

 行方不明になったと時たまジャッジがカナタに連絡を入れてくるが、行先を全て把握しているわけでは無い。

 必要な確認を終えて電話を切ると、ルフィたちが研究所の巨大ドックに入って来た。

 

「なんだこれ……!?」

「でっけ~~~~!!!」

 

 海軍の使う軍艦と同じかそれ以上の大きさを誇る船に、ルフィたちがぽかんと口を開けている。

 

「方舟〝マクシム〟……〝黄昏〟の開発する、空飛ぶ舟です」

「飛ブーっ!? これが!? 飛ぶのか!!?」

 

 〝雷〟を動力とし、各部に銀や銅などの極めて伝導率の高い物質を使って動かす空飛ぶ舟。

 本来船に必要な帆や舵は無く、各部に取り付けられたプロペラを利用して高度の維持や旋回、前進を行う。エネルが悪趣味な顔を付けようとしたこともあったが、それは研究者総出で止めている。

 ワクワクで目がキラキラしているルフィやウソップ、チョッパーはあちこち歩き回りたそうにしていたが、先のカナタの言葉もあって流石にそれは諦めさせた。

 シャンディアの面々、麦わらの一味、それにオハラにいた船大工や研究者たちを乗せて、準備が出来たところで小紫が玉座につく。

 

「では始めましょう──2億V、〝放電〟」

 

 玉座から各部へと雷を送る。

 研究者たちは動力部を安全なところから確認し、正常に作動していることを確認して玉座に座る小紫へ問題なしと告げた。

 

「離陸します。皆さん気を付けてくださいね」

 

 研究所の天井が開き、マクシムが徐々に高度を上げていく。

 空気を叩く音が少しうるさいが、気になるところと言えばそれくらいで……徐々に高度を上げ、方向を変えてジャイアントジャックの方へと飛ぶマクシムにルフィとウソップとチョッパーは興奮しっぱなしであった。

 この島に着いてからこっち、麦わらの一味は皆驚きっぱなしである。

 

「スッゲ~~!! どんどん上がってくぞ!!」

 

 甲板なら自由に出歩いていいと言われ、バタバタと走り回る3人組に呆れた目を向けるナミ。

 ロビンはこれ幸いと上から見た島の形を確認しており、ペドロとゼポはマーティンが燃やした森を見ていた。

 

「かなりの範囲が焼かれているな」

「もう少しなんとか出来りゃあ良かったんだがなァ……」

「こればかりはな」

 

 敵の体質が予想以上に厄介だったこともあり、ペドロとゼポが責任を負うものではないとわかっていても、隣でシャンディアの者たちが悲しんでいるのを見ると居心地が悪くなるというものだ。

 もう少しうまくやれたのではないか、と言う感覚はいつになっても消えることは無い。

 

「すぐに着きます。準備をしてください」

 

 オハラとアッパーヤードの距離は大したことは無い上、空を行くという以上は障害物が一切なく真っ直ぐに向かえるので想像以上に早く辿り着く。

 〝雲貝(ミルキーダイアル)〟で甲板まで道を作り、ルフィはいの一番に黄金の鐘の下まで走っていった。

 ところどころ蔦に絡まってコケも付いているが、腐食しない黄金で出来ているためにその荘厳さは一切失われていない。

 

「これが……〝黄金の鐘〟……!!」

 

 誰もがその美しさに見入る。

 かつて400年前に空に飛んで来た時、島中に響き渡ったとされる〝島の歌声〟の発生源がこの鐘だ。

 ぞろぞろと降りて来た者たちも鐘を見上げているが、ロビンと酋長だけは鐘の土台部分を見ていた。

 

「やっぱりあった。〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟……」

「これが、祖先たちが守ろうとしてきたものか……」

 

 腐食することのない黄金に書かれた古代の文字を手でなぞり、ロビンはゆっくりとその文字を読み上げる。

 

真意を心に口を閉ざせ。我らは歴史を紡ぐ者。大鐘楼の響きと共に

「!! ……お主、まさかその文字が読めるのか……!?」

 

 口伝のみ伝えられてきた言葉を口にするロビンに、酋長は驚きを隠せない。

 酋長とて、内容を口伝として知っているからわかるが、文字そのものを読めるわけでは無いのだ。

 

「……神の名を持つ〝古代兵器〟──〝ポセイドン〟……そのありか」

「古代兵器!?」

「何故そんな物騒な物についてなど……!?」

 

 周りの者たちの驚きを気にも留めず、ロビンは考え込む。

 ──また兵器。アラバスタといい、こんなものを求めているわけでは無いのに……。

 ロビンが本来欲しがっているのは歴史を記した碑文であって、兵器のありかを書いたものではない。

 これもハズレかと、口にせず背を向けた彼女を酋長が呼び止めた。

 

「お嬢さん、隣の文字も同じでは無いのかね?」

「え?」

 

 土台に用意されたスペースに書かれた碑文とは別に、誰かが後で彫ったと思われる文字。

 今までの〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟にこんなものは無かった。疑問に思いつつ読み、今度はロビンが驚きに目を見開く。

 

「──『我ここに至り、この文を最果てへと導く。海賊、ゴール・D・ロジャー』……まさか、海賊王がこの島に!? 何故この文字を……」

 

 ロビンが驚き、何かを考え込んでいる横で、小紫は懐かしそうに彫られた文字を撫でる。

 先程の連絡の時にカナタから……と言うか、イゾウから聞いたカナタから聞いていた。

 黄金の鐘と、その土台に彫った古代文字。

 ロジャー海賊団もかつてここを訪れ、そしてロジャーの指示でおでんが彫ったのだと。文化遺産に落書きをする修学旅行生か、とカナタは呆れていたが、幼くして父親を亡くした小紫にとって、父の面影を感じることが出来る場所は貴重だった。

 

「よ~~し、じゃあ鳴らすぞーっ!!」

 

 巻きついていた蔦を切り、動作を確認したところでルフィが声をかける。

 鐘の両側に付いている鎖を引っ張り、揺らすことで音が鳴るのだ。

 空の民とシャンディアの融和を示すように、ルフィの掛け声に合わせて鎖を引く。

 

 ──カラァーーン。

 ──カラァーーン。

 

 鐘の音は400年前から変わることなく、澄み渡った音を響かせる。

 何度も、何度も。

 もう互いにいがみ合う必要は無く、争いが終わったと示すように。

 黄金郷は空にあったと、伝えるべき者へ伝わるように。

 何度も、何度も。




ティーチはそれなりに顔が広くて黄昏内部だと古参に入るので知っている人も多いですが、実力を正確に把握してるのはカナタ含むごく少数です。

空島編は次で一応終わりの予定。
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